神様の引退垢から最強のエルフアバターもらったよ   作:三次元豚

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教会

 教会は都市の中心にあった。尖塔のある大きな建物は、宗教施設らしい荘厳な佇まいだ。

 一見さんお断りの雰囲気で非常に入りづらいが、迷ってる時間がもったいない。

 

「ごめんください」

 

 小声でつぶやいて扉から滑り込む。建物の中には礼拝中の人たちがまばらにいた。誰もこちらには注意を向けていない。

 入口から正面奥には祭壇が置かれていて、その背後には大きなステンドグラスがある。この位置からだと教会のスタッフらしき人物は見当たらない。とりあえず奥に行ってみよう。

 壁際に沿って祭壇の方に向かう。奥へと歩いていると祭壇前の横手に小部屋ほどのスペースがあった。

 そこで僕は見覚えのあるものを見つける。

 

「ATM?」

 

 ATM。現金自動預け払い機と思しき端末が五台ほど並んでいる。うち三台は利用者がいて、なにやら画面を操作している。

「どういう世界観なの?」

 

 空いている端末の近寄り画面を覗いてみる。お引き出し、お預入れ、残高照会などの馴染みのある文言が、現地の言葉で記載されている。この世界の文字が読めたのは幸いだが、カオスな状況に理解が追い付かない。

 

「なにかお困りですか?」

 

 端末の前で立ち尽くしていると、不意に後ろから声をかけられた。振り向くと修道服を着た女性がこちらを見つめていた。

 

「まあ!」

 

 女性は口元に手を当てて驚いている。ゆったりとした修道服とベールを被っていて、シスター然とした落ち着いた雰囲気を醸している。

 この人も、外で会ったおばさんと同じように、僕の顔に驚いてる。そんなにインパクト強いのか。

 

「失礼いたしました。かわいらしいお客様で驚いてしまいました。本日は当教会にどういったご用で?」

 

「えーと、身分証を作ってもらいたくて」

 

「個人識別カードのことですね。でも、よろしいのですか? ここで登録するということは、このルズベリーの国民となるということ。それに差し支えはございませんか?」

 

 え、国民になるの? なぜ国民登録を教会でやるのか。もしかして教会って国営?

 仕事探しにはカードが必要らしいし、国民になるからって拒む理由にはならない。

 国と教会の関りについて詳しく知りたいところだが、宗教関係者にあまり無知を晒すのも怖い。異端認定でもされたら困るし、余計な質問は控えておこう。

 一つ収穫だったのは、この国の名前がルズベリーとわかったことだ。

 

「ええ、構いません。あっ、二年目から税金を払うんでしたっけ? 大体おいくらになるんでしょうか?」

 

 おばさんが納税について言ってたことを思い出し、質問が口をついて出た。

 

「はい、初年度は無料ですね。それ以降は月に五万ノリタマの人頭税が課されます」

 

「ノ、ノリタマ? ふりかけ?」

 

「まぁ! ふりかけをご存じなのですね。なんでもユニス様のお気に入りだったらしく、通貨単位として採用されたと伝え聞いております」

 

 ずいぶん適当な採用理由だね……。というか、ふりかけあるんだ。つくづくよくわからない世界だ。

 まあいい、ともかくユニス様というのがこの国及び教会においての重要人物らしい。

 誰ですか? などと聞くのは悪手だ。宗教的ビッグネームを知らないなんて、印象が悪いにも程がある。このまま話を進めよう。

 

「五万ノリタマか……。つかぬことをお伺いしますが、平民が一か月働くと、大体どれくらいの収入になるんですか?」

 

「そうですねぇ、一概にこうとは言えませんが、十二~三万ノリタマほどが最低ラインでしょうか。若年で経験が浅い方の場合は、どうしてもそれくらいになってしまいます。熟練の職人などになれば、もっと何倍も稼げるとは思いますが……」

 

 安月給だと40%くらい引かれるのか。結構エグいね。

 冒険者とやらの稼ぎが、どれほどかはわからないけど、さすがに最低賃金クラスではないと信じたい。

 まあ僕の場合は、払えなかったら国外に逃げればいいんだし、カードを作らない手はない。

 

「なるほど、参考になりました。それでカードの登録ってどうすればいいんですか?」

 

「それでは端末の前へどうぞ。操作手順を説明いたします」

 

「はい、お願いします」

 

 端末の前に立って、シスターの指示を待つ。

 

「ではこちらの各種お手続きをタッチして下さい。そして新たに開いたメニューから成人登録をタッチ。次にお名前の登録となりますので、画面の文字表から一文字ずつ入力をお願いします」

 

