理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー) 作:壁首領大公(元・わからないマン)
レイラと一緒に、ステルスしつつ屋上で待ち受けていると、ノコノコとエテルナと他の生徒達を捕えた犯人がやって来た。
亀から聞いた通りに女生徒だが、背中に何か変な闇のようなものを背負っている。
その闇から触手が伸びてエテルナを始め、何人かの生徒を拘束して気絶させていた。
ほう、エテルナの触手プレイか。
…………いいじゃないか!
やっべ、少し早く来すぎたかもしれない。
後五分……いや、十分くらい遅れてから来るべきだった。
で、肝心の犯人の女生徒の方は……うん。何というか普通だな。
ギャルゲ世界の女の子は全員アイドル以上の美少女と思っていた時期が俺にもありました。
まあ実際はそんな事もなく、むしろ美人比率は現代の地球の方が高いくらいだ。
そりゃそうだ。だってこの世界って食糧事情が悪いから栄養バランスも偏ってるし、どの成分が美肌にいいだとか美容にきくだとか、そんな研究もデータもない。
サプリメントもないし化粧品もない。サプリ・メントという名前の変態はいるけど。
きめ細やかな肌を作る洗顔クリームだとか保湿クリームだとかアレとかコレとかがネットでちょっと調べれば誰でも分かってすぐに取り寄せ出来る現代と比べれば、そりゃ見劣りするのが当然だ。
ただ、このフィオーリという世界は顔面偏差値の振れ幅が極端で、美少女美女はそうした化粧とか美肌クリームとかが一切必要ないくらいに整っている。
レイラとかエテルナもそうした極端な美形だ。
一応俺……というかエルリーゼもそっち側で、加えて俺は魔法で現代以上のインチキをして美肌やら美髪やらにした上で更に通常より数割増しでよく見えるようにズルをしてガワを整えているのだ。
中身がクソだからこそ、ガワには妥協しない。
ひたすら金メッキコーティング&金メッキで、その上から金メッキを更に張る。
メッキの一枚や二枚剥がれてもボロを出さないように、そこは徹底しているのだ。
聖女
さて、そんなモブ子だが……気になるのはやはり、背中の闇だな。
一見すると闇の魔力的なものを背負っているようにも見えるが、あれは何か違う気がする。
闇に隠れててよく見えないが、多分あれ、実体あるよな?
とりあえず、まずはあの闇を引っぺがしてみようか。
……と思っていたら、モブ子が不意に運動場に魔法ぶっぱしやがった。
何してんねん、こいつ。
とりあえず咄嗟に俺も光の魔法を発射し、先に放たれた闇を追い抜いてブーメランのように旋回してモブ子の魔法を弾いた。
「!? 何者!」
モブ子が鬼の形相で俺のいる場所を見るが、生憎とステルス中なので姿は見えないはずだ。
だが、ここに誰かがいる事は気付かれただろう。
まあいい、どのみち観察よりも確保の方が優先度が上だ。
もう隠れている必要もないのでステルスを解除し、一歩前に踏み出す。
「聖女……エルリーゼ……! 馬鹿な、何故ここに……」
モブ子は一歩下がり、身構えた。
背中の闇がわさわさと動き、触手が荒ぶっている。
お、何だ? それで今度は俺を触手プレイか?
やめておけ……それは誰も得をしない。
いやマジで。
「貴女こそ、こんな所で何をしようとしているのですか?」
とりあえず質問に質問で返してやる。
何故ここにいるかといえば亀にネタバレしてもらったからだが、そんな事を教えてやる必要はない。
亀のチート千里眼はこっちにとって有用な武器だ。
変に教えて、それで亀を殺されちゃたまらん。
「……知れた事!
魔女の恐怖を忘れたこの世界に、再び我が恐怖を知らしめる事こそ、私の目的だ!」
何か変な事を言い出したな……。
魔女の恐怖を知らしめるって、この子は魔女の信者か何かだろうか?
いや、でも我が恐怖とか言ってるし、わけがわからん。
「まるで自分が魔女であるかのような言い草ですね」
「いかにもその通りだ。私こそお前が学園まで探しに来た魔女、エリザベトだ!」
…………。
……………………?
こいつ、何言ってるんだ?
魔女はアレクシアだぞ。
魔女を名乗るならせめてアレクシアを騙れよ。
馬鹿なのかな?
