「というわけでここまで一勝一敗や! っちゅー訳で運命を決する三戦目! さぁ結月っちゃんは何を選ぶんや?!」
まるで司会者のように大げさな身振りの茜は、マキとあかりの真剣な眼差しを向けられているゆかりへとエアマイクを向ける。
「え、えー……。皆さん、そんなに見られると私の方が緊張してしまうんですが……」
カメラ越しの葵も含めて四人の視線を受けて、ゆかりは苦笑する。
「何言ってるんですか! 絶対私の方が緊張してますから! だってお姉ちゃんの選んだゲームで結果が決まっちゃうんですよ?」
「そうだよゆかりん! それで、一体何で勝負すればいいのさ」
意図していたのとは逆にずいっ、と二人に近づかれてゆかりは両手を上げて仰け反る。
「えーと、それはですね…………」
「……まさか結月っちゃん、今まで時間あって決めてないとかはないよな?」
「い、いやーまさか二人が楽しそうにゲームしてたらいてもたってもいられなくなって自分もゲームに熱中して全然考えてないとかそういう事は全くないんですよ?」
茜の指摘にゆかりは一瞬固まって露骨に目を逸らす。
しかし、その視線を先回りするように葵が素早く割り込んだ。
「わぁ、久しぶりに私以上の棒読みに出会えて感激しますね」
「いや! 葵さんの方が絶対棒読みですって――あ」
ゆかりは思わず葵に突っ込むが、そこでようやく自分に向けられているどんよりとした四つの目に気づいた。
「ゆかり~ん……。まさか本当に何も考えてなかったんだ……?」
「……ちょっとだけ、ほんのちょ~~っとだけですけど、お姉ちゃんに対する敬意が下がった気がします……」
いつもは自分に対して好意以外を向けることのない二人のどろっとした視線に、ゆかりも反省したらしい。
「うぅ……すいません、二人が真剣に勝負してたのに……。分かりました! 最後の勝負こそ、二人の雄姿を最後までしっかり見守ります!!」
「言うて自分、またどうせじっとしとれんで、ふらーっとゲームしに行くんちゃうんか?」
割とマジトーンな茜の突っ込みに頷くマキとあかり。
「うっ…………。そうだ! それなら最後の勝負、あれなんかどうでしょう!」
追い詰められたゆかりが指したのはゲームセンターに一台しかないエアホッケーの台だった。
「なるほど。これなら一台しかないですし、お姉ちゃんがじっとしてられなくても大丈夫ですね」
「だね、何だったら茜さんにでも捕まえて貰ってればいいし」
だが、それを聞いたゆかりはチッチッチと指を振る。
「違いますよ二人とも。今回エアホッケーをするのは、私とマキさんあかりちゃんペアの三人です!」
「「?」」
それだと勝負にならないのではと首をかしげる二人に対して、一人その意図を理解した茜がくっくっくと笑う。
「なるほどな、確かにそれやったら嫌でも二人の雄姿を最後まで見守ることになるわな。勝負内容は、どっちがより多くゆかりさんからポイントを取れるかってところかいな?」
「そうですそうです! さぁ二人とも行きますよ!!」
マキとあかりに確認もとらず、ゆかりは軽快な足取りで一人先にホッケー台へと向かって行く。
残された二人は視線を交わし、思わず何方ともなくくすりと笑ってしまう。
「ふふっ、お姉ちゃんがゲーム大好きで強引なのは昔から変わらないですね」
「ふっ。やっぱあれ、昔からなんだ」
「ええ、私がアメリカに行く前だって、思い出作りに~とか言って徹夜で付き合わされましたからね?」
「もう! 二人とも何話し込んでるんですか!! 早く早く!」
もう勝負なんか覚えてなさそうな結月ゆかりに急かされるまま、二人は彼女と反対側に立ちスマッシャーを握る。
そしてそんな三人を遠巻きに、ゆかりのガンシューティングを見ていた群衆が「次はホッケーか」「今度はどんな試合が見れるんだろうな」「いや流石にホッケーで魅せるようなプレイなんかできっこないだろ」と勝手なことを言いながら囲んだ。
「それじゃあ行きますよ……第三勝負よーい、スタート!!」
「あっ! それウチのセリフや!!」
群衆の最前列に陣取るのに手間取ってタイミングを逃した茜の叫びと共に、ゆかりの陣地へパックが滑り出る。ゆかり先行かと緊張して構えを取るあかりとマキだったが、ゆかりはそれをスマッシャーで上から押して捕まえ、ふんわり二人の陣地へ投げ込んだ。
