理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第七十三話 世界線の分岐

「まず、話を纏めましょう。

貴方達しか知らないエルリーゼが醜悪な悪役だったというゲームのシナリオを『シナリオA』。

この世界の人々が知る、エルリーゼが本物以上に聖女をやっているゲームのシナリオを『シナリオB』とします。

私の視点では、私が前世で向こうの世界にいた時点でその世界では『シナリオB』と同じ流れでしたし、だから私はこちらに転生した後にその物語を書きました。したがって私の視点では『シナリオA』なんてものはそもそも最初から存在しなかったものです」

 

 夜元はそう言い切り、メロンソーダを飲む。

 世界の改変だの書き換えだの、そんなものは最初から起こっていない。

 エルリーゼと不動新人だけがそう思っていただけだ。

 そう断言した彼女に、新人は気になっていた事を質問した。

 

「向こうで見た物語をそのままゲームのシナリオにしたと言ったな。

だが『永遠の散花』は攻略ヒロインによってストーリーが変わるマルチエンディングだ。

向こうで見た物語以外のストーリーもあるはずだが……」

「ああ、それはただの予想ですよ。『多分ここでベルネルがああしていたらこうなっただろうな』っていうだけの私の想像です。

実際に向こうで起こったのはゲームで言う所のエルリーゼルートの出来事です。

だから私はゲームでも、エルリーゼルートを真エンドに辿り着くグランドルートにしました」

 

 どうやらエルリーゼルート以外の他ルートはただの予測だったらしい。

 道理でこちらは何の問題もなく見る事が出来たわけだ。

 タイムパラドックスを避ける為に世界がエルリーゼに未来の情報が渡らないようにした、というならば他のルートだって見ることが出来なくなるはずである。

 だがエルリーゼルート以外は、ただの夜元の想像だったのだ。

 以前に新人は他のルートを別の可能性の未来だと考えたが、大外れもいいところだった。

 そもそも他の可能性ですらない、ただの想像図。だから見ることが出来た。

 

「一応言っておくと、ただの予想じゃないですよ。

私のちょっとした特技といいますか……前世の頃から、少し先の出来事とかを予測するのが得意だったんですよ」

 

 それは凄い特技だとは思うが、それでも予想は予想だ。

 新人は水を飲んで喉を潤し、話を続ける。

 

「ならば『シナリオA』は俺達の妄想の産物か?」

「その可能性も高いですが……他にも、考えられる事があります。

話は変わりますがSFとかでよく過去を変えたりしますが、その結果引き起こされる結果は主に三パターンあります。何だか分かりますか?」

「本当に突然だな。まあ、過去を変えれば未来が変わるんじゃないか?」

「そう、それが一つ目のパターン。ドラ〇もんとかターミ〇ーターがそれに該当しますね」

 

 突然の話題の転換に疑問を感じながらも、とりあえず思いついた事を口にした。

 すると夜元は頷き、それもパターンの一つだと肯定する。

 

「次は『改変を含めて一連の流れが成立している』パターンだろう?

例えば誰かに救われて、その後に過去に戻ってみたら自分を救ったのは未来から来た自分自身だった、とかな。改変含めて成り立っているので結果的には全てが起こるべくして起こっているパターンだ。

確かイギリスの小説のハリー・〇ッターとかがこれだったか」

「はい、それが二つ目です。まあその作品は少し前に出た新作で一つ目のパターンになりましたけど」

 

 伊集院がまた別のパターンを提示し、夜元が頷く。

 

「そして最後は『過去を変えても今ある世界は何も変わらない』……つまり、新たな並行世界が誕生するだけ、か」

「はい。それがパターンCです。ドラゴン〇ールがこれですね」

「話が見えないな。それが一体この話に何の関係があるんだ?」

 

 とりあえず答えてみたものの、何を言いたいのかが見えてこない。

 自分達はSFについて話し合いたくてここまで来たわけではないのだ。

 そんな新人に、夜元は指を立てて落ち着いた声で話す。

 

「シナリオAとシナリオBの最大の違いはエルリーゼです。

私が思うに貴方達の見たシナリオAの平行世界もきっと、どこかに存在しているのでしょう。

シナリオAと同じ出来事が進行している世界をフィオーリAと地球A。私が前世を過ごした世界と、今私達がいる世界をフィオーリB、そして地球Bとします」

 

 そう言いながら夜元はテーブルの上に紙を置き、そこに球体を四つ書いた。

 左側の球体には上にフィオーリA、下にフィオーリBと書き、右側の球体は同じように地球A、地球Bと書く。

 

「まずスタート地点はここです。ここでは貴方達の知る通りの出来事が展開されたと仮定します」

 

