あかりとマキの正妻戦争   作:真喜屋五木路

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二戦目_マキさんは料理上手

「オッケー、次は僕の番だね」

 

何気ない感じでマキがバスケットを開けると、テーブルの上に数個の何か入った手のひらサイズの白い紙袋と、あかりと同じような(ただしそのサイズは二回りほど小さかったが)タッパーを並べていく。

 

「え、これで全部……? 小さくないですか?」

 

小さなバスケットだとは分かっていたものの、それでもやっぱり出てきたものの少なさに、あかりはついバスケットをのぞき込んでもう何も入ってないことを確認してしまう。

 

「そうだね、今日はあかりちゃんも弁当を作ってくるって話だったから、食べ残しが出たり、おなか一杯になって美味しく食べれないなんてことがないように少し小さめに作って来たんだ」

 

マキの気遣いを聞いたあかりはそこまで考えを回す余裕があったのか、と言葉に詰まる。自分は弁当を作るというだけで精いっぱいだったのに。

そして当然、そこまで考えているマキの弁当が小さいからと言って、あかりが事前に予想していたような品数の少ない手抜きの弁当ではなかった。

 

「わぁ……!」

 

現にマキがタッパーの蓋を剥がした瞬間、真っ先に感嘆の声を上げてしまったのはあかりだった。

タッパーの中に広がっていたのはまるで小さなビュッフェ会場。それぞれの大きさは控えめながら、ベーコンで巻かれたアスパラや、ミニトマトの器に盛られたポテトサラダ、可愛らしく咲くウィンナーの花、蜜たっぷりのサツマイモのレーズン煮……様々な料理が美しく詰められていたのだ。

 

「はい、あかりちゃん」

 

唯々見とれているあかりにマキはヒヨコのついたピックを差し出してくる。これで食べれるように小さ目なのだろうかとゆかりの方を確認すると、丁度ゆかりがピックに刺した竹輪のチーズと大葉巻きを口に運び、幸せそうに咀嚼している所だった。

大葉は刺身についているやつを前食べたら苦くて美味しくないと思っていたのだが、ゆかりお姉ちゃんがそんな表情をするなんてと、興味本位で同じものを口にする。

 

「!」

 

(全然大葉が苦くない……。それにあの独特の匂いもチーズのしつこさを上手く打ち消して、旨味だけを引き出してくれてて、しかもそれが竹輪の旨味と凄くマッチしてる……!)

 

ついもう一つ食べたくなるが、残念なことに残りは一つ恐らくマキ自身のものだろう。

 

「マキさんのお弁当に毎回入ってるコレ、美味しいのでもう一つくらいあってもいいといつも思ってるんですけど、何か一つなのは理由があるんですか?」

 

どうやら物足りなさを感じていたのはゆかりお姉ちゃんも同じであったらしい、あかりも答えを聞こうとマキの顔を覗き込む。

 

「それは飽きが来ないように、かな。どんなに美味しいものでもおんなじのばっかり食べてたら飽きがくるじゃん。そうしたら次からは美味しく食べられなくなっちゃうし、そんなのもったいないじゃんか」

 

それは食べ放題に行くといつも好きなものばっかり取って、最後後悔するのが定番となっているあかりにとって耳の痛い話だった。

密かに次からは気を付けようと決意を固めていたあかりだったが、突然ゆかりの方から聞こえた音に意識を現実へと戻される。

それはサクジュワッという軽やかで歯切れよく、同時にジューシーであることを主張する、美味しい揚げ物の音。

見れば、ゆかりの手にあったのは自分のより小さな唐揚げだ。慌ててあかりも一つ唐揚げをつまんで口にする。

 

(私のと全然違う……)

 

自分のを朝食べたときよりも衣が軽やかで、衣の油が少ない分鶏肉のおいしさをより感じる。

 

「マキ先輩! これってどうやって作ったんですか!? 私の唐揚げはどうすればこんな感じにできますか!?」

 

