理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー) 作:壁首領大公(元・わからないマン)
サプリ死す(前編)
ニート生活万歳!
と、いきなりダメ人間全開でお送りします、元偽聖女エルリーゼです。
何で元かって言えば、聖女の座から退いてアルフレアに後を任せた今となっては俺はもう偽聖女ですらないからだ。
相変わらず世間的には俺は今も聖女という認識になっているし、教会からは大聖女とかいう称号も貰ったが、正直あんまり嬉しくない。
それとたまに、騎士や教会のお偉いさんから『やっぱ聖女の座に戻ってクレメンス……』と泣き付かれる事もあるが、いつまでも偽物が聖女面して居座ってるべきではないので、これは断固としてNOと言っている。
そもそもアルフレアは偉大な初代聖女だぞ。何が不満だっていうんだ。
胸だってでかいし。胸だってでかいし。
『魔女』との戦いを終えて聖女の座から降りた俺は、前からの予定通りに森の中にログハウスを建ててそこでレイラと一緒に暮らしている。
レイラは聖女を辞めた俺でも甲斐甲斐しく世話してくれるし、養われ生活マジ万歳。
元々はプロフェータが暮らしていた森なのだが、俺が何もしなくても守り人達も果物とかを届けてくれるし一生ゴロゴロして暮らせるわこれ。
とはいえ、ずっとニートばかりしていると「働け」と家から摘まみ出されるというエンドもあり得るので、何もしてないわけじゃない。
プロフェータから引き継いだ預言者の能力で色々遠くの事も分かるし、俺が何かしなきゃやばいって時は仕方なく働いている。
この前は何かジャガイモに疫病が流行って、あわや飢饉になりかけてたので全部魔法で治しておいたし、その前は船が渦に飲み込まれて沈没しそうになってたので乗組員を浮遊魔法で引っ張り上げておいた。
一月前はどっかの国で皮膚が紫黒色になる、よく分からん病気が流行ってたので全部治しておいたし……後、生活用水が汚すぎてどんどん病人が量産されてる町があったから、町ごと全部水を浄化したりもしたっけ。
あ、でもこれ全部ここでの生活に役立ってねーわな。狩りとかは全部レイラ任せだし果物も守り人から貰ってるだけだ。
ま、そんな事はどうでもいい。
ニート生活の何がいいって、皆が明日の食い扶持を確保する為に汗水流して働いている時にゴロゴロと昼寝出来るって事だ。
人々は生活の為にやりたくもない仕事をして、下げたくもない頭を下げて、辛い思いをしながら必死に働き蟻のように働いているんだろう。
しかし俺はそんな時にゴロゴロ出来る。
皆が今この瞬間に労働という地獄の中にいる事を想像しながら、自身はその外側で何も苦労せず寝る事が出来るという最高の優越感を抱けるのだ。
どこかのギャンブル漫画で言っていた、『自分だけが安全な位置にいる事への愉悦』に近い感情なのかもしれない。
そんなわけで、今日も俺は惰眠を貪る事にする。
昼寝は身体によくないと言われるが、そんなの知った事か。
身体に悪い物は美味いし、気持ちがいいんだよ。
昼寝に二度寝、ジャンクフード。嗚呼、甘美なるかな駄目人間への誘惑。
人というのは駄目な物にほど惹かれてしまう生き物なのだ。
あ、ちなみに太らないように体型含めたアレコレはちゃんと(魔法でインチキもして)理想の状態を常時維持してます。
努力は嫌いだが、ピザリーゼはもっと嫌いだ。アレと同じにだけはなりたくない。
そもそも我、承認欲求の塊ぞ? 賞賛される容姿を維持してヨイショされるようにするのは当然なんだよなあ……。
あ^~、羨望と嫉妬の眼差しが気持ちええんじゃ~。
後、寿命は亀のおかげで百年もあるし、その気になればそもそも多少の不調なんぞ自力で魔法で治せるし、多少不健康な生活をしたくらいでどうにかなったりしない。
なので寝る。俺は寝る。今日も寝る。
部屋の隅に置いてあった、今日完成したばかりの専用の抱き枕を魔法で浮かせて二階へと上がった。
何でこんな所にあるかというと、単純に作業をしていた場所が一階だったからだ。
あん? 精神男のくせに抱き枕使うとかキモイ? 抱き枕が許されるのは小学生まで?
はい、それ偏見。抱き枕っていうのは腰痛、肩こり、ひざの痛みなどを抑えつつリラックス効果もあるというメリットが多い寝具なのだ。
横向きで抱き枕を片足で抱える姿勢は『シムス体位』と呼ばれ、自律神経を休める理想的な寝姿勢と言われている。多くの医師も推奨する正しい姿勢だ。
そもそも日本では数多くの美少女抱き枕がある事から分かるように、男だって普通に抱き枕くらいは使う。
というかむしろ男の方が使う率高いまである。
抱き枕を使っていて絵になるのは美女美少女だが、現実には太ったおっさんとかがロクに掃除もしていない部屋で、常時広げっぱなしの洗濯してない布団で抱き枕を使っているのだ。
俺も前世では好きなヒロインのR18な抱き枕を……いや、それは置いておこう。
まあ、とにかく抱き枕を使うのは別におかしくないって事だ。
そんなわけで早速ベッドに入り、抱き枕を引き寄せた。
……うん? 何かゴワゴワしてね? 楽しみにしてたのに何か違うな……?
変な異物感があるというか……これおかしくね? いや、おかしいわ絶対。
位置を変えてみたり上に乗ってみたりして確かめるが、中に明らかに綿以外の何か入ってる。
何だこれ……抱き枕の感触ちゃうぞ。というか人っぽいなこれ。
中に人……? レイラがスットコして潜り込んだか?
