五等分の八幡   作:通りすがりの魔術師

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突拍子もなく思いついたネタですが、書いてみると思ったより進んだので投稿します


朝起きたら俺が5人になっていた。

 

五等分の花嫁という漫画がある。アニメ化もされた人気漫画であり、ヒロインが5人いて全員血の繋がった姉妹という驚きの設定を持っている。主人公は成績優秀ながらも実家が貧乏な風太郎という高校生であり、彼は5人の姉妹の家庭教師をしていくうちに好意を抱かれて、学園モノのお約束のイベントに沿って進んでいくのだが、その過程で彼と彼女らの過去が明らかになったりするのだが、まぁ気になる人は漫画を買うといいだろう。

さて、いきなりこんな話をしたのかと聞かれれば、大したことは無い。別に五等分の花嫁の世界に転生したり、その主人公の風太郎に憑依したという訳でもない。なんならそれ以上に何を言っているのか分からねぇ状況だ。

簡単に言うならば、国語実力テスト学年3位と顔は整っているのに目が腐っているせいで台無しと中途半端と言わざるを得ない個性をしている比企谷八幡が、朝起きたら5人になっていたのである。

 

 

「いや、どういう事だよ」

 

 

「知るかよ」

 

 

「こっちが聞きてぇわ」

 

 

「てか、どうすんだ今から。学校だろ?」

 

 

「全員で行く、ってわけにも行かねぇしな」

 

 

俺が呟くとほかの俺が呼応するように答える。流石は元より一つの存在。考えることは同じらしい。どうしてこうなったかという経緯よりも今からの日常にどう対応していくかについて思考が傾いているらしい。

普通ならばここは大声を上げてお互いに指を向けながら、驚くものであるが朝の寝ぼけた思考とまだこれは夢ではないかという人繋ぎの希望により明晰夢だろうという、それっぽい建前を用意してこの状況を楽しむことにした。

 

 

「じゃ、俺は分裂?した経緯について考えるから」

 

 

「ちょっと待って。それは俺の仕事だ。そういうのは昔から得意だったからな」

 

 

「いや、全員俺なんだからスペックは同じだろ」

 

 

右の俺が我先にと他力本願寺しようとすると、すかさず目の前の俺とその左の俺が止めに入る。

そうその通り。目の前の俺の左の俺が言う通り、俺たちは比企谷八幡であり、中野家の5姉妹のように容姿がある程度似通っているレベルではなく全く同じであり、性格に至っても瓜二つどころか相違点が何一つ存在しないのである。

多少、見た目や個性に差があれば一幡、二幡とナンバリングして呼ぶことも可能ではあったのだが、流石は中途半端な俺、明晰夢であろうとも設定が雑である。せめて、髪色とか目の色だけでも何かしらの変化はつけて欲しかった。

 

 

「とりあえず、どうする?」

 

 

「そろそろ、小町が呼びに来る頃合いだが」

 

 

目の前に俺の右にいる俺、つまり俺の2つ右の俺が時計を指し示す。分裂したのが休日や祝日ならよかったのだが、生憎今日は学校のある平日である。よって、あと20分で家を出なければ結婚できない女の鉄拳制裁が待っているわけなのだが……。

 

 

「はっ」

 

 

「大変なことに気づいてしまった…」

 

 

「お前もか」

 

 

「まぁ、俺だから当然だが…」

 

 

「いや、けどこれはな…」

 

 

全ての俺が思い至ったことそれは……。

 

 

「「「「「俺が5人もいれば平塚先生と結婚してやれるのでは?」」」」」

 

 

全員で口を揃えて言うと、俺たちは朝でしかもこの状況に置かれたことで腐った目をよりどんよりさせながらため息を吐いた。

 

 

「ほんと誰か貰ってやれよな…」

 

 

「けど、こんだけいると貰ってやれないこともないが…」

 

 

「どうせ夢なんだし無理だろ…」

 

 

そうこれは夢だ。仮に現実だとしても俺たちは六つ子の兄弟や5姉妹のように母ちゃんから生まれたわけではく、比企谷八幡という1人の存在から分かれてしまったものである。もしかしたら、自分に魔術か何かで本来の自分が閉じ込められ、それが何かの拍子に分離したなんて可能性もないこともないが、5人は流石に多すぎるだろう。

だいたいこういうもののオチは時間経過で元に戻るものではあるが、原因不明のため戻る方法もわからない。その点も分裂モノの定番ではあるが、夢ならば直に覚めて終わるはずだ。

 

 

「お兄ちゃん、ご飯出来てるよー!」

 

 

「小町だ」

 

 

