「カヲル…君…?」
見上げる先にはネルフ本部で短い時間だが共に過ごした友達がいた。だが、彼は死んだはずだ。黒波みたいな存在なのか…?シンジは疑心暗鬼に陥った。
「心配しないで。僕は僕さ。彼女たちと面白おかしく過ごしたカヲルだよ」
…君のことをちゃんと覚えているよと、その言葉がシンジを優しく包んだ。
「本当にカヲル君なんだね…。どうしてここに?」
「我儘な子に救われてね…彼女の仲間が僕をここに戻してくれたのさ。リリスの影響かこんな不安定な存在だけどね」
「もしかして…あの人…?」
「そう。自ら人に堕ちた天使さ」
カヲルは彼女のことを思い出す。
ここにいる使徒たちはとても個性に溢れていた。生命の実が欠けたからか、知恵の欠片があるからか。今ではその理由は知ることもできない。だが、お別れとはどういうことなのか。彼らに聞いてみたら、かなりおかし、面白いことを計画していたようだ。
魂だけではこの世界で動けない。肉体が必要だ。使徒たちはそれを作り出すことが可能だという。最後に会った時に寂しそうな表情をしていたのを見抜ければよかった。おそらく使徒たちは消えてしまったんだろう。僕をここに戻すために。リリスが僕を消そうと必死になっている。ここまで不安定にされてしまった。我ながらふがいない…。
僕がここにいるのは意味があるはずだ。彼らの行動を無駄にするな。
「彼女は彼女なりに目的のために行動している。シンジ君の父上もね。君はどうだい、碇シンジ君?」
意地の悪い質問だと思う。逃げるなと伝えた方が幾分か楽だろう。何度も選択肢を間違え、多くのものを彼は失った。彼に償いの機会を与えたつもりがさらに罪を重ねさせてしまった。…僕は本当にシンジ君を幸せにできるのだろうか。
「うん。もう、逃げない」
…まいったな。どうやら僕は君に惚れ直してしまったようだ。
「そうか…。成長したねシンジ君」
「いや、そんなことないよ。僕はただ、気付かされただけなんだ」
「それは何だい?」
「自分のことも、大人になることも、本当は全部自分で気づくべきだったんだ」
僕にはそれができなかったから手を貸してもらったんだと彼は言う。
彼は立ち上がり、空を見上げる。幼さを残しつつもその横顔は彼の父上にそっくりだ。罪滅ぼしの為に彼がそのような行動をとらないとは言えない。だが、そのような目的のために行動はしないと直感した。本当に…彼は色んな意味で大人になった。
「…もう儀式が始まろうとしている。急ごうシンジ君」
「うん。行こう」
赤い大地をけり、僕らは走った。
黒き月の周辺には大量の量産機がおり、黒き月上部ではエヴァンゲリオン第13号機が十字架に吊り上げられている。すでにヴィレとネルフの戦闘は始まっており赤い機体が量産機を薙ぎ払っているのが分かる。
ヴンダーはダメージを受けているのか機体が傾いている。
「主翼損害率60%!このままだと墜落します!」
「応急処置急いで!!ミサト!」
「主機全力運転!マリ!そっちの状況は!?」
『どーもこーも、アダムスの器と使徒擬きだらけで撃ち落としてもすぐ戻ってきてジリ貧~』
ヴンダーの格納庫から狙撃し続けるマリは愚痴を漏らす。赤い大地を埋め尽くす量産機と再生するアダムスの器相手に並の兵装では意味がない。
「主砲、反転弾装填!誤差修正は0.0001!撃てぇ!はぁ⁉よけた⁉こいつらおかしいでしょ!?」
「泣言いう前に精度上げろ!北上!」
「上げてますよぉ!!」
「エネルギーは常に最大値だ!なに!?サブエンジンが燃えるって?馬鹿野郎!そん時は覚悟を決めな!」
ヴンダーは全力運転で飛行している。そうしなければ翼を持つ相手にすぐに追いつかれ最悪、乗っ取られてしまうからだ。
そして、次々景色が変わる主モニターに警報と共に赤色が追加される。
「目標から高エネルギー反応複数!!」
「弾倉切り替え!エネルギー弾装填!全力運転、ゴースター!!」
「ゴースター!ヨーソロー!」
即座に反応した船員によりヴンダーが直立、浮上した瞬間レーザーがヴンダーの真下を通過した。
「舵そのまま。撃てぇ!!」
砲撃は命中し目標を離脱させることはできたが、殲滅できたわけではない。
「目標の反応、索敵可能範囲内に確認できません」
『こっちも確認できない。なんつー速さ』
どうやら2号機殲滅に向かったようだ。そこに黒波から報告が入る。
