理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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第七十四話 地下突入

 学園の地下深く……そこに造られた自室で、アレクシアは護衛として残した魔物達に囲まれて過ごしていた。

 側近であったオクトがいなくなってしまった事で多少の心細さはあるが、しかし以前に比べてアレクシアには余裕がある。

 顔色も多少よくなり、以前の美貌を少しだけ取り戻していた。

 その理由は、ディアスから送られてきたスティールが伝えてくれた内容にあった。

 

「ゴ安心下サイ、アレクシア様。オクトハ無事ニ、聖女ヲ学園カラ離ス事ニ成功シマシタ」

 

 聖女を学園から引き離す策があると言って自信満々に出ていったオクトの策は見事に成功したらしい。

 エルリーゼに歪んだ憧れと恨みを抱く生徒を操り、魔女を演じさせてから学園を離脱した。

 するとエルリーゼもこれを魔女と誤認して追跡したという。

 魔女に仕立て上げられたエリザベトという生徒は今頃仕留められている頃だろうか。

 オクトが戻って来ないのをみるに、恐らくはその生徒と共にエルリーゼに葬られてしまったのだろう。

 魔女になった頃から側にいてくれた最も忠実な側近を失ってしまったのは痛手だったが、それでもアレクシアの心には安堵があった。

 やっとあの恐ろしい聖女がこの学園から目を離してくれたのだ。こんなに嬉しい事はない。

 だがもしかしたら、またここに目を付ける可能性もある。

 だからアレクシアは保険として、エルリーゼと親しい生徒を何人か手駒にする事を考えた。

 以前操ったファラという女と同じように操り、こちらに引き込めばエルリーゼが万一戻って来た時の人質になる。

 これは妙手だ。そう自画自賛したアレクシアは早速ディアスに計画を伝え、そして今日生徒達が地下に来る事を伝えられた。

 名目上は特別授業という事になっている。

 入り組んだ遺跡の中などで魔物と戦う訓練として、教師の中でも一部の者しか知らない地下二階で戦闘訓練を積むのだと……そう騙し、ディアスの口車に乗った教師が生徒達を連れて来るのだ。

 人数はその教師を含めて九人。随分と大所帯だが、アレクシアにとっては大した問題ではない。

 むしろ人質の数が増えるのはいい事だ。

 人質が一人や二人しかいなければ嫌でもそれを大事にするしかなくなる。

 人質というのは盾であると同時にお荷物であり、こちらの生命線でもある。

 数が少なければ、その人質を下手に害する事は出来ない。その人質を失ってしまえば手詰まりになってしまうからだ。

 だが数が多ければ……見せしめに一人くらい刻んだり、殺したりしてもまだ代わりがある。

 それは確実にエルリーゼを躊躇させるだろう。

 いや、あの甘い性格の女ならば人質と引き換えに自殺するよう脅迫すれば従うかもしれない。

 

 勿論言うほど楽な事ではない。

 騎士を目指す生徒が八人もいるならば、それはかなりの戦力になる。

 しかしここには強力な魔物が四体いて、何よりアレクシアがいる。

 多少多かろうと所詮は蜘蛛の糸にかかった哀れな獲物だ。何の問題もない。

 

 彼女はまだ気付かない。

 自分がいるこの学園地下こそがまさに、その蜘蛛の巣なのだという事に。

 

 

「へえー、地下訓練室の更に下にこんな場所があったなんて知らなかったなあ」

 

 陽気な声でジョンが、周りを見ながら言う。

 内心では緊張しているのだが、それはまだ表に出さない。

 今の彼等はあくまで『何も知らない』、『誘い込まれてしまった』生徒なのだ。

 この作戦で一番重要なのは、自分達がエルリーゼの送り込んだ刺客である事を魔女に気付かれない事である。

 エルリーゼに場所がバレていると判断すれば魔女はすぐにでも逃げてしまう。

 そう思わせずに戦いに持ち込み、そして魔力を消耗させる事。それがベルネル達の役目だ。

 少し進んで、この地下で最も開けた空間へと出る。

 すると、そこには待ってましたとばかりに四体の魔物を引き連れた黒い女の姿があった。

 腰まで伸びた白髪は黒いフードで隠され、服装も漆黒のドレスだ。

 やつれて削げた頬。目の下の濃い隈。

 唇は紫に染まり、いかにも悪い魔女といったイメージそのままの外見をしている。

 全身を黒い靄のようなもので包んでおり、ベルネルはその姿に過去の自分を思い出して嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 周囲を囲むのはワイバーン、ミノタウロス、ヒッポグリフ、オルトロス……いずれも強力な、正規の騎士でも苦戦を免れない強敵である。

 

 ワイバーンはドラゴンの頭と二本の鷲の足、蝙蝠の翼を持つ怪物だ。尾は蛇になっており、空を飛んで炎を吐く。

 魔物としての歴史は長く、歴代の魔女が好んで作った魔物だ。

 最初に確認されたのはフグテンであり、その為フグテンでは最も有名な魔物として名を轟かせ、ある意味では象徴のように扱われていた。

 

 ミノタウロスは牛の頭と人間の胴体を持つ、3mを超える怪物だ。

 手には斧を持ち、鼻息荒くベルネル達を見ている。

 人間の姿に近いのは、大魔に近い証拠だ。

 だが知能の低さから大魔にはなれなかった成り損ない……それがミノタウロスである。

 

 ヒッポグリフは身体の前が鷲、後ろが馬の魔物で、人肉と馬肉が好物だ。

 グリフォンに近い魔物だが、グリフォンに比べると気性が大人しい。

 とはいえ、それでも恐ろしい魔物である事に変わりはないだろう。

 お辞儀をするのだ。

 