「可愛い」

 

 

「天使だ…」

 

 

妹の声にそれぞれ全く同じ反応を示した我ら5人は小町に聞こえないよう額を合わせた。

 

 

「で、どうする?」

 

 

「立候補で決めると揉めるし」

 

 

「全員思考が同じだからジャンケンとかで決めると終わらねぇよな」

 

 

「ここは平和的に行こう」

 

 

「じゃ、これだな」

 

 

一応、夢とはいえ5人全員で言って小町の寿命を縮めてしまうようことになれば申し訳がない。ただでさえ、手のかかる兄が4人も増えてしまったら流石の小町も泡をふいて倒れるかもしれないからな。

ということで、一番俺の机に近い位置にいた右の俺が数学でマークシート式のテストがあった時に使った1から6の数字が書かれた鉛筆を持ち出した。

 

 

「これなら運だから文句はないだろ」

 

 

「で、ルールは?」

 

 

「先に1を出したやつが朝飯を食おう」

 

 

「ん?ちょっと待てよ」

 

 

「いや、言いたいことは分かる。それだと1を出したやつしか食えないって話だろう」

 

 

「どうせ夢なんだし大丈夫だろ」

 

 

「それもそうだな」

 

 

そう自分に言って、まるで言い聞かせるようにして納得すると、俺たちはそれぞれ鉛筆を投げる。右とその右は1は出ず、次に俺に回ってきた。

 

 

「よっと」

 

 

フローリングの上にカランカランと鉛筆が転がり静止する。そして上を向いた数字をみて俺は立ち上がった。

 

 

「よし、俺の勝ちだな」

 

 

「くそっ…」

 

 

「俺に負けた…」

 

 

「早く行けよ。じゃないと、小町来ちゃうぞ」

 

 

まだ投げてもいない左とその左の俺が項垂れて悔しがるのに対して、おそらくは晩飯を小町と食すことに希望を抱いた俺が急かしてくる。まぁたしかにそろそろ行かないと小町は来てしまうが、何かしらの返事をしておけば1人で食べて行く前くらいに最終通告をしに上がってくるはずだ。

 

 

「ところで、さっき誰か返事したか?」

 

 

「いや誰も」

 

 

「してないのでは?」

 

 

「あっ」

 

 

これはまずいと急いで部屋を出ようとしたその時、ドタドタと不機嫌に廊下を踏みつけられ、ガチャりと乱暴にドアノブを捻り部屋の扉が開け放たれた。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん!もう朝だよ……って……」

 

 

開口一番に怒って目を釣り上げていた小町も、部屋の中を見て大きく目を見開き声を失ってしまう。そりゃそうだろう。だって、まだ寝ているであろう兄を起こしに来たら5人に増えているのだから。やべぇぞ、どうにかしろよ、どうやって、と会話無しでアイコンタクトで小町への弁明を考えた俺たちだったが結局出てきたのはただ1つ。

 

 

「「「「「おはよう、小町」」」」」

 

 

声を揃えて愛しのマイシスターにそう言うと、小町は口をパクパクとさせ首を捻った。

 

 

「え、えっと……あれぇ…小町、寝ぼけてるのかな?」

 

 

そう思いたくもなるのは分かるが、そんな目をゴシゴシしたり、自分の頬をつねって目をそらそうとするのはやめてね。いや、ろくでなしの兄が増えるとか夢であって欲しいっては分かるんだけど。

 

 

「大丈夫だぞ小町、これは夢だ」

 

 

「だ、だよね〜。あれ、けどじゃあなんでつねった頬が痛いの…?」

 

 

「それは俺の夢の中の小町だしな…」

 

 

「俺達にはわからん」

 

 

ほんと夢の中でも苦労させてごめんね。俺もこんな夢は早急に終わるべきだと思うんだけどね?

 

 

「えぇぇ…これほんとに全員全部同じお兄ちゃんなの…?」

 

 

「そんな嫌そうな顔しなくてもいいだろ」

 

 

「気持ちが分からなくもないのが悲しいよな」

 

 

ほんとそれな。自分なのに思わず左の俺とグータッチしちゃったよ。けれど、その時の感触が何やらリアルで互いに顔を見合わせてしまう。明晰夢にしては長くないか?それに何だか床に長時間座っての尻の痛みやらも感じてきたのだが。

 

 

「……まさか」

 

 

「マジで?」

 

 

「え、なにどうしたの?」

 

 

俺や左の俺以外にもこの現象が現実味を帯びてきたことに気づきはじめ、顎に手を添え始めたのを見て小町が問いかけてきた。そして、目の前の俺は立ち上がると小町にこう言った。

