「……やっぱり少し早すぎたでしょうかね?」
結月ゆかりはちらりと遊園地前の噴水の中央に立つ時計塔を見上げ、それからここに来ればすぐ自分の姿が分かるようにと、駅へ続く道路側の噴水の縁に軽く腰掛ける。
日向ゆえに少し暑いが、その分さらさらと背後で流れ落ちる水音が心地よい。
約束の時間まではまだ随分とあるが、待ち合わせ相手が早く来ないとも限らない……否、性格を考えればほぼ間違いなく早く来るだろう。
時間を持て余すとつい考えてしまうのは、やはり昨日の連絡の事だ。
「結局、はっきり伝えられませんでしたね……」
本来なら昨日の夜の時点で二人にはっきり伝える予定だったのだが、ここ三日間でちゃんと正々堂々と相手に勝ちたいという二人の勝負に対する真摯さを見てきて、こんな出来レースじみた結果など言うことが出来なかったのだ。
だけどどちらにしろあともう少しすれば、二人とも何も知らずにここに来てしまう。そうすれば結局言わなければならない。
少しでも不安な気持ちを落ち着けようと胸に手を押し当てるけど、もやもやとした心の黒雲は晴れそうにもない。
……だけど、不安感で言えば二人の方が上なはずだ。
思い出されるのは初日の悔しそうなマキの顔や、二日目の肩を落としたあかりの姿。
真剣に勝負して、負けた時のその不安を私はどれだけ分かってあげられているのだろうか。
それだけじゃない、昨夜自分が結果を伝えることを躊躇したせいで、二人とも家についてから随分と不安な時間を過ごさせてしまったんじゃないだろうか?
考えれば考えるほど、真っすぐな二人に対して自分の選択の卑怯さが際立つ。
「全部私が考えたんじゃない……っていうのは、あの誘いに乗った時点で言い訳ですしね。よし! 私も覚悟を決めないと……!」
決意を口に出してはみるものの、不安感は未だ泥濘のように足元へとへばりついてくる。
自分の選択の結果、もしかしたらどちらかに、否二人に嫌われてしまうかもしれないという不安感が。
「怒られるとか呆れられるぐらいで済めばいいんですけどね……」
それくらいなら全然いい。だけど楽観視しすぎればしすぎるほど、現実が違ったとき落差に打ちのめされることになるのだと、手をぎゅっと握りこむ。
……ただ一つ最悪の状況が現実になったとしても、私が二人から嫌われることになったとしても、尚そこに希望を見出すならば、おそらく今の二人なら仲良くできそうだという事だろうか。
勿論勝負を通してお互いの事を知り、少しでも仲良くなるきっかけになったらいいなという思いはあったが、実際にそうなったのはやはり二人自身の性格によるものだろう。
それに比べて自分と来たら……。
雲が陽光を遮り下を向いたゆかりの背中を陰で覆う。
そのまま深い自責の沼へ落ちていきかけた時だった。
「ゆかりん!」
「ゆかりお姉ちゃん!」
ハモった呼びかけに顔を上げると、二人がこちらに向かって駆けてきているのが見えた。
やっぱり指定した時間より随分早い、早く来ていて正解だったと現実逃避に毒にも薬にもならないことを考えてから、よしっ! と気合を入れて立ち上がると、いつものように笑顔を浮かべる。
「おはようございます、マキさん、あかりちゃん」
二人はよほど急いでいたのだろうか、ゆかりの前で立ち止まると膝に手を突き、荒い息を整える。
息を切らせながらも先に口を開いたのはあかりだった。
「あの、おねえちゃん! いったいどういう事なんですか、二人ともここに来るようにって連絡が来てるんですけど……」
「そうだよ! ここの駅で偶然あかりちゃんにあったと思ったら、自分も遊園地前に来るように言われたって言いだして、スマホ見せてもらったら本当だし……」
「えっと、それはですね……」
覚悟を決めた筈とはいえやっぱり二人に嫌われたら、と考え言いよどんでしまったゆかりに対してマキが尋ねる。
「……もしかしてあれって、最後の結果発表をここでするからここに集合って意味だった?」
「え?! ……でも、そっか。二人とも呼ばれてるって事はそうだよね……」