気づけばかじりつくようにしてマキに詰め寄ってしまっている自分がいた。

あかりの圧に若干気圧され、のけぞりながらもマキは丁寧に答えていく。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて。まず一つ聞きたいんだけどあかりちゃんもしかして、唐揚げを熱々のままお弁当箱に入れて、すぐ蓋を閉じちゃわなかった?」

 

「……? はい、確かそうしたと思いますけど……」

 

少し記憶をたどり、卵焼きに時間をかけてしまった為、唐揚げは最後揚げたてを入れてすぐに蓋を閉じ家を出たと思い出す。

 

「やっぱり。そうするとさ、水蒸気がお弁当箱内に籠っちゃってお弁当全体が湿気ちゃうんだよね。だから揚げ物を入れるときはしっかり粗熱を飛ばしてから入れるだけで大分変わると思うよ」

 

「そうだったんだ……。でも、そもそもマキ先輩のは私の揚げたてのよりもなんだかサクッとしてる気がするんですけど」

 

「ああそれは多分、僕のは揚げずに作ってるからだね」

 

「?」

 

何を言っているんだ唐揚げは揚げるから唐『揚げ』なのだろうと、怪訝な表情を浮かべるあかりにマキは続ける。

 

「衣をつけるところまでは普通の唐揚げと一緒なんだけど、そのあと油を少しだけ回しかけてオーブンとかで焼くんだ。そうすれば衣が油をほとんど吸わないから軽い食感になるし、お弁当向きなんだよね。それに揚げるための油もたくさん使わなくていいし」

 

「そんな方法が……」

 

そういえばスーパーでも揚げない唐揚げ粉なんてものがあったような気がする。あの時はなんだこのキワモノ商品と思っていたが、お弁当にはそっちの方が良かったのか。

同じものを作ったはずなのに、とその差に心は苦いものを覚えるあかりだったが、それでも舌が感じる美味さには逆らえない。

 

他のおかずたちも気になるところではあったが、最初に出されてからずーっと気になっていた白い包み、その中にはどんな美味しいものが入っているのだろうかと、手近な一つに手を伸ばしてしまう。

 

「これは――!」

 

白いワックス紙の中に入っていたのはサンドイッチ――だが、あかりのよく見知ったジャムとピーナツバターのあのサンドイッチではない。

ハムとチーズと一緒に黄色いペーストが贅沢にぶ厚く挟まれたそれに食欲を刺激されるがまま、あかりは一思いにかぶりついた。

 

「んー! おいしい! これなんのサンドイッチなんですか?」

 

ほのかな甘みとまったりとしたコクがパンによく合う。

 

「ああそれ? カボチャのサラダを挟んでみたんだけど、美味しいならよかった」

 

「かぼ……ちゃ……?」

 

これは是非とも自分で作れるようにならねばと、興奮気味に発された質問に対する答えは思いもよらないものだった。

 

「かぼちゃってアレですよね? ジャック・オ・ランタンの……」

 

「うん。って言っても日本じゃあんまり見ないけどねー。そういえば、あかりちゃんってアメリカにいたんでしょ? やっぱ向こうではハロウィンとかになるといっぱいあったりするの?」

 

「まぁ、そんな感じですね……」

 

というかあかりとしてはかつて食べたパンプキンスープが不味かったせいで、カボチャと言えば完全に飾るためだけの鑑賞物だと思っていたのだ。それがこんなにおいしいなんて……

まだゆかりはどっちが勝者か判断を下していないが、既にあかりは自分の敗北を察していた。

 

自分の弁当より品数が多くて、自分の弁当よりおいしそうな見た目で、自分と同じものを作っても敵わなくて、ついには自分の苦手なものまで美味しく食べさせられてしまった。

 

(マキ先輩のお弁当と比べたら私のなんか……)

 

晴れた初夏の空とは対照的にどんよりと心が曇っていく。

これ以上自分の稚拙な弁当を晒していても気が重たくなるばかりだと、二人に気づかれないようにそっとタッパーの端に手をかけて自分の蔭へと引っ張っていこうとした時。

 