正直、溜息を吐いて馬鹿にしたい気持ちで一杯だったが、そこは何とか耐えた。
聖女ロール、大事。
「ふん。聖女ごっこの次は魔女ごっこか。
どこまでも不敬で救いようのない奴め」
レイラが憤慨したように剣に手を掛ける。
ステイ、ステイ。スットコステイ。
全く話が見えないので、もう少し聞いてやろうじゃないか。
それと、そこのモブ子の事知ってるなら俺にも教えてちょ。
「レイラ、知っている顔ですか?」
「エルリーゼ様のお耳に入れる価値もない愚か者です。今この場で斬りましょう」
「知っているならば教えて欲しいのですが……」
「……エリザベト・イブリス。二学年の生徒です。
イブリス伯爵家の次女であり、今月で退学する事が決まっています」
どうやらレイラはこのモブ子の事が嫌いらしい。
一生徒でありながら、ここまでレイラに嫌われるとは珍しい事もあるもんだ。
何だ? レイラのパンツでも盗んだか?
もしそうなら、俺にくれると実に嬉しい。
あー、いやでも従者のパンツなんか持ってたら聖女ロールが台無しになるな。
「聖女ごっことは?」
「お耳に入れる価値も……」
「レイラ」
「…………。
この愚か者は、まるで自分こそが本物の聖女であるかのようにエルリーゼ様の真似事をしており、悪い意味で学園内で有名なのです。
あの出来の悪い粗悪な髪飾りもエルリーゼ様を真似たものでしょう。
それだけならばまだしも、エルリーゼ様が成した偉業をまるで自分がやった事のように騙り、エルリーゼ様が奴の手柄を横取りしたかのように宣う始末……。
伯爵家の娘でなければ、とうに私が斬り殺していただろう、醜悪な不敬者です」
ああ、なるほど。俺の真似っ子ってことね。
別にいいんじゃないの? 憧れたものの形を真似るって割と普通よ普通。
要するにそれって有名なスポーツ選手の髪型を真似したり、陸上競技者の決めポーズを真似したりするのと同じじゃん。
むしろ真似するくらい憧れられるのは、そう悪い気分ではない。
自己投影は……うん。俺も昔やったな。
テレビで見る野球選手の活躍を見て、自分が球場に立って同じような活躍をして拍手喝采を浴びる姿とか妄想したもんよ。ほぼイキかけました。
頭の花飾りは……ああ、確かに何か似たような白い花飾りしてるな。でも少し枯れている。
ちなみに俺が普段頭に付けている花飾りだが、こっちも本物の花だ。
魔法であれこれして枯れないように細工した、この世界で唯一の『散らない花』である。
まあ、願掛けやね。ほら、この世界って『永遠の散花』だからそのカウンター的な意味合いで。
あと、実はこれはただの飾りじゃなくて予備の魔力タンクでもある。
この花は名前をアンジェロといって、花弁に魔力を多く溜め込む性質を持っている。
MPにして花弁一つで100くらいかな。合計七枚の花弁があるので最大で700のMPを補充しておける。
基本的には俺には必要のないものだが、備えあれば何とやらだ。
ちなみに地球にある同名の花とは全然似ていない。
見た目は白い花弁がまるで
この世界では七芒星は魔除けに効果があると信じられ、『7』という数字は縁起のいいものとして扱われている。
それは、7という数字がこの世界の魔法属性である火、水、土、風、雷、氷、光、闇の八属性から一つ……つまり闇を抜いたものだからだ。
で、モブ子が頭につけてる花だが……あれ、アンジェロじゃないわ。
ルチーフェロという名前の、アンジェロそっくりの別の花である。
見分けにくいが花弁の数は八つで、こちらは縁起が悪いとされている。
魔力を溜め込む性質はなく、代わりに花粉に毒を持っている。
死ぬような毒ではないのだが、陶酔感を伴う幻覚を見たり現実と空想の区別がつかなくなったりする、やばい奴だ。
実はこの世界では一部の国では麻薬の材料として扱われているらしい。
アンジェロと違って枯れにくく、長生きする逞しい花だ。
そんなのを頭に乗せてるからおかしくなったんじゃなかろうか。
まあ吸引しなきゃ無害なはずだが……。
「そして今度は魔女の真似事をするとは……。
何という愚か者なのだ」
レイラさん辛辣ゥ!