「そちらからどうぞ」
いつも通りのにこやかな笑み。だがその背後に浮かぶオーラは、某野菜っぽい星人がスーパーなモードになるときのアレである。
「じゃあどっちからいきますか――ってあー!」
「ごめんねあかりちゃん、でもどう考えてもこれはこっちに来たから……ねっ!」
あかりより長い腕を活かして攻撃権を得たマキは、ゆかりのゴールへ真っすぐパックを打ち込む。だが、僅かに彼女が横へ動かしたスマッシャーにより得点を阻まれ――
「あぁっ?!」
横壁の間を跳ね回るように返されたパックが、マキの握るスマッシャーを薄皮一枚裏側を掠るようにして二人のゴールへ飛び込む。
「直撃狙いは奇策としてはありですが、ホッケーの定石は壁での反射ですよ?」
うぐぐ……と言葉に詰まるマキに代わり、次はあかりがフィールドへと滑り出てきたパックを打ち込んだ。
「そういう事なら……!」
あかりの打ったパックはカカッと二回反射し、的確にゴールへ走る。が――
「甘いっ!!」
またも少しだけ動かされたゆかりのスマッシャーにゴールを阻まれたパックは、潰れた四角を描くよう四辺の壁を跳ね回り――
カコーン!
「わわっ?!」
あかりがゴールをブロックしようと動かしたスマッシャーとの反射でオウンゴールしてしまう。
「ふふ、焦りすぎですよあかりちゃん。今のは下手に動かしてなければ入っていませんでしたよ?」
本当にただ純粋に楽しそうに微笑みを絶やさないゆかりに群衆が唸る。
「すげぇな。今の口ぶりからすると、反射させてからゴールまでの軌道を完全に読んでたって事だろ?」
「まっさかぁ。あんなのいくら紫のでも、あんな何度も反射させた軌道まで読めるかよ。俺らだって適当に打てばあんな感じで跳ね返るだろ?」
「いやでも――」
だが、そんなざわめきにも二人の耳には入っていない。
そんな余裕すら二人にはなかったのだ。
視線すら合わせず……否合わせる余裕すらもなく、二人は短く言葉を交わす。
「……マキさん。勝負を捨てるわけではないですが、協力できる限りは協力しませんか?」
「うん、確かにそうしないと一点すら入れられなさそうだしね……」
マキVSあかりからマキ&あかりVSゆかりとなった勝負が幕を開けた。
力強くマキによって打たれたパックが派手な音と共に壁で跳弾し、狙いすまされたあかりのショットが反射によって複雑な幾何学模様を描く。
時に正面から時に裏側から、奇策と言われた直撃狙いや自陣地へ帰ってくるようなフェイントを入れた反射、二人はありとあらゆる手でゴールを狙った。
――だが。
おぉぉっ!!
二人のゴールにパックが叩き込まれると同時、観衆から得点を知らせる電子音をかき消すほどのざわめきが起こった。
「やっぱまぐれなんかじゃ無ぇって! だって今まで全部一撃だぜ?」
「……ま、マジかよ」
そう、一撃。二人の攻撃をすべて一撃で返した上で確実に一点入れるというリターンエースでゆかりはパーフェクトゲームを演じていた。
「あの二人も戦いの中でガンガン成長してるけど……あれは相手がなぁ」
「ふふ、フハハハハ! そうだ、自らの友にすら容赦のないその苛烈な攻め、残酷なまでの技巧ッ! やはり結月殿は悪魔の名を冠すに相応しい……」
未来予知に迫る弾道予測と、スナップを効かせた最小の動きで最大の威力を出す独自の打ち方、更には擦らせるようにして回転をかけられた変則ショット。
精密機械が如きゆかりのパック捌きによって、スコアボードの表示は二十対ゼロ。二人はゆかり一人相手にいまだ一点すら入れられてなかった。
「嘘、でしょ……」
「やっぱりお姉ちゃんはゲームが絡むとおかしいですね」
大ぶりなせいで息の上がってきたマキと、反射を考えすぎて知恵熱で額に汗を浮かべるあかり。それに対しゆかりは汗一つ浮かべず呼吸一つ乱さない。
その光景はまさに――
「なんか負けイベントで魔王に挑む勇者の構図だよな、これ……」
「だ、だれが魔王ですか!!」
「今っ!!」
群衆からの突っ込みにゆかりが抗議のために後ろを振り向いたのに合わせ、あかりが最短距離でゴールへ向かってパックを放つ。
カコーン!