途端、二人の表情が暗いものへと変わってしまう。
……ああ、まただ。
また自分のことで頭がいっぱいになりそうだったけど、少し考えてみれば二人の方が不安に決まっていた。
散々結果を待たせた挙句に選ばれたと期待させて、そして今また選ばれていないかもと思わせる。
本当に、自分が自分のことしか考えれてなくて嫌になりそうだ。
だけど目の前で恐々こちらを見つめる二人にそんなことは関係ない、私はショルダーバッグに入れていた二枚の紙ををそれぞれの手に握り、二人へと差し出した
「二人とも、御免なさいっ!」
思い切り頭を下げながら。
「「えっ……え?」」
二人とも同じ気持ちだったのだろう、まずは唐突に謝られたことに対する驚きが、そして私が二人に差し出した『それ』を受け取っての困惑が続く。
「えっと……ゆかりおねえちゃん、これってペアチケットだよね?」
「でも、どういう事? 私たちに二枚渡しちゃったらゆかりんの分がないじゃんか」
そう、私が二人に渡したのは一組のペアチケット、勿論あの時茜さんが掲げていたアレだ。
と、そこでタネ明かしもせずにいきなり謝まっても二人には何のことか分からないではないかとようやく思い至り、そそくさと頭を上げ、少し早めに来た最大の目的である当日券を鞄から取り出して二人に見せる。
「私の分はこれです」
「それって当日券だよね? ゆかりんにはペアチケットがあるのにわざわざ何で……」
ここからが今回の計画の核だ。
不思議そうなマキさんに対して、私はセリフを確実に一つ一つ確認しながら口に出す。
「そうですね、そもそも二人とも初日に茜さんが語った今回の勝負についての詳細は覚えてますか?」
「え? どっちがゆかりんにふさわしいかってのを決める三本勝負じゃないの?」
「改めてそう言われるとちょっとアレですが……今はいいでしょう。確かに勝負内容はそうでしたが、では結果発表はどうするか、茜さんが言った内容を覚えてますか?」
「え……えーっと……」
「確か、今日お姉ちゃんが一緒にいて楽しかったか、これからも一緒にいたい相手に対してペアチケットを使って遊園地に誘……う……って! あーーー!!」
思い出そうと考え込んだマキに代わって答えたあかりは途中で気づいたのだろう、大きな声をあげた。
「え? 何? どゆこと?」
混乱と興奮冷めやらぬあかりは、まだ理解できてないマキの腕をつかんで説明をはじめた。
「何って、言葉の通りじゃないですか! 茜先輩が言った、この結果発表はお姉ちゃんが一緒にいたい相手をペアチケットで遊園地に誘う……この一文のどこにも勝者を誘う、なんてことは言ってないんですよ」
「……あ。で、でもどちらにしろ一緒にいたい方をペアチケットで誘うなら……あぁっ!!」
手にしたペアチケットと、目の前のあかりが握りしめるペアチケット。その二つを見比べたマキもどうやら気づいたようだ。そうなれば後は――
「そうです! 別にペアチケットはゆかりお姉ちゃんが一枚使ったうえで、私たちのうちどちらか一人を選んで渡さなければならない、とも言ってないんですよ!」
「た、確かに……。え、でもじゃあ、あの三回戦勝負は……」
「――そうです。ごめんなさいマキさん、あかりちゃん。あの勝負自体の結果自体がどうあれ、私は茜さんがあの勝負の条件を口にした時からこうやって二人にペアチケットを渡すつもりでした」
二人が理解したところで、私は再び頭を下げる。そこには確かに二人が抱く自分への気持ちをかけた、真剣な勝負を踏みにじるような決断に対する申し訳なさもあった。
だが、同時に今から言う事に対しての二人の反応を見なくて済む、と安堵してしまってもいる自分が恨めしく情けない。
「二人が今回の勝負にどれだけ真っすぐだったかは、一回戦目と二階戦目でそれぞれ負けたときの顔を見て、十分分かっている……つもりではあります。だからこそそれに対して、私がこんなあいまいな結果を出した事については誠実じゃないと思われても仕方がないでしょう。……そして、それに失望されたとしても」