 そう言い、夜元はまずフィオーリAをボールペンで示した。

 

「このフィオーリAには私ではない前世の私がいます。

その前世の私が観測した物語は当然『シナリオA』です。

そして……こっちに転生する」

 

 フィオーリAから地球Aへと矢印を引く。

 

「ここで『私』は前世で見た出来事を元に『永遠の散花』を書く。

そして貴方達の知る『シナリオAの永遠の散花』が完成し……ここからは想像ですが、エルリーゼは何らかの理由でこのシナリオAを観測していたんだと思います。

実際、彼女の行動には時々明らかに知らないはずの事を知って動いているような節がありました」

 

 新人にはその理由が分かった。

 夜元には分からない事だろうが、この『地球A』から『フィオーリB』へと矢印が伸びているのだ。

 そう、恐らくは元々地球Aにいたはずのエルリーゼが過去のフィオーリに転生した。

 そして本来と明らかに異なる行動を取った事で世界が分岐し、『フィオーリB』が誕生してしまったのだ。

 

「エルリーゼの行動によって可能性が分岐し、『フィオーリB』が生まれます。

後は先程と同じで、この『フィオーリB』から私が転生して今私達がいる地球Bに来て、そしてシナリオを書きました」

「……なるほど。では俺達が知っているシナリオは別の世界線のシナリオって事か」

 

 話しながら新人は、更に頭の中で仮説を立てていく。

 エルリーゼは元々は地球Aからスタートしている。これは間違いない。

 そうでなければそもそも、『自分の行動を変えよう』などと思わない。

 最初にシナリオAの醜悪なエルリーゼへの嫌悪感があって、そこから全てが始まっているのだから間違いなくスタート地点は地球Aだ。

 そしてそのエルリーゼの転生し損なった魂である自分もまた、間違いなく最初は地球Aにいたはずである。

 そこまで考えて、ふと新人は以前にコートの位置が変わっていた事を思い出した。

 

(……そうか。()()()()()()! 俺だけが!

恐らくは本体であるエルリーゼに引きずられる形で、『B』の世界線に引きずり込まれたんだ!)

 

 恐らく移動は、最初の転生の時。

 エルリーゼはフィオーリの過去に飛び、そこで改変を起こした。

 そして自分は改変された後の世界……地球Bに残ってしまい、その世界の自分と統合された。

 つまりこうだ。最初に地球Aで不動新人が死に、魂が二つに分かれた。

 魂の大部分はエルリーゼに。そして転生し損なった搾りカスは並行世界の不動新人自身に、それぞれ憑依転生した。

 だから、移動させた覚えのないコートが動いていたのだ。

 恐らくアレは元々こっちの世界にいた……そして自分が上書きしてしまった本来の不動新人が動かしたのだろう。だから自分は知らなかったのだ。

 伊集院は……こちらは、やはりただの巻き添えだろう。彼は元々『シナリオB』しか知らなかったのに、新人が接触してしまったせいで世界によって新人と認識を無理矢理合わされたのだ。

 しかし……と思う。

 

(まあ……所詮全部、予測に過ぎないっていうのがきついよなあ……。

そもそも世界だの時間だの、そういうのは人間の理解の外にあるっていうか……。

考えれば考える程に頭がこんがらがるだけだ。

ともかく、エルリーゼはゲームの世界に入ったとかじゃなくて、向こうの世界を元にしてゲームがあるって事だけは分かった)

 

 結局、ここまであれこれ話しても分かったのはそれだけだった。

 答えなどいくら探しても分からない。何故なら答え合わせがそもそも出来ないから。

 だから自分達は『こうかもしれない』という仮説を立てて納得するしかないのだ。

 ただ一つ確かなのは、向こうの世界は間違いなく存在していて、ゲームの中などではないという事だけだ。

 

(なあもう一人の俺(エルリーゼ)よ……そっちも間違いなく現実だってさ。

だから、いい加減ゲーム気分は止めた方がいいぞ。

じゃないと……多分、どっかで後悔する事になるからさ)

 

 自分が言えた事ではないな。

 そう思いながら、それでも新人は向こうの自分が後悔しない道を選んでくれる事を期待していた。

 

 

 ヒャッハー! 決戦の時じゃー!