「あ、あかりちゃん。これ貰ってもいいかな?」

 

「あ……」

 

マキの言葉は疑問形だったが、気落ちしたあかりがその問いを認識した時にはすでに、あかりのハンバーグがひょいと持ちあげられているところだった。

タッパーから出されて陽光の下にさらされたせいで、さっきまで気にならなかった小さな焦げや、肉汁の溢れすぎでテカテカしているのが丸わかりだ。自分の稚拙さをさらされているようで、あかりの頬に羞恥の赤が浮かぶ。

 

(確かに私のなんてマキさんと比べたら……いや、比べ物にすらなりませんけど、別に晒さなくていいじゃないですか……!)

 

やり場のない憤りにあかりは俯いて手を握りしめた。

 

「はい、ゆかりんこれでちょっと食べてみて」

 

「え、でもこれって……」

 

「いいからいいから」

 

しかしマキはそんなあかりの様子に気づいていないのか、ゆかりに何か別のを手渡したらしい。俯いていてもそんな会話が聞こえてしまい、あかりは人間に瞼があるのに耳を閉じる器官が無いことを呪った。

 

「あ……おいしい!」

 

「でしょ! 一口食べて絶対これはこうした方が美味しさを引き出せるなって思ったんだ。それにこうすれば、あかりちゃんが気にしてた見た目も気にならないでしょ?」

 

何だかマキ先輩のお弁当を食べてるにしては会話が不自然だとあかりが思い始めたとき、横からスッとサンドイッチの包みが一つ視界の中に差し込まれる。

 

「ほら、あかりちゃんも食べてみて」

 

またこれを食べたらマキ先輩と自分の差を見せつけられることになるのだろう。だけどもう断る気力も起きず、あかりはのろのろとした動きでサンドイッチを口に運び、はむりと一口。

 

「……美味しい」

 

悔しいけれどやっぱりマキが作ったものは美味しかった。

今までマキが出してきたのはさっぱりした料理が多かったが、これはBLTサンドに厚いハンバーグが挟まれていた豪快なもので、アメリカでの行きつけだったステーキハウスのハンバーガーを思い出させるちょっと懐かしい味。

こんなものも作れるんだと、改めて叶わないなと、また気持ちが沈みかけた所でマキの嬉しそうな声が耳に入った。

 

「でしょ? あかりちゃんのハンバーグはお肉のインパクトが強めだから、こうやってパンに挟んでも存在感がしっかりあるし、これならちょっと見た目が悪くても気にならないでしょ?」

 

「え……?」

 

あかりが改めて今自分が食べているサンドイッチを見ると、そこに挟まっていたのは確かに自分のハンバーグだった。

あかりの顔から影が取れたのを確認して、マキはわざとらしく空を見上げるようにして話し始める。

 

「あー、なんかあかりちゃんさっきから暗い顔してたけどさ、僕はそんな悲観するような程料理下手って訳じゃないと思うよ」

 

「でも……唐揚げもべちゃべちゃだったし……」

 

「味つけはしっかり醤油とニンニクの効いてておかずになりそうだったじゃん。後はちゃんと冷まして入れることを知ってるか知ってないかってだけだよ」

 

「でも、それを知ってるか知ってないかが――

 

「あーもう! こんなこと言っちゃあれだけど、僕は料理で負けるわけにはいかないんだよ」

 

あかりがぐちぐちと続けようとしたところでマキはそれを遮り、ガシガシと金髪を乱暴に掻く。

 

「ほら、昨日あかりは大学卒業してるから勉強ができてもアンフェアだって言ってたじゃんか。僕も料理に関してはそれとあんま変わらないんだよ」

 

「それってどういう……?」

 

「その、なんというか……」

 

と、肝心なところで詰まったマキの言葉を続けたのはゆかりだった。

 

「マキさんはお父さんの喫茶店で料理を担当しているんですよ」

 

「へ?」

 