俺の物真似くらい許してやれよ。
別にそれで金稼ぎしてるわけじゃないんだしさ。
だが魔女の真似事は駄目だな。
特に騎士の前では絶対やってはいけない。
その行為の愚かさを例えるならば、警察署に行って、銃を持った警察官の前で本物そっくりの玩具のナイフや銃を持って『俺は人殺しをしてきた。次はお前だ』と言うようなものだろうか。
冗談や悪戯では決して済まされない。
「ふん……信じられないか。ならば見るがいい、我が魔女の力!」
モブ子が手を広げると、触手何本かがこちらへ飛んできた。
触手プレイがお望みか……しかしレイラの触手プレイは見たいが、俺が対象になるのは勘弁だ。
俺は見る専門なんだよ。
つーわけで魔法で一気に吹き飛ばしてやろうと手を向けるが……。
「エルリーゼ様に手は出させん!」
レイラが俺の前に出て、触手を剣で弾いた。
おいスットコ邪魔ァ!
更に触手が唸り、レイラを剣のガードごと殴り飛ばしてしまった。
続けて俺の方に触手が飛んでくるが、これを軽く光の剣で切り払った。
すると確かな手応えを感じ、地面に何かが落ちる。
切断した事で闇が晴れ、姿を露わにしたのは……美味そうなタコの足であった。
……ああ、なるほど。大体読めたわ。
「そういう事ですか。貴方の正体は既に分かりました」
全部まるっとお見通しだ!
正体を看破した事を突き付け、そして光魔法で闇を払ってやる。
すると出て来たのは、モブ子に絡みつく人間サイズのタコであった。
これはあいつだ。本来なら魔女戦の前座で出て来るボスのタコ。
三年前にはベルネルを誘拐しようとしていた奴だ。
そいつがモブ子を操って魔女を名乗らせているっていうのが今回の真相だろう。
俺が切断してやった足は早くも再生を始めていて、実にエコロジーである。
こいつをタコ焼きの材料にすれば無限に食えるな。
「魔物……!」
「いえ、大魔です。そして、今回の行動の意図も読めました。
大方、そこのエリザベトさんを使って魔女を名乗らせ、私達の矛先を学園からずらそうとしていたのでしょう」
魔女の正体はアレクシアである。
したがってアレクシア以外に魔女を名乗らせても何の効果もない。
騙るならばせめてアレクシアを名乗らせなければ無意味だ。
だがそれは、既にアレクシア=魔女という事を知っている俺達の視点での話だ。
こいつは俺達が知っている事を知らない。
だから他人に名乗らせるなどという、間抜けをやってしまうのだ。
タコの視点で考えるならば、まだバレていない
だが、それがこんなバレバレの破綻した計画を生む事になる。
「何を言うかと思えば……大魔を従える我が魔女でなくて何だと……」
モブ子……いやモブ子の口を使ってタコがまだ未練がましくモブ子=魔女設定を信じさせようとしてくる。
だがアレクシア=魔女という事を既に知っている俺達としては、もうその設定は信じるべき要素などどこにもないのだ。
とはいえ、向こうはどうやら俺達が知っている事を知らない様子。
ここで無駄に『既に魔女の正体はアレクシアだと知っているZE☆』と言うのは簡単だが、そりゃ迂闊というものだろう。
どこから情報が洩れるか分からないし、 盗聴器のようなものがないとは言い切れない。
俺と同じように魔法の応用で声を拾っている可能性は……それなら俺が気付くが、ゼロと断言は出来ない。
漫画とかでもそうだが、勝利を確信した時の無駄話というのはとんでもない負けフラグだ。
『冥途の土産に教えてやろう』とか相手の誘導に引っかかって無駄に情報を吐いたりとか。
俺はそういうのは、なるべくやりたくはない。
だからここは、それっぽい事を言って煙にでもまいておく事にしよう。
「貴方には聞こえないのですね……助けを求めるその子の声が」
俺にも聞こえねーけどな!
とまあ、アレクシアの事は一切教えずにモブ子のせいにしておいてやった。
俺が真実に辿り着いたのは、既に魔女の情報を持っているからではない。
助けを求めるモブ子の声が聞こえたからだ!
そう言うと、モブ子の目から涙が溢れた。ワロス。