『こちら黒波。さらに目標が増えた。このままだと第13号機にたどり着く前に機体と砲台が壊れそう』
『このアホ波!私ごと撃つな!』
『でもこの通常兵器だと完全にATフィールド抜けない。接近して中和してもらわないと』
『私もATフィールド展開できないからやばいのよ!つーか、『JA』を通常兵器扱いすんな!』
アスカは改装されたエヴァ2号機をもって殲滅作戦を執行している。そのサポートに黒波が抜擢された。その理由は1人で『JA』兵器を扱えるからだ。
『JA』は威力は抜群だ作動におそろしく時間がかかり、手順を間違えると暴発という困った兵器だ。通常、エヴァの手で使われる兵器を彼女はコンピューター制御を使っているとはいえ、単独で操作し扱うことができる。
いわゆる、高性能な移動式砲台だ。それを潰そうと量産機が集結するがそれはアスカが狙いやすくなるだけだ。そもそも、量産機が固定砲台にたどり着くよりも黒波の砲撃の方が断然早い。
「目標離脱…?」
雪崩のように襲い掛かる量産機達は黒き月周辺に戻り始めたのだ。ヴンダーを襲っていたアダムスの器は第13号機の周りを旋回している。
瞬間、空は大地と同じ色に染められる。
「はぁ!?ガフの扉すら開いてないじゃない!なんで儀式が始まってんのよ!?」
大きな物事をする際には計画と入念な準備、方法が必要だ。この人類補完計画もそれを発動させる方法が存在する。だが、それは今のような準備や道具すらなく絶滅プログラムが始まるわけがない。
つまり、これはインパクトではない。
第十三号機の拘束具が破壊され、その手足が自由となる。足元に集結する量産機はまるで第13号機にすがっているようにみえる。
二体のアダムスの器がその身体を巨大なコアに変化させ、それぞれがロンギヌスの槍に纏わりついていく。
「覚醒…いや!擬似シン化よりもでもない⁉︎これって…!」
『シン化エネルギーがフォースよりも高い…⁉儀式でもないのにありえないわ‼︎』
異常な数値を叩き出す機器に対して今後の予測モデルを作成していく。そこで得られた答えは…人類はおろか、既存の生物は一切存在しない可能性があった。
『AAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!』
咆哮
第13号機を封印していた二本の槍が引き抜かれる。ロンギヌスの槍が赤く光り、どこからともなく鐘の音が響いてくる。
「何よ…これ…」
最後の執行者を肉とし、始まりの神が復活する。それは新たなる福音を広げ世界を変える。
『最後の審判といったところか。世界の終わりは神自ら行う。全くもって迷惑な話ね』
「…封印呪詛を全て破棄!主機全力運転!」
『「「了解!」」』
ヴンダー乗組員は即座に対応し神殺しの兵装を展開していく。アスカ、マリ、黒波もまた、行動に移っていく。八号機はヴンダーから降り二号機と合流しヴンダーの援護に回る。しかし、第13号機もヴンダーが自分に害をなす存在だとわかっている。
「GAAAAAaaaaaaaaa!!!」
「目標周辺から高エネルギー反応多数…は?…反応数数十万以上⁉」
「長良!」
「了解‼」
計測器に量産機やインフィニティたちからも高エネルギー反応が表れた表示には誰も反応することが出来なかった。
『黒波!乗りなさい!』
『こりゃあ…不味いわね…』
『『ATフィールド全開!』』
光が溢れ、世界がぶれた。
元々ボロボロだったネルフ本部はジオフロント諸共吹き飛ばされていた。かろうじて分厚い装甲に守られた場所に二人の男がいた。
「…やられたな。神がこうも強引に復活してくるとは。その上、頭も回る。自分の障害になるものを自らの肉体にしたか」
冬月がぼそりと呟く。口調に焦りは見えないが、額には汗がにじんでいる。ゲンドウも相槌を打つ間もなくただその光景を眺めている。
「詰みだな…どうする碇。もう神殺しの艦でもアレは殺せんぞ」
ただ沈黙を保つだけのゲンドウは唐突に立ち上がり、どこかへ向かう。
「…奴を迎えに行く」
「…今更か。息子が受け入れるかはわからぬぞ」
そもそも、生きているかさえ不明だ。
「だが、この現状を打破するには奴が必要だ」
ゲンドウはそう言い捨て歩みを進めるがふと、足が止まる。
「まったく…本当に困った家族だ」
そういうと冬月はゲンドウに何かを投げ渡した。ゲンドウが拳を開くとそこには古ぼけたキーがあった。