 

 

「小町、思い切っり叩いてくれ」

 

 

「いいよ」

 

 

「あいたっ!!!?」

 

 

何の躊躇いもなく小町はその華奢な腕でさっきまで目の前に座っていた俺の頬を叩くとパチンと叩いた方も聞く方も爽快な気持ちになるような音が響く。

小町の兄への暴力に躊躇いがないこととそのビンタの威力に恐怖するよりも俺たちは犠牲となった俺を見て、これが現実であることを悟った。その瞬間、今まで夢だと思い込んで余裕ぶっていた態度はどこへやら頬を抑えて壁際へと向かった俺を除いて、4人の俺が小町へと助けを求め始めた。

 

 

「どうしよう小町!」

 

 

「嫌だ!俺が4人もいるだなんて!」

 

 

「助けてくれよ小町!」

 

 

「こればっかりはどうしようもねぇよ!」

 

 

小町から見れば同じ顔をした男4人が涙目で自分に擦り寄ってくるという地獄絵図のはずなのだが、こめかみを抑えながらはぁとため息をつくだけで殴ったり罵ったり逃げたりすることも無く俺達に言い放った。

 

 

「とりあえず、ご飯食べようよ。スープとか冷めちゃうし」

 

 

中々に強かな対応をした妹に、ダメダメな兄たちは顔を見合わせるとぞろぞろと優秀な妹の後に続いてリビングへと向かっていく。しっかりと引っ張ったかれた俺もついてきており、4人家族の比企谷家に全ての俺が座る椅子などなく、椅子に3人、ソファーに2人と別れることになった。その際、揉めそうになるも「前3人はこっち、後ろはソファーに座って」と小町に言われてしまえば従うしかあるまい。

台所から牛乳をかけるだけで手軽に食えるコーンフレークの入った皿が4枚出てきて、それらは小町の手料理をいただく権利を得ていない他の俺の前に置かれる。

 

 

「あ、ども」

 

 

「ん?これ俺のやつ少なくないか?」

 

 

「うるさい。黙って食べて」

 

 

「あ、はい」

 

 

ソファーの俺可哀想。けど、今1番可哀想なのは間違いなく小町ですよね。

6人で手を合わせると食事に入る。先程の一悶着のせいで、ゆっくりする時間のなくなった小町はトーストを口に入れ咀嚼し、ある程度小さくなってから飲み込むと俺に問いかけてくる。

 

 

「それでお兄ちゃんの本体はどれなの?」

 

 

「どれって言われても…」

 

 

「これ多分全員俺だよな…」

 

 

「……どゆこと?」

 

 

「全員俺が比企谷八幡だ、っていう意志を持ってて、しかも見た目や性格に齟齬がないんだよ」

 

 

「何それめんどくさ!」

 

 

それは俺達も同じだから、そんなこと言わないで小町ちゃん。スープを飲み干し、じゃあと小町は口を開く。

 

 

「え、じゃあこれからどうするの?」

 

 

「…さぁ」

 

 

「俺達に聞かれてもな…」

 

 

「こっちが聞きたいくらいだからな…」

 

 

何度目か分からないが、お互い全く同じ顔を全員で見合わせて小町の質問の回答を模索していると「うーん」と唸っていた小町は「閃いた!」とぽんと掌を拳で叩く。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「小町いいこと思いついたよ!」

 

 

「……?」

 

 

キラキラとした笑顔を浮かべる小町に俺たちは一抹の不安を感じる。だいたい小町がこういう顔をする時はろくでもない考えを思いついた時だと知っているからだ。

 

 

「お兄ちゃん、とりあえず今日は家にいといて!」

 

 

「いやでも」

 

 

「でも、でもなんでもない!とにかく、鍵とカーテン閉めて小町が帰ってくるまで引きこもってて!」

 

 

そう言って食器を手早く片付け、歯を磨き顔を洗って家を出た小町だったがその顔は俺たちを見た時の悲壮な顔と違い、どこか晴れやかなものでそれが妙に気になりながら俺たちは目の前に出された朝ごはんを食べ始めた。




全く同じ顔と声と見た目をしたのが5人もいるってのは本人達からしても周りからしても「うげぇ…」ってなりそうなものですが、八幡ならば、本人以外の約何名かがこれはチャンスだとか独り占め(そのままの意味)が可能になると思うのでは?ってのがこの話を書いた第2のきっかけだったりします。
原作だと八幡は1人で結局誰かを選ばなくてはいけないけれど、5人になれば別に……おっと話過ぎました。あとは気が向いたら次のお話で……感想評価などお待ちしております。
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