理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第五十九話 汚物

 さて、あんまりこんな雑魚に長々時間をかけるのもあれだし、サクッと終わりにしてしまいましょうか。

 タコよ、お前は所詮アレクシアの前の前の前座に過ぎん。

 バラバラにぶち撒けて、焼いて、タコ焼きにして食ってやる!

 でもこの世界でタコ焼きって難易度高そうだな。

 地球だと業務用スーパーでタコ焼きの粉という便利な物が買えたが、こっちだと薄力粉から自作しなきゃならんだろうし……そもそも薄力粉自体がそんな簡単に入手出来る物じゃない。

 まあ、それはいい。ともかくぶちのめす!

 

「ちいっ!」

 

 俺がやる気になったのを感じ取ったのか、タコがモブ子の背後に隠れた。

 更に触手で捕まえていたエテルナ達を前に出すようにして盾にする。

 おまっ、それずるいって。

 しかも前だけではない。

 タコは現在八本の足のうちの六本で六人の生徒を捕まえていて、残る二本がフリーだ。

 そして捕まえている生徒五人とモブ子で自分を360度守るように円陣を組ませる。

 更に上も生徒で塞ぎ、ガッチリガードしやがった。

 肉の盾ってか……鬱陶しい真似をしやがる。

 だが無駄よ無駄無駄ァ。

 対策などいくらでもあるわ。

 

「動くなよエルリーゼ……動けばこいつ等の命はないぞ。

まずは腕を後ろに組んでもらおうか」

 

 お決まりの脅し文句を口にするタコの目の前(・・・)で俺は歩き、タコの背後へ回り込む。

 いつぞやの、騎士の目を欺いた光の屈折による幻影+ステルスだ。

 奴の目には今、人質を前に何も出来ずに、言われるままに腕を後ろに回す俺の姿が見えている事だろう。

 そして人質の盾も隙間がないわけじゃない。

 人質の間の隙間を通して氷魔法を発射。

 このタコは地上でも活動する為に、自分の周りに常時魔法で水球を作って、その中に入っている。

 その水を凍らせてしまえば、そこで勝負ありだ。

 タコが一瞬で氷漬けになり、人質が全員解放された。

 それから幻影を消して、ステルスを解除……レイラから見ればきっと瞬間移動したように見えるだろう。

 

「エ、エルリーゼ様……一体何が……」

「人質が厄介でしたので、少しズルをしただけです」

 

 手札はなるべく隠しておきたいので、詳細はレイラにも教えない。

 奥の手は隠してなんぼですよ。

 しかし、タコがノコノコと外に出てきてくれてよかった。

 これでベルネル達を突入させる際の不安事項が一つ消えてくれたのは嬉しい誤算だ。

 とりあえず、操られていたモブ子……ええと、エリザベスだっけ? いや、エリザベトだったかな。

 まあどっちもでもいいや。

 へたり込んで呆けているので、手を差し出してやる。

 

「災難でしたね……大丈夫ですか?」

 

 あんま顔は好みじゃないけど、俺の真似するくらいファンだっていうし、ファンは大事にしないとね。

 するとモブ子は俺の手を両手で掴み、まじまじと見てから撫でまわし始めた。

 ん? 何? 何も持ってないよ。

 

「はあ……白くってスベスベしてて細くて……指先までこんなに綺麗だなんて……」

 

 何かハァハァしながら俺の手を撫で回し、その後は出し抜けに抱き着いてきた。

 で、髪やら腰やらに無遠慮に手を伸ばして来る。

 

「ああ、ありがとう、ありがとう……。

私、ずっと助けを求めていたの。でも声が出なかった。

だってそうでしょう? 聖女である私が魔女を名乗らされるなんて、あっていいはずがないもの」

 

 ……?

 何言ってるんだこいつ。

 いや、これがレイラの言ってた聖女ごっこというやつか。

 操られて九死に一生を得た直後だというのに聖女ごっこをするとは、ある意味大物なのかもしれない。

 

「髪もサラサラで……腰も細くって……はあ……これが聖女なのね……。

ああ、どうして……どうして私は貴女じゃないのォ……。

この髪も顔も、身体も、私が持って生まれるはずだったのにどうして貴女なの……」

 

 うーむ……これはなかなか、今までにいなかったタイプだな。

 とりあえず、分かった事がある。

 どうやらこいつ、かなりやばい奴だったようだ。

 これ、助けない方がよかったかな……。

 

「ねえ頂戴よォ……この髪も爪も、顔も身体も私に頂戴ィィ……。

私も聖女がいいの。ねえいいでしょう? ね? ねっ?

