大乱闘比企谷ブラザーズ(DNAから細胞レベルまで同一)での勝敗は当たり前のように平塚先生の圧勝であった。3人に勝てるわけないだろ!とたかを括り日頃の鉄拳制裁の報いを受けてもらおうと襲いかかった俺たちだったが、それは鮮やかに画面外に吹き飛ばされ、全員意気消沈である。きっと心の中では、平塚半端ないって!もう~!!あいつ半端ないって!3人同時の攻撃めっちゃカウンターするもん! そんなんできひんやん、普通……そんなんできる!?言っといてや!できるんやったら……と平塚先生を褒め称えていることだろう。
平塚先生にぼろ負けした後はテーブル出しやら、机拭き、スプーンの並べ作業が終わって暇になったのであろう由比ヶ浜と一色も加わることになった。2人とも初心者だろうと小町にやるような接待プレイをしていたが、由比ヶ浜は以前に友達とやったことがあるらしく上手いとはいかずともそれなりにできるくらいであった。方や一色は「えぇ〜先輩やばいですやばいです〜」なんて可愛らしいことを言いながらも、本領を隠しており適当に動いているふりをしながらも他の俺が崖側に来た瞬間に画面外にぶっ飛ばしやがった。
「てへぺろ」
「いや、可愛くねぇよ」
ぶっ飛ばされた俺からすれば可愛くないだろうが傍から見てる俺たちからは可愛いなこいつと映るような可愛さであった。はっ!いけない、俺には戸塚と小町がいるのに!
「比企谷くん、死んだのなら配膳を手伝ってくれないかしら」
俺が想い人に真心を妄想内で吐露していると、一色にぶっ飛ばされた俺が雪ノ下に見下されながらそうお願いされて、渋々了承して立ち上がる。それに続いて先程一色と由比ヶ浜の手伝いをしなかった俺ともう1人の俺も腰を上げ、平塚先生に打ちのめされた3人が川崎のよそったカレーをスプーンを目印に置いていく。
そこで気付いたのは小町が持ってきたのか椅子が6つに増えていた。そして、俺達が振り返るとソファー前のテーブルには出来たてホヤホヤであろうカレーの入った皿が5つ置かれている。まぁ、こんだけ多人数だと鍋物になるのは必然といえるが、よく人数分作れた物だと感心せざるを得ない。やはり料理ができる3人が集まればこの量も短時間で出来てしまうのだろうか。
しかし、改めて見てみればどうして小町は雪ノ下達を呼んだのだろうか。今回のことを解決するのにはあまり関係がないようにしか思えないのだが。それは他の4人も同じなのだろう。先程からちらりと来客者5人を懐疑的な目で見ては気付かれないように逸らしている。
「では、いただきましょうか」
台所から出てきた雪ノ下がそう一声かけると女性陣はあらかじめ席を決めていたのかなんの迷いもなく席に付く。しかし、その配席が妙であった。椅子がある方に雪ノ下、由比ヶ浜、一色。床の方に川崎と平塚先生、そして小町とその分け方に何かしらの意味を感じたが考えるよりも前に周囲から早く座れよという目を向けられる。
「え、俺ら席あんの?」
「いや、2人はないだろ」
「誰がどっち行くかだな」
そう問題なのは誰が椅子に座って、床に座るかなのである。まぁ、顔が同じなので誰がどちらに行っても仕方ないのだが。結果、先程のゲームの勝利数が多い者が椅子へ、少ない者が床へと座ることになった。
俺が全員座り、小町が「では、皆さん手を合わせてください」と言うと一同揃って両手を合わせる。そして、全ての食材と生産者、作ってくれた3人へと感謝を込めて「いただきます」と口を揃えた後、食事を始めた。
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マイラブリーシスター小町の作ったカレーは言わずもがな美味い。野菜は1口サイズの食べやすい大きさに切り落とし、肉はフライパンでじっくりと焼いてから、切った野菜と共に鍋に入れてじっくり煮込み、カレールーを入れずとも愛という調味料によって美味しく頂けるレベルになっている。さらにそこに、2社のカレールーを入れ香りと味わいを引き出して起きながらも、隠し味と言ってに俺の苦手なトマトジュースを投入した時は俺のことが嫌いになったのかと思ったが、どうやらこれは2社のカレーの味をベストマッチさせる為で、決して間違いではなかった。弱火でグツグツと煮たカレーは豚肉の程よい柔らかさ、しっかり火の通った野菜と合わせて芳醇な刺激を味覚に与えてくる。
