貴方の隣でぽかぽかしていたい(切実)   作:茜色のLily

12 / 18
微妙に長くなったので分けました。そろそろ終わる予定…多分きっとメイビー。

誤字脱字報告感謝です。装甲板がほぼ無くなって寒いですが頑張ります。では、どうぞ。


消えないものを抱えて

僕たちはインパクトの爆心地に向かっていた。途中、使徒が形状崩壊したときのような爆発が何重にも重なったような衝撃が響いてきた。カヲル君がATフィールドで守ってくれたけど、かなり深刻な事態になっているようだった。

 

彼女達の顔が頭をよぎり、僕は走る足の力を入れて強く地面を蹴る。全く運動していないと言ってもいい僕はすぐに息があがってしまう。それでも足は止めなかった。そうしなければ追い付けないと思ったから。

 

「シンジ君!」

 

カヲル君が警告した瞬間、目の前に赤い首なしの機体が現れた。その機体は首だけではなく下半身がない状態だった。

 

最悪なのはシンジを潰してしまえるほどの力をその機体は持っていたことだ。赤い手をシンジに向けて伸ばしてくるインフィニティ。カヲルが何とかしようとするが、距離が足りない。

 

『…邪魔だ』

 

人工的な光がシンジたちを照らした瞬間、凄まじいエンジン音を響かせた車がインフィニティの腕に体当たりを食らわせた。丁度、その腕がインフィニティの体を支える柱となっていたため、インフィニティはバランスを崩し転倒した。赤い粉塵が舞う中で、車からは見知った人物が降りてきた。

 

「…父さん…」

 

「………」

 

二人の間に流れる沈黙は長くはなかったが、どちらも相手の変化を感じ取っていた。

 

「…乗れ。時間が無い」

 

ゲンドウはそう言い捨て運転席に乗り込む。

 

言いたいことは沢山あったが確かに時間が無い。シンジは助手席に乗り込む。カヲルはゲンドウの登場に驚いているのかシンジとゲンドウに対して視線を行き来している。

 

「行こう。カヲル君」

 

「いいのかい…。君の父上は…」

 

「許したわけではないけど、そうも言ってられない」

 

車内は沈黙が流れているが僕にとっては父さんと一緒に車に乗っていること自体が新鮮だった。記憶を探って見ても父さんと車に乗った事は僕が覚えている範囲ではない。

 

父さんの運転はお世辞にも上手いといえなかった。ミサトさんの方が揺れとかが少なかった。でも、その強い振動が懐かしいと体が訴えている。

 

「…お前はなぜここにいる」

 

低い声により沈黙が破られた

 

「お前を利用した。今回もそうだ」

 

「逃げ出したお前がここにいる理由はなんだ」

 

逃げ出したのは僕が怖がっていただけだった。失うのが怖かったから変われなかった。

 

だから、逃げ出した。

 

それをやめただけだ。これでは成長したとは言えない。成長しようと考えるようになっただけだ。

 

利用されるのはもうどうでもいい。それが逃げることにならなければ。今更僕がここにいるのは…ただ…

 

「…大切なことを教えてもらったから」

 

するりと言葉が出てきた。そうだ…助けられなかった人たちがいた。それでも…

 

「助けたい人がいる。ありがとうって言いたい人がいる。怒鳴りたい人がいる。その人たちから逃げたくない。だから、僕はここにいるんだ」

 

僕は間違えて、失敗して、許されないことをした。でも、それを理由にして立ち止まる訳にはいかない。

 

「…そうか」

 

より車の速度が上がった気がする。

 

「大人になったな…シンジ…」

 

エンジン音で聞き取りづらかったけど、確かにそう聞こえた。カヲル君はやれやれといった感じだ。また沈黙が車内を支配するが不思議と心地よかった。

 

 

 道なき道を猛スピードで走り抜け、決戦の地へたどり着いた。そこで僕が見た光景は神聖なはずなのにどこかおぞましかった。

 

その理由は怪しげな光を放つエヴァ第13号機とその頭上にある円環だろう。カヲル君が言うガフの扉よりも鮮やかな紋様で、より近寄りがたいモノを放っている。

 

そんな存在に挑む二体の巨人がいた。片方は下半身が破壊され,すでに沈黙している。もう片方は赤い人影に飲まれて殆ど視認出来ない。

 

「アスカ!!」

 

ただ、それが2号機だと気が付いた瞬間、僕は走り出していた。

 

♢♢♢

 

「いちち…いやー助かったよゼーレの秘蔵っ子君?」

 

「いや、もう僕は違うよ。優しい天使たちに救われたからね」

 

ボロボロのエントリープラグから出てきたのは身体のあちこちから血が滲みだしているマリだ。カヲルの力によって助け出されたらしい。

 

「さてと…かなりというか、もうわけわかんないことになったわね」

 

「まぁ、死海文書のどこにも載っていない存在が介入してきたからね」

 

「初めて接触した時は、アンタと同じ匂いがしたけど、次にあった時には匂いが変わっていたんだから驚きだよ」

 

「そうなるように彼女なりに考えていたということさ」

 

「ま…私はどうでもいいにゃーん…。結末は変わらないし」

 

「過程やそこに込められる思いで変わると僕は思うよ」

 

「人間擬きがよく言う」

 

「だからこそだよ。一歩遠くから見てきたからね」

 

 世界の終末においてようやく、この世界でも不思議な存在が会合を果たす。それに意味はない。全ては還元される。だが、そこの人間擬きが言ったように過程が大切だ。消える運命にある存在が必死にこの世界に刻み込んだモノを無下にするなどこの二人にはできなかった。

 