素っ頓狂な声を上げるあかりと、もう言われてしまったのなら仕方ないという風にため息をつくマキ。

 

「まぁ、そういう事だから……」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってください! 何ですかそれ知りませんよ!」

 

「普段マキさんはそのこと隠してますからね」

 

そう何でもないことのようにゆかりは続ける。

 

「昔は特に隠してるってわけではなかったんですけど、あれは中学二年生くらいの時でしたかね。マキさんをやっかんでる人がマキさんが喫茶店で働いてるのを見つけて、先生に報告したんですよ。ほら、うちの学校って原則アルバイト禁止じゃないですか」

 

確かにそんな校則もあったような気がする。

 

「それでマキさんも何というか……普段の授業態度がいいわけではないので先生もちょっと強情になっちゃって、マキさんのお父さんが学校に呼ばれたりと色々あったんですよ」

 

その時のことを思い出したのか、ゆかりは苦笑しマキは再度ため息をついた。

 

「ま、そういう事。だからそもそも前提として、僕の方が圧倒的に有利な勝負だったんだよね。だからもし――」

 

「まさか、それを私が卑怯だとかフェアじゃないとか言うとでも?」

 

マキの言葉を掻っ攫ったあかりは、先ほどの前かがみに沈んでいたのから一転、椅子にどっかり倒れ込んで如何にも文句があるという風に腕を組んだ。

 

「そんなこと言ったら昨日の勝負も経験の差でフェアじゃないのにマキ先輩だけ私の勝利を認めて、逆に私は認めない卑怯者になるじゃないですか!」

 

「いや、別に僕はそんなつもりは……」

 

「いーや、そうなるんです。同じ時間を私は勉強に、マキさんは音楽と料理に投入して、それで一回ずつ勝って負けた。それ以外の結果を私は認めないですからね!」

 

偉そうに自分の負けを認めるあかりに対して、ゆかりがおずおずと声をかける。

 

「あの、私はまだどっちが勝ってるか判定してないんですが……」

 

「何言ってるんですかゆかりお姉ちゃん。見た目、技術、知識、そして何より今回の主題である味。すべてにおいてマキさんの方が上だったじゃないですか。はっきり言って私の完敗です! ――ですから、私に料理を教えてくださいマキさん!」

 

椅子に寄りかかってたのから一転、あかりはマキの方に向かって頭を下げる。

 

「えぇ?! 何でそうなるのさ!?」

 

「決まってます! ゆかりお姉ちゃんにマキ先輩以上のお弁当を作るため、そして私自身の日々の食生活向上のためです!」

 

前者も大事だが、美味しいものが好きなあかりとしては後者も同じくらい大事な理由だ。だが、言われる方としてはいきなりそんなことを言われても困る訳で。

 

「そう言われてもな……僕のやり方は結構我流だしもっとちゃんとした人に教わった方が――」

 

「いーえ! 私はマキ先輩に教わりたいんです。まあマキ先輩にそんな時間が無いって言うなら勿論無理は言いませんけど……」

 

「いや、まぁ時間的にそんな無理って訳じゃないけどさ……」

 

「因みにその場合は、マキ先輩の喫茶店に入り浸って食べて技術を盗んでいくつもりなので」

 

「えー……」

 

あかりのあまりの熱意にちょっと引いているマキに対して、ゆかりが口添えをする。

 

「できればあかりちゃんに教えてあげてくれませんか? 今あかりちゃん、一人暮らしなんですよ」

 

「あれ、そうなんだ。てっきり両親と一緒に暮らしてるものかと……」

 

「お父さんもお母さんも向こうでの仕事で忙しそうですから、仕方ありません。それに向こうに居たときも大抵どこか飛び回ってたので、今と大して変わりはしなかったですし」

 

「そうだったんだ……」

 

あかりとしては慣れ切ったことだし大して気にしていなかったのだが、それを聞いたマキは神妙な顔で少し考え込んで

 

「わかった。連休中とか忙しいときは無理だけど、時間があるときは週一くらいで教えるよ」

 

