理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第六十三話 島国での修行

 さて、やって来ましたフグテン。

 『フェスティナ・レンテ』の全速前進で一時間くらいかけてようやく着いたここは世界の裏側。

 今やフィオーリ最後の魔物の生息地でございます。

 今回ここにやってきたのは俺とレイラ。地下突入班の八名。

 変態クソ眼鏡が抜けている間はステルスバードで魔女を騙す役目はフォックスのおっさんにやってもらう事にした。

 一応出発前に変態クソ眼鏡が魔女にメッセージを送ったらしく、タコの作戦が上手くいって無事に偽魔女を仕立てたと伝えたらしい。

 なのでタコは遠くの地で偽魔女と一緒に暴れているので地下に帰還せず、そして聖女も近々そちらに向かう為に学園を出る準備をしている……という筋書きのようだ。

 そして学園で魔女に何か動きがあった際にすぐ分かるように、亀も引っ張り出してきた。

 俺が学園を離れても魔女にはそれを知る術はないし、仮に知ってもむしろ『やっといなくなってくれた』と大喜びでそのまま地下に居座りそうなものだが、まあ念の為だ。

 余談だがベルネル達は、預言者が亀である事に驚いていた。そりゃそうだ。

 

「ここが世界の果て……いや、世界の裏側、フグテンか」

 

 レイラが自分自身に確認するように言う。

 このフグテンは俺達の住んでいるジャルディーノ大陸の丁度反対側に位置している。

 しかしこの世界ではつい最近まで、世界は球体ではなく平面であると信じられていた。

 だからフグテンは『世界の果て』なんて呼ばれているのだ。

 物理的に距離が遠く、この世界の移動手段はそこまで発達していない。

 だから交流もほとんどなく、フグテンの事は『そういう国があるのは知っているけど聞いただけで、実際にどんな場所なのかは知らない』という者がほとんどだ。

 そんな場所だからこそ、まだ手付かずの状態で魔物が残っている。

 逆に言えば、ここの魔物を絶滅させてしまえばいよいよ残す敵は魔女とその取り巻きだけとなるだろう。

 

「しかし……何と言うか、荒れた地ね」

 

 アイナが周囲を見ながら言うが、ここから見える景観はまさにその言葉通りであった。

 見渡す限り広がっているのは地面と岩と砂と山ばかり。目に入る景色に緑色がない。

 大地は水分を全て奪われたようにカラッカラで、罅割れている。

 痩せた土地ってレベルじゃないなこれ。

 これ、もう死んでる土地だわ。

 

「別に珍しいものではない。

我々の住む大陸も、ほんの数年前まではどこもこんな有様だった」

 

 思い出すように変態クソ眼鏡が言う。

 こいつの言う通り、俺が活動を開始する前は割とどこもこんな感じであった。

 なので広範囲土魔法で耕したり、水魔法で無理矢理水脈を引いたり、その上に種をばら撒いて過剰な回復魔法で生命力を暴走させて強制発芽&強制成長させたりして力業で手あたり次第に森林に変えてやったものだ。

 ちなみにこの過剰回復魔法を人間に使うとどうなるかは分からない。

 試した事ないからな。

 ただ、人間に比較的近い猿の魔物で動物実験した際には一時的にとんでもないパワーを発揮して、割とやばい事になった。

 まあ俺の敵じゃなかったが。

 副作用とかは見られなかったが、怖いのでそれ以降は生物に使っていない。

 

「魔物を根絶しない限り、この景色は変わらない。

何故ならどれだけ尽力して植林をしても、魔物がいれば必ず破壊されるからだ。

人間にとって害獣とされるものでも、自然全体から見れば何らかの役割を持っている。

だが魔物だけは違う。奴等は本当にただ壊す事しか出来ない。

……この国の姿は、決して他人事ではない」

 

 レイラが、魔物への嫌悪感を隠さずに魔物を辛辣にディスる。

 一応擁護しておくと、魔物も元々は野生動物なわけで、それを魔女に変化させられてしまった被害者である。

 まあ一番の加害者である虐殺魔の俺が言ってもちょっとアレかもしれないがな。

 それはともかく、訓練に使えそうな強い魔物を探さないとな。

 

「プロフェータ、この国に大魔クラスか、それに近い強さの魔物はいますか?」

「うむ、強力なやつが数体確認出来る。ここからだと南に五キロ歩いた先の海辺の近くにいる巨大なイカが一番近い」

 

 タコの次はイカか……海産物責めかな。

 それはともかく、でかいイカの魔物とは結構厄介かもしれない。

 何が厄介って、基本的に海の中が活動区域だろうから、地上の魔物とは勝手が違うのだ。

 タコのように魔法を使って無理矢理陸に上がっているならばむしろ楽だろうが、本来のフィールドである海に潜まれると倒す為の難易度は大魔を上回る。

 だがそのくらい手強い方が、ベルネル達の経験にもなるかもしれない。

 もし本当にやばくなれば俺が出しゃばるだけだし、一つやってみようか。

 