こんなんじゃ安眠出来ん。ちょっと開けて確認してみるか。
◆
サプリ・メントは大聖女エルリーゼの熱狂的な信者である。
彼の中ではエルリーゼの存在は全てに優先され、この世界全てよりもエルリーゼ一人の方が遥かに尊く、遥かに大事だと本気で思っている。
むしろエルリーゼ様がいなくなった後の世界に何か価値あるのか? と本気で言ってしまうほどのイカレ具合であった。
嗚呼素晴らしきかな至高の聖女よ。彼女と同じ時間を生き、同じ空気を吸って生きているというだけで至上の幸福感に包まれる。
しかしこれだけの変態でありながら、彼は意外にも決して一線を踏み越える事はしていない。
余人に言わせれば数々のストーキング行為や変態行為はとっくに一線を踏み外していると言われそうだが、実は彼はその変態性に反してエルリーゼの肌や髪に直接触れた事すらないのだ。
彼女が通った後の足跡や使った食器を採取する際も手袋の上から触れるという徹底ぶりで、採取したそれも厳重に保管して崇めるだけで決して自ら触れる事はない。
そう、彼はエルリーゼとの接触を自らに禁じている。
それは自分のような下民が触れる事で彼女を穢してしまう事を恐れているというのもあるが、何よりサプリ自身が刺激に耐え切れないからだ。
彼女が使用していた手ぬぐいと同じ物を店で購入して、エルリーゼが触れたわけでもない……彼女も同じ物を使っていたというだけの手ぬぐいの香りを嗅ぐだけで恍惚感に浸れるこの男がエルリーゼに直接触れてしまえばどうなるかは、彼自身が誰よりも知っていた。
――まず、刺激に耐えられない。幸福が限界突破を果たして確実に絶頂死を迎えてしまう。
それは望みの死に様だが、今はまだ死ぬべき時ではない。
死ぬならば限界まで生きて生きて生き抜いて、一秒でも刹那でも多く彼女の姿を見て、それから死にたい。だから今はまだその時ではない。
そんなサプリ・メントだが変態性さえ気にしなければ有能な男だ。
エルリーゼが聖女の城を去ってからは、貴重な外とのパイプ役になっており、外の情勢やアイズ国王からの伝言などをエルリーゼに伝える為に度々、彼女が暮らす森を訪れている。
というより、エルリーゼの近くに行きたいから自分からこの役を買って出た、という方が正しいだろう。
だったらレイラのように同居しろという話だが、エルリーゼと一つ屋根の下での生活は刺激的過ぎてサプリには耐えられない。
それを言えば学園もそうだったのだが、学園はまだ広かったからよかったのだ。
しかし今エルリーゼが暮らしているログハウスは、エルリーゼとレイラの二人で暮らすには十分に広いが、それでも学園とは比べ物にならないほどに狭い空間である。
そんな空間で四六時中エルリーゼの近くにいれば、サプリは興奮し過ぎて尊死に至るだろう。
誰よりもエルリーゼの側にいたいくせに、想いが強すぎて側にいる事が出来ない。それがサプリ・メントという男であった。
この日、サプリはアイズ国王からの手紙とここ数週間の世情を纏めた紙を持ってログハウスを訪れていた。
守り人達が暮らすこの森は、エルリーゼが住むようになってから果物が豊富に取れるようになり守り人達は彼女が近くにいる事の恩恵を一身に受けている。
エルリーゼが癒しの魔法などで植物を活性化させ、水や土地を浄化しているからこそだろう。
木々の間から日の光が差し込む幻想的な森を歩き、エルリーゼが暮らしているログハウスへと入る。
しかしタイミングが悪かったようで、家の中には誰もいなかった。
鍵がかかっていないのを見るに、そう遠くまでは行ってないだろう。
さしずめ裏庭で何か野菜でも育てているのかもしれない。レイラは狩りにでも出かけているのだろうか。
まあ、それなら待てばいい。
サプリはログハウスを見まわし、そしてその慎ましさに感嘆した。
今や大聖女とまで呼ばれるエルリーゼならば、こんな小さなログハウスではなくもっと立派な城や屋敷にいくらでも住めるだろう。
その気になれば掛け声一つでいくらでも世界を動かせるし、バランスを変える事も出来る。
それだけの影響力と発言力がエルリーゼにはあるのだ。
エルリーゼが死ねと言えば笑って死ぬ者が、サプリを含めて世界中にはいくらでもいる。
だが彼女は自らが世界を操る事を嫌い、完全に政治の世界から身を引いて静かに暮らす事を選んだ。
どこまでも欲のない方だ、と思う。
あるいはこの慎ましい生活こそが大聖女ではなく、ただのエルリーゼとしての彼女の求めたものなのかもしれない。
そう思いながら見ていると、サプリは部屋の隅に適当に置かれた奇妙な物体を発見した。
ハーメルンよ、私は還ってきた!(挨拶)
皆様どうもお久しぶりです。
この度、皆様に発表したい事があり、舞い戻ってきました。
正確には告知は明日なので、今回は告知があるという告知なのですが。
ともかく明日にお知らせがあり、後編もその時にUPします。
それと明日、発表に合わせて作品名と作者名も心機一転で変更します。
作品名:「理想の聖女? 残念、偽聖女でした!」
作者名:「壁首領大公」
となります。一応しばらくは後に()で元タイトルと元作者名も入れておきます。
作者名は実は以前からカクヨムの方では変えていたのですが、今回を機にこっちに統一する事にしました。
で、タイトルは……うん…………。
タイトル関係の感想でね……一番多かったのがね……「タイトルで避けてました」だったんや…………。
え? 残当……?
…………じ、次回お楽しみに!