「「…………」」
二人は何も言わない。私は息詰まりそうな胸に手を押し当てながらも続ける。
「でも、私にとって二人とも本当に一番大切な人なんです! あかりちゃんは小さいときに本当の姉妹みたいに一緒に過ごして、いろいろ遊んで、その中には振り回しちゃったりしたことも何度もありますけど、それでも『お姉ちゃんお姉ちゃん』って慕ってくれて。マキさんはそんなあかりちゃんがいなくなって、私が沈んでいた時に気にかけて手を差し伸べてくれて、最初はぶっきらぼうに断ってしまいましたけど、それでも何度も誘ってくれて、元気が出るようにって色んなところに連れてってくれて……」
もっと詳細に語りたい二人との思い出はまだまだ沢山あって、話し始めると止まらなくなりそうだったけど、何より伝えないといけないことを思い出してぐっと堪えた。
「……今の私がこうして居れるのは、二人のおかげなんです。二人の片方だけじゃなくて、二人それぞれとの時間がかけがえのないもので……だからマキさんと一緒の学校に通えて、しかもそこにあかりちゃんが転入してくるって聞いた時は、すごく嬉しかったんです。これでやっと大好きな二人と三人でいられるって……!」
ここ一か月ずっと押さえていた気持ちが堰を切った。視界がじんわりと熱く歪む。
「だけど、二人とも争ってばかりで全然三人で集まれることなんてなくて。それどころかだんだん二人から避けられてるみたいに会う時間自体が減っていって……凄く、寂しかったんです。だから茜さんがあの条件を出してきた時に、つい考えてしまったんです。いっそのことこの勝負を使って三人で遊べるようにしてしまおうって」
それを聞いて思い当たるところがあったのか、あかりちゃんが訊いてくる。
「じゃあ三人での勉強会を提案したり、私がマキさんに料理を教えてもらおうと頼んだ時口添えしてくれたのは……」
「はい、そうです。出来れば三人で定期的に集まれる機会なんかがあったらいいなって」
そう、もし二日目の勝負の後あかりが自分から教えてほしいと言い出さなければ、その時は自分からそういう方向にもっていく予定だったのだ。
「……真剣に勝負をしていた二人の努力を無碍にするような決断でごめんなさい。でも……それでも、二人ともやっぱりかけがえのない存在で、どっちがどっちより上だとか下だとかなんて私には決められないんです。本当に……ごめんなさい」
その後に続く沈黙はどれほどだったのだろう。十秒? 一分? あるいはそれよりもっと長く? 否もしかしたら一瞬だったのかもしれない。 だけど私にとってはどこまでも続くような長い時間だった。
「ゆかりん」
「ゆかりおねえちゃん」
二人から不意にかかった声に、思わず肩を震わせてしまった。
「……はい」
審判を受ける罪人のようにゆっくりと顔を上げる。一体二人はどんな表情を浮かべているのかと。
自分勝手な結論に呆れている? それとも怒っているのだろうか? いや、軽蔑されていても……
頭を上げさせまいとヘドロのようにまとわりつく不安に押さえつけられながら、だが。ようやく顔を上げた私の目に映ったのは
「なーにそんなことくらいで泣きそうになってるのさ」
「本当ですよ。泣き虫な所は変わったと思ってたけど、気のせいだったみたいですね」
笑顔を浮かべた二人だった。
「何で……。二人とも勝負に真剣だったのに、それが無かったことにされて、その、怒ったり……愛想つかしたりしないんですか……?」
「あー……まぁ100%納得してるかって言われたら、今までの勝負は何だったのさって、ちょっとまだ小骨が引っかかったような感覚はあるけど……。だって数学勝負の前日、すっごく頑張ったんだからね?! 人生で初めて参考書だって買ったし!」
「う……それは……」
