神様の引退垢から最強のエルフアバターもらったよ 作:三次元豚
冒険者ギルドを出た僕は、リアトリス家への潜入計画を考えながら街をぶらついていた。
まずはリアトリス家の位置を知る必要がある。領主という話だし、誰かに聞けばすぐわかりそうだけど、見慣れないエルフが領主家の位置を嗅ぎまわっているというのはあまりよろしくない。ここは別の手段で調べるべきところだが……。
「まあ、考えすぎだね」
盗みが発覚したとして、街の住人に対して聞き取り調査をするとは限らない。仮に調査したとしても僕が尋ねた相手をピンポイントで見つけるのは困難だろう。仮に捜査の手が僕まで及んだとして、大人しく捕まってやる義理もない。
「結論。なにも困らない」
ヨシ、適当な誰かに聞こう。ちょうど都合のいい人たちもいることだしね。
冒険者ギルドを出てから、僕の後ろを男が二人でつけてきているのだ。
この身体の感覚器官は大したもので、周囲の生物の気配が大体わかってしまう。なので男たちの尾行は最初から僕にバレバレだった。
僕は追跡してくる男たちを引き離さないように、人気のない路地へと誘導していく。
路地は恐ろしく道幅が狭かった。軽自動車でも壁を擦ってしまいそうな狭さだ。男二人で通せんぼされたら、すり抜けることは不可能だろう。男たちからしたら鴨ネギな状況だな。
男たちを引き連れて奥へ奥へと進んでいくと、やがて行き止まりにたどり着いた。
「よぉ、お嬢ちゃん。道に迷っちまったかな?」
「うん、今日初めて来た街だからね。おじさんたちはリアトリス家って知ってる?」
男たちは二十代半ばくらいと思われる二人組だ。二人とも革鎧を着こみ、腰に剣を下げている。どちらもニヤニヤと笑いながら、今来た道を塞いでいる。
「おじさんはひでーなぁ。これでも22なんだぜ? まあいいさ。リアトリス家だったな。もちろん知ってるぜ。教えてやってもいいけど、それには情報料が必要だな」
ヤングマンになった僕から見れば、彼らは十分おじさんなのでおじさん呼びで問題ないのだ。
「へー、ちなみに情報料っておいくら?」
「なぁに、金は要らねぇよ。お嬢ちゃんが今着てる服。そいつをここに置いてってくれりゃあ、バッチリ教えてやるぜ?」
なるほど、服狙いか。確かにこのミリタリーロリータ服は縫製も抜群に良いし、手工業の世界なら相当な高値になりそうだ。
「話にならないね。そこ、通らせてもらうよ」
「おおっと、そいつは残念だ。なら仕方ねぇ、じゃあ通行料ってやつだ。痛い目にあいたくなかったら、その服さっさと脱ぎな」
会話役の男が剣を抜くと、もう一人が手をわきわきしながら、こちらににじり寄ってきた。
「へっへっへ、俺が脱ぐのを手伝ってやるよ」
うわっキモ。発情した男キモ。さすがにこれは遊んでる場合じゃないぞ。最速で無力化しよう。
素手で殴ったら肉片が飛び散りそうだし、とりあえず飛行魔法で浮かしておく。
「フライ」
飛行の魔法で三階くらいの高さまで一気に持ち上げる。
「なっ! 魔法使いだと!」
飛んでく仲間を見て、残った男が剣を構えてこちらに駆け寄ってくる。即座に攻撃とか、切り替え早いな。
「でも浮かす」
再び飛行の魔法で持ち上げると、上昇の途中で男がこちらに剣を投げつけてきた。この人、とっさの判断力高いな。
でも僕の身体って動体視力も半端なく上がってるから、余裕でかわせるんだよなぁ。かわすどころか掴み取るのも余裕。白刃取りだとさすがに怖いから、安全に握りをキャッチする。歩いてるカブトムシを捕まえるくらいイージーだ。
頂戴した剣は抜き身で危ないので、とりあえずアイテムボックスにしまっておく。空中に入口を作ってポイだ。
「アイテムボックスだとぉ! ちくしょうッ! 銀級かよ!」
んん? アイテムボックス使うと銀級? 銀級って銀札持ちってことかな? つまり戦力値1000でアイテムボックスが貰えるってことかな? 気になるから後で聞いてみよう。まずはお話がしやすいように、少し痛めつけてからだ。
男をゆっくり上昇させて、一人目と同じくらいの高度まで持ち上げる。
「クソッ! クソクソッ! おい、待て! やめろ!」
「はい、どーん」
地上三階ほどの高さから、二人一緒に地面まで一気に叩き落とした。地面にぶつかった瞬間に二人の周囲に光の膜のようなものが現れたと思ったら、その瞬間に砕けて消えた。これ見覚えがあるぞ。ワイバーンの攻撃を受けた時の騎士と同じエフェクトだ。
「クソッ!
