.hack//G.U. THE HERO   作:天城恭助

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雄英体育祭決勝

 決勝を間近に控え、観客席は盛り上がる。一方は普通科でありながら、その身体能力と身体技能はプロヒーロー以上であり、ここまで危なげなく勝ち上がってきた倉本。もう一方は、倉本と同質の個性持ちで、それ以外にも変身の個性を持ち、どういう手段で勝ったか不明であった一ノ瀬を打ち倒した三崎。注目が集まるのは無理からぬことだった。どちらが勝つのだろうかと予想を立てる者たちが後を絶たない。緑谷たちA組もその例に漏れなかった。

 

「これ、どっちが勝つんだろうな?」

 

 峰田が、そう呟く。

 

「三崎の変身も確かに強ぇけどよ、あの子の動きはそれより上だろ」

「上鳴君、直接対峙したわけだもんね」

「瞬殺されてたけどね」

「おい……! おい……」

 

 上鳴の意見もその試合結果の情けなさから耳郎に笑われていた。言い返せる要素が一つもないのでツッコミを入れるつもりが何も言えていえなかった。

 

「直接対峙したで言えば、飯田はどうしたんだ?」

「飯田君なら電話がかかってきたから、外で話してるよ」

 

「でもよ、結局一ノ瀬がどうやって勝ってきたのかわからなかったし、三崎がそれに勝った方法もわからずじまいだよな」

 

 一ノ瀬と三崎の試合は、憑神での闘いであったためにそれを見ることが出来た者はほとんどいない。

 

「おい、デク! てめぇは見えてたんだろ」

 

 A組の面々の視線が緑谷へと集まる。

 

「そうなん? デク君」

「え? まぁ、むしろなんで僕だけに見えてるんだろうっていう摩訶不思議現象だから……おかしいのは僕の方なのかなって少し心配になってるぐらいだよ」

「緑谷にはどういう風に見えてたんだ?」

「一ノ瀬君も三崎君も変身してて、巨人同士の闘いって感じだったよ。こっちに闘いの余波が伝わってこないのが不思議なぐらいのすごい試合だった」

「俺にはちょっと斬り結んだ後に、急に一ノ瀬が倒れたようにしか見えなかったんだが。後は最後の方で、ちょっと一瞬チカっと光ったようにも見えたぐらいだな。みんなもそうだよな?」

「光ったのは多分、三崎君の最後の攻撃かな? なんというか光の玉を一ノ瀬君に発射してぶつけてたから。でも、同じようなのを一ノ瀬君も使ってたけどそれは三崎君は打ち破ってたから光っては見えなかったのかな……そもそもなんで僕だけに見えるんだろうか。位置? 角度? 他にあれらが見えているのは、一ノ瀬君と三崎君だけなのかな? 僕と彼らの共通項なんてあまり思いつかないけど……」

 

 緑谷がまたぶつぶつと呟きながら思考する。

 

「怖いよ、デク君」

「あ、ごめん!」

「デク君は、どっちが勝つと思う?」

「素の身体能力だけで考えたら倉本さんの方が圧倒的に有利なのは間違いないと思う。三崎君の変身を踏まえたとしても倉本さんの方が上だと思うよ。でも、一ノ瀬君の使っていたあれはかっちゃんの爆破をものともしなかった。まるで透過でもしたみたいに……もし、三崎君も同じことができるなら……三崎君が負けることは考えづらいな」

 

 依然に三崎は変身の個性を使ったことはあったが、一ノ瀬の様に透過したりはしなかった。しかし、三崎の変身した攻撃は一ノ瀬にちゃんと届いていた。そして、その時ばかりは三崎の変身さえも他の人には見えていなかった。その違いが緑谷にはわからなかった。三崎が一ノ瀬と同様の見えない方の変身を使えるのならば今までどうして使わなかったのかも腑に落ちなかった。それに一ノ瀬の肩に載っていた猫。黒い泡となって消えてしまったが、例のAIDAだったのではないだろうか。三崎はそれを退治したということなのだろうか。緑谷にとっては謎が深まるばかりであった。

 

 

 

