理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第六十六話 新たな解決法

「それで、私を呼び出した理由は何なんですか?」

 

 面倒くさい初代聖女に、とりあえず一番肝心な事であるそもそも俺を呼んで何がしたかったのかを聞いた。

 まさか初代魔女との関係をただ話したかっただけではないだろう。

 このぽんこつぶりだと普通に有り得そうで怖いが、一応聞くだけ聞いておこう。

 それで、本当にただ話したいだけだったならその時はもう帰ろう。

 

『ええと……理由は二つあるわ。

まず一つは、貴女に魔女を倒さないように忠告したかったの。

貴女が魔女になったら、その時点で世界滅亡確定みたいなものだし。

……なんだけど、無駄な心配だったのよね……』

 

 ふむ、これはディアスと同じか。

 初代聖女ならそもそも俺が偽物と気付けと言いたいが、一応理由は真っ当なものだった。

 だがこれは実質解決している。

 俺は聖女じゃないんだから、魔女を倒しても魔女にならない。

 むしろ後顧の憂いを断つならば、聖女ではない俺が魔女を倒してしまう方がいいくらいだ。

 

『そしてもう一つ……私とお母様から始まったこの連鎖を終わらせる方法を伝える為に貴女を呼んだのよ』

「終わらせる方法、ですか」

 

 魔女を倒せるのは聖女しかいない。

 だが魔女を倒した聖女は次の魔女になる。

 それが今まで繰り返されてきた、この世界の終わらない連鎖だ。

 それを止める方法は聖女以外が魔女を倒す事しかないと俺は思っていた。

 だが、アルフレアを見た事でとんでもない見落としをしていた事をようやく理解させられた。

 初代魔女はアルフレアを仮死状態にして閉じ込めることで次の聖女へ移行させた。

 要はそれと同じだ。

 ……というか俺は本当に馬鹿だな。

 何でこんな単純な手を今まで思い付かなかったんだ。

 漫画とかでもお馴染みの、もはや使い古されすぎて伝統になっているような方法だったっていうのに。

 

「……そうか、封印。貴女と同じように魔女を()()()()()閉じ込めてしまえば、それで解決する。

倒していないから聖女への力の移行も行われない。

こんな簡単な事だったなんて……」

『ちょっとー! 何でまた私が言う前に言っちゃうのよー!?』

 

 アルフレアがまた涙目になっているが、それより俺は自分の馬鹿さ加減に腹が立っていた。

 ああ、そうだよそうだよ。封印しちゃえばいいんだよ。

 それだけで連鎖もクソもなくなるじゃないか。

 倒したら魔女の力が移行するなら倒さなきゃいい。本当ただそれだけの事だ。

 『やっちゃいけない』。じゃあどうしますか? 答えは『やらない』……こんなん子供でも分かる。

 

 過去の人々がこれに気付かなかったのは理解出来る。

 まず、そもそも封印の術なんていうものがなかったのだろう。

 次に封印といっても普通の人間がやれば魔女には通じないだろうから、そもそも自分達でそれをやるという発想に行き着かない。

 かといって聖女もそれは考えない。

 何故なら聖女には真実が知らされないからだ。

 真実を教えて、それで『魔女になるの嫌だ』と戦闘を放棄されてしまうのは困るし、それに……過去に真実を教えたが故に絶望して自ら魔物に殺されたリリアという聖女もいる。

 聖女が真実を知っても、『封じればいい』と思う前に絶望して思考を停止してしまう。

 だから教えない。そして知らないのだから考えない。

 だが俺は気付かなきゃ駄目だろう。

 なまじ魔女をゴリ押しで倒せる力があり、そして俺が倒しても連鎖は止まるので完全に『俺が倒せば終わり』で思考停止してたな。

 

『あー、もう! はいはい、そうです! その通りですー!

