小町の命令により外出を禁止された俺達5人はそれぞれ別の過ごし方を取っていた。本来は1人の存在のため、最初にやろうとすることは全員同じであったため、やることを紙に書き出し番号をふり、あとはサイコロを投げて出た目に書かれた内容に従って時を過ごしていた。ちなみに俺は洗濯であり、今は洗濯機に全てを任せるのみなのでリビングにて他の俺の観察中である。
身体は5人に分かれたものの、スマホや財布などの貴重品は増えなかったためにスマホで暇つぶしをしたり買い物に行けるのはたった1人と酷く窮屈な生活を強いられている。運命のダイスロールによってスマホを手にした俺はイヤホンを耳にさして音楽を聴きながらゲームにいそしんでいるらしい。1番楽で新たな発見や楽しみがあるであろうことをしているに関わらずその顔は浮かない。まぁ、そりゃずっとゲームができたりタイムラインを監視できるからと言ってそれが楽しいとは限らない。ましてや、ただの作業ゲーや日中で呟く人間も少ない今だと尚更だろう。
時間が経つにつれてそれは他の俺にも顕著に現れる。自分の部屋を掃除していた俺も、部屋にあまり物がなく、自室でなにかする訳でも無いためあまり散らからない部屋の掃除など掃除機をかけるだけで済んだらしくすぐさまリビングへと戻ってきた。
普段は休みたいと思っていてもその実、家にいてもやることの無い俺達にとって自宅での拘束というのがどれだけ苦しいかを味わいつつ、洗濯機から洗った衣服などを取り出してカゴに入れて外へ干すべく足を向けると。
「あ、手伝うわ」
「俺も」
「同じく」
どうやら専業主夫志望の俺たちだったが、家事という家事は小町がほとんどやっており、トイレと洗面所の掃除も風呂と玄関の掃除もあまり大仰にする必要もなく簡単に終わってしまったらしい。ほんと小町ちゃんったらどこに出しても恥ずかしくないお嫁さんになりそうだ。まぁ、どこにもやる気はないが。
「あぁ、頼む」
いつかみんなで、大勢でやった方が早く片付くよなんて戯言を言われたことがあったが、実は戯言ではなかったらしい。みんなと言っても全員俺なので結局俺一人でやったようなものだが、洗濯物のシワを伸ばして干すという作業は4人でやると大して時間もかからずすぐに済んでしまった。この分だと乾いた衣服を畳むのにもそこまで時間はかからないだろう。
「暇だな」
「ほんとにな」
だいたいのことは自分1人でやった方が早く済むのでは?と思っていたが、自分が5人もいると1時間もかからずに全ての家事を終わらせることになるとは思わなかった。これが赤の他人5人とだと、何か文句を垂れながらうだうだとやって、最終的にはほっぽり出してしまう末路が見える見える。やっぱり自分って最高だな。
「他になんかやることってあったか?」
「掃除してないのは母ちゃん達の部屋と小町の部屋くらいだけど、あそこは入るだけで怒られるしな」
「なんでなんだろうな」
「見られて困るもんでもあるだろ」
特にやることも無くなって、意固地になってスマホをいじってる俺以外はテーブルの周りの椅子に腰かけながら談笑を始めていた。これが全員同じ顔でなければ、終業式をサボって友達の家でだべっている悪ガキ仲間なのだが、残念ながら全員俺である。
「そういや今日って学校休みじゃね」
「あー、そうだな」
「言われてみればもう冬休みじゃねぇか」
「てことは、小町制服着てどこいったんだ??」
カレンダーを見てそう言った俺に続くようにカレンダーを見遣りながら、また1人がポツリと呟く。唐突に自分が5人現れたのと夢の出来事だと思い込んでいたのも合わさって今日が登校日だと錯覚していたがよくよく考えれば学校は既に冬休みに入っており今日と明日はキリスト様の誕生日前夜祭とその本番の日である。
「そういや、クリスマスパーティーだっけ?どうすんだろ」
「まぁ、由比ヶ浜がするって言ってたしするんだろ」
「イベントの方はとっくに済んだしな」
それがつい昨日の事だと全員が全員、同じ体験をしているはずなので思い返していることだろう。かく言う俺も、昨日までに至った事の次第やその過程で吐露した本音や、それを受けた彼女達の顔が目に浮かぶ。そのことを思い出したことにより顔に熱がこもる感覚に陥り、顔をあげれば全員が全員同じような顔をしていた。それはそうだ、だって、全員俺なのだから。
「…暇だし、なんかゲームでもするか」
「しりとりとか?」
「それだと全員が『る』攻めする未来しか見えん」
「じゃ、古今東西だな」
「お題は?」
「5人に関する作品やワードってのはどうだ?」
「よし、俺もやる」
「おうこいこい」
スマホを触っていた俺も1人では寂しくなったのか、立ち上がってこちらに来ると左の俺が掃除中に見つけたという来客用であろう余っていた椅子を持ってくるとそこに座らせる。そして、俺たちは自分しかいない傍から見れば意味のわからない奇妙な古今東西をスタートさせた。
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「まさか冗談だとは思っていたけど本当だったとはね…」
「うわぁ…ヒッキーがいっぱい…」
「これは酷いですね…」
「…何があったのこれ」
「ふむ…」