「そうですよ! 私だって焦がした卵焼きとか揚げそこなった唐揚げとか朝食べて、しかも帰ってからお弁当の残りも食べたせいで体重が――! いや、全然問題ない範囲ではあるんですよ? 問題ない範囲ではあるんですけど、それでもやっぱりちょーーっとだけ増えちゃいましたし」
「いや、それは……はい……」
少しだけ言いたいことがないでもないが、やはり二人とも思うところはあるようだった。
だが腕を組むマキと頬を膨らませるあかりに、ゆかりの頭が再び下がりそうになった所で二人の口調が柔らかく、そして少しだけ悲しげなものへと変わった。
「……ですけど、ゆかりお姉ちゃんの話を聞いてて思ったんです。あぁ、こっちに来てから全然お姉ちゃんの事を考えてなかったなって」
「……え?」
「うん、そうなんだよね……。言われてみれば、確かに僕ら二人でゆかりんをめぐって争ってはいたけど、肝心のゆかりんは置いてけぼりだったな、ってさ」
「マキ先輩の言う通り、相手が羨ましいからって自分たちで勝手にお姉ちゃんに抜け駆けしないよう、なんてルールを作って、そのせいでお姉ちゃんに寂しい思いをさせてたんだなって……」
「うん、ゆかりんがさみしがり屋だってすっかり忘れてたよ。確か初めて会った時も人見知りして人を避けてたのに、それと同時に誰かに話しかけたそうに様子を伺ってて……そういえばそれで放っておけなくて話しかけたんだったかな」
「へぇー。マキ先輩とお姉ちゃんが出会った時ってそんな感じだったんですね……。まぁ、私がお姉ちゃんの誘いを断った時も凄くわかりやすく落ち込んでたりしましたし、やっぱりお姉ちゃんは昔から変わってないですね」
「なんていうか、ウサギ? みたいだよね」
「あー! そうでうそうです! まさしく寂しいと死んじゃうウサギって感じですよね!」
あれ? なんだか話が変な方向に行ってませんか?
「でもその割に頑固な時は凄く頑固なんだよね」
「それってもしかして、何か欲しいものがある時か、勝負ごとに関してじゃないですか? そういうところはすごく貪欲で頑固でしたよ……年下の私に対しても」
「あぁー……確かに言われてみれば……って、子供のころからそうだったんだ」
「そうですよ。昔私が運良くゲームに勝ちでもしたら、それこそお姉ちゃんが勝つまで絶対逃げられなかったんですから……」
「あ、あの……ちょっと二人とも……?」
不安になって声をかけたところで、ようやく二人とも私の存在を思い出してくれたらしい。
「あーっと、まぁゆかりんの昔の話は『今は』置いておくとして……ともかく言いたいのはさ、別にゆかりんが出した結論に対して怒ったりしてない、ってこと」
「でも……」
「あーもう、ぐちぐち考えない! 僕らだって、寂しがりやのゆかりんを放置してた訳だし、それでおあいこってことで」
びしっと人差し指を突き出すマキさんに圧されて、あかりちゃんの方を見る。
「そうです。それに、勝負だって一勝一敗一分けみたいな感じでしたしね。……それに決着をつけようにも、今から改めて勝負って気分にもなれないですし」
あかりの視線を受けたマキはおどけたように首を傾けて同意する。
「だね。何ていうか今回の一件で色々あかりちゃんの事を知って、もうただの邪魔者、って感じには思えないしね。それよりさ! 改めて確認だけどペアチケットをくれたって事は、ゆかりんは僕とこれからも一緒にいたいってことでいいんだよね?」
「もちろん私もそうですよね?」
ニヤリとどこか自信ありげにチケットをひらめかせるマキと、キラキラした瞳で両手にしっかりチケットを握り締めるあかり。
さっきまで不安と恐怖で全身を拍動させていた心臓が、今は違う意味で体中を熱くさせるように血液を送り出す。
「勿論です! 私にとって二人は一緒にいて時間を忘れるほど楽しくて、これからも一緒にいてほしい大事な存在なんです。だから――」
私はずっと言いたかった願いを口にする。
「――だから、どうか。そんな大事な二人と仲良く三人で一緒にいたいって、色んなところに行ったり経験したりして色んな思い出を作っていきたいって……そんな私の我儘を聞いてもらえませんか?」
