理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第七話 人質事件

 ノックしてもしもぉ~し。呼ばれて飛び出て俺参上。

 皆大嫌い、ヘイト集中系クソアイドルのエルリーゼちゃんでーっす。

 ファラ先生からパーティーの招待券を頂いたので学園地下までやってきました。

 ちなみにここまで来るのに結構時間をくってしまったが、その理由は俺を止めようとする護衛達を撒くのに手間取ったからだ。

 特にスットコちゃん。血相変えて後生ですからとか言いながら本気で俺の事止めようとしててウケる。

 いや本人が真面目なのは分かってるんだけどゲームでの姿を知ってるとどうしても、そのギャップでつい。

 ゲームでの彼女は表面上だけはエルリーゼに従順で、その実こういう時は『どうせなら死ねばいいのに(どうぞお気を付けて)』と素直に送り出すような、そんなキャラだった。

 そんな塩な彼女が心配してくれてるって事は俺の聖女ロールに上手く騙されてくれているって事だろう。

 その分、後の反動が怖いけど。

 人間ってのは最初から徹頭徹尾相手を嫌っている時よりも、むしろ好んでいた相手への好意が裏返った時っていうのが一番憎悪とかが滾るのだと俺は思っている。

 可愛さ余って憎さ百倍ってやつ。

 それだけに、今は忠誠を示してくれているレイラが俺の正体を知った後にどれだけ豹変するかがちょっと予想出来ない。

 ただ、烈火のごとく怒り出すだろうなって事だけは予想出来るので……うん。レイラに関しては『いつか俺を追放する子』くらいに覚悟しておいた方が精神的な負担は軽い。

 

 そんなわけで護衛に邪魔されたわけだが、こちとら努力せずにゲーム中最強クラスのボスに君臨した偽聖女よ。それが訓練を積んだのが今の俺なわけで、振り切るのなんかイージーモードですわ。

 そもそも俺、空飛べるしね。

 風の魔法と光の魔法でチョチョイと適当にやったら飛べたんだが、何でそれで飛べるかは実は俺もよくわからない。

 そしてこの世界には飛行魔法なんてないから、誰も俺を追えないって寸法よ。

 『そらをとぶ』最強説あるかな、これ。あ、飛んでる間にバフ積むのマジやめて。雷もやめて。

 とりあえず俺は空を飛んで、学園に直行。そのまま地下室へ乗り込んでやった。

 オラ、来たぞおっぱい! その乳揉ませろやコラァ!

 あ、それとついでに人質も解放してクレメンス。

 

「駄目だエルリーゼ様! 罠だ!」

 

 何かベルネル君が騒いでいる。

 はぁーつっかえ……お前、主人公さあ……。

 何捕まっとるんよお前ぇ……。

 ファラさんが殺す気だったら、これもうバッドエンド迎えてるじゃないか。

 筋トレばっかしてるからそうなるんだよ。激しく反省しろ。

 しかし全身を縄でグルグルされてる姿はちょっと面白い。おっといけない、つい笑いが……。

 

「本当に来るとはねえ……聖女様っていうのは聞きしに勝るお人好し……いや、馬鹿のようだね」

 

 はい、馬鹿でーす。

 それは否定しないけどお人好しってのは間違いな。

 自分で言うのもあれだけど、俺ほど自分本位で自分の事しか考えてない奴ってそういないよ。

 そいつら助けに来たのだって、要するに俺が(・・)ハッピーエンドを見てスッキリしたいからであって、俺が(・・)モヤモヤした気持ちのままなのが嫌なだけだ。

 そこ、勘違いしちゃいかんよチミィ。

 ぶっちゃけ俺はただ、俺が満足できるシナリオを見たいが為にこの世界を滅茶苦茶にしてるわけで……極論、ベルネル達の意思すらどーでもいいのよ。

 

「は……余裕だね。けど、これを見てもそんな余裕でいられるかい!?」

 

 ファラさんが腕を振り上げると、それに合わせておっぱいがブルンと揺れた。

 おおう……大迫力。まさにダイナマイトおっぱい。

 Fカップは伊達じゃねえな。やべ、涎出そう。

 

「どうだい? この魔物の数!