いいでしょう? いいわよね? そうよ、だって私が聖……」

「いい加減にしろ、害虫が」

 

 俺にベタベタ触るやべえモブ子をどうしようか考えていたら、いつの間にか近くまで来ていたレイラがモブ子の頭を掴んで俺から引き剥がし、まるでゴミでも捨てるように投げ飛ばした。

 おいスットコ、ちょっとやりすぎじゃね?

 その子家名持ちって事は貴族だろ?

 あ、いや、でもそういやスットコは侯爵家令嬢で家柄でも勝っているから揉み消せるのか?

 ……いやいや、そういう問題じゃない。

 

「エルリーゼ様への不埒な行為に不敬の数々、もはや我慢ならん。

不敬罪で今すぐ、その薄汚い首を落としてやる」

 

 何が起こったか分からずに座り込むモブ子の前でレイラが剣を突き付けた。

 するとモブ子は後ずさりながら言う。

 

「ま、待って……お、落ち着いて……下さい、レイラ。

そ、そう、私の騎士! 貴女は近衛騎士! なら、こんな事をしてはいけませんわ!

思い出してください……私と共に戦場を駆け抜け、多くの力なき民を救ったあの日の事を……」

 

 今まで普通の口調だったのが突然敬語口調になった。

 多分あれが俺の真似なんだろう。

 でも俺、一度として『いけませんわ』とかのお嬢様口調で話した事ないんだけどな。

 そもそも俺が敬語口調で通してるのって、俺が女口調とかキモ過ぎて無理だけど男口調も違和感抱かれるから、それなら仕事とかで慣れていた敬語で固定しとこうかという、いわば妥協の口調なわけで。

 

「…………黙れ」

「ひっ」

 

 うわあ、レイラが何か今まで見た事もないような顔になってる。

 まるで道端に落ちている巨大なクソを見付けて、心底生理的嫌悪感を感じているような、それでいて激しい怒りとそれを通り越したような絶対零度の瞳が合わさって、何とも言えない顔になっている。

 冷たいのも行き過ぎると火傷して、熱いのと区別が付かなくなる的な。

 人ってあんな表情も出来るんだな。

 

「もういい、声を聞いているだけでも不快だ。今すぐに切り捨ててやる」

 

 あ、やばい。

 これレイラマジでプッツンしてる。

 このままレイラがモブ子を殺してしまうと、どんな理由であれ法の裁きにかけず独断で貴族を殺したという事で問題になる。

 それはレイラが侯爵令嬢であっても変わらない。

 なので俺はレイラの背中を軽く叩き、落ち着かせた。

 スットコ、ステイ。

 落ち着け、どうどうどう。

 

「レイラ、落ち着いて下さい」

「止めないで下さいエルリーゼ様。これ(・・)はここで処分すべきです」

 

 とうとう『これ』呼ばわりになった。

 こんなにレイラがブチ切れたのは初めてかもしれない。

 ゲームだとピザリーゼに対してこれくらい切れるが、この世界では初めて見た。

 どう落ち着かせたものか……。

 

 とりあえず、ここで本当に斬ってしまうとレイラの立場も少しやばくなる。

 なので止めるのは確定事項として……レイラに投げられた際に出来たと思われる怪我も治しておいた方がいいよな。

 一応あの子、伯爵令嬢らしいし。

 つーわけで治療魔法をかけようとしたのだが、何やらエテルナのいる場所が光り出した。

 あれ? 俺そっちに回復魔法使ってないけど?

