理想の聖女? 残念、偽聖女でした!(旧題:偽聖女クソオブザイヤー)   作:壁首領大公(元・わからないマン)

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予約投稿忘れてた……


偽聖女、日本へ行く ⑥

 何か裏ボスっぽく登場した割に、それほどでもなかった斎藤丸太帝王とかいうのを消し飛ばした俺は玉座と、ついでに近くに浮いていた宝石とか石板とかを持ち帰り、アイズのおっさんに渡しておいた。

 面倒な歴史考察とか何とかは全部おっさんに丸投げだ。

 俺は元々蒸気機関車がこの世界の文明レベルに合ってない事が気になってちょいと調べてみただけなので、答えが出た今となっては後の事はどうでもいい。

 単に疑問を解消して俺がスッキリしたかっただけだ。

 いやね、世界が魔女を創り出した理由とか負の感情が世界に増えた理由とか今更言われても知らんよ。

 もう『魔女』は倒しちまったし、固まってた負の感情も『魔女』と一緒に消滅させちまったんだからさ。

 全部解決した今になって裏ボスなんて出て来られても……ねえ?

 

 というわけで何とか帝王について考えるのは終了し、俺は再び日本へとやって来ていた。

 今回の目的は家庭菜園用の道具一式と、家庭栽培のやり方が書かれた本と、後は苗や種を買い漁る事だ。

 菜園とはいうが、目的は主に果物だな。ブルーベリーとかオリーブとか。家庭栽培っていう方が正しいのかもしれない。

 これらを回復魔法の応用でぱぱっと強制成長させてしまおうと思っている。

 実際向こうではその方法で森とか戻したり、果物の生る木を成長させたりして多少は食事情を改善させたわけだからな。

 何でそんなのを始めようとしてるかっていうと、向こうの果物があんま美味くないからだ。

 そもそも品種改良とかしてないし、バナナなんて硬いし全然甘味もない。

 歴代魔女が暴れ回ったせいで過去に絶滅してしまった果物もいくつかある。

 だからあの空間の亀裂を塞ぐ前に、いくつか日本から持ち込んでおきたいってわけだ。

 まあ、あんまり外来種の持ち込みをやりすぎると生態系とかに悪影響が出かねないので、あくまで自分達だけで楽しむ用だがな。

 あえて言うなら、サツマイモは普及させてもいいかな……荒れ地でも育つから餓死者も減るだろうし、向こうでは甘い物は貴重で基本的に庶民には縁がない。

 だがサツマイモならば庶民でも手が出せる甘味として広める事が出来るだろう。

 それと、あの亀裂はやっぱり近いうちに塞ぐべきだという結論が出た。

 ずっと前からあったものだから、放置してもただちに影響が出る事はないと思うが、地球から負の感情が流れ込んでくる可能性もあるので念のため塞いだ方がいいだろう。

 それに俺が転生したのも、あの亀裂の影響だろうし……放っておくと変な転生者が出る可能性もゼロではない。

 なので何回か往復して必要なものだけ持ち帰ったら、アルフレアに頼んで塞いでもらおうと思っている。

 だがその前に一人、どうしても接触しておきたい相手がいた。

 なのでまず、俺はネットカフェを目指して歩いていた。

 駅前をウロウロすればネカフェの一つや二つは必ずあるもんだ。

 サイレンの音が鳴り響く町中を進み、俺はネットカフェを探す。

 ちなみにサイレンがうるさいのは、少し離れた場所で家が燃えていたからだ。

 何かこっち来たら、俺が向こうとの出入りに使っている不歳アパートのすぐ向かい側の一軒家が燃えてやんの。

 放っておいたらこっちに燃え移る勢いだったので、まず家に突撃して逃げ遅れていたロリっ子を救出した後に魔法で家の周囲を風で覆って真空状態にし、鎮火しておいた。

 もう俺はこのアパートに住んでるわけじゃないけど、ここを燃やされると困るんよ。

 愛着がないわけじゃないし、それにこのアパートがなくなると、空中にある空間の亀裂が白日の下に晒されてしまう。

 そんな事になったらマスコミとかが押し寄せて来るかもしれないし、国のお偉いさんとかが囲い込んで一般人立ち入り禁止とかなるかもしれない。

 何せガチで空に罅が入って割れてるんだ。こんなん絶対国が放っておかないだろ。

 つーわけで鎮火して、俺はその場で茫然としていた家族とロリっ子とその他大勢に口止めを頼んでからそそくさとその場から逃げ出した。

 燃えた家に関しては俺にはどうしようも出来ない。まあ火災保険とかに入ってるだろうし、命があっただけめっけもんと思って欲しい。

 