そんなたった1人でも最強のカレーに、小町よりも料理の腕前レベルが高い雪ノ下と川崎が加われば天下無双鬼ドラゴン。この3人の前には、男の子が喜ぶような料理しか作れない平塚先生などおそるるに足らず。
「にしても、めちゃくちゃ美味いなこれ」
「小町が作ったのも美味いが…」
「まろやかで口触りもいい…何入れてんのこれ」
「ココナッツミルクよ」
「へー」
椅子に腰掛ける俺達3人が口々に雪ノ下を褒め称えながらカレーを口にかけ込む。その様子にぐぬぬと唸っているのは由比ヶ浜で、一色も「へー」と俺と同じ言葉なのに声音が平坦と、興味を持っていなかった。
「今日は小町は野菜を切ったり、洗い物しかしてないからほとんど雪乃さん、沙希さんオリジナルだよ!」
「ほーん、道理で味が違うわけだ」
「けど、こっちも美味いな」
「そ、そう…」
後ろでは床に座る小町が俺達にも聞こえるようにそう大声で言う。それに合わせて床組の俺達も川崎お手製カレーに舌づつみを打つ。あっちもあっちで美味そうだな……って。
「え、お前ら別々に作ったの?」
「そうよ」
「…マジで?」
「この人数、鍋1個で足りるわけないでしょ…」
今明かされた衝撃の真実!けど、確かに11人もの量を一般家庭の鍋1つで作るなんて無理な話か。
「お米も危なかったですよねー」
「仕方なかったから、比企谷くん達のはインスタントを使わせて貰ったわ」
え、じゃあ俺たちだけサトウのごはんってことっすか?と3人で顔を見合わせてしまうが、そんなのが気にならないくらいに雪ノ下のカレーは美味く、またそれは川崎お手製カレーも同じで特に文句は出てこなかったし、それどころか賞賛の嵐である。
「いや、にしてもこれほんと美味いな」
「もう嫁に出しても恥ずかしくないレベル」
「そ、そう……」
「家事と子守りができて料理上手とか、川崎の結婚相手が羨ましいよな」
「こういうの毎日食えるんだろ?大志が羨ましくなってきた」
「……ば、バカじゃないの?」
自然とこういう感想が出てくるくらいに美味い飯に俺達が口々にそう言うと、雪ノ下もは当然と思っているのか否定はしなかったが、川崎の方は床に座る他の俺の物言いが大袈裟すぎるように感じるのか、表情は窺い知れないも少し呆れたような声を出していた。
「先輩、夜もあるなら私が作りましょうか?」
「あ、あたしも!」
「では、私はクリスマスらしくチキンでも焼こうか?」
「いや、夕方には両親帰ってくるんで」
ありがたい申し出だが、本日はクリスマスイブ。きっと平塚先生以外は共に過ごす家族がいるだろう。一人暮らしの雪ノ下にしても実家やら陽乃さん、もしくは由比ヶ浜あたりがいるだろう。俺には母ちゃん達と小町、カマクラもいるのでソロでクリスマスってことは独り立ちするまではないだろう。ちなみにカマクラは猫アレルギーの方がいるので俺の部屋で軟禁中である。
「じゃあ、1人に戻らないとまずいんじゃ…」
「たしかに息子が5人に増えてるって親からしたら卒倒ものですよね。しかも先輩ですし」
「おい」
どういう事だよそれはと一色の隣に座る俺が他の俺たちの思いも含めて代弁してくれる。
「けど、小町でもうえぇってなったからお母さんとかは尚更じゃない?」
えぇ…小町でもそうなったの?ちょっとやめてくれない?お兄ちゃん傷ついちゃうよ…。しかし、言われてみれば両親が帰ってくるまでには1人に戻るか何かしらの対策は立てないとな。そう思った矢先、平塚先生の口からある言葉が飛び出してきた。
「比企谷フュージョンは試したのか?」
「はい?」
平塚先生が唐突に尋ねてきたワードに思わず振り向いてしまう。もちろん、声を出したのは平塚先生の隣でカレーを咀嚼していた俺だが、おそらくは全員の総意であろう。その言葉の意味がわかっていても何言ってるか分からないし、おそらく意味を知らないであろう雪ノ下は首を傾げていた。
「え、なにかしら、その、フュージョンって…」
「背丈と力が同じくらいの相手と恥ずかしいポーズを寸分違わず取れば30分だけ合体できるって言うメタモル星人の技だな」
さしものユキペディアさんでも縁のない少年漫画の技の名前までは登録されていないらしいので俺が答えると、心当たりがあるのか由比ヶ浜と一色が声を上げた。