古今東西のあと、少年時代ぼっちだったが故に出来なかったことをやろうということになり、俺たちはリビングを片付けて靴下サッカーボールやら4人でマリオパーティや大乱闘を無我夢中で遊んでいた。何度も言うように全員俺のため、思考パターンが同じためどこぞのメンタリストの如く読み合いに次ぐ読み合いの心理戦から、結局は力がパワーだというボタンの連打合戦となっているあいだ、いつの間にか帰ってきていた小町と、5人で小学生のようにスマブラを楽しんでいる俺たちを見た5人の女性たちがそれぞれ理解し難いという顔で見下ろしてくる。
「えっと、全員、比企谷くんでいいのよね?」
「あ、あぁ…」
頭痛を抑えるかのようにこめかみに手を置きながら雪ノ下雪乃がそう問いかけてくる。答えたのは先程の戦いで一番最初にやられて暇を持て余した俺である。
「え、えっと、どうしてこうなっちゃったの…?」
「知るかよんなの。俺が聞きてぇっつの」
朝に自分に問いかけ、小町にもそう聞かれ、未だに答えを得ていない質問を由比ヶ浜結衣からされ、今まさに負けかけているほかの俺がため息を吐く。
「で、どうして先輩たちは同じ服なんですか?」
「多分、寝巻きから分離したからじゃねぇの」
一色いろはの言う通り、俺たちは全員冬の装いこと青いジャージに身を包んでいる。判別しやすくするために着替えるという発想がなかった訳では無いが、そこまで服のバリエーションのない俺達にそんなことは出来なかった。
「…午前中ずっとゲームしてたわけ?」
「いや、部屋の掃除したり家のことやったりしたんだが…5人もいるとすぐに終わった」
呆れるように川…えっと、なんだっけ、そうだサキサキだから川サキサキが俺たちを5人を侮蔑するように見てくる。それに対して異議ありと声を出したのは現在残機がいちばん多いほかの俺だが、ホコリが残っているのを見つけた川サキサキに睨まれ萎縮してしまっている。
「なるほど、つまり君たちは原因を解明するわけでもなく、ただ遊んでいたと」
「だから、やることはやったんですけど、答えもないもん考えても無駄なんで…」
恐らく、家族以外で俺の手網を握るのに一番適しているからであろう呼ばれた平塚先生がそう確認すると小町も含めた5人からの視線が強くなる。いやね、2位の俺が言う通り学校のテストみたいに答えがあればなんとか出来るんだけど、こう初めてのことでネットで検索しても答えが出てこないようなことが起こるとね。しかも、自分が5人になるって言う非日常は少しでも味わってみたいなという好奇心がですね。
「言い訳は結構。全く、せっかくの休みだというのに比企谷妹に『ゴミいちゃんが増えちゃいました!』と寝言を言っているから目を覚まさせてやろうと思ったが…」
自分の目で実際に見てみるとこんなに頭が痛くなるとはと、続けて言う。けど、その頭の痛み、本当に俺たちだけのせいですか?昨日飲んだりしてませんか?大丈夫ですか?
「それで、本当に解決策はないの?」
「ないな」
小町や雪ノ下から残念なことにとしか言いようがないのだが、分離した原因も理由も方法も分からない現状である。即答した俺に「そう」と呟いた雪ノ下だが、何故かあまり落胆しているようにみえない。それはほかも同じで、小町と一色は何やらニコニコしてるし、由比ヶ浜や川崎はもじもじと身をよじっている。
「まぁ、とりあえずこうしていても仕方がない」
「ですです。ちょうどいい時間ですし、お昼でも食べませんか?あ、でもゴミいちゃんがこれだと…」
「外食は無理そうね。だったら、なにか作りましょうか、小町さん、川崎さん、手伝ってくれる?」
「ゆきのん、あたしも手伝うよ!」
「そう…そうね、でも台所に4人は手狭だから一色さんとテーブルの用意を頼んでもいいかしら?」
3人も結構邪魔だと思うんですが?まぁ、由比ヶ浜は納得して一色と俺達が退かした机を戻しているのだが。それをぼうっと見てると一色が目を細めてこちらを見てくる。
「ちょっと先輩たち、女の子に重いもの運ばせてないで手伝って下さいよ」
「あ、あぁ」
どうする?誰が行く?と目配せすると先程一色の質問に答えた俺が立ち上がる。それに続いて由比ヶ浜と会話した俺も手伝いに向かい、残ったのは俺が3人と平塚先生のみとなった。
「ふむ、まぁ、こんなに大所帯では私にやることなどあるまい」
「はぁ…」
「そして、ここにいるのは4人の強者。そして目の前にあるものを考えればやることはただ一つ!」
そう言って平塚先生はほかの俺が置いていったリモコンを手に取るとキャラクターを選択し、俺達に視線を向けてくる。
「さぁ、やるぞ比企谷達!まとめて捻り潰してやる!」
その挑発を受けた俺たちは顔を見合わせて頷き合うと再びリモコンを手に取ると平塚先生へと言い放つ。
「後悔しないでくださいよ」
「俺たちの力見せてやりますよ」
「あとで吠え面かいても知りませんからね」
同じ自分でもキャラ被りはなしという制限を設けた俺たちだったが、無駄に1人でやりこんだ為、大抵のファイターは使えるようになっている。おそらく、俺一人では太刀打ちできないであろう平塚先生も、それぞれ役割を分担すれば勝てるはずだ。
「3人の比企谷が揃って楯突くか…国語教師であるこの私に…!」
めちゃくちゃノリノリだなこの人。さては誰かとゲームをするのは久しぶりと見た。ならば、その寂しさを埋めてやるのも教え子の仕事なのかもしれない。
5人に分離した主人公とやってきた5人のヒロイン……あとはわかるじゃろ?