 操作もATMと変わらないな。一体どういうテクノロジーなんだろう。

 街並みから見て取れる文明レベルとはだいぶ隔たりがある。もしかしたら神様や運営側が作った設備なのかもしれない。

 

「えーと」

 

 まずは名前の入力をしないと。さすがにこの身体で藤木蓮太郎を名乗るのは妙な感じだな。

 新しく別の名前を考えようか。とはいえ、それっぽい名前なんてパッとは思いつかない。

 

 自分の名前の入力でまごつくのは不自然だ。偽名を考えてると言われても否定できない。実際考えてるし。

 仕方ない。ここはシンプルに『レン』にしよう。実は誰かにそう呼ばれることに憧れがあったのだ。

 藤木蓮太郎だとレンタやレンタカーなどの残念なあだ名になりかねない。ましてやキレンジャーなどと言われた日には……。

 

 名前の入力が終わると、次は生体認証登録を求められた。画面横の読み取り機に指を乗せて登録は完了だ。

 指紋認証なのか静脈認証なのか謎だが、これなら他人に悪用されることもないだろう。

 しかし生年月日の入力を求められなくてよかった。もしあったら確実にボロが出ていた。

 この世界では、正確な誕生日を覚えてる人が少ないのかもしれない。厳密なカレンダーで管理された社会には見えないし。

 

「以上で登録は完了ですね。こちらからカードが排出されますので、しばらくお待ちください」

 

 シスターの指示に従い十秒ほど待つと、カード挿入口らしき隙間から新たなカードが排出された。

 

「黒い?」

 

 出てきたのは真っ黒なカードだった。都市の入場門で見た鉄札らしきカードは、もっと灰色だった。でもこちらは、ほぼ漆黒と言っていい黒さだ。

 

「黒ですか!?」

 

 シスターが驚きの声を上げる。

 

「黒って珍しいんですか?」

 

「珍しいというより、寡聞にして私は存じません。登録には数多く立ち合ってきましたが、黒いカードというのは今回が初めてです……」

 

 確か戦力値1500以上で金カードのはずだけど、さらに上の階級だと黒になるのかもしれない。おばさんは戦力値1000で一流の使い手と言っていた。1500より上の階級は存在が知られていないのかもしれない。

 ましてや僕の戦力値は65535もある。イレギュラーな色になっても不思議はない。

 

「えーと、これってなにか問題になるんでしょうか? 異端とかそういう……」

 

「いいえ、とんでもない! たとえどのような色でもユニス様がお授け下さったものですから。そこに不信を抱くなど恐れ多いことです。ですが、あなたがお仕事を探される際などは、お辛い思いをすることがあるかもしれません。どうしても色の問題は付きまとうものですから……」

 

 えぇー、マジか。まあ、言われてみれば納得するしかない。けど厄介なことになったな。

 黒だと鉄札に色が似てるし、下手すれば最弱のカードとも見られかねない。

 そうでなくても偽造や塗装を疑われるかもしれない。いずれの場合にせよ、ろくでもない結果が待ってるだろう。

 はたして冒険者ギルドでこれを見せていいものか……。

 まあ、仮に問題が起こったとしても、最悪暴力でねじ伏せればいいんだし、行くだけ行ってみるか。

 もしも、勤労意欲あふれる若者をないがしろにするというのなら、それはもう社会が悪い。

 真っ当に働かせてくれないなら、反社会的な手段を用いるまでだ。能力をフル活用して、お金持ちの家からでもガッポリ頂けばよかろうなのだ。

 

 だいぶ思考が逸れてしまったので話を戻す。先ほどの彼女の発言には、気になる部分があった。『ユニス様がカードを授けた』。そして『不信を抱くのは恐れ多い』。

 やはりユニス様とは、この宗教における神に思えてならない。ユニス様が実在する神かは不明だが、どのみちこんな意味不明な機械を管理してる組織だ。教会関係者とは敵対しないよう気を付けたい。

 

「大丈夫ですよ。カードを作ってもらえただけ幸いです。それはそうと、これがあればこの端末で預金や引出しができるんですか?」

 

「はい、そのとおりです。よろしければ手順をご説明しましょうか?」

 

 やっぱり銀行業務もやってるのか。つくづく万能なカードだな。いずれそっちでもお世話になりそうだ。

 

 さてと、用は済んだしそろそろ退散しよう。

 黒カードについて調べさせて欲しい、なんて言われたら面倒だ。

 

「いえ、たぶんわかるので大丈夫です。あっ、そろそろ行かないと。お手間取らせてしまってすいません。いろいろとありがとうございました」

 

「いえ、お役に立てたなら幸いです。あなたにユニス様のご加護があらんことを」

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