理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

69 / 112
第六十九話 告白

 アルフレアを拾ってからもフグテンに向かっての対魔物訓練は続けた。

 その中でベルネル達の実力は確かに磨かれ、実戦の中でチームワークも研ぎ澄まされていく。

 また、アルフレアも性格はともかく実力は確かだった。

 流石は聖女が保護されていなかった時代に魔女を倒した(倒したとは言ってない)だけはある。

 大抵の魔物は軽々と葬り、初代の威厳を見せ付けてくれた。

 ただ、ドヤ顔が少し鬱陶しかったので森に隠れていた魔物を『黄金の自由』で絨毯爆撃して殲滅してやったら、しばらく俺に対してだけ敬語になった。

 やりすぎたかと思ったが、亀曰く『犬に上下関係を教えるのは躾として正しい』らしい。

 亀さん、ちょっとアルフレアに対して塩すぎん?

 ともかく能力的にはエテルナの完全上位互換だ。魔女との戦闘を前にして嬉しい戦力増強である。

 地下突入の際には、彼女も加わってもらう事にしよう。

 勿論魔女を倒せないようにエテルナと同じ杖を装備させての話だが。

 と、いうわけでアルフレアのサイズに合う制服を仕立てておく事にした。

 

「へえー、結構かわいいじゃない。

地下に行く時はこれを着て行けばいいの?」

「ええ、お願いします」

 

 学園五階で制服を手渡すと、アルフレアは嬉しそうに制服を色々な角度から見ていた。

 今はベルネル達男衆もいるからまだ着替えていないが、デザインはかなり気に入ったようだ。

 少し離れた位置には学園長のフォックス子爵もいる。

 というか俺が無理を言って、フォックスに制服を用意させたんだけどな。

 

「緑っていうのが嬉しいわね。私、緑色大好きなの」

「そうなのですか?」

「ええ。逆に嫌いな色は赤ね、赤。

魔物とか倒してると嫌でも目に入るからさ、気付いたら大嫌いな色になってたわ」

 

 なるほど、アルフレアは緑色が好きと。

 もしかして学園の女子制服が白と緑なのは、そういうのも理由なんだろうか。

 何となく疑問に思ったのでフォックスの方を見ると、彼も察したように説明を始める。

 

「ええ、初代聖女様の色の好みは伝わっていましたからね。

だからこそ、我が学園の制服には赤色が一切使われていないのです」

「へえー、そういう理由だったんだ」

 

 学園長の言葉にエテルナが納得したような声を出す。

 ここは『アルフレア魔法騎士育成機関』なんだから、当のアルフレアが嫌いな色を制服に使うわけないわな。

 全員が納得したような顔を見せる中、ベルネルだけは何かを考えるように俯いていた。

 『でも緑はダサいだろ』とか思っているのかもしれない。

 ちなみに何故アルフレアに制服を着せるかといえば俺の趣味が半分、もう半分は魔女の目を欺く為だ。

 『地下に迷い込んでしまった生徒達』を演じさせる事で魔女の逃亡を阻止するのがこの突入作戦の最重要ポイントである。

 ただの生徒だと思えば、魔女は戦闘を選ぶ(と亀が言っていた)。

 何故なら、生きて帰すと自分の安住の地である地下の事が漏れ、弱体化覚悟でここからテレポートしなければならなくなるからだ。

 奴は俺に居場所がバレる事を何よりも恐れているという。だからそれを利用するのだ。

 ともかく決戦の日は近い。

 俺がこの学園にいられるのも、後僅かだろう。

 

 