お母様が私にやったのと同じで、封印しちゃえば終わりよ。

だから私はこの封印の魔法を貴女に伝授する為に呼んだのよ』

 

 不貞腐れたようにアルフレアが言う内容は、俺にとってはまさに棚から牡丹餅だ。

 この封印魔法を教えてもらえるっていうなら、それほど好都合な事はない。

 何せアルフレアを千年間も閉じ込めていた魔法だ。効果は折り紙付きだろう。

 実際使うかどうかはさておき、覚えておいて損はない。

 後に災いの種を残すって意味では、俺の代では封印よりも当初の予定通りに魔女を倒してあの世の道連れにした方がいいかもしれない。

 だが、未来にまた魔女が絶対出現しないとも断言出来ないわけで……極端な話、世界が『代行者また用意しよ』と思えば魔女は生まれるだろうし、その魔女が初代同様に暴走すれば何もかもが台無しだ。

 だがそうなった時に封印魔法が伝わっていれば、すぐに対処出来るだろう。

 少なくとも千年も不毛な争いを続ける事にはなるまい。

 だからこれは、後世の為に残しておいた方がいい魔法だと俺は思う。

 ……勿論ろくでもない使い方をする阿呆とかもいるだろうから、伝え方も考えなきゃならんが。

 問題はこの魔法を使ったのはアルフレアではなく、初代魔女の方だという事だ。

 ……本当にこいつ、封印魔法を使えるのか?

 

『あ! その顔は私が本当に使えるのかって疑ってるわね!?』

「はい」

『駄目駄目、誤魔化そうったって駄目よ。顔にしっかり出てるんだか……え?』

「疑ってますけど」

『……』

 

 疑っている事を普通に言ってやると、アルフレアはプルプルと震え始めた、

 目に涙を溜めて、今にも決壊しそうだ。

 泣くぞ、すぐ泣くぞ、絶対泣くぞ。ほーら泣くぞ。

 

『うわあああああん!』

 

 はい泣いたー。

 やっぱ無理なんじゃないのかな、これ。

 だが『封印すればいい』というアイデアは今後の参考になる。

 帰ったら早速、どうやればいいか考えて魔法を作ってみよう。

 やっぱりベースは氷魔法かな……氷漬けにして、それを溶けないようにすれば保存は出来ると思う。

 普通なら凍死待ったなしだが、魔女はそう簡単に死にはしない。

 ただこれをやると、アレクシアは死ぬ事も出来ずに極寒の世界にずっと閉じ込められるわけで、流石にこれは哀れな気もする。

 

『何よ何よー! 使えるもん! ちゃんと私も使えるんだもん!』

 

 とりあえず、泣き出してしまった初代聖女様をあやす為に頭でも撫でておいてやった。

 これって普通は失礼な行為なんだが、まあいいやろ。何か精神年齢低そうだし。

 するとアルフレアは目を細め、もっと撫でろとばかりに頭をグリグリと俺の手に押し付けてきた。

 犬か、あんたは。

 

「その封印魔法の使い手はアルフレア様のお母様なのですよね?

だとすると、どうやって習得したかに疑問が残るのですが」

『封印直前に、どういう魔法なのかお母様が自分でベラベラ喋ったのよ』

 

 一体どうやって封印魔法を覚えたのかは、驚くほどにアホな理由だった。

 魔女が自分で言ったってマジか。

 ああ、なるほど。能力バトル系で頻繁に出て来る自分で自分の能力を敵に解説しちゃう系だったのね、初代魔女。

 あるいは、後世の事を考えてわざと伝えたのか……。

 

『そんなに疑うならいいわ。今すぐに伝授して、私の話が本当だって教えてあげるから』

 

 そう言うとアルフレアはおもむろに俺の肩を掴み、そして次の瞬間何かが流れ込んできた。

 ここが精神世界だからだろうか。

 言葉ではなく、感覚で理解(わか)る。

 どうすれば封印魔法が使えるのか。

 一体どう魔力を使えばそれが成立するのかが、手に取るように感じられる。

 ついでに、入り口にいた鎧がただのストーカーだった事も理解した。そっちは別に知りたくなかったな。

 

『どうよ? それが私を千年も閉じ込めてくれた封印魔法よ。有難く思いなさい』

「……なるほど。これは確かに」

 