この地下室は一部の生徒の為に設けられた、特設闘技場だ!

大型の魔物との戦いの為に用意された! そして今ここには三十体の魔物がいる!

オマケに逃げ場なし! いかに聖女といえど、この状況を覆す手なんかないよ!」

 

 ん? ……ああ、何か出してたの?

 おっぱいしか見てなかったわ。

 仕方ないので周りを見ると、まあ確かに視界一杯に雑魚がワラワラと群がっていた。

 えーと数は……まあどうでもいいか。ただの雑魚の寄せ集めやね。

 

「かかれ!」

 

 あ、ちょっと待って。

 まだそれを蹴散らす恰好いい技名思い付いてない。

 えーとえーと……まあいいか。適当に言っておけ。

 はい光魔法ドーン!

 

A picture is worth a thousand words.(一枚の絵は千の言葉に値する)

 

 必殺! 何か適当に海外のことわざを言っておけば何か厨二感溢れる必殺技っぽくなる奴!

 俺を中心に光が拡散し、ワラワラと寄ってきた魔物を残らずゴミに変えた。

 ンギモヂィィイイ!!

 これですよ、これ。やっぱ異世界転生っていったら俺TUEEEE! 無双!

 雑魚を鎧袖一触で蹴散らすこの快感、たまりませんなぁ。

 俺、弱い者苛め大ィィィ好き! 俺って偉いねェ~。

 

「そ、そんな……そんな馬鹿な! ここにいた魔物は全て……近衛騎士でも苦戦する怪物達だぞ!

それを一撃で……馬鹿な、あり得ない! いくら聖女でもこんな事!」

「す、すごい……」

「これが……聖女……」

 

 上から順番にファラさん、ベルネル、エテルナちゃんの台詞だ。

 うんうん、そういう台詞はもっと言っていいよ。実に気分がいい。

 世の中のオリ主さん達の気持ちがよく分かる。これは麻薬だ。

 どこかの漫画の悪役も言っていた。

 勝利の瞬間の快感だけが! 仲間の羨望の眼差しだけが心を満たしてくれる!

 俺は戦うのが好きなんじゃねえ! 勝つのが好きなんだよォ!

 ……でもエテルナちゃん、聖女はお前さんだよ。俺はただの偽物ね。

 さあーて、勝負ありかなファラさん? それじゃそろそろ皆様お待ちかねのお仕置きターイムと洒落込みたいのですが、よろしいかな?

 なあーに、殺しゃしねえよ。ちょっとそのおっぱいを揉ませてもらうだけさ。ぐへへへへ。

 

「……ひっ!」

 

 俺の邪な視線に気づいたのか、ファラさんが怯えたように後ずさった。

 そう怖がるなって……大丈夫、大丈夫だ。ふへへへ。

 ちょっと俺が満足するまで揉むだけだから。

 

「な、なるほど……保険を用意して正解だったねえ……」

 

 しかしファラさんは往生際悪く、指を鳴らす。

 すると部屋の隅に隠れていた小型の魔物がエテルナとベルネルの後ろに着地し、両腕を刃物に変えて二人の首に刃を突き付けた。

 あ、まだいたの? 小粒すぎて気付かんかったわ。

 

「見ての通りだ、お優しい聖女様。抵抗すれば二人の命はないよ。

引き換えといこうじゃないか……あんたが大人しく刺されてくれりゃあ、人質は全員無傷で解放すると約束するよ」

 

 ファラさんはそう言いながらナイフを出し、おっぱいを揺らした。

 あー、なるほどなるほど? 殺さずに人質を確保してたのはこの為かあ。

 しかし実際ちょっと困ったかな。その二人をやられてしまうと物語的に詰みだ。

 いやまあ、ベルネルの暗黒パゥアー(笑)を取り込んだ今なら、多分俺でも頑張れば魔女に勝てるだろうし、魔物も殲滅出来るだろうから世界は救えるだろうけど……偽聖女が世界を救いましたが主人公とヒロインは死にました……じゃあハッピーエンドとはとても言えないし本末転倒っていうか。

 それやっちゃうと俺そもそも何の為にここにいるの? ってなるわけで。

 いやしかしこれ……もしかしてこいつ、マジに俺が本物の聖女と勘違いしてる?