 三崎は決勝戦を前にひどく落ち着かなかった。決勝戦に緊張しているわけではない。自身が負けてしまうことに関して頭から離れなかった。「負ければ奪われる」。ただの試合なのだからそんなことがあるはずはない。倉本は確かに強いが、それだけだ。ヴィランではない。

 それとも自信がなくなる?負けた程度で自信がなくなるなら、三爪痕に負けた時に既になくしている。それでも、オーヴァンの言葉が頭から離れることはなかった。

 

 

『さぁ、いよいよラスト! 雄英1年の頂点がここで決まる! 決勝戦 倉本 対 三崎!!」

 

 

『START!!』

 

 舞台の上、倉本と三崎が手に持つのは双剣で構えも逆手で同じだ。奇妙なものである。三爪痕もまた同じ逆手だった。

 

「アンタ、自分と似たような個性を見るのは初めてか?」

「いや、そうじゃないが……」

「アタシらみたいな個性持ちは結構、多いんだ。便宜上、個性として扱われているけど、同系統の個性という括りで考えてもあまりに画一的過ぎるから、一部じゃアタシらみたいな個性を職業(ジョブ)って呼ぶやつもいるぐらいだ」

「何故、そんな話を……」

「アタシと同じ双剣使いに会うのは初めてだからね。と言っても、アンタはマルチウェポンみたいだけど」

 

 その言葉を聞き、倉本と三爪痕は恐らくは関係ないだろうと見切りをつける。

 

「少しばかり期待させてもらうよ。アンタの実力をね!」

 

 その言葉を言い切ったと同時に三崎へと斬りかかった。

 

 速っ!?

 

 なんとか一撃を防ぐが、次の一撃、更に一撃と矢継ぎ早に放たれる斬撃に防戦一方になる。自身の攻撃より圧倒的に速い。それに重い。このままでは確実にやられてしまう。

 

「ほらほらぁ! どうしたぁ!」

「こ、このっ……!」

 

 攻撃に転じようとするが、そんな隙は一切なかった。強いことはわかっていたが、地力にここまでの差があるとは思っていなかった。負ける。そんな確信にも似た予感が頭を過る。

 

「アンタも期待外れか……」

 

 そんな落胆の言葉と共に、三崎を蹴り飛ばした。

 

「ぐぉっ……!!」

 

 鳩尾に入り、膝から崩れ落ちる。

 

「これではっきりしただろ。アンタとアタシじゃ、格が違うんだよ。格が」

 

 勝てない……素の実力において、三崎が倉本に勝っている点は何一つとしてない。

 

「……負けてたまるかぁぁぁぁ!!」

 

 全身を変身させる。憑神ではない普通の変身である。

 

「そういえば、そんなこともできたんだっけ。他の職業の個性じゃ見たことないね。錬装士の特別か? それともアンタだけなのか。どっちにしてもアタシの敵じゃない」

「くそがぁ!!」

 

 変身した三崎の拳が振り下ろされる。3m超えの巨体から繰り出されるそれは、破壊力に優れる。まして、鋼鉄に等しい強度を持った拳である。剣で受け止められようと、その圧倒的質量で潰せる。そう三崎は思っていた。倉本はその一撃を受け止めるのではなく、いなした。その隙に倉本は飛び上がって、三崎の顔面に向けて拳を放った。その一撃は、変身した三崎の顔面を文字通り砕いた。人形の様になっているため表情が変わることはないが、陥没しひび割れていた。

 

「な……んで……?」

「さっきも言っただろ。アンタとアタシじゃ、格が違うんだよ」

 

 やはり勝てない。このまま負けるのか。本当にこのまま何もできずに、為す術もなく、負けるのか。でも、ここで勝つ必要は……

 

 

『負ければ奪われるぞ』

 

 

 嫌だ。それだけは嫌だ。また、奪われるのは嫌だ。でも、勝つためには……

 

「あぁあああああああああああああ!!」

 

 その絶叫はどんな感情によるものかもわからない。それが負けに対することなのか、相手を害してしまうことに対してなのかは三崎には判然としなかった。

 

「スケェェェェィス!!」

 

 変身が憑神へと変化する。見た目の上では何も変わらない。だが、時の流れさえも異質となった空間は、どんな強者であっても資格がなければ認識することさえ叶わない。

 憑神となった変身。スケィスには巨大な鎌が握られた。

 