 アルフレアから伝えられた封印魔法は、何と言うか説明しにくいのだが、とにかく複雑な術式の上で成立する。

 限定的な時間停止……と言えばいいのだろうか。

 闇の魔法で、空間そのものを閉じ込める事がこの封印魔法である。

 闇っていうのは要するに光が届いてないって事で、つまり闇を操るっていうのは光すら届かない空間をそこに生み出している事に他ならない。

 ならば闇の魔法とは、空間に働きかける魔法……あるいは空間を創り出す魔法なわけだ。

 その力で何もかもが停止した空間を創り出す事で、疑似的に時間すらも停まった空間をこの水晶の中に作り上げている。それが封印魔法の正体だ。

 同時に、何故聖女や魔女が無敵なのかも理解した。

 恐らく彼女達は、攻撃を何も通さない空間を常に無意識下で纏っているのだ。

 だから、同じく空間に作用する力――つまりは闇の力でその防御を突破しなければダメージを通せない。

 だが分かった所でこれはどうしようもない。

 ……俺、闇の魔法ほとんど出来ないんだよね……聖女じゃないから。

 

「困りましたね。これは、私には使えないですよ」

『えっ』

 

 いや、『えっ』じゃないだろ。

 俺が偽聖女って事はもう教えたんだから、俺にはこれ使えないって分かれよ。

 だがこれは、このまま捨てるには惜しいな。

 何とか上手くこれを魔女にブチ当てるいい手段はないものか。

 エテルナに教えてもいいが……多分この封印魔法、MPにして2000くらい一気に使うから覚醒したてのエテルナには厳しいだろう。

 俺はMPは十分だがそもそも素質がない。

 アルフレアは使えるはずだが、封印されている。

 

 ……あ、そうだ。

 簡単な話だった。

 アルフレアの封印を解けばいいじゃん。

 何事も作るより壊す方が簡単だ。

 俺ではこの封印魔法は出来ない。一応ベルネルから借りパクした闇パワーはあるが、それでは明らかに不足している。

 だがそんな俺でも、ゴリ押しで封印魔法を壊すくらいは可能だ。

 

「アルフレア様……自由になりたいとは思いますか?」

『えっ、出来るの!? 超思う思う! もうここにずっと一人でいるの、飽きたのよ!

出来るならすぐに私をここから解放して! さあ今すぐ! はよ、はよ!』

 

 試しに聞いてみたら、むしろ引くくらい勢いよく食らいついてきた。

 まあ、そりゃずっとこんな所でストーカー鎧と一緒に過ごすとか嫌だよな。

 しかも四六時中ヌード見られっぱなし。

 あの鎧、ヌードを見たいが為にこの世に留まってるんじゃないかな……。

 ともかく了承は得た。

 ならば最早躊躇う理由なし。この結晶ごと封印をぶち壊してやろう。

 

 精神世界から出て現実に戻り、水晶から離れる。

 そして両手を頭上に掲げ魔力を一気に集中させた。

 威力を高め、しかし規模は抑えて。

 闇の力も上乗せして空間防御を突き破る事を可能にし、照準を水晶へ向ける。

 気のせいか水晶が揺れている気がしないでもない。

 アルフレアの悲鳴が脳内に響いているがきっと気のせいだ。

 

『待って待って待って! そんなの撃たれたら死んじゃう!

もうちょっと心の準備をさせ――』

 

 発射ァ!

 俺の発射した光がビーム状に直進し、水晶に直撃してそのまま後ろの岩を消し飛ばして直進した。

 威力の反動で俺自身の身体も後ろに下がり、しっかり踏ん張らないと転びそうになる。

 しかし効果はあった。

 アルフレアを閉じ込めている水晶が罅割れ、砕けていく。

 ならばと更に出力を上げ、ビームの太さが一回り増した。

 すると水晶が遂に限界を迎え、完全に砕け散った。

 それと同時に魔法を止め、既に発射していたビームも霧散させる。

 すると後には、茫然とへたり込む全裸の美女のみが残されていた。

 少し荒業だったが、無事に封印を解除出来たようだ。

 

「あ……あわわわわわ……」

 

 アルフレアは傷一つないが、なかなかスリリングだったようで立ち直れていない。

 とりあえず、このまま連れて行くのも可哀想だし見た目はどうにかしてやるか。

 ……でも服を作る魔法なんてないんだよなあ。


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