「元気そうだね。もう一回やろうか」
「わあああ! 待て! 待て待て、待ってくれッ! 頼む! 謝るからカンベンしてくれ! もう一度落とされたら本当に死んじまう!」
「しょうがないなぁ。じゃあ、投げなかった人の剣も没収ね」
武器を持たせたままでは、お話がスムーズに進まない。抵抗しづらいように二人を逆さ吊りにしてから、腰に下げてる剣を奪い取った。ついでに抜き身の剣の鞘も頂戴した。
「これでよし! そんじゃまずは、有り金を全部もらおうか。迷惑料ってやつだよ」
「そんなっ! ひでぇ!」
「バカッ! 黙って従え!」
兄貴分っぽい人は物分かりが良くて助かる。二人はポケットから革の財布らしきものを出すと、地べたに放り投げた。僕は二人の動きを見張りながら財布を回収する。
「へー、長財布なんだ」
巾着に金貨ジャラジャラなイメージだったので意外だ。さっそく中身を確かめてみる。
「わ、紙幣だ」
現代の紙幣に見劣りしない精巧さだ。いいかげん慣れてきたぞ謎テクノロジー。疑問は後回しにして、さっさと金額を確かめる。兄貴分の財布からは6262ノリタマ。弟分からは1630ノリタマを回収できた。
紙幣は1000ノリタマ紙幣しかなかった。硬貨は500、100、50、10、1ノリタマ貨を確認できた。なぜかアラビア数字だったので、非常に馴染みやすい。
「あんまお金持ってないんだね……」
二人合わせて8000ノリタマ弱とは世知辛い。これっぽっちじゃ、一泊の宿代になるかも怪しいものだ。まあ、欲しいのは情報であって、カツアゲはあくまでついでだ。切り替えて情報収集に入ろう。
「それじゃあ、質問に答えてもらおうかな」
「なんでも答えるから、その前に逆さ吊りをどうにかしてくれ」
「うーん、また反抗されても面倒だしなぁ」
「あんた銀級なんだろ? 俺たち程度じゃ、まともに
「ふーん、まあいいか」
「ところで
「は? ……
「カードを作ると使えるようになるの?」
「そのはずだ。使えるというか勝手に出て守ってくれる。これが割られない限り、本人がダメージを受けることはない」
ほー、便利なもんだ。ゲームのHPみたいだ。HPが1でもあれば戦闘に支障はない感じがよく似ている。
「簡単に割れるところしか見たことないんだけど、これってどれくらい頑丈なの? あと割れたら直らないの?」
「堅さは人それぞれだろ。戦力値の高さと防具の守りによるって話だ。鎧を着てれば堅いし、布の服なら脆い。裸なら最初から出ない。それと割れた場合は、一時間くらい経たないと再生しない。単に削られただけなら数分で回復するがな」
ふーん、それじゃあ格上相手にちくちく削っても自然回復で無効化されそう。戦力値至上主義になるのも頷ける話だ。
「
「その通りだ。戦力値が1000になればアイテムボックスが解放されるからな。あんたが銀級だと知ってりゃ手を出さなかったってのによ……」
なるほど。戦力値1000でアイテムボックスが使えるなら、そりゃ求人も多かろうという話だ。
「僕のことを狙ったのは、冒険者ギルドでカードを見たから?」
おそらく薄暗い室内かつ、遠目で見た僕のブラックカ-ドを鉄札と誤認したんだろうな。
「ああ、そうだ。偽造なのか他人のカードなのか知らんが、まったく貧乏くじを引いちまったよ。ハナから俺たちみたいなバカを釣るつもりだったのか?」