「年を取るとな、ボケないように趣味を増やすものなんだよ」
臆病者だから、結局一度も乗っていないがねと愚痴をこぼしながら冬月は戻っていった。ゲンドウはこのやり取りを昔に体験したような気がした。
「確か…ユイを迎えに行く時もそんな台詞を言っていましたね。感謝します…冬月先生」
そして、ネルフ本部には冬月のみを残すのみとなった。
願いのために魂さえ捧げる覚悟を持った男がその願いを潰された時どうなるだろうか。
心が折れて廃人となるのか、全てを諦めるのか。
否
その程度のことであの男が膝を屈するわけがない。
もしその様な男ならば、こんな世界になる道理もない、愛する妻のクローンを造る訳がない。
残された家族に対してあそこまで冷徹になれるはずがない。
30年以上前も同じ様にこうして空を眺めていた。そう、アクセルをべた踏みしているのが丸わかりな騒音を耳にしながら、こう零したのだったな。
「男というものはな、愛する者のためならば何処までも馬鹿になる」
そして、父親というというものは…
ひどく不器用なんだよ。
あの男は特にな。
ああ、意識が朦朧とする。目を開けると黒波が額から血を流してコックピットの端に倒れていた。自分の額を触って見ると赤い線がLCLに溶けていった。機体は何とか無事だが目の前にはヴンダーの残骸が転がっている。咄嗟に私達の間に入ってきたのを思い出した。
「馬鹿。結局甘いじゃないのよミサト…」
『神殺しであれを殺せるとは思えないにゃー』
コネメガネから通信が入る。相変わらずしぶとい奴だこと。
「うっ…」
「お互い、悪運が強いわね」
『原型が残っているだけでも幸運だと思うけどね』
マリが示す先にはインフィニティの残骸しかなかった。地面を覆うほどにいたはずだが奴はそれをすべて爆発させて辺り一帯を波状攻撃したようだ。また、自転が変化したのか夜の帳がおりていた。ただの夜じゃない。月だけではなく星も近い。
それは世界の寿命が尽きようとしている証拠でもあった。
第13号機は上空に佇んでおり、再びガフの扉を開けようとしている。第13号機の周りには赤い粒子が旋回しており神聖で不気味な雰囲気を放っている。
『アレ相手に私達が戦うの?姫がよくやるくそげーじゃない?』
確かにそうだが私達があれを止められる人物は思いつかない。…いや、二人ほどよく知った顔が頭をよぎったがどちらもここにはいない。
人生が終わる前に聞いておきたいことをアスカは思い出した。
「アンタはあいつらのこと、どう思っているのよ」
アスカが黒波に質問を投げかける。疑問だったのだ。シンジとぱち波が姿を消して黒波はどう思っているのか。黒波は考えるそぶりを見せる。
「碇君は友達。…とても純粋で優しい人だと思う」
「…ふーん…ぱち波は?」
「愛しい人」
即答だった。
「彼女は私を変えてくれた。もう一人の綾波レイが碇君と触れ合って変わったように」
黒波は真っ直ぐにアスカの青い目を見てそう言った。その姿は人形には程遠く、人と呼べる存在に近かった。
「貴女も変わったんじゃない?」
「…そうね」
『二人共~そろそろおしゃべりは終わりにして、現状をどうにかしようかにゃ』
生体反応は…良かった…多少残っているわね。にしても、
「どうにかしろって言ったってどうにか出来る未来がみえないわね」
「第13号機は既にガフの扉を開きかけてる。ファイナルインパクトまで時間が無い」
…覚悟を決めなきゃね。アイツの助けなんていらない。
「総員戦闘準備!目標は第13号機!コネメガネは射撃で援護、黒波は…「弐号機とシンクロできた」…私のサポートで。行くわよ!」
『「了解!」』
本当は
私は弱くなった。
なぜなら、誰かと一緒じゃないと私は戦えなくなったから。私は一人でも平気だ。一人で戦えた。その筈だった。
バカシンジと関わって誰かといるのも悪くないと思ってしまった。世界がこんな風になるまで結局、私は一人を選ばなかった。
そうなったのは全部バカシンジのせいだ。バカにしてひっぱたいてやると心に決めている。
だから、
はやく戻って来てよ
ぱち波の霊圧が…消えた…?
アスカはエヴァンゲリオンの中で一番シンジを理解できると思う。綾波は教えられる立場って感じが強い。さっさとアスカと綾波を助けて圧倒的ハッピーエンドがみたい。