「一応聞いておきますけど、その魔物を倒す事で困る人はいますか?」

「んー、いないと思うがね。むしろ倒した者には賞金を払うと通達しているようだ」

 

 俺の亀への問いに、ベルネル達は『そんな奴いるわけないだろう』みたいな顔をした。

 確かに、俺達の常識で考えれば困る奴などいるわけがないだろう。

 魔物が海に住み着いてしまえばその付近の魚や貝を始めとする生き物は喰い尽くされるし、サンゴなども根こそぎ破壊される。

 海にも出られないし、まさに百害あって一利なしだ。

 だがそれこそ俺達の決め付けというもの。

 何らかの形でイカを利用して利益にしている可能性だってゼロではなかった。

 それを無許可でぶっとばしてしまえば、問題になってしまう。

 だが賞金までかかっているというのなら、倒してしまっても問題はないだろう。

 

「ならば問題はないですね。早速向かいましょうか」

 

 さあ、対魔物実戦訓練いっちょいってみようか。

 

 

 海辺にまで行くと、『遅かったな』とばかりに巨大なイカが鎮座していた。

 逃げも隠れもしないって感じだ。

 普通に海面から顔を出して触手をウネウネさせている。

 大きさは……触手まで含めて全長40mはありそうだな。

 ちょっと前にネット上でサンタモニカに49mの大王イカが打ち上げられたっていうコラ画像というかデマ画像が出回った事があるんだが、大きさ的に丁度あんな感じだ。でかい。

 あれ、喰うなら何人分くらいになるんだろう?

 だがそれ以上に気になるのは、顔に当たる部分から何故か象の鼻に似たパーツが伸びている事だった。

 何だあれ……イカと象のキメラか?

 

「お、大きいな……」

「ふん、図体だけだ」

 

 モブAが怯むが、噛ませ犬はあの巨体を見ても全く動じずにむしろ前に踏み出した。

 おお、何か強キャラっぽいぞ噛ませ犬。

 噛ませ犬は拳を構え、自信溢れる笑みを浮かべた。

 

「俺一人で十分だ。お前等は手を出すな。

こいつならば60%の力で十分だろう」

 

 いやあ、100%で行った方がいいんじゃないかなあ。

 そう思う俺の前で噛ませ犬は本当に一人でイカに向かって走り始めた。

 海に入り、失速しながらもバシャバシャと音を立ててイカへと近付いていく。

 そして拳が届く距離に――到達する前に、触手で殴り飛ばされてしまった。

 

「ぐわあああああああーーーッ!!!」

 

 おっと噛ませ犬君ふっとばされたー!

 悲鳴をあげながら噛ませ犬が空を舞い、仕方ないので風魔法で墜落の衝撃を和らげてやる。

 名前に恥じぬ噛ませ犬役ご苦労様。

 でも肝心のこいつの強さがよく分からないから、噛ませ犬として成立してない気もする。

 イカは噛ませ犬から興味を失ったように、今度は俺の方を向いて触手を伸ばしてきた。

 おいおい、触手プレイか? 狙うなら俺じゃなくて他の美少女を狙えよ、美少女を。

 エテルナとかマリーとかアイナとかフィオラとか。後、少女って年齢じゃないがレイラもいる。

 まあともかく、見るのは大好きだが俺自身がやられるのはノーセンキュー。

 なので軽くバリアを張って、触手を防いだ。

 

「エルリーゼ様! このっ、お前の相手は俺達だ!」

 

 ベルネルが大剣を手に、イカへ斬りかかった。

 だが相手は、足が届く深さとはいえ海の中にいる。

 いかにベルネルの剣でも、攻撃が届く位置に行くには海に入らなければならない。

 だが浅瀬であろうと水というのは思った以上に速度を殺す。

 このままでは噛ませ犬の二の舞だが……我らが主人公君はどうするかな。

 

「イカンゾウ!」

 

 イカが鳴き声を発して触手を振り下ろした。

 そうは鳴かんやろ……。

 しかしベルネルはこれを待っていたように剣を振り上げ、触手を切断してみせる。

 流石主人公だ。噛ませ犬とは違う。

 それに弾かれたように他のメンバーも動き、魔法を撃ったり弓を撃ったり、ベルネルと一緒に斬りかかったりして一気にイカを追いつめた。

 おー、流石俺のやった武器だ。自画自賛になるがイカがスパスパ切れている。

 最後にエテルナが光を放ち、イカが黒焦げと化した。

 おおう……流石は魔物に効果抜群の聖女パワー。

 込めてる魔力はさほど多くないだろうに、とんでもない威力だ。

 イカは未練がましく切れた触手を俺の方に伸ばそうとするが、最後にベルネルに止めを刺されて動かなくなった。

 

