理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第五十四話 問われる覚悟

 冬季休暇明けの闘技大会で好成績を残したベルネル達八人はエルリーゼの呼び出しを受け、学園五階に集結していた。

 呼ばれたのはベルネル、エテルナ、マリー、アイナ、ジョン、フィオラ……それからクランチバイト・ドッグマンという三年生の男だ。

 見た目は強そうなのだが、何故か真っ先にやられそうな空気が漂っている。何故だろう?

 だがそれはいい。問題は最後の一人だ。

 生徒しか参加出来ないはずの闘技大会でベスト8に残った最後の一人は、どこからどう見ても、教師であるはずのサプリ・メントであった。

 一体この人は何をしているのだろうか。

 

「……何をしているのだ、サプリ・メント教諭」

「はて、何の事やら。私は闘技大会でベスト8に残った三年生のトム・トイですよ」

 

 レイラが心底呆れたように言うが、サプリは飄々と誰でも分かるような嘘を吐いた。

 それから彼はまるで恥というものを知らないかのように言う。

 

「さあ我が聖女よ! ベスト8の生徒にのみ与えられるという貴女の武器を是非私に!」

 

 ああ、これが原因か……。

 ベルネル達は無言で、今回サプリが何故こんな不正行為に出たかを察してしまった。

 狂信的な聖女……いや、エルリーゼ信者である彼にとって、エルリーゼから直々に彼女が造った武器を与えられるという好機は見逃せないものだったのだろう。

 実際ベルネル自身も、今回はこの景品があったからこそ普段以上にやる気を発揮した部分がある。

 

 結局この不正行為はエルリーゼが無罪放免としてしまった為にそれ以上追及される事もなく、彼女はレイラに用意させた材料から各々の武器を造り上げた。

 ベルネルには以前の物よりも更に強力な大剣。

 エテルナには宝石付きの杖。フィオラには弓と矢。ジョンは双剣、アイナはロングソード。

 マリーはレイピア。サプリは本人の希望で、剣を仕込んだステッキとなった。

 クランチバイトは拳で戦うのでナックルダスターを受け取っている。

 最後にレイラにもロングソードを授け、レイラは感動で今にも泣きそうになっていた。

 一度はエルリーゼを裏切ってしまった彼女にとって、ここでエルリーゼから剣が与えられるというのはきっと、とても大きい出来事なのだろうとベルネルは考える。

 そうして全員に武器を渡したエルリーゼは改まって全員を見た。

 

「皆さん、まずはベスト8おめでとうございます。

私も皆の戦いを見ていましたが、ここにいる八人の実力は既に正規の騎士と比べても遜色のないものであると確信しました」

 

 聖女であるエルリーゼの口から、正規の騎士にも比肩すると保証された事にその場の全員が内心でガッツポーズをした。

 騎士というのは勿論、実技のみで決まるものではない。

 いくら実力があろうと、聖女の側にいるに相応しい品格と向上心がないと判断されれば落第させられてしまう。

 それでも条件の一つである『戦闘能力』に関しては他ならぬエルリーゼから認められたのだ。

 これはかなり大きかった。

 

「故に、貴方達八人に頼みたい事があります」

 

 エルリーゼが真剣な顔をしたのに合わせて、ベルネルも無意識のうちに姿勢を正していた。

 彼女は大抵の事は全て自分一人で出来てしまう。

 単純な実力で言えば、本来彼女の身を守る騎士ですら、その存在意義を問われるほどに抜きんでているのだ。

 その彼女が『頼み』をする以上、それは決して楽なものではないだろう。

 しかも全員の実力を認めた上での『頼み』となれば……それは、戦闘以外にあり得ない。

 

「……しかし、これを聞いてしまえばもう後戻りは出来ません。

先に言っておきますが、私がする依頼は命の保障が出来ない、危険なものです。

ですから……皆には先に拒否権を与えます。

たとえ私の依頼を受けなくとも、私は一切咎めません。成績にも影響しません」

 

 命の危険がある。

 そう言われ、僅かに動揺を見せたのはエテルナとクランチバイトであった。

 拒否権を先に与えるというのも、彼女からの『頼み』がどれだけ危険なのかを物語っている。

 だがベルネルは、どんな話であろうと断る気はなかった。

 むしろ……嬉しかった。エルリーゼが自分を頼りにしてくれているという事に誇りすら持てる。

 

「……もしも話を聞くつもりがあれば明日、授業が終わった後にもう一度ここを訪れてください」

 