「うわぁあああああ!!」

 

 ただ横なぎに振り払った。倉本はその攻撃を認識できない故に直撃し、意識を失った。

 三崎の変身は解け、倉本は舞台へと倒れ伏した。

 ミッドナイトが、倉本の状態をみて、意識がないことを確認した。

 

「三崎くんの勝利!!」

 

『以上で全ての競技が終了! 今年度雄英体育祭1年優勝者は、A組三崎亮!!』

 

 三崎は勝ったはいいものの憑神を使ってしまった罪悪感からか誰とも目を合わせられそうになかった。気分の悪さに思わず舌打ちまでしてしまった。

 

 

 

 

「しかし、結局何やったかわからずじまいだな」

「あぁ……観客席のプロも同じだろうな」

 

 解説席で話す教師二人。相澤は、一ノ瀬や三崎がどの様にして勝ったのか依然として推測もつかないが、少しだけ思うところはあった。校長が三崎を特別扱いしていることに関してだ。特別扱いと言っても、除籍処分にしてはならないということだけだが、それだけでも生徒如何さえも教師の自由にさせている雄英高校の方針からすれば、それを反故にしている形になる。三崎の個性がそれに関係しているかはわからなかったが、今のところ思い当たる点と言えばそこぐらいであった。

 

 

 

そして、観客席

 

「デク君、一体何が起こったん……?」

 

 A組の面々おろかプロヒーロー達も誰も理解出来ていないなか、数少ない見えていた者。緑谷には、三崎の憑神がはっきりと見えていた。

 

「三崎君がでっかい鎌で……でも、あの感じだったら普通……」

 

 爆豪が一ノ瀬から攻撃を受けて無傷であったこともあったので、未経験の感覚ではなかったが、見たままで言えば間違いなく倉本の胴体と下半身が二つに分かたれる一撃であった。

 

「デク君?」

「でっかい鎌で倉本さんを攻撃したら、倉本さんが気絶した風にしか見えなかったかな」

 

 緑谷は言葉を少しだけ濁した。あまり考えたくはないが、三崎が人を殺す様な動きを見せたことがショックであった。そんなつもりがあったのか、なかったのか、相手が無事である確信があったのか。絵面だけで言えば、殺人の現場を見てしまった様な気持ち悪さだけが胸中に渦巻いた。

 

 

 

 しばらく後に、倉本は目を覚ました。そのことに三崎は表情には出さなかったが安堵していた。そして、表彰式が行われた。

 メダル授与にオールマイトが登場。その際、オールマイトの「私が来た」とミッドナイトの「我らがオールマイト」という紹介の声がダブった。グダグダである。

 

 

 まずは轟にメダル授与をした。オールマイトが轟に炎を使わなかったことに関して尋ねると轟は、オールマイトに清算しなくてはならないものがあると伝えた。オールマイトはそれに対して今の君にならきっとできると励ました。

 

 そして、もう一人の3位である一ノ瀬。彼は柱に縛られていた。一ノ瀬はただ歩き回っていた。猫を探して。居るはずもないそれをただ探していた。

 教師たちが連れてきても、またゆっくりと歩き出して探しに行こうとするために縛られていた。それに対して抵抗するわけでもなかったが、それでも探しに行こうとすることを辞めなかった。生気のない、まるで人形の様に、機械的に歩みを止めようとしなかった。

 

「ミア……」

 

 ただ「ミア」とうわ言の様に呟き続けていた。

 

「一ノ瀬少年、おめでとう」

 

 オールマイトが目の前に立ち、声をかけても返事も何もない。何も聞こえていない。

 

「あの……一ノ瀬少年?」

 

 オールマイトには一ノ瀬と三崎との一連の攻防は全く見えなかった。しかし、憑神の存在を知ってはいたので、何となしに何らかの特別な事情を抱えていることはわかった。恐らくは、11年前の被害者である。11年前の事件は確かに解決したが、助けることが出来たようで、そうではなかったのかもしれない。

 