「本当ですか!? ありがとうございますマキ先輩! じゃあ早速今週は……勝負があるから駄目だから、来週の何時にします?」

 

あかりはガシッとマキの手を両手で握りしめて目を輝かせる。

 

「ちょ、ちょっとあかりちゃん落ち着いて。来週の予定なんて覚えてないから確認しないと分かんないし、それにもしウチでやるなら厨房使っていいかお父さんに確認しないといけないから……」

 

そんな前のめりなあかりと、ちょっと後傾気味なマキの二人を楽しそうに眺めていたゆかりだったが、ふと何か思い出したように、両手を合わせてその後ろからウインクした顔をのぞかせる。

 

「良かったですね、あかりちゃん。……ところでマキさん。物は相談なんですが、ついでに私にも一緒に教えてくれませんか」

 

「え、いきなりどうしたのさ? そりゃあ一人に教えるのも二人に教えるのもそこまで変わらないし、ゆかりん相手なら喜んで教えるけど――」

 

「すごくいいじゃないですか、それ! それだったらゆかりお姉ちゃんにすぐ味の感想を聞けますし! 逆にゆかりお姉ちゃんの手料理も食べられるって事ですよね?!」

 

「ゆかりんの手料理……。よしゆかりん! ゆかりんも強制参加だからね!」

 

マキは突然のお願いに多少疑問を持ったようだったが、それを遮るようにあかりが言ったゆかりの手料理というワードを前にして、些細な違和感などきれいさっぱり忘れてしまったらしく、そんな無茶苦茶なことを言い出していた。

 

「え、えぇ~?」

 

困惑するゆかりを置いてけぼりにして勝手に意気投合した二人が早速計画を立てようとした丁度その時、例の胡散臭い関西弁が割り込んだ。

 

「ちょっと待ちぃな! 盛り上がるんは結構やけど、勝負の結果ははっきりさせて貰わんと困るでー」

 

三人が声の方へ視線を向けると、琴葉茜がペンを持った手でビシィとこっちを指さしていた。

完全に勝負の事を忘れていたらしい二人はさっきまでの息ピッタリだったのから一転、距離をとって互いに不敵な笑みを浮かべる。

 

「マキ先輩……認めましょう今日の勝負は完敗だと。ですが、明日の勝負で私こそゆかりおねえちゃんの一番だって教えてあげます!」

 

「何言ってるのさ、勝負の流れに乗ってるのもゆかりんの一番も僕なんだから、明日はその事を思い知らせてあげるよ」

 

いつものように火花を散らし始める二人を見て茜はにやりと嗤う。

 

「そうや、その意気やで! ほら、ゆかりも今日の結果をバシーッと言ったってな」

 

「え、あ……っと、あかりちゃんが負けを認めてますし、マキさんの勝ち……ってことでいいんですよね?」

 

「本人らが納得しとるんやからもっとハッキリ言ったらんかい」

 

「ま、マキさんの勝ちです!」

 

茜に言われるがままゆかりがジャッジを下すと、茜は「うむ」と満足そうに頷いて

 

「ほな、これで勝負は一勝一敗、明日のゲーム勝負で運命が決する訳やけど、二人とも勝負内容を聞く準備はOKか?」

 

マキとあかりは瞳に闘志を灯したまま首肯する。

 

「おっしゃ、それなら発表するで勝負名――ふぐぉっ!?」

 

勿体付けて茜が続けようとしたその瞬間、彼女は突如泡を吹いてそのまま顔面から床にぶっ倒れた。そしてその後ろから手刀をさっきまで茜の首があった高さに構えた葵が現れる。

 

「ネーミングセンスのかけらもない勝負名をつけない、という約束も守れないバカ姉が失礼しました。不肖の姉に代わって、私が明日の勝負内容をお伝えします」

 

「いやそれどころじゃないですよね!? 茜さん、茜さーん! 生きてます?!」

 

ゆかりの絶叫が屋上に響き渡った。

 

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