だが軽快な音と共にパックが入ったのは、マキとあかりのゴールだった。
「な、何で……?」
後ろを向いていたはずなのにと絶望に表情が染まるあかりに対し、ゆかりはにこりと笑う。
「昔ゲームをしたときあかりちゃんの『あ、UFO!』で騙されてから、不意打ちには特に気を付けてますから」
「あ……!」
言われてそんなこともあったなと思い出したあかりは、次いでまさか子供時代のいじらしい一度限りの反撃を覚えていて、しかもそれに対して今日まで警戒していたのかと、ゆかりのゲームと勝利に対する恐るべき執念に唾を呑んだ。
そしてそれと同時残り三十秒のブザーが鳴り響き、真のワンサイドゲームが始まる。
『クアドラプルタイム!』
ホッケーの機械音声が宣言すると同時に三つの追加パックが滑り出て、盤上を四つのパックがちょろちょろと動き回る。
それは本来僅差を覆すためのチャンスモードにして、大負けている側でもゲームを楽しんでもらうためのお祭りモード。
……の筈だった。
「さぁ、それじゃあ本当のホッケーを始めましょうか! マキさん! あかりちゃん!」
おい待てじゃあ今までのは何だったんだと、誰かが突っ込む間もなく、ゆかりは残像が尾を引くような高速で四つのパックを弾く。
パックは今までのように壁で反射し直線的な軌道を描き――そして今までと違って回転を加えられたパック同士でぶつかることで、まるで風に舞う花弁のように有機的な動きを見せる。
「奥義ッ! 乱れ桜花!!」
カカカカコーンと、幻惑するような軌道で盤上を舞うパックが続けざまに二人のゴールへ雪崩こんだ。
おおおぉぉぉぉ!!
今日一番の群衆のざわめきと熱狂。
そしてそれをかき消す勢いで二人は叫んだ。
「「こんなのどうしろっていうのさ(んですか)!!」
……悲鳴で声だけでなく思いもそろった二人はその後も必死の抵抗を繰り返した。
もう勝負など関係ない完全な協力体制での抵抗、だがその努力も虚しくタイムアップを迎えたとき、スコアボードには非情かつ非常な六十二対ゼロという表示が輝いていたのだった。
「はーい……っちゅー訳で、どこぞのアホがワンサイドゲーム繰り広げよったんで、延長戦やるでー」
見ていただけの筈だがそれでも疲れたように元気のない茜の声で、ゆかりが申し訳なさそうに人差し指を突き合わせる。
「すいません……つい熱中してしまって」
「本当だよ……。まぁ、ゆかりんらしいといえばゆかりんらしいけどさ」
「ですね。熱中すると周りが見えなくなるんですから、次はお姉ちゃんとの対戦形式はやめてくださいよ?」
「うぅ、本当に面目ありません……」
流石のマキとあかりも今回ばかりは味方せず、ゆかりはしょぼーんと肩を落とした。
「ほれほれ、落ちこんどる暇はないで。改めて今度こそちゃんと勝負になりそうなのを選んでや?」
「痛たたた?! わ、分かりましたからちょっとは手加減してくださいよ!?」
バシバシと遠慮のない茜の励まし(?)に、ゆかりは顔を上げて周囲をぐるりと見渡す。
「うーん、そうですねぇ…………だとするとやっぱりスコアが出るものが分かりやすいですかね? だけど二人とも得意なものは違うし、なるべくフェアな勝負にするには……」
考えが煮詰まって来たのか、独り言というには少し大きな声でつぶやいていたゆかりの視線が一点で止まる。
「そういえばあかりちゃん、確かドラムマスタープレイヤーでしたよね?」
「え? うん。 あ! でも最近プレイし始めただけだからそんなにうまくはないからね?!」
「分かってますよ。……それでマキさんはバンドのギターボーカル、と」
「いや、それはそうだけどさぁ。リアルの楽器ができるからってゲームができるわけじゃないよ?」
