理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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最終話 手に入れた平穏

 俺のやるべき事は、全て終わった。

 この世界はこれから、魔女も聖女もいない新たな時代へと歩んでいく。

 世界に選ばれた代行者や代弁者ではなく、人が歴史を紡いでいくのだ。

 ならばそこに、俺は必要ない。

 俺は聖女ではないが、今は預言者になってしまっている上にどうも発言力というのが強すぎる。

 俺が白と言えば黒でも白になる。それだけの権力と影響力を持ってしまった。

 だが人が作っていく歴史の中で、何を言っても何をしても許される絶対者がいつまでも一番上でふんぞり返っているのは、邪魔にしかならない。

 だから俺は表舞台から退場して、プロフェータが暮らしていた森の中に少し大きめのログハウスを建てて、そこでのんびりと過ごす事にした。

 て言うか本音をぶっちゃけると、政治とかクッソ面倒だから関わりたくないです。

 もう魔物もいないし、そんな状態でいつまでも表舞台の頂点に居座ってたってボロが出るに決まっている。

 物語の英雄とか勇者は恰好いいが、倒すべき敵がいなければ存在感を示せない。それと同じで、魔物がいなくなったこの世界で俺が頂点でふんぞり返っていたって何も出来る事はない。

 一応各国の王からの相談事とかは受けるし、助けを求めている奴がいれば手を貸さん事もないが、基本的にはノータッチでいこうと思う。

 家の裏には畑も作り、森の中では木の実などが豊富に取れるので自給自足で暮らしていけそうだ。

 というか守り人が頻繁に果物だとか狩った動物の肉だとかを持ってくるので、むしろ食料が多すぎて困るくらいだ。

 時間は亀のおかげで腐るほど出来てしまったし……ゆっくりと隠遁生活を送りながら、この世界にない料理とか調味料とか、そういうのを作ってみようかね。

 

「エルリーゼ様、今日は魚が多く釣れましたよ!」

 

 声のした方向を向くと、ラフな格好をしたレイラが籠一杯の魚を持って帰って来ていた。

 その隣にはベルネルもいる。

 レイラは結局、騎士としての座を捨ててまで俺について来る事を選んで今は一緒に暮らしている。

 騎士になる為に子供の頃から頑張っていた彼女にこんな生活をさせていいのかとは思うし、確認もしたのだが『私の聖女はエルリーゼ様です』と言って譲らなかった。

 まあ、何だかんだでこの生活にも適応しているようだし、毎日魚とか獣とか取って来てくれて助かるので邪魔にはならない。

 実は騎士より狩人が天職だったのだろうか。

 

 あ、そうそう。

 他の連中のその後を少しだけ話しておこうか。

 フィオラとモブAは何かいい感じになり、今では結婚を前提に付き合っているらしい。

 変態クソ眼鏡は学園の教師を続けながら、俺のやった事を本にして広めようと計画しているんだとか。

 この森にも頻繁に訪れるし、滅多にここから出ない俺達にとっては外と繋がる貴重なパイプだ。

 スティールを使ってやり取りもしており、何というかここまで尽くしてくれる事に少し怖さを感じる。

 マリーとアイナは無事に騎士への内定が決まり、今でも学園で修練を積んでいるらしい。

 聖女は必要なくなったが、戦闘のプロフェッショナルとして騎士は今後も残るらしい。

 ただ、その忠誠を捧げる相手は今後は聖女ではなく国や民になるだろう。

 今代の聖女であるエテルナは聖女の座に就かず、今も学園で過ごしているという。

 卒業したら村に帰るつもりだと言っていた。

 失恋の痛みは意外とないようで、最近ではベルネルの寮友であったシルヴェスター・ロードナイトとかいう奴と少しいい雰囲気らしい。

 彼女には、幸せになってもらいたいものだ……。

 代わりに聖女の座に就いたのはアルフレアだが、こちらはこちらで職務などをあまり覚えようとせずに従者達を困らせていると聞いた。実にアルフレアらしい。

 

 で、一番意外な方向に行ったのが我等が主人公のベルネル君だ。

 彼は何を考えたのか、学園を中退して修行の旅へと出かけてしまった。

 本人曰く『今の俺にはエルリーゼ様の隣に立つ資格はない。だから貴女を守れるほどに強くなれるように旅に出ます』らしい。

 更に俺があげた剣も学園に保管し、何と素手で出発している。

 何でも『本当の意味でその剣を手にするに相応しい男になる』とか。

 一応遠視でたまに様子を見てるんだが、各地の強者と戦っては実力を伸ばし、漢同士の友情を深めたりしていた。

 ……こいつ、どこ目指してんの? 大丈夫? 『ボディビル♂エンド』に向かってない、これ?