「あー小学校の時、男子が何人かやってた気がします」
「うんうん、でもなんかポタラ?ってのでも合体できるんだよね?」
少年漫画に縁がなくても陽キャというのは自然と当時の流行にアンテナを張らせているらしい。いや、ドラゴンボールの流行は多分親父世代とかだ平塚先生くらいの世代と思うんだけど、ワンピースと並ぶ国民的少年漫画の金字塔だから誰が知っていてもおかしくはないだろう。
「そうそう、アレは力の差とか背丈は関係なしで同じイヤリングを付ければ合体できる」
しかも、合体時間無制限……だったのだが、最近の設定で神でないものの同士の合体は1時間という制限を敷かれてしまった。なんだよ昔は体内の変な空気のせいで合体が解除されたっていうそれっぽい理屈でやってたくせに。
「それで、比企谷はやったのか?フュージョン」
「いや、やんないでしょ」
アレは漫画やアニメの世界で現実でできるわけじゃない。俺も出来ると思って練習はしたのだが、そもそも俺とフュージョンしてくれる相手がいなかった。
「でも、条件は全部揃ってるんでしょ?」
「それはそうだが、ポーズの練習もしないといけないしな…」
川崎の問いにそんな容易くできる話ではないと否定する。まぁ、多分ちょっと練習すれば昔の勘が取り戻せると思うから、できるとは思うんだがこんな多人数の前でやりたいとは思わないよね。
「けど、お兄ちゃん小さい頃1人で練習してたよね」
「おいバカ言うな小町」
「兄のトラウマを露呈させるな」
そう注意しても1度出てしまった言葉は収まるわけはなく、興味深そうに目を細めた平塚先生が視界に入ってしまう。
「よし、そうとわかれば飯を食ったら早速試してみよう!」
「マジかよ…」
「最悪だ…」
楽しそうに笑う平塚先生に引き換え俺たちはどうだろう。先程まで愛する小町や料理上手の雪ノ下や川崎の作ってくれたカレーを美味し美味しと食べていたのにその手は止まってしまっている。床に座っている俺達がそう項垂れ、同意するように俺を含めた椅子に座る3人もげんなりとしてしまう。それを見兼ねたのか由比ヶ浜が苦笑する。
「け、けどさ、何もしないよりマシだよ、きっと」
そう言う由比ヶ浜にはどこか実感がこもっており、何もしなくて後悔した経験があるように見える。そんなの人が生きていれば誰しも抱いた気持ちなのだろう。あの時こうしていれば、ああしていればなんて思うことは多々ある。そういうのを人は総じて後悔というのだ。けれど、何かしたところで良い結果が得られるとは限らない世界で、何もしないというのはある意味正しいのではないかと感じる自分もいる。何もしなかったから、結果がどう転んでもそれは自分の責任ではないと言い逃れ出来るし、次からはそうしようと教訓を得ることが出来る。
けれど、それを許さないのが由比ヶ浜結衣と俺の隣で微笑を浮かべる雪国のような美しさを持つ美少女なのだろう。
「そうね。何もしないよりは何かしたほうがいいわね」
「だよね!」
親友の同意が得られた由比ヶ浜は嬉しそうに微笑む。
2人は俺が何もしないで戻る案を探ってないことに腹は立てずとも、あまり良からぬ感情は抱いてなかったようなので、フュージョンだろうがなんだろうが、何かしらすればこの状況に納得がいくだろう。いや、納得しちゃだめなんだけど。
「…どした?」
「え?…あー、いや2人ともやっぱり仲良いなーって」
と、相変わらず劇団ひとりをしてると不意に他の俺と一色の会話が耳に入った。フュージョンという策に対して乗り気な雪ノ下達に対して一色はどこか浮かない顔ではあり、それが一色の隣に腰掛ける他の俺が気にしたのだろう。誤魔化すような貼り付けた微笑みに他の俺は「まぁ、そうだな」と適当に頷くと食事に戻った一色と同じくスプーンを動かし出す。
俺もそれを見て、残り僅かとなったカレーを口に含みながら咀嚼してこれから行われるフュージョンのポーズを思い出していた。
ゆきのんやサキサキ手作りのカレーなんて羨ましいなぁ!おい!
あ、ちなみに2人にはフュージョンの下りの前に「美味い、美味い」「嫁に出しても恥ずかしくないレベル」とか言って「そ、そう…」「…ば、バカじゃないの?」って言われてます。可愛いなぁ!
……まあ、そのくだり欲しいなって思ったんで書き足しました(有能)