 おいおい、ゲームじゃしっかりエテルナが本物の聖女と見抜いていたのに、あのぐう有能なファラさんはどこに行ったんだよ。

 まあファラさんの魅力はおっぱいだから、多少無能になっても可愛いもんだけどな。

 

「さあどうする!?」

「駄目だ、エルリーゼ様! 俺達なんかに構うな!」

「そうよ! 貴女は死んではならない人よ!」

「おやめください……どうか! どうか!」

「逃げて!」

 

 何かファラさんの声に混じって、人質ズが喚いている。

 上から順にファラさん、ベルネル、エテルナ、モブAモブBの台詞だが、この場で一番死んだらまずいのはエテルナちゃん、お前さんだからね?

 むしろ俺は死んでもいい奴だからね?

 ま、交換条件にもならんわな。こんなの答えは一つだ。

 よかろう! やってみろ……このエルリーゼに対してッ!

 

「ふ、ふふふ……こいつは驚いた。本物の馬鹿だね」

 

 ファラさんは勝ちを確信したように、ナイフを握りしめてにじり寄って来る。

 ナイフには魔女の闇パワーも上乗せされているっぽいが正直どうでもいい。

 おっぱいが俺ににじり寄って来る。

 

「駄目だ!」

 

 うっさいな、ベルネル。

 俺は今、おっぱいをガン見する仕事で忙しいんだよ。

 ま、ネタバレしちゃうとだ。あんなちっぽけな俺の一物よりも小さいナイフじゃ俺は殺せないんだな、これが。

 俺のべらぼうな魔力にものを言わせた自動回復魔法を既に俺自身にかけてある。

 これにより、傷を負っても負ったそばから俺は再生する。

 そして以前ベルネルから取り込んだ闇の力(笑)は宿主を無理矢理生かそうとするので、俺はそうそう死ぬことはない。

 俺は偽聖女! 貴様等とは全てが違う!

 俺の身体にナイフ真拳は効かぬ! ふはははははは!

 

 しかしファラさんが素直で助かった。

 おかげですっかり騙されてノコノコと近づいて来てくれる。

 後は俺にナイフが刺さった辺りで一度死んだふりをして、油断してるだろう魔物を先に撃ち抜いてからファラさんをお仕置きすればいい。

 痛みは雷魔法の応用で電気信号をあれこれして痛覚を麻痺させるので感じない。

 完璧だよォ、この作戦はァー!

 

「一つ……必ず皆を解放すると約束出来ますか?」

「ああ、約束は守るよ。私としても無関係の生徒を殺すってのは後によくないものを残すからね」

「ならば構いません。おやりなさい」

 

 よし、口頭だがとりあえず人質の無事も確保出来たな。

 まあファラさんは実際、操られてるだけで本来はいい人で義理堅いのでこの約束は本当だろう。

 だがその甘さが命取りだ間抜けめ。

 ファラ……所詮貴様は真人間だ。短い時の中でしか生きられない真人間の考えをする。

 『後によくないものを残す』だとか、どうでもいい事を考える。

 しかしこのエルリーゼは違う。このエルリーゼにあるのはただ一つ、『勝利して乳を揉む』! それだけよ! それだけが満足感よ!

 過程や……方法なぞ……どうでもよいのだァーッ!!

 

「うおおおおおおお!!」

 

 あれ? 俺が刺される寸前でベルネルが突然自力で縄を引きちぎった。

 闇の力……あ、いや。違うな。あれただの筋肉だ……。

 そのまま魔物の頭を掴んでファラさんにシュゥゥゥーッ! 超! エキサイティン!

 おっとファラさんふっとばされたーっ! ゴォォォォル!

 

 ……あれ?

 ちょっと、ファラさん? おーい、もしもーし?

 

 …………駄目だ、白目剥いてやがる……。

 とりあえずおっぱい揉んどこうか。


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