それを聞いた二人は息もピッタリにニッと笑った。
「勿論! っていうか僕も最近ずっとゆかりんと話せてなくてゆかりん欲がたまってるから、むしろこっちからお願いしたいぐらいだし! これからはまた中学の時みたいに、学校帰りにふらっとどっか寄ったりしようよ。それで……あー、何か何話したかこんな風に思い出せないくらいどうでもいい話したりさ。あ、もちろんあかりちゃんも一緒にね?」
「ちょっと! なんですかその私のハンバーガーのピクルス的扱いは?! 私だってこっちに帰ってようやくお姉ちゃんとまた遊べるぞー、と思ってたのを今までずっと押さえてきたんですからね! というわけなので、色んなところに今度は私が引っ張りまわしますからね? こっちに帰ってくるって決まった時からずっと一緒に行きたいところをいっぱい調べておいたんですから、覚悟してくださいよゆかりお姉ちゃん? あ、マキ先輩は来たかったら一緒に来てもいいですよ?」
「うがー!! 何で僕だけソーサ―に乗ってる砂糖みたいな扱いなのさ?!」
「ふーんだ! 先にマキさんがそういう扱いしたのが悪いんですから!」
またそんな事でいつものように、だけど以前みたいな険のある感じではなくどこか冗談めかして争い始める二人に。そして、自分の覚悟を決めた筈の一言をあっさりと受け入れた二人に、自分が色々思い悩んでいたのは何だったんだと力が抜けて、可笑しくなって
「……ふふっ」
つい笑ってしまった私を見て、二人はピタリと争いを止める。
「……お姉ちゃん、ようやく笑ってくれましたね」
「ほんとだよ、朝から思いつめたり泣きそうだったりさ……。やっぱりゆかりんは笑ってるのが一番可愛いって!」
「もう! 勝手なことばかり言わないでくださいよ、ずっと不安だったんですからね? もしかしたら嫌われるかもしれないって」
「「それは絶対ない(です)から!!」」
食い気味にそろった二人の声が響いた。
「もう! ゆかりお姉ちゃんは心配しすぎです! 私がお姉ちゃんのことを嫌いになることなんて絶対ないですから! ま、マキ先輩はどうだかわかりませんけどね?」
「ふーーん。ま、あかりちゃんがどう思っててもいいけど、そうやって露骨なアピールばっかりしてる人ほど、いざっていう時には手のひらを返したようになっちゃうんじゃないかな、って僕は思うけどね?」
「む、マキさんにしてはちょっと知的な返し方をして……!」
「ちょっと、人を馬鹿みたいに言わないでよ?!」
相変わらずちょっとしたことで争う二人に、ゆかりは眉を八の字にしながらもついつい口角を上げて独り言ちる。
「寂しく思ってた理由の一つには、何だかんだ二人とも息ピッタリに争ってて、ちょっとだけ羨ましいなって、妬いてるところも多少はあったんですからね?」
勿論好んで喧嘩をしたいわけではないが、喧嘩するほど仲がいいという言葉もあるくらいなのだから。
「え? ごめんゆかりん、今何か言った?」
少し遅まきに、ゆかりが何か言っていたのに気づいた二人が、手を止めてこちらを見る。
「いいえ? 何でもありませんよ?」
「嘘です! そういう風に言うときのゆかりお姉ちゃんは、大抵何か言いたいことがあるときじゃないですか」
「もう、本当に何でもないですから! ほら、折角来たんですから話してるだけで時間を潰すなんてもったいないじゃないですか!」
まさか二人とケンカしたことが無いから、二人のケンカが羨ましかったなんて言う訳にはいかなくて、私は二人の間に割り込んでそれぞれの手を握って遊園地へと駆けだす。
「わわ?! 待ってよゆかりん!」
「っと、相変わらずいきなりなんですからっ!」
たたらを踏みながらもなんとかついてくるマキさんと、やれやれといった感じを出そうとしながらも口元が緩んでるあかりちゃん、二人を引っ張って入口へと向かう。
「さぁ! 今日は乗り物全制覇しますよ二人とも!」
いつの間にか影を落としていた雲は消え、初夏の日差しが私たちを照らしていた。