黒波のあの表情で何人のアヤナミストが召されたんでしょうね?
かなりご都合だけど許して亭許して。
「珍しいですね。司令があんな茶番をするなんて」
「…分かっている…。あんなもの気休めにもならん」
シンジに向けた激励の言葉も所詮は茶番にしかならない。あれはシンジが信頼、信用している人物であるからこそ意味がある。俺が言ったところでなんの意味もない。
せめて、普通の生活をシンジに送って欲しかった。
だが、俺はシンジを利用するしか出来なかった。
いくら俺が初号機とシンクロを試みてもユイは応えてくれなかった。だから、人類補完計画をゼーレにちらつかせ、計画のためにユイの遺伝子からレイを造り、シンジを捨てた。
俺は家族のためとはいえシンジを捨て、科学研究員を利用し、世界を巻き込んだ。『家族のため』これを免罪符に掲げるほど馬鹿ではない。
俺は父親としても大人としても最低だろう。
それでも譲れないものが俺にもある。
「…全戦闘員の緊急退避」
「は?」
「全戦闘員の緊急退避だ。レイ。お前は負傷者の輸送を手伝え」
「了解」
黒波はヴィレ職員に説明し、退避を促す。負傷している者は彼女が背負い移動している。
「…シンジ君を見捨てるというの…!」
ミサトがゲンドウの襟を掴みながら抗議する。
「状況を見ろ葛城艦長。私達がここにいては奴の邪魔だ。…復活した神はどうも頭が回る」
はっきりと正論を言われ、言葉を飲み込むミサト。そこへ新たな声が加わる。
「それには賛成だにゃー。引き際を弁えてるねゲンドウ君?」
「…話は後だ8号機パイロット。いくぞ」
積もる話はあるが今はそれどころではない。速やかに退避していく職員。しかし、その姿をリリスはとらえていた。
私が乗るこのエヴァ第7号機にもう魂は存在しない。だから、機体に引きずり込まれるはずなんですが…
「普通ですね。いや普通(の状態)ではないですけど」
…あの人の魂は…よし、ちゃんとガフの部屋にありますね。
にしても、ガフの部屋の魂が少なすぎる。普通、現存していた生物の魂の数十倍はあるはずなんですけど。…あぁ…そういえば、魂切れが起きてたんだった。
あれ、これは新劇の設定だっけ。新劇は外伝の世界だしなぁー。インパクト後の世界が重要だから…多分新劇の人類補完計画って旧劇に戻ることか?…新劇とか旧劇って何だっけ。
まぁ、いいや。どうせ全部おじゃんにするし。
さて、ボロボロの世界に私はいるんですけどこれヤバイ。
エヴァの出力が強すぎて気を抜くと世界が簡単に壊れる。ホントよくこんなもの造りましたね。神サマを造る時点で頭わるわるですけど、これ普通にインパクト起こしたら魂諸共消滅させるエネルギーなんですがそれは。それに魂が2つある時点でアウトだよ。
こんなの封印されて当たり前だわ。兎も角この世界とはおさらばしないとですね。
アンビリカルケーブルが自動で切断される。活動限界までの時間は計算し直すのが面倒なほどある。
飛ぶイメージをすると7号機は翼を広げてひび割れた空の海に姿を現した。地面は既に崩壊し天に存在するものしかこの世界には残っていない。
「来い」
月に手をかざし呟く。その声に応えるように赤い線が月から墜ちる。もう片方の手を空に広がる海にかざす。透明度の高い海水の奥に赤い線が浮かんだ。
赤い線は7号機の手のひらに収まり槍の形に変化していく。両手に持つ槍はそれぞれ形状が異なっていた。一方は二股の赤い螺旋状の槍。一方は赤い一般的な槍の形をしているが槍が放つ存在感が異常だ。
それぞれの銘をロンギヌスとカシウス
世界を再生される為に必要なマテリアルだ。
「まったく。残りの2本は何処に行ったかと思えば…。虚数の海に放置するとか神様らしいですね」
まぁ、私は呼び出せますけどね。この機体なら造作も無いことよ。ヨシ。道具は揃ったのでこの世界を破壊して、戻りましょうか。
7号機はロンギヌスの槍を一筋の鋭き槍に変質させる。
遥か上空から不思議な空を背に槍を構えるその姿は美しかった。
「…壊れろッ!!!」
空の海に向かって投擲されたロンギヌスは轟音と共に世界を強制的に破壊していく。
空の海にはガフの扉に似た穴ができていた。その穴に向かってぱち波は進んでいく。彼女の後ろにはもう何も残っていなかった。
時は少し遡る。
起動した初号機であったが、長年主機として運用されていたため碌な装備もつけていなかった。だが、初号機はそれをものともしない強力なATフィールドを扱えるようになっていた。
シンジはそのATフィールドを用いてリリスが産み落とす生命に対抗していた。
状況は劣勢にだった。ほぼ兵力が無限のリリスに対して人類はエヴァ一機と100あるかないかの対人兵器しか手元に残っていない。ましては、アスカの反応は既に消えている。兵力も時間もない。
「ッ!どけ!」
初号機が腕を振るうといくつもの十字架を残して産み落とされたモノを殲滅していく。しかし、シンジが2号機を肉眼で確認した場所までは遠い。
第13号機…リリスもまた狡猾だった。一度ゼーレによって14年間も封印措置を自らに施すことになった経験から、劣化生物だが、侮れない生物という認識になっていた。
