理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー) 作:壁首領大公(元・わからないマン)
イカとの戦闘が終わり、俺達は現在光に包まれてフグテンの空を飛んでいた。
何故こんな事をしているかというと、初代聖女アルフレアの墓を目指しているからだ。
初代聖女アルフレアからの通話が途切れた後、俺はその事を皆に話した。
流石に突拍子もなさすぎて信じて貰えないかと思ったのだが、皆呆れるほどに俺の話を信じてしまい、初代聖女の墓を探そうという話になってしまったのだ。
アルフレアは初代だけあって、当時はまだ聖女を保護しようという動きがなかった。
彼女が魔女を倒し、そこで初めて聖女という存在が人々に認識されたのだ。
それ故にアルフレアは出身地や誕生日に至るまで、そのほとんどが謎に包まれている。
謎に包まれた初代聖女……その墓がこんな世界の裏側にあるなどと急に言われても普通は信じられないだろうし、疑っても無理のない事だ。
しかし誰も疑わず、『エルリーゼ様が声を聞いたというのなら』と信じてしまっている。
や、嘘は吐いてないんだけどね。声も本当に聞こえたんだけどね。
ただそれはそれとして、もっと疑えよと心配になってしまう。
俺が詐欺師だったら金取り放題だぞ、これ。
「プロフェータ、本当にこの方向で合っているのですか?」
「ああ、間違いない。アルフレアはこの先で眠っている」
世界のあらゆる場所を見通せる亀を連れて来てよかったと本当に思う。
こいつがいなきゃ地道な情報集めから始めなきゃならなかった。
とりあえず、到着まで少し時間があるだろうし、もう少し質問しておくか。
「何故、この国にアルフレア様の墓があるかプロフェータは知っていますか?」
「ああ、知っているよ。この国はね……アルフレアと初代魔女の故郷なのさ。
今でこそ魔女と聖女の戦いはジャルディーノ大陸が主になっているが、全てはこの小さな島国から始まった事なんだよ」
割と重大な情報だが、俺の知らない話だ。
ゲームではそんな事、一言も触れられていない。
いかんな……ここにきて、俺の持つ情報アドバンテージが無価値になりつつあるぞ。
ちなみに『初代魔女』と『
まず先に世界が、人類を管理すべき世界の代行者として初代魔女を生み出し、それが暴走した後に
なので最初にトチ狂った迷惑な魔女はアルフレアではない。
「おっ、ここだ。降りてくれ」
亀に言われ、高度を落とす。
地面に降りて周囲を見渡せば、着地した場所はどうやら岩壁に挟まれた谷のような場所らしかった。
亀はノソノソと歩き、近くにあった洞窟の中へと入っていく。
それに案内されるように俺達も続くと、少し進んだ先に幻想的な景色が広がっていた。
大理石……だろうか。天井が白い石で構成されており、それが入口から届く光と洞窟内の水とで青く照らされてこの世のものならざる景観を作り上げていた。
そしてその先に立っているのは、随分とボロボロで錆びた鎧が一つ。
鎧に中身はない……が、腐食した剣を手にしており、ギシギシと音を立てて動いている。
……つついたら崩れそうだな。
「あれは……」
「……アルフレアの騎士だ。当時はまだ聖女を守る騎士という概念そのものがなかったが、あいつは死しても尚、魂だけで現世に留まってアルフレアを守り続けている」
俺達が近付くと、鎧は俺だけを通してその後に続くレイラ達を遮るように剣で道を塞いだ。
「……どうやら、この先は聖女だけしか通さないって事らしいね」
亀が複雑そうに言い、俺とエテルナを見比べた。
ちょ、おい。そこの鎧! お前の目は節穴か!
って、どう見ても節穴だ。中身ないもんな。
それはともかく本物の聖女を通せんぼしてるぞお前。
しかし今ここでそれを言うわけにもいかず、俺は渋々先へと進んだ。
うーん、いいのかこれ? 俺偽物だぞ?