 そして無事にネカフェを発見したので早速入り、金を払って個室へ向かう。

 まずはネットで「永遠の散花 サイトナルタ帝王」と検索。

 少なくとも俺の知るゲームではサイトナルタ帝国だの帝王だのは一切登場しなかったが、それは改変前の永遠の散花での話だ。

 そして改変後の永遠の散花に関しても、実は俺は『魔女』との決戦前までの展開しかゲームでは見ていない。

 『永遠の散花~Fiore caduto eterna~』は夜元玉亀が前世で見聞きした出来事をゲーム化したものだ。

 これは彼女自身が語った事であり、そして不動新人とエルリーゼの魂が統合され、両方の記憶を持っている今の俺ならばハッキリ分かる。

 このゲームのシナリオ製作者……夜元玉亀はプロフェータが転生した存在だ。

 夜元は、前世の頃から先の出来事を予測するのが得意だったと語っていた。

 プロフェータは、以前『その気になれば、ベルネルがマリーやエテルナと恋仲に落ちた場合の、あったかもしれないIFだって予測出来る』と俺に語ってくれた事がある。

 これだけの条件が揃えば、いくら俺でも分かる。

 夜元玉亀はプロフェータだ。間違いなく。

 というより、あいつ以外にマルチシナリオという形で数多くの『IF』を描ける奴がいない。

 だからもしこのゲームにサイトナルタ帝王の名があれば、プロフェータはその存在を認識していたという事になる。

 そして検索した結果、ページの一番上にヒットしていたので早速開いてみた。

 というか何で検索結果に「サイトナルタ帝王 かわいそう」とか出て来るんだ……?

 

 

【サイトナルタ帝王】

 『永遠の散花~Fiore caduto eterna~』の登場キャラクター。

 グランドルートをクリアした後にのみ登場する。

 千年前に初代魔女イヴによって滅ぼされ、海に沈んだ古代文明サイトナルタ帝国の王。

 筋骨隆々の逞しい体躯と白い髭をたくわえた巨漢で、常に三叉槍を携えている。

 人類の進化と発展には負の感情こそが必須という考えを持ち、魔法研究と優れた頭脳により空間に作用する事の出来る『闇属性魔法』を開発した。

 その力をもって何らかの方法で異なる世界からフィオーリに負の感情を流入させる事で今までフィオーリの人々には希薄だった闘争心や欲望を持たせ、互いに競合させる事で目覚ましい速度で帝国を発展させる事に成功した。

 サイトナルタ帝国の技術発展は凄まじく、千年前の帝国でありながらその文明レベルは地球の近代ヨーロッパに匹敵していたという。

 しかし世界のバランスを歪めた事で世界に目を付けられ、彼と彼の帝国を抹殺する為に世界の代行者である魔女が生み出されてしまった。

 初代魔女イヴとの戦いは熾烈を極めたが、増え続ける魔物やイヴの超魔力の前には抗えずに古の超大国は海に沈む事となった……。

 

 しかし千年の時が経過しても彼は『魔女』同様に怨念のみの存在となって現世にしがみついていた。

 そして『魔女』との決着をつけ、海底を訪れた主人公達の前にその姿を現す事になる。

 

【全ての元凶の元凶】

 『永遠の散花』における悲劇の連鎖は『魔女』の仕業だったが、その『魔女』が生まれたそもそもの原因を作ったのはサイトナルタ帝王であり、ある意味ではこの男こそが全ての元凶と言える。

 世界が千年前に突然代行者などというものを創り出したのも、闇属性魔法という力が存在するのも、この男がいたからこそ。

 更にイヴを狂わせた負の感情も、元々はフィオーリにそれほど多くなかったものと考えれば単純な世界の設計ミスと言えなくなる。

 (それでも、対サイトナルタ帝王を想定して生み出したならば負の感情に対する耐性くらい持たせておけという話ではあるが……)

 恐らくイヴが備えていた過剰循環病も本来のフィオーリであればそこまで問題はなかったのだろう。

 イヴが歴代魔女と異なり過剰循環病という狂う原因となった病を持って生まれたのも、もしかしたらただの魔女ではサイトナルタ帝国には勝てないからと世界がスペックに下駄を履かせた結果なのかもしれない。

 また、元々負の感情が薄かったはずのフィオーリにおいて最初から悪人であったこの男自身も過剰循環病の持ち主であったと推察されている。

 

【出落ち】

 と、ここまで語ると凄い強いように聞こえるし実際にステータス的には強いのだが、残念ながら彼に対して強敵というイメージを抱くプレイヤーはほとんどいないだろう。

 それもそのはずで、何とサイトナルタ帝王との戦闘にはエルリーゼを連れていけてしまう。

 エルリーゼのステータスはラストバトルの時の強さそのままなので、エルリーゼがいる限り間違えても負ける事はない。

 サイトナルタ帝王のHPは『魔女』を除けばゲーム中最高の99999なのだが、エルリーゼの『Aurea Libertas(一点集中)』で与えるダメージは軽く十万を突破する為、何と裏ボスのくせに一撃で死んでしまう。