 一日、考える時間を与えるという事なのだろう。

 エルリーゼならばそんな事をしなくても、聖女の名で『命令』する事が出来る。

 有無を言わさずに、必要な事なのだから従えと強制出来る。

 何故なら彼女は聖女で、ここは聖女に従う騎士を育成する施設なのだから。

 聖女の頼みを断るようでは、本末転倒だ。何故ここにいるのかすら分からなくなる。

 だがエルリーゼはそれをしない。

 あくまで本人の意思に委ね……そして誰も来なければきっと、一人で戦いに臨むのだろう。

 

 ベルネルの心は既に決まっている。

 『受ける』以外に選択肢など最初からない。それ以外の選択肢などいらない。

 そんな彼の横顔を、エテルナは心配そうに見上げていた。

 

 

 部屋に戻ったベルネルはいつものように自主練に励んでいた。

 この学園に来て、もう八か月以上が経つ。

 入学当初はまだ頼りなさが残っていた青年は逞しくなり、腕は一回り硬く太くなった。

 端正な顔立ちはそのままに男らしさを増し、ベルネルは鍛錬の果てに鋼の肉体を獲得するに至っている。

 それでも彼は決して休まない。

 目指す頂は遥か高く、彼女を守るに相応しい男になるにはまだまだ力不足だと痛感している。

 だから彼は己の筋肉を苛め抜き、更なる強さを求めるのだ。

 力がなければ鍛えればいい。単純な話だ。

 今日も彼は、背中に重りを載せた状態で腕立てをしてパワーを磨いている。

 そこに、誰かがノックをする音が響いた。

 音を聞くと同時にベルネルは素早く立ち上がり、近くに置いてあった布で汗を拭う。

 そしてむさ苦しいシャツ一枚の姿から制服姿に着替え、手櫛で髪を軽く整えてからドアを開けた。

 以前、トレーニング中の姿そのままでエルリーゼを出迎えてしまうという大失態をやらかした事のある彼は、二度と同じ失敗をしないように気を張っているのだ。

 しかし……どうやら今回は、その必要はなかったらしい。

 

「何だ、エテルナか」

「何だとは何よ」

 

 そこに立っていたのは、白銀の髪の少女――エテルナであった。

 白髪とは違う確かな輝きを持つ髪と、水晶のような青い瞳。そして美しく整った顔立ちと均整の取れたプロポーションを持つ彼女に懸想する生徒は多い。

 加えて、十四歳で成長をストップしてしまったエルリーゼと違って、女性として成熟しつつあるエテルナはエルリーゼにない魅力を備えている。

 具体的には主に胸だ。最近妙に膨らんでいる。

 もしもベルネルがエルリーゼしか見えていない朴念仁でなければ、あるいはエテルナの魅力にやられていたかもしれない。

 

「ねえ……ちょっと、屋上で話さない?」

 

 エテルナの誘いにベルネルは考える。

 とりあえずパッと思いついた返しは三つだ。

 一つは普通に受けるというもの。

 二つ目は、何故なのか問うというもの。

 そして三つ目は、時間が勿体ないのでこのまま自主トレを続けていたいと返すという、割と最低な返しであった。

 

「すまない。少しでも俺は自分を鍛えたいんだ」

 

 僅か一秒の思考の後、ベルネルは割と最低な答えを返した。

 エテルナの好感度が少し下がったかもしれないが、残念ながらそれに気付けるほどベルネルは鋭くなかった。

 この男は本当にエルリーゼしか見えていないのかもしれない。

 この光景を見ていたベルネルと同室の、無駄に名前だけ格好いいシルヴェスター・ロードナイトは「うわあ」と思った。

 しかしエテルナもこの返事は予想していたようで、ベルネルの頬を強く摘まむと、無理矢理連れ出してしまった。

 

 エテルナに無理矢理連れられ、学園の屋上へと着いたベルネルは頬を押さえながらエテルナの方を向いた。

 一体何の為にこんな場所まで連れて来られたのだろう。

 ただ話すだけならば、あの場で話せばそれでいい。

 それをわざわざ連れ出したからには、他人には聞かれたくない話なのだろう。

 となると、もしや好きな人が出来たとかだろうか?