ふっとマリの髪をなでるような風が吹いた。

 

「…ここまでのようだ。後は、頼むよ」

 

揺らぎ続けていたカヲルの身体がほころび始めた。

 

「任された。…わんこ君に何か言うことはない?」

 

「いや…彼にもう僕は必要ないみたいだ。…できれば僕が幸せにしてみせたかった」

 

「そんなんだから人間擬きなのよ。お前はわんこ君の何?」

 

その言葉を聞いたカヲルは薄く微笑んで何かを言った。だが、その言葉はマリに届くことなく消えていった。

 

「はぁ~あやだやだ。年は取りたくないわー。『友達』なんて…秘蔵っ子が人間らしいこと言うなんてね。耳が遠くなったニャー」

 

焦った表情で全力で走る初号機パイロットが遠くに見えた。

 

「そーいえば、14年前も同じ顔してたわね」

 

どっこいせとどこか年を食ったような掛け声でエントリープラグによりかかる。既にエヴァ8号機は上半身の一部しか残っていない。

 

「ありがとうエヴァ8号機。お疲れ様」

 

短く別れを告げマリは瞼を閉じる。

 

思い出されるのは全ての始まった場所。我ながらよくもまあここまで持ってこれたものだ。面白い出会いもあった。秘蔵っ子と似てるけど全く違う彼女。

 

彼女の計画は認めたくはないけど人類にとって最善のものだった。

 

「あの子といい、わんこ君LOVEの子といい、なんでお前の血族は自己犠牲をするのかな」

 

独り愚痴る人影は楽しそうに揺れる。

 

「まぁいいや。やっちゃいなよ。丁度この世界に飽きてきたころだしさ」

 

彼女の翠眼はどこか遠くの夜を見つめていた。

 

♢♢♢

 

綾波の声が聞こえる。

 

その声に導かれるまま走り続けると残骸の陰に初号機が膝をつき鎮座していた。

 

「待たせてごめん」

 

「本当にそうね」

 

残骸の中から黒いプラグスーツを着た綾波が赤い煤を付けたまま出てきた。

 

「黒波…」

 

「戻ってきたのね。取り敢えず、起動するために必要な機器は何とかした。後はお願い」

 

 黒波はアスカと共に二号機に乗り込み、戦線を保ってきたが、マリが離脱し、機体の損傷も激しくアスカは黒波だけを外に放り出したのだ。もちろん、おとりにさせる訳ではない。パイロット単体で一番生存率が高いのは黒波だ。アスカはそれを見越して外に放り出したのだ。

 

『あーもう!アンタ邪魔よ!外でミサト達を探してこい!』

 

乱暴な言葉だが優しさを感じられた。離れていくときに寂しそうな眼で黒波を見ていたことに気が付いてないとでもいうのだろうか。

 

「碇君」

 

「…なに、黒波」

 

「アスカをお願い。彼女はまだ救われていないわ」

 

「分かった。絶対助けるよ」

 

「…ありがとう」

 

父さんから渡されたトランクケースを抱えながら残骸でできた梯子を上っていく。エントリープラグ内に入り、シンクロが始まる。血に近い匂いだったはずのLCLは優しい匂いに変わっていた。

 

「ただいま…母さん…綾波」

 

『プラグ深度上昇。150を突破』

 

♢♢♢

 

「碇君に会わなくてよかったんですか?」

 

「…今更どんな顔して会えばいいのよ…」

 

かすれた声で答えるのは葛城ミサトその人だ。

 

「…最後くらい声を掛けたらどうですか」

 

「…必要ない。既に言葉は交わした。俺に対するあれこれはすべてが終わってからだ」

 

平然と現れたゲンドウはそう答える。

 

「マダオ…」

 

機器を操作する黒波から出た口撃は大人達の心を的確にえぐった。

だが、この場にいる者は共通点が存在した。

 

ミサトは子供たちを

 

ゲンドウは家族を

 

黒波はどこか遠くにいる愛しい人を

 

戦う力を持たぬ者は終末に対して祈ることしかできないらしい。

 

だが、

 

彼らは祈ることはしなかった。ただ、信じているだけだ。

 

自分よりも大切な存在を。

 

 

 

 

 

父さんやカヲル君は僕が成長したと言っていたけど、本当はわからない。

 

「大人になれ」という父さんの言葉を思い出す。

 

そういう意味での大人にはなりたくないって思っていたな。父さんみたいにはなりたくなかったから。

 

でも、今なら父さんの気持ちが理解できる気がする。

 

共感はあまりしないだろうけど。

 

母さんがどんな人だったかは覚えてないから

 

確証はないけど多分、僕は父さんに似ている。

 

臆病で、弱いくせに頑固であきらめの悪い。

 

そんな僕らはそんな人間だ。

 

父さんも僕と同じように逃げていたのかもしれない。

 

僕は父さんのように意思が強いわけじゃない。

 

アスカやミサトさんに怒られたら落ち込むし泣きたくなる。

 

 

でも、

 

 

一つだけ

 

 

少なくともアスカや綾波たちを守るときなら

 

 

僕は負けたくないと思えるし自信を持てる。

 

 

僕はその程度の人間だ。

 

アスカみたいに優秀じゃない。

 

綾波みたいに優しくもない。

 

ミサトさんのように走れない。

 

父さんのように冷徹になれない。

 

僕は誰かのようになれない。

 

 

 

 

 

適当な返事が綾波に似た声で、似合わない笑顔で返された気がした。

 

僕は僕でいいとそう改めて思えた。

 

 

 

 

 

 

 




ぱち波がいないとこんなに静かなのか。次回から登場するんで石投げないで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。