 夜。

 俺はレイラに黙って部屋を抜け出し、学園の運動場から校舎を眺めていた。

 風が髪を揺らすのを少し鬱陶しく思うが、それでもじきに見納めになる景色だ。

 しっかりと記憶に残しておこう。

 アルフレアの参戦で俺の生存率が上がったが、どのみち俺は全部終わったら偽聖女カミングアウトして逃亡する気なのでここにはいられない。

 聖女の座はやはり、本物の聖女にこそ相応しい。

 だから平和になったら、エテルナにしっかり返す。これは最初から決めていた事だ。

 そんで、誰もいない何処かでひっそりと死んで死体も発見されないようにしておけば誰も悲しまんだろ。

 

「あれ? エルリーゼ様」

 

 後ろから声が聞こえたので、振り返るとそこにはベルネルが立っていた。

 こいつ何で夜に運動場に来てるんだろう。

 俺も人の事は言えないけど。

 

「俺はちょっと、ここで走り込みを……」

 

 なるほど、決戦前に備えてトレーニングか。いい心がけだ。

 しっかしこいつ、本当に筋肉質になったな。

 最初の頃はいかにもギャルゲー主人公って感じでナヨナヨしたイケメンだったのに、今では格闘ゲームの主人公にしか見えない。

 自主トレのしすぎだ。

 

「けど、ここで会えてよかった……俺、どうしてもエルリーゼ様に伝えたい事があったんです」

 

 ほうほう、伝えたい事とね。

 それなら昼にでも言えばよかったのに。

 そう言うと、ベルネルはばつが悪そうに頬をかく。

 

「いえ、昼は……ずっとレイラさんがいますし。

出来れば二人きりの時に言いたい事だったんです」

 

 ほうほう、二人きりの時に伝えたい事とね。

 何か頬を赤らめてるし、視線も落ち着きがない。

 ……いや待てや。これやばい流れだろ。

 俺は恋愛経験などあまりないが、それでもここまで露骨なら流石に分かる。

 お前マジか? マジなのか?

 やめておけ、今ならまだ間に合う。考え直せ。

 ここは定番のLoveとlikeを勘違いしての『はい、私も好きですよ』作戦で乗り切るか?

 いや待て落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない。

 俺の自意識過剰……そうに決まっている。そうであってくれ!

 

「エルリーゼ様……俺は三年前のあの日、貴女に救われてからずっと、貴女の騎士になる事を夢見てきました。

けど、俺の中にある気持ちはそれだけじゃなくて……本当はこんな気持ちを持っちゃいけないのかもしれないけど……。

ええと……その、つまり……。ああ、言葉が思い浮かばない」

 

 よし、いいぞ。その調子でヘタレろ。

 いざという時にヘタレになって言うべき事を言えない。それもまたお約束展開だ。

 いいぞ、分かってるじゃないか。

 さあ、一歩前進する事なく今までの関係を維持するがいい。

 

「……駄目ですね。色々言おうと思っていた事はあるのに、いざその時になったら頭が真っ白になって……。

やっぱりここは、変に飾らずに言おうと思います。

エルリーゼ様……俺は、貴女の事が……」

 

 ストォォォォップ!

 お前何普通に思い切りよく告白しようとしてんの!?

 そこはヘタレろよ! 躊躇しろよ!

 何で全力で道に落ちているクソを踏み抜きに行こうとしてんの!?

 やめとけやめとけ! マジで俺は止めろ! それを言っていい相手じゃない。

 とりあえず咄嗟にベルネルの言葉を止めたが、この先の事など俺も何も考えていない。

 あー、どうするどうする……?

 普通に振るか? でもそれでやる気なくして『俺はもう……戦わん……』とか言われたら本番で困るし。

 そうしてベルネルの言葉を止めてから数秒、気まずい空気が流れてからベルネルが口を開いた。

 

「それは……エルリーゼ様が聖女ではないからですか?」

 

 ファッ!?

 バレとるやんけ!

 一体どこで……と考えるのはアホの思考か。

 ああ、分かってるよ。あの時のミスが今になって響いてきたんだろ。

 フォックス学園長も言ってたもんな。

 『我が学園の制服には赤色が一切使われていない』って。

 つまりあの時……ベルネルの前で怪我をしてしまった時の言い訳には無理があったんだ。

 だがあの時は気付いているようには見えなかった。

 なら、一体いつ気付いたんだ?

