雄英体育祭終了後、日下は落ち込んでいた。1人で人気のない場所で立ち尽くしていた。
「やぁ、君はこんなところで何をしているのかな?」
そこに話しかけてきた1人の男。
「え、あの……ごめんなさい」
既に体育祭は終わり、ほとんどの人が帰宅している。いつまでも居残っていたことを言われたのかと思い反射的に謝ってしまう。
「あぁ……別に怒っているわけではないよ。君は亮の友達でいいのかな?」
「……? 三崎さんのお知合いですか?」
「あぁ。プロヒーローのオーヴァンだ。亮との関係は……そうだな。亮の兄貴分と言ったところかな」
「そうなんですか……三崎さんの友達……だと思っているのは私の方だけかもしれません。私、主体性ないしどんくさいから三崎さんをいつもイライラさせてしまうんです」
「そうか……だけど君は亮ともっと仲良くなりたいんだろう? だったら、君も努力しなくちゃ……違うかい?」
日下には、三崎に抱いている気持ちがなんなのかよくわかっていないが、仲良くなりたいという思いは確かにある。三崎は、冷たい態度こそ取るが助けてもらっている。彼の助けにもなりたいとも思う。
「私、どうしたらいいんでしょうか?」
「亮が三爪痕というヴィランを探しているのは知っているね」
「それは……え? でも……」
オーヴァンが言わんとしていることはすぐにわかった。要は「三爪痕を見つけろ」ということである。しかし、ヒーローの資格を持っていないものが、ヴィランを探すというのは、様々な理由から危険だ。単純に三爪痕は強力なヴィランであるはずであるし、資格を持っていなければ、個性の使用はその時点で犯罪である。
「大丈夫。君のその音を聞く個性を使えば見つけられる。見つけたらヒーローを呼べばいい。そうすれば、亮は君を認めてくれるよ」
「そう……でしょうか……?」
「……ところで、亮が何故三爪痕を探しているかは知っているかい?」
「知りませんけど……?」
「彼には幼馴染が居てね。七尾志乃という女の子なんだが、彼女は三爪痕に……殺された」
「え……!? それじゃあ、三崎さんは復讐のために……!?」
「あぁ。志乃は俺にとっては妹のような存在だった。亮とはとても仲が良かった。大事な人を亡くすというのは……それは、身体の一部が欠けたかの様な喪失感だ。復讐はその欠けた部分を何とかして埋めようとする反応の様なもの。ヒーローとしては否定するべきなのだろうが、俺はあいつを止めることはしたくないし、できそうもない」
オーヴァンは、内心で自嘲する。一体どの面下げてこんなことを言っているのか。しかし、自分の言葉に偽りもない。本当のことを言っていないだけで。
「職場体験が近々あるはずだ。その時に、君が頼りに思うヒーローの指名があるならそこに行くんだ。きっと力になってくれる。俺が指名しても良いんだが、生憎人を受け入れられる余裕は俺にはなくてね」
「私、頑張ってみます」
「それにしても君を見ていると志乃のことを思い出すよ」
「私と志乃さんはそんなに似ているんですか?」
「世の中に3人は似ている人が居るとは言うが、居るはずのない志乃の双子の姉妹かと思ったよ」
オーヴァンは携帯端末で志乃の写真を見せた。日下は自分と見間違えそうなほど似ている人がそこには確かに写っていた。そして、そこに一緒に移っているのはオーヴァンと三崎の姿。
日下は、以前に三崎に紛らわしいと言われたことを思い出した。これ程までに似ているのならそう思うのもわかる。自分でさえも撮った覚えのない写真の様に感じる。記憶にないだけでそこに居たのでは、と勘違いしてしまいそうなほどだ。
よく似ている別人。それも亡くなった人で大事な人であったのなら紛らわしいと思われても変ではない。そして、三崎が日下(私)に優しい時があるのは――その人(志乃さん)に似ているから?