 ベルネルの血迷った告白から数日が経過し、いよいよ地下突入作戦実行の日を迎えた。

 いや、あれは危なかった。

 何とか寿命が後僅かしかない事をカミングアウトして切り抜けた俺の華麗な回避ぶりを自分で褒めてやりたい。

 さて、それはともかく変態クソ眼鏡曰く、側近のタコの策が成功して聖女が学園から離れたと教えたらいい感じに魔女の気が緩んだらしいので、仕掛けるなら今が一番いいとの事だった。

 それと、いい加減ディアスを演じるのも無理が出て来たらしい。

 

 まあ、無理が出ているのはこちらも同じだ。

 かろうじて俺は今も聖女の椅子にしがみついているが、いつベルネルに『あいつ実は偽物なんだぜ』とかバラされるか分かったもんじゃない。

 ベルネルは何か、うっかり口を滑らしそうな怖さがある。

 なのでさっさと終わらせて、聖女の椅子をエテルナに返そうと思っている。

 その後はどうでもいい。生き残る事が出来れば夜逃げして余生をどこかでのんびり過ごすし、死んだらあの世でのんびり過ごす。

 どちらにせよ偽聖女バレした後はみんなで掌クルーで『何だ偽物だったのか、じゃあ死んでええわ』とか言われて誰も悲しまんやろ。

 

 突入作戦の内容だが、まずベルネル達は特別授業という形で地下二階へ向かう。

 何でも魔女さんが『もしもの時の為に聖女に対する人質が欲しいから聖女と親しい生徒を何人か地下に送れ』とメッセージを送ってきたらしい。

 これは俺達にとって好都合だ。何せ一番の課題はどうやって怪しまれずに突入組を地下に送り込むかだったからな。

 なのでこれを利用する形でベルネル達には地下に行ってもらい、そこで魔女を追いつめてもらう。

 その間に俺は魔力バキュームを実行して魔女のテレポートを封じ、その後は俺も地下にレッツゴーして魔女をフルボッコにして最後にアルフレアに封印してもらえば完璧だ。

 最後は偽聖女カミングアウトの置手紙を残して夜逃げをする。

 そうすれば後は、『本物の聖女エテルナ万歳!』となってハッピーエンドだろう。

 万一封印に失敗したら、その時は俺が魔女を倒してあの世の道連れにすればいい。

 ふっ……何一つとして失敗する要素が見付からない。これは勝ったな。

 

「この作戦の成否は貴方達の腕にかかっています。

しかし、決して自らの命を捨ててでも、などとは考えないで下さい。

貴方達の役割はあくまで、魔女がテレポートを使えない程度に魔力を消耗させる事です。

それを果たしたならば、迷わず撤退する事……いいですね?」

 

 この中で、俺以外の誰かが死んでしまえば、魔女を倒して平和になっても俺的には大失敗だ。

 目的は全員生存のハッピーエンド。それしかない。

 だから、命を捨ててでも使命を果たそうなどと考えないように念押しをする。

 

「はい!」

「ねえ、出かける前にマウント(ぷりん)食べていい?」

 

 約二名を除く全員が声を揃えて返事をする。

 全く空気を読まずにプリンを要求しているのはアルフレアだ。

 初代聖女とは一体……。

 そしてもう一人返事をしていないのはベルネルで、何か深刻な表情をしている。

 

「ベルネル君?」

「あっ、は、はい! 全力を尽くします!」

 

 声をかけると慌てて返事をしたが本当に大丈夫だろうか。

 頼むよー、お前主力なんだから。

 変なところでぼーっとして失敗とかマジでやめてくれよ。

 これフリじゃないからな。いいな? ちゃんとやるんだぞ!

 間違えても敵の目の前でぼーっとしたりするなよ!?




【つまり……どういう事だってばよ……】
ドラゴンボールで例えるならばAの世界は絶望の未来 Bの世界は本編世界
Aの世界を知っている鳥山ロボがガッちゃんに食べられた後に何故か地球に転生して絶望の未来を物語として出す事で『絶望の未来しか書かれてないドラゴンボール』が誕生。
それを読んだ現代人がヤムチャに転生してあれこれやったら世界線が分岐してBの世界になりました。
(トランクス? 知らない子ですね)
そのBの世界でもやっぱり鳥山ロボはガッちゃんに食べられてしまうのでまたしても地球に転生してやっぱり物語を書くが、この鳥山ロボは転生ヤムチャによって改変された「B」の世界しか知らないのでそれを物語にする。大体そんな感じ。

【プロフェータの寿命】
プロフェータは50話で「寿命が近付いた」と言っている事から分かるように、聖女や魔女と違って寿命があります。ただ単純に寿命そのものがクッソ長いだけです。
なので仮に寿命受け渡しをしなくてもそのうち死にます。
まあそうでなくても、Aの世界では多分同種の別の亀にでも譲ったんじゃないですかね。

Q、これだと元々『B』の世界に不動新人いたって事だよね? そいつどうなったの?
A、不動新人(A)に上書きされたよ。

Q、元々いたピザリーザの魂どこいった?
A、弾き出されて別人として生まれた。ちなみにピザリーザの登場予定はない。

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