 そう聞くとベルネルはあっさりと答えを教えてくれた。

 

「今です。エルリーゼ様の反応で確信しました」

 

 ……カマかけられた。

 なるほど、マヌケは見付かったようだな。

 

「おかしいと思ったのは、エテルナが力に目覚めてからです。

エテルナの力は決して聖女に……少なくとも伝え聞く歴代の聖女と比べて大きく劣るものではないとレイラさんが言っていました。

そして実際に、アルフレア様と比べてもエテルナの力は見劣りしていなかった。

更に今日……学園長の言葉を聞いて、あの時の事を思い出しました」

 

 なるほど、よく観察している。

 まあエテルナが覚醒した時点で聖女騙るのは無理が出てたんだよな。

 だがそれでもかろうじて俺が皆を騙せていたのは、俺にもベルネルからパクった力があって、聖女にしか出来ない事が出来たからだ。

 だがそれも、ベルネルならば理由が分かる。

 だって俺、こいつの目の前でこいつの力奪ってるわけだからな。

 ちょっと考えれば、『あの偽物、俺の力使ってるだけやんけ』と気付けるだろう。

 

「同時に、三年前の言葉の本当の意味も理解出来ました。

……『貴方の聖女と巡り合えるように』……最初から貴女は、自分ではなくエテルナの事を言っていたんだ」

 

 おおう、大正解。

 やべえな、主人公の事ちょっと侮ってたわ。

 まさかこのタイミングでバレるとは。

 まあ、ある意味好都合かもしれん。

 これで分かったやろ、ベルネル。俺は最初から偽物なんだ。

 いっそカミングアウトしてしまえば、逆に気が楽だ。

 

「では、貴女のその力は……」

 

 ベルネルが不思議そうに言うのは、多分俺が今まで見せてきた奇跡モドキの事だろう。

 ああ、あれね。ありゃただの魔法だ。

 魔力量に関しては毎日ずっと魔力循環の修練をしていただけだ。

 (ただし自動で魔力を循環するインチキを使ったがな!)

 そう説明してやると、ベルネルは驚きを見せる。

 更に俺は言ってやった。

 お前が好いている『聖女エルリーゼ』など、この世の何処にも存在しない。

 俺は所詮、演じていただけの偽聖女よ!

 お前は在りもしない幻想に恋をしていたのだ!

 

「それは違います、エルリーゼ様。

確かに貴女は本物の聖女じゃないのかもしれない。

けど、貴女が救ってきた人達は……救ってきたものは本物なんだ。

貴女に救われたから、今の俺がある。

たとえ聖女としての姿が演技だったのだとしても……完璧に演じきったならばそれは、もう本物だ!

貴女はもう、この時代の人々にとっては本物の聖女なんだ! 存在しないものなんかじゃない!

だから何も変わらない……俺の想いも。

俺にとっての聖女はずっと……最初から、貴女だった!」

 

 おおう、何か熱い事言い始めた。

 いや待て待て待て、ステイ。

 分かったから口を止めろ。それ以上言うな。

 そんな主人公みたいな……ていうか実際主人公なんだけど、熱い告白しようとするな。

 

「だからエルリーゼ様……俺は、貴女が……」

 

 ちょ、おま、ストップストップ。

 ベルネル、お前は今熱に浮かされている。

 勢いとテンションでやべえ事を口走ろうとしている!

 ここは一度深呼吸だ。そして冷静になって『やっぱ偽物はないな』と思い直せ。

 やめやめろ!

 取り消せよ……今の言葉……!

 

「――貴女が、好きだ!」

 

 

 あばばばばばば! あばばっあびゃばびゃばばーーーー!!

 くぁwせdrftgyふじこlp!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。