 

 そこまで頑張ってる理由はまあ、俺なんだろうが……悪いけど俺はきっとあいつの想いに応えてやる事は出来ないだろう。

 だから俺の事は諦めて他の子と幸せになるよう説得したんだが……こいつその時、すげえこっ恥ずかしい台詞吐いたんだよな。

 

「貴女を守れる男になる事が俺の幸せです」

 

 何この殺し文句。俺の心が女だったらグラッときていたかもしれない。

 もっとも俺の内面は、あのラストバトルで少し変わったとはいえそれでも基本的には男だ。

 だから生憎と、こいつの想いに応える日は来ないだろう。

 ……まだ俺の内面は男のまま……だよな? 実は少し自信がない。

 前までならメス堕ち? いや、無理無理。アイデンティティの形成は前世で終わっちまってるから、この先何十年生きようと俺がそうなる事はない……と断言してたんだが、あのラストバトルのせいでちょっと……本当にちょっとだけ思考が変わってしまったので、そのうち情に流されてしまいそうな自分が怖い。

 

 そんな全力でコースアウトしているベルネルだが、今日は何か渡したいものがあるとかで珍しくこの森までやって来ていた。

 ちなみに少し見ないうちに随分と男らしくなっている。主に筋肉が。

 最初に会った時はヒョロヒョロイケメンでいかにもギャルゲー主人公って感じだったのに、今や白い胴着を着て『俺より強い奴に会いに行く』とか言ってても違和感のない逞しい男と化していた。

 お前本当にギャルゲー主人公のベルネルだよな? 間違えて格闘ゲームの主人公を代役にしたりしてないよな?

 大丈夫? そのうち波動拳撃ったりしない?

 

 これから、この世界の物語がどうなるかは俺にも分からない。

 (特にベルネルがどうなるかマジで予想つかない)

 だが、きっと何とかなるだろうしそう悪いものにはならないだろう。

 何故なら、永遠に花が散り続ける悲劇は終わったのだから。

 だから、この世界はもう『永遠の散花』ではない。俺も知らない新たな物語だ。

 

「あの……エルリーゼ様。これ、東の島で見付けて……それでレイラさんと二人で作ったんですけど」

 

 ベルネルがしどろもどろに言いながら、何かを出した。

 それはアンジェロの髪飾りで、アレクシア戦が終わった後に散ってしまった俺の髪飾りと似たものだ。

 ああ、そういえばずっと付けてなかったな。

 まあ無ければ無いで別にいいんだけどね。

 そもそも俺がそれを付けていた理由は、MPが尽きた時の為の予備の回復アイテムという面が大きかったし……結局出番なかったしな。

 なので無くても別に困りはしない。

 なのだが……ベルネルは自然な動作で、花飾りを俺の頭に付けてしまった。

 おうやめろや、照れるだろ。

 

「うん。やっぱり、エルリーゼ様には白い花がよく似合う」

 

 おうやめろや、照れるだろ(二回目)。

 やっぱこいつ、天然のギャルゲ主人公体質だな。

 よくもまあ、こんな台詞を自然に言えるものだ。

 まあ、とりあえず礼くらい言っておこうか。結構レアな花だし、これ。

 ていうか東の島って何? まさか泳いでいったんじゃないだろうな……?

 ……とにかく、後でちゃんと腐らないように魔法かけておかんとな。

 

「ありがとう、ベルネル君。それにレイラも」

 

 礼を言って、微笑みかける。

 ほれ、(ガワだけ)美少女スマイルだ。喜べ。

 するとベルネルとレイラが顔を赤くして目を逸らした。

 ……ベルネルは分かるが、何でスットコまで男みたいな反応してるの?

 

(――助けて、誰か!)

 

 ……むっ。どこかで助けを求める少女の声が聞こえた。

 預言者パワーで声の出所を探すと、ここから五㎞くらい離れた山道で遭難している少女の姿を発見した。

 どうやら道を踏み外して転落し、足を怪我して動けなくなってしまったらしい。

 やれやれ……少し手間だが、まあ無視するわけにもいくまい。

 つーわけで、ベルネルとレイラにちょっと出かけて来る事だけ説明してその場から飛翔した。

 

 

 少女は、痛む脚を押さえながら涙をぬぐっていた。

 都を目指して村から出た彼女は、その途中にある山を越えようとして途中で崖から転落してしまったのだ。

 命は助かったが足を折ってしまい、おまけに瓦礫に挟まれて自力で歩く事も出来そうにない。

 こんな事になるならば素直に山を迂回すればよかったと後悔するも後の祭りだ。

 この山は決してそこまで険しいわけではない。

 だがそれでも、すぐに誰かがここを通って助けてくれる可能性は高くはなかったし、夜になれば獣なども現れるかもしれない。

 飢えて死ぬか乾いて死ぬか……それとも獣に喰い殺されて死ぬか。

 想像出来る未来はどれも明るいものではなく、少女の目に涙が溜まる。

 

(……助けて、誰か!)

 

 必死に心の中で助けを求めるも、そんなものを誰が聞き届けるというのだろう。

 先程までは実際に叫んでいたのだが声はもう枯れ、誰かが上を通っても気付いてもらえそうにない。

 だが絶望する彼女の上に差し込んでいた雲が晴れ、その間から光が差し込んだ。

 そして舞い降りてきたのは、白いドレスを纏ったこの世のものとは思えないほど美しい少女だ。

 金を溶かしたような黄金の髪に、宝石のような緑色の瞳。

 神が全霊を注ぎ込んで作ったような美貌には慈愛の微笑みが浮かび、白い手が差し伸べられる。

 

「聞こえましたよ。貴女の、助けを求める声が」

 

 

 光を背景に、偽りの聖女は今日も輝いていた。




https://img.syosetu.org/img/user/304056/64112.jpg
てん○様より頂いた支援絵です。
完結祝いウレシイ……ウレシイ……

というわけで「偽聖女クソオブザイヤー」完結です。
皆様、88話もの間読んでいただきありがとうございました。
支援絵も沢山頂きまして、本当に書き手冥利に尽きます。
あ^~(支援絵)全部好き!(ワイトもそう思います)

それでは皆様ありがとうございました。またどこかで会いましょう。
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