更に洞窟を進むと、やがて最奥には一つの巨大な水晶が鎮座していた。
水晶の中には女性が閉じ込められていて……ちょ、裸! 裸! HA☆DA☆KA!
イヤッフゥゥゥゥ!
年齢はレイラと同じくらいだろうか。
エテルナ同様に美しい銀色の髪をしており、肩まで伸びている。
頭の上の方で髪が左右に跳ねていて、しかもその部分だけ何故か毛先が黒に変色しているせいで何となく犬の耳のように見えた。
目鼻立ちはくっきりしていて、もはや当然のように美人。
聖女っていうのは美女美少女しかなれない決まりでもあるのかね。
で……胸のたわわなメロン! でかい!
ファラ先生以上かこれは……?
ところでどうでもいいんですが、実はわたくし培養槽フェチでして……。
漫画とかアニメとかで女の子が全裸で培養槽に閉じ込められて眠っているシーンとかあるじゃないですか。
これは培養槽ではなく水晶だが、かなり俺の好みだ。
グーよ、グー!
と、俺の性的嗜好はどうでもいいな。
ここまで来たが、この後どうすりゃいいんだろう。
とりあえず手を触れてみれば何か変わるんだろうか。
と、触ってみると景色が一変して何故か光の中で浮遊していた。
しかも俺、服着てないやん。
何で俺までまっぱにしてんねん。誰得だよ。
とりあえず究極防御魔法の謎の光で映しちゃいけない部分はガード出来ているが、どうも落ち着かん。
こりゃあ多分、精神世界的なアレなんだろう。
よく集中してみれば、俺の身体の感覚も残っているし、身体の方の手を動かす事も出来る。
『ようこそ、今代の聖女よ。貴女が来るのをお待ちしておりました』
声が聞こえたので振り返ると、いつの間にか美人のねーちゃんが全裸で俺の前に浮いていた。
うっひょー、眼福眼福。
女の子が俺の前で無防備になるっていうの、TSして一番嬉しい部分だよな。
同性同士だからって羞恥心なく肌を見せてくれる。
なんていうか……その……下品なんですが……フフ……こりゃホンマ勃起もんやで……。
「初代聖女、アルフレア様ですか?」
とりあえず確認。
こんな所にいる時点でまあ九割間違いないのだが、一応ね。
『はい。貴女は今代の聖女エルリーゼに間違いありませんね?』
「……ええ。確かに、今代の聖女という事になっています」
『なっている……とは?』
あ、この人マジで分かってねえ。
はい確定。何か初代聖女って事で威厳っぽいの出そうとしてるけどこの時点でぽんこつ確定。
とりあえず、あんまり苛めるのも可哀想だしさっさとネタバレしてやるか。
「私は聖女ではありません。偶然聖女と同じ村で生まれて取り違えられた、魔力が強いだけの別人です」
『うぇ!?』
俺のカミングアウトにアルフレアは目を丸くして驚いた。
はい威厳崩壊。
でも、今まで頑張って威厳を保とうとしていた子があっさりメッキが剥がれて素顔を見せるのっていいよね。
俺の素は見せたら不味いからメッキも剥がさないが、中身が可愛いならむしろ素が出る事で人気も高まる。
『え、嘘……だって貴女は歴代最高の聖女で過去の誰も出来なかった事をいくつもやり遂げて……そ、それが偽物? 取り違え?
う、嘘よ……つまりそれって一般人でも頑張れば出来た事が、歴代の誰にも出来なかったって事になるわけで……むしろ私達聖女の存在意義がががが……千年に渡る歴代の聖女は一体何だったの? 私含めて全員無能だったの?
私達って歴代全員合わせて一般人未満なの? 嘘でしょ?