 オルトロスは双頭の黒い犬で、尾が蛇になっている。

 どうでもいいが魔物の『尻尾が蛇』率は少し高すぎる気がしないでもない。

 いずれもドラゴンなどの大魔クラスに比べると一歩劣るが、紛れもなく恐ろしい怪物であった。

 だが魔女の側近として考えるならば明らかに実力不足である事も事実である。

 こんな魔物しかいないというのが既に、魔女がどれだけ追い詰められているかを切実に証明していた。

 

「だ、誰だ!?」

 

 ベルネルが恐れるような声を出す。

 自分達は今、恐ろしい場所に誘い込まれてしまった哀れな獲物だ。

 相手にそう思わせる事で、まずは油断させる。

 

「ね、ねえ。ここ何かおかしいよ……?」

「先生! これはどういう事です!」

 

 エテルナが後ずさり、フィオラがサプリを責めるように叫んだ。

 ここでのサプリの役目は何も知らずにディアスに言われるまま生徒を連れてきてしまった愚かな教師だ。

 なので彼はわざとらしいくらいに慌て、狼狽してみせる。

 

「し、知らない! 私は何も知らない!

何で魔物が放し飼いされているんだ!?

そ、それに……だ、誰なんだ、あの女は……」 

 

 サプリの演技に上手く騙されたようで、魔女は獲物を追いつめるような加虐的な笑みを浮かべて一歩距離を詰めた。

 するとベルネル達はそれに合わせて下がり、サプリは「ひいっ!」と声をあげる。

 

「そう怯えるな、子羊達よ……抵抗しなければ怪我はさせない」

「この魔力……まさか……魔女……!?」

 

 威圧感を放つ魔女に確認するようにマリーが震える声を出す。

 すると魔女はそれを肯定するように笑みを深くした。

 

「こんな所にいられるか! 俺は帰るぞ!」

「すぐにエルリーゼ様に知らせないと!」

 

 クランチバイトとアイナが魔女に背を向けて一目散に逃げようとする。

 これも作戦のうちだ。

 下手に『さあ魔女を倒そう』と向かうと、魔女も何かおかしいと思ってしまうかもしれない。

 だから、まずは逃げる素振りを見せるのだ。

 人の心理というのは、逃げる相手は追いたくなるし、追って来る相手からは逃げたくなるものだ。

 

「おっと……逃げられるとは思わぬ事だ」

 

 逃げ道を塞ぐように入口に配備されていた二体の石像が動いて道を塞いだ。

 更にバリアによって道を遮断され、逃走が不可能となる。

 

「残念だったな。魔女からは逃げられん」

 

 魔女がそう言い、口元を歪める。

 ……作戦成功だ。これで魔女の中では彼女は逃げる側ではなく、逃げるのを阻止する側になった事だろう。

 自分が追い詰めているのだと思わせる。追いかけている側だと錯覚させる。

 加えて魔女はエルリーゼに情報が渡るのを恐れているのだ。

 だから絶対にここからベルネル達を出すわけにはいかない。

 この瞬間、彼女は自分で逃げるという選択肢を捨ててしまった。

 下準備は終わった。

 ならば後は、追い詰められた獲物らしく、取るべき行動は一つしかない。

 

「ふ……逃げ場がないのは」

 

 余計な事を言いそうになったアルフレアの頭を慌ててエテルナとフィオラが叩いた。

 何でここで余裕を見せようとするかな、この馬鹿は。

 危うく台無しになるところであった。

 

「に、逃げられないんだったら……やるしかないだろ!」

「そうだ、俺達だって騎士見習いなんだ!」

「やってやる……やってやるぞ!」

「そんな! 無茶よ!」

 

 ベルネルとジョン、クランチバイトが自棄を起こしたように武器を構え、アイナが叫ぶ。

 逃げ場を塞がれ、実力差も弁えずに抵抗を選んだ弱者……そう思わせ、魔女が哀れなものを見るように歪んだ笑みを浮かべた。

 優越感というのは時に人の計算を狂わせる。

 簡単に分かるはずのものが、思い込みによって分からなくなってしまう。

 『自分はあいつより上だ』と思い込んでしまうと、全ての思考がそれを前提にして成り立ってしまうから全てを間違える。

 人はそれを慢心と呼ぶのだ。

 

「行くぞ、皆!」

 

 ベルネルが叫び、同時に二手に分かれた。

 まず、やるべき事は魔女と魔物を分断して連携させない事だ。

 だから魔女の足止めをするチームと、魔物を壊滅させるチームとで分かれた。

 ベルネル、マリー、サプリの三人が足止めを担い、エテルナとアルフレアがそれぞれワイバーンとミノタウロスの相手をする。

 このチーム分けは、迅速に魔物を処理して魔女を早々に孤立させてしまう為のものだ。

 エテルナとアルフレアならば一対一でも魔物を素早く倒せるので問題はない。

 残る二体の魔物にはアイナ、ジョン、フィオラ、クランチバイトの四人でかかり、アルフレアとエテルナは魔物を倒したらすぐにそちらに向かって魔物四体をまず殲滅する。

 最後に総掛かりで魔女をある程度消耗させたら、アルフレアとエテルナが同時攻撃をして魔女にバリアを張らせて防御させれば成功だ。

 魔法の威力は魔力消費量に依存する。

 したがって聖女二人が魔力を一気に消費して全力で攻撃をすれば、それを防ぐために魔女もそれ以上の魔力を使わねばならない。

 そうすればもうテレポートをするだけの余力など残らないだろう……というのがエルリーゼの読みであった。

 

 ここで、この時代で全てを終わらせる。

 その為にベルネル達は、魔女との決戦に挑んだ。

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