「そういうわけじゃないんだけどね。じゃあ次にリアトリス家の場所を教えて。本当に知ってるの?」
「スマンが具体的な位置は知らん。リアトリス家は街で一番デカい屋敷だと話に聞く。貴族街なら教会の西にある。そこからは自分で探してくれ」
「ふーん、知らなかったんだ。まあ、それだけわかれば十分か。じゃあ最後に着てるもの全部脱いでくれる? 端金もらっても迷惑料にならないからさ」
「なっ! それは……」
「そんなぁ!」
なんでそんなに躊躇うかな。人の身ぐるみを剥ごうとしたんだから、同じことをされても完全に自業自得だろう。脱がしていいのは脱がされる覚悟のある奴だけだ、という名セリフを知らないのかよ。
「脱ぐ気がないなら、その気にさせるまでだよ」
僕は両手の人差し指を立てて、お互いを向かい合わせにする。その動きに連動して宙に浮いた二人も、お互いを見つめ合う形になった。
「お、おい! なにをするつもりだ!?」
「も、もしかして……」
「はーい、チュッチュしましょうねー」
二本の指の位置を近づけて、二人にキスさせようとするが、二人ともそうはさせじと必死に首をねじって顔を背ける。
「待て! 待て待て! わかった脱ぐ! 脱ぐからそれだけは許してくれ!」
「ひいいぃぃぃ!」
二人とも降参するの早すぎ。チューで気分が盛り上がった二人が、自分から服を脱いで愛し合うという完璧な計画だったのに、第一フェーズで任務を完了してしまった。不完全燃焼だけど目的は達成したし文句はない。
「じゃあ、きりきり脱いでねー」
「なんで俺がこんな目に……」
「うぅ……」
パンイチになってる二人が脱ぎ捨てた服と革鎧を回収しようと、手を伸ばしたところで気付いた。
「う、くさい……」
よくよく見ればボロいしバッチイぞ。転売してお金にしようと思ったけど、こんな汚物を査定させるなんて、お店の人にも迷惑だろう。アイテムボックスに入れるのも、空間が汚染されそうで気が進まない。
「いっそ燃やすか?」
「な、なんでだよ! 要らないなら返してくれよ!」
心情的に焼却処分したいところだけど、街中で火の魔法は火力調整に不安があるし、煙が出たら騒ぎになりそうだ。魔法で空の彼方に飛ばしてもいいけど、なんの益も無いしただのイジメになってしまう。
しょうがない、返してあげるか。冷静に考えれば、裸の二人を解放したら要らない注目を集めるし、警察的な組織に逮捕や事情聴取されては僕も困る。
「いいよ、返してあげる。ただし条件として、僕のことを誰にも話さないこと。ここで見たこと聞いたこと全部ね。約束を破ったら、今度はチューじゃなく、相棒の相棒をしゃぶることになるからね」
「ぜ、絶対に喋らねぇ……」
「エ、エルフ怖い……」
「それじゃあ僕は行くけど、もう悪いことしちゃダメだよ。やったら罰を受けるって肝に銘じておいてね。君たちのこと、ちゃんと見てるからね」
脅しの言葉をかけつつ、透明化の魔法をかけて姿を消す。やべー奴に目を付けられたと思えば、彼らも少しは態度を改めるだろう。
では、空に上がってリアトリス家を探そう。一番大きな屋敷なら、上から見ればすぐわかるはずだ。
「き、消えた……」
「一体なんだったんだ……」