 ていうかやべえ。エテルナを中心に魔力が高まっている。

 このままだと屋上にいる奴、魔力でガード出来る俺以外全員吹っ飛ぶぞ。

 なのでシールド一発。エテルナから発射された魔力を防ぎ、何が起こっているのかを観察する。

 

「…………」

 

 光の中でエテルナがゆっくりと起き上がり、こちらを見る。

 全身を白い魔力の粒子が飾り、風もないのに髪が波打っている。

 魔力の余波だけでタコは消し飛んでしまい、跡形も残っていない。

 ああ……タコ焼きにするつもりだったのに……。

 何はともあれ、これは間違いないな。

 ぶっちゃけ何でいきなりこんな事になったのか皆目サッパリ見当がつかないが、俺の六百分の一くらいに匹敵するこの魔力は並の人間に出すのは不可能だ。

 

 うん、これ、聖女に覚醒してるわ。

 何でいきなり覚醒したん? 意味わからんわー……。

 ……とりあえず、俺が偽聖女って事が判明するのもそう遠くない未来だと思うし、言い訳を考えておこうか。

 

 

 助けを求める者の誰もが、救われた事を感謝するとは限らない。

 自分が危ない時は必死で助けを求めても、危機が去ればそれを容易く忘れる……そんな人間もこの世には存在するのだ。

 レイラは目の前の汚物(エリザベト)を見下しながら、心底そう考えていた。

 

 エルリーゼはエリザベトの、助けを求める声が聞こえたと言った。

 きっとそれは事実なのだろう。

 かつてアイズ国王が助けを必要とした時も彼女は、当たり前のように彼を救いに来た。

 歴代の聖女にそんな力はなかったはずだが、何せ彼女は歴代最高の聖女だ。何が出来ても不思議ではない。

 だが救われた者の全てがアイズ国王のように、それを恩に感じて心を入れ替えるとは限らない。

 心底から腐り果てた心では、感謝するという概念そのものがないのだろう。

 それでもエルリーゼはきっと変わらないし、手を差し伸べる。

 誰かを助けようとする彼女の心に打算はなくて、何度踏みにじられようと、それでも笑顔で手を伸ばす。

 裏切られない……と思っているわけではないのだろう。

 裏切られ、踏みにじられても構わない……きっとエルリーゼはそう考えている。

 その在り方はどこまでも尊くて、穢れが無くて……だからこそ、一層この汚物の事が許せなかった。

 こんな輩がエルリーゼを踏みにじるなど、あってはならない。

 だから今回ばかりはエルリーゼの意思に反してでも斬ってしまうべきだと考えて剣を振り上げる。

 だがレイラの背をエルリーゼが軽く叩いて嗜める。

 

「レイラ、落ち着いて下さい」

「止めないで下さいエルリーゼ様。これ(・・)はここで処分すべきです」

 

 レイラの怒りに、エルリーゼは静かに首を振った。

 そこには、自分が侮辱された事への怒りなど一切感じられない。

 彼女はどんな者であろうと愛し、守ろうとする。

 だから今回も同じように、迷いなくエリザベトに回復魔法をかけようと掌を向けた。

 

(ああ……本当にこの方はどこまでも……)

 

 レイラは未だ憤る心を何とか抑えて剣を納めた。

 実力という点では、エルリーゼに守りは必要ない。

 彼女は自分一人で自分のみならず、全てを守れる。

 だが、自分を守ろうとしない。

 だからこそ、何があっても守ろうと改めて心に誓う。

 一度は裏切ってしまった自分を、エルリーゼは許し、武器まで与えてくれた。

 その恩に報いる為にも、せめてこうした悪意から彼女を守る盾であろうと思う。

 

 だが剣を納めるにはまだ早すぎたらしい。

 大魔は氷漬けになり、愚者も大人しくなった。

 後は人質にされた生徒達を保護してそれで終わり……そう思っていた。

 だがその保護すべき人物の一人であるエテルナから突然光が放たれ、エルリーゼが咄嗟にシールドで防ぐ。

 エルリーゼが守った一部分以外の屋上の全てを光が蹂躙し、凍ったままだった大魔を一撃で抹消する。

 屋上の床が抉れ、その威力にレイラは戦慄した。

 

 有り得なかった。

 大魔を一撃で抹消する威力の魔法など、生徒が使えるはずがない。

 レイラだってそんなのは不可能だ。

 そんな人知を超えた真似が出来るとすれば、それは聖女以外にあり得ない。

 だがそれはエルリーゼのはずだ。

 事実、エルリーゼはこれまでに聖女しか出来ないような偉業を……いや、歴代の聖女全員が集まったとしても到底出来ないだろう偉業を成し遂げてきた。

 しかし光の中でゆっくりと立ち上がるエテルナもまた神々しく輝いており、その姿は聖女を連想せずにはいられない。

 

 聖女が同じ時代に二人現れた事は過去に一度としてない。

 だが、その例外がレイラの目の前で起こっていた。

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