遠くに退避しているリリンの生き残りが見えた。リリスは考えた。奴らを殺せば、パイロットの精神を壊せる可能性がある。さらに、奴らは自分に対抗する手段がない。
リリスは衝撃波を波状型に飛ばした。その衝撃は容易くミサト達に届くだろう。しかし、その攻撃を文字通り身を挺して防ぐ存在がいた。
「こなくそぉぉおおおおおお!!!」
「アスカ!?」
「姫!ダメだ!!」
ボロボロの機体でATフィールドを支え、衝撃波を防ぐ赤い機体。LCLが揺れ動き、衝撃がプラグ内にも伝わってきたことがわかる。ミサトは振り返りその背中を見た。周りの職員に言葉をかけられるが十字架のネックレスを握りしめたまま彼女は動かない。
第二、第三波もアスカは防ぎ切った。機体は右腕が吹き飛び、胴体はひしゃげている。そんな状態でシンクロしているアスカもプラグ内で大怪我を負っていた。
アスカは赤く染まる視界で確かに量産機をなぎ倒しこちらに走っている紫の機体を見た。
激痛で声なんてでやしない。それでも言葉を残しておきたかった。
我儘だってことはわかっている。
余計なことをしたと怒られてもいい。
だから、
その言葉を言い終わる前に2号機は赤い槍に貫かれる。リリスは槍に貫かれたまま眼前まで持ち上げられた2号機を見て目を細めた。そしてそのままエントリープラグ諸共捕食した。
ただ、リリンはこの方法の方が自分のコピーに乗っている少年の心を折ることができると踏んでいたのだ。
少年の記憶は覗いている。一度自分の手でこの少女を殺しているため、トリガー化したじょうきょうになることはないだろう。それに通信越しに彼女の絶叫を聞いたはずだ。
想定していた通り、初号機は動きを止めていた。全てが上手くいったとリリスはほくそ笑んだ。
これが全て過ちだったと気が付かないまま。
アスカの姿を見た。声を聞いた。身体の震えが止まらない。
それなのに…操縦桿を潰すほど強く握っているのだろうか。第13号機をにらみつけているのだろうか。感情が高ぶるのだろうか。
確かに、聞こえたんだ。アスカには絶対に似合わない声で、聞いたことのある声で…。
助けて、と
「……返せ…」
ぽつりとつぶやく。初号機のATフィールドがさらに強くなり、周りの量産機を破壊していく。
『アスカを…返せ!』
シンジの目が赤くなるのと同時に初号機は発行部分が赤くなり、円環が出現する。左腕にはATフィールドで構成された腕が生え、障害物を薙ぎ払う。
口の拘束具が外れ咆哮する。
シンジは自分の背中にあたたかな感触があった。そこには綾波レイがLCLに揺られて存在していた。綾波もまた目がより赤くなっており真っ直ぐにリリスを見つめている。
『いくよ綾波…アスカを助けよう』
『えぇ。碇君ならできるわ』
…僕に誰かを助ける力を、世界を変える力をもう一度振るう。
初号機の進撃は量産機ごときでは止められなかった。それどころか、リリスまで攻撃が届くほどに初号機は苛烈だった。
「オオオオオォォォッ!!」
初号機から発せられる光線によりリリスは両断される。しかし、すぐさま再生し、空間に槍を突き刺す。
空間が崩れ、現れたのは番外機体。本来の役割をリリスによってはく奪された機体…Mark10がそこにはあった。零号機ベースの身体に使徒の仮面を十字に傷がありそこから赤い瞳が覗いている。そして、初号機よりもはるかに大きい。
Mark10はその体格から想像もできないほど素早く初号機に接敵した。強力なATフィールドによりこちらに攻撃は届かないが至近距離でMark10の瞳が光り、光線が発射される。その光線は第10の使徒のそれをはるかに超えている。しかし、初号機のATフィールドを破ることはできない。
「GAROROROOOOOO!!]
『邪魔をするなァッ!』
シンジはATフィールドでMark10を吹き飛ばすがダメージを負っているようには見えない。そしてついに、リリスが初号機に標準を合わせる。リリスが持つロンギヌスの槍が赤く光る。このままのシナリオであったら初号機は槍に貫かれるだろう。
だが、
それは叶わない。
赤い線がリリスを貫く。リリスは絶叫を上げ、ふらつく。神というものでありながら。
空間を破壊して現れた三本目のロンギヌスの槍がリリスを貫き、空中に静止している。
その背面から黒いエヴァンゲリオンが姿を現した。そのエヴァはかつての姿とは異なっていた。
十字架の仮面は外れ、左右非対称の瞳を持ち、機体のいたるところに赤い線が走り発光している。
そして、黒き悪魔の背には折れ曲がり、捻じれ、大きさもバラバラな翼とは呼べないものが生えていた。
異形、歪…そんな言葉が似合うエヴァンゲリオンがそこに存在していた。
歪な翼を広げると世界が変わった。夜の帳は消え空には海が浮かんでいた。幾つもの空模様を重ねた色が溢れ、鏡のような空も一部に存在した。世界の終わりに相応しい景色に変わっていく。
『オ"オ"オ"オォォォッッ!!!』
低く、響くようなおぞましい咆哮が轟いた。それに共鳴するように空の海が波打つ。
リリスは嫌でも理解させられた。アレは存在してはいけない機体だと。
『…やっと会えたね元凶。世界を壊すのはお前じゃない』
綾波レイに似た声で誰かが言った。神に対して大胆不敵に。
『私だよ』
感想が欲しい侍。