「君が今、何に悩み苦しんでいるのかはわからないが……教師のみんな味方をするし、私にできることがあれば協力する。打ち明けてくれとは言わない。ただ、ここに立てる程の実力を誇れるように願っているよ」

 

 一ノ瀬は、それを聞いても何も変わった様子を見せなかった。「ミア」と呟くだけだった。

 

 

 準優勝の倉本。

 

「倉本少女、おめでとう」

「おめでたくなんかないよ。アタシは勝ちたかったのに……」

 

 倉本は血が出そうなほどに唇を噛みしめていた。

 

「そう言いなさんな。準優勝だって立派なことだ」

「アタシは、誰よりも強くなりたいだけだ。オールマイトより、天狼より……アイツより」

「やっぱり、アリーナを目指すのかい?」

「当たり前だ。アタシは最強の称号を手に入れる。絶対に」

「……君の夢だ。私にそれを否定することはできない。ただ、その力くれぐれも悪用しないように頼むよ」

「アリーナチャンピオンは、誇り高い奴がなるんだ! ヴィランなんかとは違う!」

「そんなつもりはなかったんだが、なんか……ごめんよ」

 

 アリーナには、ヒーローが参加することがないわけではないが、あまり良い行いとは思われない。アリーナ参加をきっかけに裏社会との関係を疑われて引退に追い込まれたヒーローもいる。事実関係としては、未だ不明のままであるが、信用のない者が続けるにはヒーローという仕事はあまりに過酷であった。

 オールマイト自身もアリーナには良い印象を持っていない。ただ、法的にはグレーではあるが、完全に悪だと決まっているわけでもない。それを否定していい理由も持ち合わせていなかった。

 

 

 

 そして、優勝した三崎。

 

「見事だったな。三崎少年」

 

 三崎は、未だに気分が沈んでいた。

 

「どうしたんだい? 優勝したと言うのに浮かない顔で」

「オールマイト……人を殺したことはあるか?」

「……原則としてヒーローは、ヴィランが相手であっても殺したりしない。しかし、やむを得ない状況も少なからずある」

 

 オールマイトは明確な回答は避けた。

 

「今回、俺は相手を殺しかねない手を使った。相手を殺すかもしれないとわかっててそれを使った。負けるのが怖かったんだ」

「しかし、相手は死んでいない。結果が全てとまでは言わない。君は君の全力を尽くして、この試合に臨んで勝利した。負けるのが怖いのは当然さ。その恐怖を乗り越えてヒーローは日々人助けをしていくものだ」

 

 三崎は人助けがしたいわけではない。ヒーローになりたいわけでもない。今も変わらずに三爪痕を倒したい以上のことはない。今この場に居るのはその過程にでしかなく、結果的に雄英体育祭で優勝したというだけの話だ。例え、先の試合で倉本を殺してしまっていたのだとしてもその目的を違えることはない。

 オールマイトは三崎を励ました。しかし、意図したものとは違い、三崎は改めて自身の目的を再確認した。

 

「改めて優勝おめでとう。三崎少年」

 

「さぁ、今回は彼らだった! しかし、皆さん。この場の誰にもここに立つ可能性はあった! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていく姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで最後に一言!」

 

「皆さんご唱和ください! せーの」

 

「プルス              「プルス……

 

「プルス    「お疲れさまでした!!」  「プルス

 

「プルスウ    「プル

 

 

 その場に居たオールマイトを除いた人は全員プルスウルトラと言うのだとばかり思っていた。

 

 

「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!」

 

 そんな観客の声も挙がった。

 

「ああいや……疲れたろうなと思って……」

 

 良いこと言ったようで意外と抜けているオールマイトのグダグダな締めによって1年生の雄英体育祭は幕を閉じた。




雄英体育祭がようやく終わった。なんとなくここら辺からエタる人が多い様な気がします。気のせいかもしれませんけど。先行き不透明ですが、完結できる様に頑張りたいと思います。

三崎(ハセヲ)とくっつくヒロイン誰がいいですか?(なお下の選択肢ほどエタる確率が上がる。そして、アンケート通りにするとは言ってない)

  • 日下千草(アトリ)
  • 倉本智香(揺光)
  • 久保萌(タビー)
  • 芦戸三奈
  • 拳藤一佳

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