ゆかりの視線が、ギター&ドラムマスター、通称ギタドラと呼ばれるセッション可能な音ゲーに向いているのに気づいたマキは、そう釘を刺す。
しかしゆかりは「だからこそです!」と声量を上げた。
「あかりちゃんはゲームプレーヤーだけど初心者、マキさんはゲーム未経験者だけど実楽器経験あり。条件は違いますが、実力としてはいい感じのバランスだと思いますよ?」
やたら自信満々なゆかりに二人は顔を見合わせる。
「……あかりちゃんは本当に初心者なんだよね?」
「うん。……そういうマキさんこそ本当にプレイしたことないんですよね?」
「まぁ別にゲームじゃなくて本物が弾けるしねぇ……」
同じ曲をプレイするとは言えギターとドラム、ゲーム性は違う訳で無条件にいい勝負とは言えないが、リアル未経験のゲーム初心者とリアル熟練のゲーム未プレイ。考えてみれば、確かにこれ以上に結果が予想できないフェアな勝負は無いのかもしれない。
そう結論付けた二人は、いまだ三人+二人を緩やかに取り囲む群衆を割って、決着をつけるためセッション用のゲーム筐体をはさんで向かい合った。
「そういえば、曲選択はどうするんですか?」
スティックをくるりと回して、手ならしにドラムを叩きながらあかりが尋ねると、操作を確認していたマキが答える。
「あー、こういうのって一プレイ二曲とかなんでしょ? じゃあ一曲ずつ選ぶ?」
「ふふ、そこは私がチョイスさせてもらいます!」
ゆかりの声に二人が振り向くと、ゆかりはギタドラから少し離れたところの、太鼓の音ゲーの陰に置かれている少し古そうなゲーム筐体の前に腰掛けるところだった。
「えー……。ゆかりんがゲーム見てるとじっとしてられないのはもう諦めてるけどさ、それでも最初くらい見ててくれてもよくない?」
「ふふふ、まぁまぁマキさん、大丈夫ですよ。しっかり二人の勇姿は最後まで見てますから」
マキの不満そうな声を歯牙にもかけず、ゆかりは硬貨を投入してゲーム画面へ向かう。
と、二人のギタドラの画面に『セッションプレイヤー参加』と表示された。
「え? 何これ?」
初心者とは言え経験者のあかりですら初めて見る表示に戸惑っていると、群衆の一人が興奮したような声を上げる。
「おお! あれはキーボードマスター! って事はマスターシリーズのフルセッションじゃねえか! 初めて見たぜ!」
「キ、キーボードマスター?」
思わず振り返って尋ねたあかりと興味深そうに筐体裏から身を乗り出すマキの視線を受けて、彼は頷く。
「そう、かつてマスターシリーズは今のギターとドラムの他にキーボードがあったんだ。俺は下手だったけど、上手い奴がプレイすると本当に演奏してるみたいでカッコ良くて、見てるだけでも楽しくてな……。だが、実際のキーボードを模したことによる圧倒的なキー数と、それによる高すぎる難易度。それらのせいでプレイヤーがほぼおらず、僅か三代、一年でほとんどのゲーセンから姿を消してしまった幻の音ゲーよ。まさかその筐体を、そしてプレイをまた見ることが出来るとは思ってなかったぜ……」
「そんなものがあったんですね……」
説明を聞いたあかりが視線をゆかりへ向けると、ゆかりは振り向いてとっておきのおもちゃを取り出す子供のような満面の笑顔を浮かべた。
「まさか私も知ってる人がいるとは思いませんでしたね……。一番大好きな音ゲーでしたから.、オーナーに頼み込んで残してもらったんです。残念ながらもう新曲の更新が来ることはありませんけど……」
そこでゆかりは胸を張ると右手を胸に、左手を先ほどの彼に向ける。
「折角なので、そこのお兄さん! 元プレイヤーのよしみで何か曲のオーダーはありますか?」
「お、いいのかい? じゃあ嬢ちゃん他のゲームを見るに結構な腕前そうだし、例の最高難易度と言われたアレとかいけるかい?」