 しかも『魔女』戦後の覚醒エルリーゼの攻撃は自動で『人の心の光』が上乗せされる仕様になっており、全ての攻撃がサイトナルタ帝王にとっての弱点扱いになり、ダメージが倍加してしまうので、『Aurea Libertas』を使わなくても大体一撃か二撃で死ぬ。それどころか何と通常攻撃でも三発で死んでしまう。

 結果、満を持して登場しておきながらあっさりエルリーゼに葬られるという情けないキャラクターと化してしまった。

 戦闘開始時に強敵と思ってかかり、エルリーゼに最大技を使わせた結果即戦闘終了となり、ポカンとしたプレイヤーも多い事だろう。

 エルリーゼ抜きで挑めば強敵なのだが、この海底遺跡に向かうにはエルリーゼを連れて行く必要があり、エルリーゼを外す為にはわざわざ彼女以外に味方キャラを三人連れて行ってエルリーゼを待機メンバーにしておく必要があるので、初見だと大体エルリーゼを参戦させて瞬殺してしまう。

 しかもこのサイトナルタ帝王は戦闘BGMが『魔女』と同じ『終わらない悲劇』であり、戦闘前に壮大な演出が入るせいで余計に出落ち感が増してしまっている。

 壮大なバックボーンとBGMを背負い、真の決戦のような空気を出しておきながらBGMのイントロが終わる前にやられる姿はプレイヤーに笑いを提供してくれた。

 あまりに見事な出落ちぶりから、ネット上では早くもネタキャラとしてのイメージが確立してしまい、「サイトナルタ帝王様」や「出落ち帝様」と呼ばれて親しまれている。

 

 

 

 ……おおう。

 どうやらサイト何とかさんは俺のせいでこっちの世界では完全にネタキャラ扱いらしい。

 いや仕方ないじゃん……だってあいつ弱いんだもん……。

 実力的にはアレクシア以上なんだけどさ、『魔女』に比べると何と言うか……控えめに言って雑魚というか……。

 そもそも歴代魔女全員の怨念の集合体である『魔女』と別に魔女でも何でもない変なおっさん一人分の怨念とじゃ強さに差があるのは当たり前なわけでして。

 まあ平和になった後の世界に裏ボスなんていらないって事で堪忍してくれ。

 とりあえずプロフェータはやはり、あの出落ちの事を認識していたようだ。

 一度も言わなかったのは……まあ、魔女と聖女の連鎖を止める上では別に出落ちさんは何も関係なかったし、無理に倒す必要性が皆無だったからだろう。

 元凶ではあっても、今世界を脅かしている存在ではないっていうか……。

 誰か魔力の高い人間がわざわざ海の底にいかない限りは無害っぽかったし、それで頑張って倒しても別に何かがよくなるわけでもないし。

 むしろ変にちょっかいかけて出て来られても邪魔なだけだし。

 多分捨て置いていいと判断されたんだろうなあ……。

 

 さて、出落ちさんの事はどうでもいいや。

 次にやるべき事は、何とかこちらの世界にいるだろう俺の知り合い――夜元玉亀にコンタクトを取る事だ。

 そう、俺がコンタクトを取りたい相手とはプロフェータの転生体と思われる夜元玉亀である。

 会いたい理由は別にないんだが……なくても一度、会っておきたい。

 俺があの最後の戦いで生き残る事が出来たのは、プロフェータのおかげだ。

 彼女の命を貰ったから俺は今、こうして生きている。

 せめてそのお礼くらいは言っておきたい。

 

 とりあえずフリーのメールアドレスを取得し、夜元玉亀宛てにメールを出しておく。

 ただメールを出すだけでは無視される可能性が大なので差出人の名前を「不動新人」としておいた。

 「エルリーゼ」でもいいんだけど、それだとファンが勝手に名乗ってるって思われかねないからな。

 実際SNSでもエルリーゼとかエテルナとか名乗ってる奴いるし。なりきりBotとかいるし。

 ネット上の名前をゲームキャラの名前にしたりするのは別に珍しい事じゃない。

 だからきっとネット上には沢山の自称エルリーゼさんがいる事だろう。

 そういったものと思われない為にも、ここは不動新人の名前を使う事にした。

 ついでに件名を「先日の世界線分岐の話の続きをしたい」とかにしておいた。

 

 さて、返事が来るまでの間はやる事もないので漫画を読んだりソフトクリームを食ったりして過ごすか。


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