で、でも言われてみれば魔力はおかしいくらい強いのに、聖女の力そのものはむしろ歴代ぶっちぎり最下位でおかしいとは思ってたのよ。声も全然届かないし……たまに聖女じゃないはずのエテルナって子の方が反応しちゃうし……あれ? もしかしてあっちが聖女……?』
おーおー、パニくっとる。
頭を抱えてブツブツ言い始めたアルフレアはやがて、俺の方を向いて頭から爪先までジロジロと見始めた。
どうでもいいけどアルフレアって、少しアレクシアと名前被っててややこしいな。
最初と最後の文字に加えて文字数まで同じとか、混同しそうになるわ。
エルリーゼとエテルナでもややこしいのに。たまに名前言い間違えそうだわ。
『貴女みたいな一般人がいるわけないでしょ!
何よ! 歴代聖女に比べて、外見もむしろ一番聖女聖女してるじゃない!
聖女オブ聖女じゃない! それで取り違えられただけの一般人とか詐欺よ!』
「はあ……それでどうします? 今からエテルナさんだけでも連れて来ますか? あっちが本物の聖女ですよ」
『馬鹿! そんな事したら私が間違えたみたいで馬鹿みたいじゃん!
私は何も間違えてないの! 貴女は聖女、はい、今私が決めた! 初代聖女の私がそう決めました!
はいこれにて論破! 完全論破です! 異論の余地なし! 反論は聞きません!
だから私は何も悪くないのおおお!』
…………。
やべえ、予想以上にぽんこつだった。
本物と偽物を間違えていた時点でぽんこつは確定だったのだが、俺の予想をぶっちぎりで超えている。
例えるならばぽんこつパワー95万と予想していたら、まさかの一億パワーだったような感じだ。
むしろこの人、歴代で一番聖女らしくない聖女まであるんじゃないかな。
しかしこのままだと話が進まないので、とりあえず話題を何か振ってみるか。
「アルフレア様。二つ聞きたい事があります。
まず一つ……貴女の身体がここにあり、精神も魔女になっているようには見えません。
ここから推察できる事は一つしかないのですが、あえて問わせて頂きます。
……貴女は魔女を討伐していない。間違いありませんか?」
『…………』
俺の問いにアルフレアは露骨に目を逸らした。
ああ……やっぱりか。
そりゃ魔女を討伐したなら、墓なんてあるわけないよな。
何故なら魔女の討伐=次の魔女だ。
次代の聖女に討たれて死体が残ったとしても、その時はもう散々悪事を働いた後で人々にとっては憎むべき魔女でしかない。
そんな奴に墓を残し、手厚く葬るものか。
だがアルフレアは明らかに守られている。
しかも、そもそもの問題として魔女にすらなっていない。
ここから導き出される答えは一つしかない。
こいつは……魔女を討伐していなかったんだ。
『……ち、違うし。確かに一度倒したのよ……。
でも実はそれが死んだフリだっただけで……数年後に平和になったと思ってお酒飲んでる時に……いや、そうじゃなくて、油断してる時に出て来て、そのまま不意打ちされて、こんな所に押し込められて仮死状態にされてずーっと、このまま放置されてるだけだし』
それを討伐してないというのですが、それは。
しかし死んだフリか……シンプルだが、なかなか効果的な一手だな。
とりあえずやられたフリをしておけば世間の目は逸らせるし、じっくりと対聖女に備えて駒を増やす事も出来る。
一応俺も、アレクシアにそれをやられないように警戒しておこうか。
「次に二つ目の質問ですが……それは今の答えで氷解しました。
貴女はここで水晶に閉じ込められ、守られている。
これだけの事が出来る者などそうはいない……だから、一体何者が貴女を閉じ込めたのかを聞きたかったのですが、それは初代魔女の仕業であると理解しました。
ですから質問を変えます……何故初代魔女は貴女を殺さずに、こんな守るような形で閉じ込めたのですか? それも、仮死状態にしたという事はわざわざ貴女以外に次代の聖女が出るようにまで仕組んでいるという事……どうにも解せません」