「ああアレですね! 勿論です! このゆかりさんにお任せです!」
「ちょ、ゆかりん! 僕これやったことないって言ったじゃん?!」
「わ、私だって初心者なんですからね?!」
最高難易度と聞いて焦る二人の制止も届かず、画面には「Ready?」の文字が浮かんだ。
「ああもう! こうなったらぶっつけ本番でやってやる!」
「ぐ、マキ先輩までやけに……それなら私だって、散々お姉ちゃんに引っ張りまわされた実力見せてやりますよ!」
やけくそ気味に二人はギターとスティックを構えた。
「さぁ! あかりちゃん、マキさん! 行きますよ!」
――――「なぁ葵、これはもうゲーム勝負じゃないやんな。全く、ウチらは一体何を見せられとるんやろなぁ」
三人を取り囲む群衆から少し離れて、茜はもう何曲目か忘れてしまった三人のプレイングを眺めながら、同じ光景をレンズ越しに見る妹へ声をかける。
「そうですね、強いて言うならライブもどきでしょうか?」
マスターシリーズの特徴である、実際の楽器に近く作られ、音符以外でもちゃんと音が出るという仕様。それを利用しゲームの譜面をしっかり押さえながら追加でアレンジまで加えて弾いているゆかりと、それにヒィヒィ言いながらも楽しそうに合わせる二人。最初は最高難易度に手も足も出ず地を這うようだったスコアグラフも、今やクリアラインを超えていて、聞けるプレイングは出来ている。
周りを取り囲む群衆ももうゲームを見に来ているというより、ゲリラライブに出くわしたファンのごとく、あるものは聞き惚れ、あるものは曲の合間に歓声を入れ、あるものはスマホを構え、と各々盛り上がっていた。
「やよなぁ……全く、折角の計画も誰かさんの暴走で台無しやで」
「と、いう割には随分楽しそうに見えるのは私の気のせいでしょうか?」
葵の言葉通り茜は隠すでもなく、くっくっと笑っていた。
「いやいやいや。そら楽しくない訳があらへんやろ? 自分の計画や予想通りにしか動かん現実なんてつまらんモンよ。しかもきっちり二人は勝負の事なんか頭から吹っ飛んでそうやしなぁ」
「そう言いつつ、一番この状況を面白がって一番最初に勝負を忘れてたのは姉さんですけどね」
「う。し、しゃーないやろ! 確かに結果をあやふやにするっていう手筈やったけど、まさかこんな形で回りまで巻き込んでしてくるとはウチだって思っとらんかったんやから! 第一そういう葵はどうやねん、勝った方負けた方確認しとるんか?」
「ええ、それはもう……」
と、何気なくデジタルカメラを確認して最初のプレイ時のスコアを確認しようとした葵だったが、不意を突いて伸びてきた茜の手に液晶を隠されてしまう。
「勿論、カンニングはなしやでー」
むぅ、と僅かに唸った葵だったが、にやにや顔の茜に降参する気にはならなかったのかしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「勝った方は置いておいて、負けた方ならわかりますが」
「ほん?」
負けた方が分かるなら勝った方もわかるやろ、と茜が突っ込む前に、姉だけがわかる程度にいつもより早口で葵は続ける。
「昔から言われているじゃないですか『惚れた方が負け』だと」
「はっはっは、っちゅう事は二人とも負けって事か! なるほどなるほど、葵も苦し紛れにしては的確な事言うやんか」
「……別に、苦し紛れなんかではありません」
「なんやん、そんなむくれんでもええやんかぁ」
茜はぷい、と無表情で顔をそむける葵の頭を捕まえひとしきりぐりぐり撫でまわし、それからニヤリとした笑みを三人へと向けた。
「まぁ、ウチらとしては本当に百点満点の展開よ、なぁ?」
「ええ、全く」