「凄まじいですね……あの力、伝え聞いた過去の聖女と比べても見劣りしていない」

 

 ギクリ。

 横でレイラがエテルナの力を冷静に評価しているのを聞いて、俺は笑みが引きつったのを自覚した。

 うん、全く見劣りしてないね。

 そりゃそうだ、だってあっちが本物だもの。

 

「エルリーゼ様が今代の聖女でなければ、彼女が聖女として間違えて育てられていたかもしれませんね」

「……そうですね」

 

 レイラ、お前さんひょっとして分かってて言ってない?

 もしかして俺、カマかけられてる?

 『こいつもしかして、本当は聖女じゃないんじゃね?』とか思われる?

 一応俺も三年前にベルネルから借りパクした闇パワーで『聖女にしか出来ないはずの事』は出来るんだが、俺の場合はただのゴリ押しだからな。

 例えば聖女パワー100の聖女が魔女に100ダメージを与えるのに必要な力がMP1消費の魔法と仮定しよう。

 エテルナは本物なので、そのままMP1消費の魔法をストレートに撃つだけでこれが達成出来る。

 対し、俺は聖女(もどき)パワーは10くらいしかないので、このままでは魔女に全くダメージが通らない。

 なのでMPを100くらい消費して無理矢理本物超えのダメージを叩き出している……という感じだ。

 

「しかし、誤算ですね。こうも簡単に勝てては訓練になりません」

「ふむ……」

 

 何か、方法を考える必要があるだろうか。

 エテルナの覚醒は嬉しいんだが、そのせいで逆に魔物に対して効果抜群でヌルゲーになってしまっている。

 勿論それはいい事だし、本番でも同じようにエテルナが魔物を蹂躙出来るという事だ。

 だが魔女戦では何が起こるか分からない。

 だから出来れば、もう少しギリギリの実戦経験ってやつを積ませたいんだがな……。

 

『……リーゼ……エルリーゼよ……』

 

 あー、うっさい。今考え中だ。

 誰だよ、俺に話しかけてるの。

 

『私はアルフレア……今、今代の聖女である貴女に話しかけています……』

 

 ふーん、そうアルフレアね。

 ゲームでは名前だけの存在で、実際には一度も登場しないという初代聖女様が俺に何の用…………ファッ!?

 初代聖女アルフレア!?

 そりゃ、とっくに死んでるはずの人間じゃねえか。何でそんなのが俺に話しかけてるんだよ。

 いや、それより……まさかこいつ……嘘だろ? 信じられねえ!

 

『いきなりこんな事を話しても驚くかもしれません。

貴女が世界の闇の力をここまで薄めてくれたおかげで、私の声が届くようになったのです。

本当ならば聖女である貴女にはもっと早くコンタクトが取れていたはずなのですが……いえ、きっと私の力が弱まっていたという事なのでしょう。

ともかく、貴女がこの国を訪れてくれたおかげで、こうして声を届ける事が出来ました』

 

 頭の中に響くのは、透き通るような声だ。

 だが聞こえているのは俺だけで、他の誰も聞こえている様子はない。

 そう……エテルナにも、この声は届いていないようだ。

 

『しかし何故か、貴女とは妙に通話がしにくく、この会話も長くは続きません。

どうしても貴女にお話ししたい事がありますので、どうか私の所に来て頂けないでしょうか?

私は、この国にある初代聖女のお墓に…………』

 

 そこまで聞こえたところで、通話が途切れてしまった。

 だからスマホの充電はしっかりしておけとあれほど……。

 しかし初代聖女アルフレアに、初代聖女の墓ねえ……何で死んだはずの初代聖女様の声が聞こえるとか、何でこの国に墓があるんだとか色々思う所はあるんだが、それより……。

 

 

 ……初代聖女(あいつ)……本物(聖女)偽物(おれ)の区別ついてねえ……。

 ありえねえっ……本物の聖女であるエテルナがすぐ近くにいるのにスルーしやがった……っ!




【悲報】初代聖女、ぽんこつ確定。


【イカンゾウ】
今回ベルネル達が戦った魔物。
強さはドラゴンをレベル70とするなら、レベル50くらい。
巨大なイカの魔物だが、鼻が付いていて象のようになっている。
体内の臓器は胃と肝臓が大きく、他の臓器の役割も兼任しているらしい。
美少女を触手でヌルヌルにする事に命を賭けている。
ヌルヌルにするだけで本番行為には及ばないという謎のポリシーを持っていた。

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