『うっ……』
聖女を仮死状態にする。なるほど、これも効果的な一手だ。
言われてみれば簡単だし、むしろ何で誰も思いつかなかったんだってレベルの陳腐な手だが、案外こういう『普通気付けるやろ』って単純な一手に限って盲点になったりする。
灯台下暗しっていうか、人間の思考っていうのはどうにも足元がお留守になりやすい。
次代の聖女の誕生は聖女の魔女化か、あるいは死亡を世界が認識する事で行われる。
逆に言えば次代の聖女が生まれてさえしまえば、死んだはずの聖女が息を吹き返してもいいわけだ。それだけで聖女が二人に増える。
だがこれは聖女サイドにとって効果的な手段であり、魔女にとってはマイナスしかない。
何故そんな事を、わざわざ魔女がやったのかが分からない。
完全に殺さずに閉じ込める事で次の聖女が生まれないように試みたならば分かる。
だがそうではない。わざわざ
これは明らかにおかしな事だ。
『な、何よ何よ……本当は私が今明かされる衝撃の真実! て感じで話して驚かせるはずだったのに、言ってもいないのにどんどん察しちゃってさ……。
お母様が私を仮死状態にした意図まで勝手に読み解いてるし』
「待ってください」
おい待てやこら。
今、聞き逃せない単語が出て来たぞ。
お母様……お母様だと?
初代魔女がアルフレアのマッマで、わざわざ娘に一度やられたフリをして聖女としての役割を果たさせて名声だけは与えつつ、その後に不意打ちで倒して殺せたところを殺さずに仮死状態にした、と……。
あー、なるほど……もう大体分かったわ。
というかこんなん、答え一つしかないやん。
要するに初代魔女は娘を自分の次の魔女にしたくなかったんだろう。
そういや、以前伊集院さんが言ってたっけ。
『魔女が何らかの理由で暴走して人類を滅ぼそうとし、そればかりか自然まで破壊し始めた事で世界は魔女を見限って次の代理人を用意した。それが名前だけしか登場しない初代聖女アルフレアだ。
しかし魔女を倒してもその怨念と力が聖女に宿って次の魔女になってしまった』
思い出してみればなるほど、確かにアルフレアが魔女になったとは一言も言っていない。
聖女が魔女になったと言っていただけだ。
伊集院さんも恐らくシナリオ製作者から設定を聞かされただけだろうから、『二代目魔女≠アルフレア』とは思っていないだろうが、こんなところにもヒントがあったわけだ。
「……事情は察しました。
初代魔女はつまり、アルフレア様のお母様で……一度やられたフリをしたのも、わざわざ仮死状態にしたのも、恐らくは母としての情から来たもの……僅かに残っていた人の心が、魔女の連鎖にせめて貴女だけでも巻き込むまいとして、こんな遠回しな方法を取り、万一自分が聖女に敗れるとしても、貴女だけは魔女にならずにその次の聖女が魔女になるように仕組んだ……そんな所ですか」
『うっ……』
俺の推察に、アルフレアは言葉を詰まらせる。
その反応だけで十分だ、分かりやすい。
図星って事だな。
するとアルフレアは目に涙を溜め、プルプルと震え始めた。
『な、何よ何よー! 私にもちゃんと説明させなさいよー!
何勝手に推理して勝手に納得してるのよ! 合ってるけどさあ!
もっと私に喋らせなさいよ! 衝撃の真実に驚いて、戦慄きなさいよお!』
やべえ、どうしよう。
この人結構面倒くさいぞ。
とりあえず、全部こっちで推察して納得すると拗ねそうだし、何か適当に質問しておいてやるか。
「アルフレア様。私をここに呼んだ理由を聞かせていただけませんか?」
『ん? んふー、知りたい? 知りたい? どうしても?』
……やっぱ面倒くせえ。
もう帰っちゃおうかな。
『待って待ってー! 話すから待ってえー!』
しかし帰ろうとしたら涙目で呼び止められたので、仕方なく留まった。