自分の内面など関係なしに、三崎の人を想う優しさでもなく、志乃という人物に似ていたから三崎に優しくしてもらえた。それは、何とも……何とも虚しい。日下はただ自分を見てもらいたかった。認められたかった。三崎は、日下(私)を見ていてくれているのだと思っていた。しかし、本当は日下の姿を通して志乃を見ていただけだった。実際の真実はともかく、日下はそう確信していた。
雄英体育祭を終えて、次の登校日。全国放送されているだけあり、その影響力は計り知れず、雄英ヒーロー科のほとんどが一般の人々から声をかけられていた。
A組の教室でもその話題で持ち切りであり、雄英の凄さを改めて感じていた。
そこに相澤が入ってくると、一気に静かになる。毎度毎度、注意されていれば、そうもなるだろう。
「相澤先生、包帯取れたのね。よかったわ」
「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより、今日のヒーロー情報学ちょっと特別だぞ」
抜き打ちでテストかと内心怯える生徒が居たが
「『コードネーム』ヒーロー名の公安だ」
「「「胸膨らむやつきたぁあああ!!」」」
一気に騒がしくしたが、相澤の睨みですぐに静まった。
「というのも、先日話したプロからのドラフト指名に関係してくる。指名が本格化するのは2,3年から。つまり、今回来た指名は将来性に対する興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんでことはよくある」
峰田が「大人は勝手だ」と机を叩く。
「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」
轟 2854
三崎 1531
爆豪 1231
常闇 280
飯田 250
上鳴 272
八百万 108
切島 40
麗日 20
瀬呂 14
緑谷 1
「例年はもっとバラけるんだが、3人に注目が偏った」
「三崎、一位だったのに思ったより少ないね」
三崎はどうでもよかったので、特に反応はしなかった。結局はレイヴンのところに行くことに変わりがない。
「結果だけ見りゃ上等だが、実態が見えなかったからだろ。どういう力かわからないから、どう扱えばいいかわからない。そんなクソみてぇなのはほっときゃいいんだ」
「爆豪がフォロー入れるとは珍しい」
「あぁ!? 俺の推察と事実を言っただけだ。ボケが!!」
爆豪の周りはどうせキレられると思い言わなかったが、「ツンデレなのか?」と思っていた。
「これを踏まえ、指名の有無に関係なくいわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りのある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきた!」
「まぁ、仮ではあるが適当なもんは……「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」
相澤の言葉を遮る様に現れたのはミッドナイトだった。
「この時の名が! 世にそのまま認知され、そのままプロ名になってる人、多いからね!」
「まぁ、そういうことだ、その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」
「将来、自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まりそこに近づいてく。それが、『名は体を表す』ってことだ。『オールマイト』とかな」
考える時間が与えられたのだが、15分ほど経つと
「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」
まさかの発表形式。ヒーローになったら名乗りを挙げることもあるだろうから変な話ではないが、結構恥ずかしいものがある。
一発目に出てきた青山が「I can not stop twinkling」という、短文を持ってきた。ミッドナイトはごく普通に「そこはIを取ってcan’tに省略した方が呼びやすい」なんて指摘する。次に発表したのが芦戸。「エイリアンクイーン」ミッドナイトに止められたが、大喜利っぽい空気になったために次が出にくくなってしまった。
その空気を変えたのが蛙吹だった。「フロッピー」普通に良い名称が出たことで次々と発表する人が出てくる。
そして、三崎は
「ハセヲ」
「ハセオ?」
「『お』じゃねぇ『を』だ『うぉ』! 普通に書いてあんだろうが!」
「ごめん、ハセラ*1」
「……おい、そのネタは多分誰にも伝わんねぇからやめろ」
「それで意味は?」
「特にねぇよ。テキトーだ、テキトー」
その後、轟は「ショート」という自分の名前で通したのを見て、自分もそうすれば良かったかと、少し悩みもした。
A組は爆豪を除き、ちゃんとヒーロー名が決まった。爆豪は最後までミッドナイトに拒否されたために自分の名前で行くことになっていた。