 それとも、エテルナにも備わっている『あの力』についての相談かもしれない。

 しかしそうした予想とは反し、エテルナは至極当然の――少なくともベルネルにとっては、もう答えがとうに出ている問いを投げかけてきた。

 

「ねえ……一応聞くけど明日やっぱり、エルリーゼ様の所に行くつもり?」

「当然だろ」

 

 即答であった。

 一瞬の迷いすらもない。

 あのエルリーゼが自分に助力を求めてきたのだ。

 これを喜びこそすれ、何故悩む必要があるのだろう。

 あの場にいた他のメンバー……少なくともジョンとフィオラ、サプリは同じ気持ちだったとベルネルは確信している。

 だがどうやら、エテルナはそうではないらしい。

 

「ねえベルネル……行くの、やめない?」

「……そうか。エテルナは行きたくないんだな」

 

 エテルナの言葉に、驚きはなかった。

 元々彼女は、ベルネルを心配してここまで付いて来てしまっただけなのだ。

 ベルネルやジョン、フィオラのようにエルリーゼに大きな恩があるわけではないし、サプリのように崇拝しているわけでもない。

 アイナのように名誉を求めてもいない。

 そんな彼女にしてみれば、命の危険があると断言された場になど行きたくないと考えるのも無理のない事だ。

 自分に相談したのはきっと、エテルナ一人だけが行かなくて、それで不興を買わないかと恐れたが故だろう……そうベルネルは考えた。

 

「大丈夫だエテルナ。エルリーゼ様は、お前が明日行かなかったからと言って怒るような方ではない。

命の危険があると言われて恐れるのは自然な事だ。皆もそれは分かってくれる。

だから、行かない事を恥に思う必要は……」

「違う、そうじゃないの! 私じゃなくて、あんたに行って欲しくないの!」

 

 ベルネルの的外れな慰めに我慢出来ずにエテルナが叫んだ。

 エテルナが心配しているのは自分の事などではない。

 ベルネルが、まるで喜ぶように危険の中に飛び込もうとしている。それが心配だったのだ。

 彼がエルリーゼしか見ていない事は分かっている。

 昔から……初めて会った時からずっと、彼はエルリーゼの騎士になる事を夢見続けていた。

 その聖女から必要とされるというのは、彼の夢が叶うという事だ。

 だがエテルナは素直にそれを喜んであげる気持ちにはとてもなれなかった。

 だって、ベルネルは前にも一度本当に死んでしまっているのだ。

 あの時は何とかなったが、次もそうなるとは限らない。

 

「ねえ、やめようよ! あのエルリーゼ様が命の危険があるって言うなんてよっぽどだよ!

あんた、今度は本当に死んじゃうかもしれないんだよ!」

「そうかもしれない」

「そうかもしれないって……それでいいの!?

あんたが行かなくったって何も変わらないよ!

あんなに強くて何でも出来るんだから……どうせ、一人で全部解決するよ!」

 

 エテルナの叫びは、ベルネルも一部同意出来るものだ。

 彼女の言う通りだ。

 きっと自分が行っても行かなくても、何も変わらない。

 エルリーゼならば一人で、どんな困難でも打破して世界に光を齎すだろう。

 だが、それでは駄目なのだ。

 何故ならベルネルはずっと、エルリーゼを一人で戦わせないために己を鍛えてきたのだから。

 

「すまないなエテルナ。俺はもう決めたんだ。

あの日……誰にも必要とされていなかった俺を、あの人は抱きしめてくれた。

こんな俺なんかの為に泣いてくれた。

あの人がいなきゃ俺は今頃、世界の何もかもを呪ってどうしようもない奴になっていただろう」

 

 エルリーゼに出会うまで、ベルネルは暗闇の中を彷徨い続けていた。

 親兄弟から見放され、化け物と罵られ……自分の力も制御出来ずに彷徨い、薄汚れた。

 そんなベルネルを抱きしめ、そして幸せになる事を諦めないで欲しいと言ってくれたのはエルリーゼだった。

 あの日ベルネルは誓ったのだ。

 この先何があろうと光を……彼女を信じる事を。

 

「何よ……私だって……私だって、あんたの事を……っ」

 

 エテルナは俯き、そして逃げるように走り去ってしまった。

 その背を、ベルネルは追いかける事は出来なかった。




エテルナ:ねえ……ちょっと、屋上で話さない?
ベルネル:……。
 それはいいけど、屋上は寒いからこの上着も羽織っておけ(好感度+)
 ああ、分かった(好感度±0)
⇒すまない。少しでも俺は自分を鍛えたいんだ(好感度ー)

目当てのヒロイン以外の好感度は下げるもの(ギャルゲ脳)
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