.hack//G.U. THE HERO   作:天城恭助

26 / 26
職場体験

指名があってもなくても職場体験に行くことが決まっているが、緑谷には指名が一つだけ来ていた。指名をしたヒーローは欅。ヒーローオタクでもある緑谷は当然欅のことを知っていた。しかし、その彼であってもオールマイトの秘密を知る以前のオールマイト以上に謎が多いヒーローだった。個性不明。年齢不明。本名不明。経歴不明。活動不明。性別は男――とされてはいるが、中性的な見た目でもあるのでネットでは女性説さえある。そんな謎だらけの人物にも係わらずヒーローランキング10位という高順位にいる謎。と言っても、これは欅の作った『月の樹』と呼ばれるボランティア団体が多くの人に支持されているからだ。

 

 『月の樹』はヒーローのみならず、多くの一般人が在籍しており、普段は市民レベルでの防犯対策や救急治療などの講義を行っている。全国に拠点があり、日本人の5人に1は在籍していると言われている。『ヒーローに頼り切りになるのではなく、ヒーローがより多くの人を助けられるようにするために自分を助けられるようにする』というのが、『月の樹』の目指すところである。また、平等である社会も目指しており差別問題なども解決するべく積極的に動いている。

 

 これらの活動が、大きく世間で評価されているために欅はヒーロー活動をほとんど行っていないにもかかわらず10位という高順位にいる。容姿が美少年というのも一役買っていそうでもあるが。

 

「緑谷少年、ちょっとおいで」

「なんですか?」

 

 オールマイトは人の居ない廊下へと歩いていく。

 

「君は、欅の指名を受けるつもりかい?」

「いや、まぁ、折角来た指名ですし……」

「彼には注意した方がいいかもしれん」

「え? どうしてですか?」

「一体どこまで把握しているのかはわからないが、私の限界時間が近いことを知っていた。それにワンフォーオールのことを知っているかの様な口振りだったんだ」

「秘密を明かしていないのに……ですか?」

「当日は、私を呼んでいるので私は行くつもりなのだが……君を指名するということは、もしかしたら本当に色々と知られているのかもしれない」

「そ、そんな!! それって大丈夫なんですか!?」

「彼は信頼のあるヒーローだ。間違っても人々を混乱に陥れる様なことはしないと思うが……私にも彼が何をするつもりなのかが全く見えてこないんだ」

 

 後日、自分の秘密を打ち明けるとも言ってはいたが、一体どんな秘密なのか。

 

「指名を受けない方がいいんでしょうか……?」

「それは君の思う通りでいい。そういう懸念がある。ということだけ伝えたかっただけさ。彼が何を思っているのかわからないとは言ったが、私は彼を信用すると決めている。ただ、だからと言って君が信用する必要もない。ということさ」

 

 それはオールマイトの迷いの現れでもあった。信用したいという気持ちは山々であるが、怪しいことこの上ない。一抹の不安がないわけではない。本当に信頼したのなら緑谷にわざわざ警戒を促す様なことを言う必要がない。それを理解できない緑谷ではなかったが、悩んだ末に指名を受けることにした。

 怪しいは怪しいかもしれないが、間違いなくトップヒーローの1人である。そんなヒーローがどんな活動しているか興味が沸かないわけがない。

 

 


 

 

 飯田は、マニュアル事務所の指名を受けることにしていた。その理由は、ヒーロー殺しの二つ名を持つヴィラン『ステイン』が次に出没する可能性がある保須市に拠点を構えていたからだった。飯田がステインを探そうと考えているのは、彼の兄であるヒーロー『インゲニウム』が下半身不随となるほどの大怪我を負わされたからだ。つまるところ、復讐である。

 『インゲニウム』は飯田の兄であり、憧れのヒーローでもある。それを潰した『ステイン』がどうしても許せなかった。怒りで腸が煮えくり返りそうな気持ちを表面上は、何事も無いようにしていた。これは自分だけの問題だから。友人にいらぬ心配をかけたくはないし、迷惑をかけたくもない。だが、1人だけ話を聞きたいと思っている相手が居た。『三爪痕』というヴィランを探しているクラスメイト――三崎だ。その時は理由を聞かなかったが、彼はもしかしたら自分と同じで復讐を考えているのではないかと思っていた。学生の身で特定のヴィランを追いかけるのはそれ以外に考えられなかった。一体どんな気持ちであるのか、飯田は無意識に共感できる相手を探していた。

 

「三崎君。ちょっといいか?」

「ん?」

「三崎君は『三爪痕』というヴィランを探していると言っていたが、何故か聞いてもいいか?」

 

 三崎は飯田がどうしてこのことを今になって聞いてきたのか少し考えて、すぐに答えは出た。周りに興味があまりない三崎でも、そのニュースが耳に入らないわけがなかった。

 

「既に答えは出てんだろ。答え合わせのつもりか?」

「僕は……この気持ちを抑えることができそうもない。君は一体どんな気持ちで……」

「俺は抑える気がない。例え犯罪者と罵られようと俺は三爪痕を……殺す」

「……そうか」

 

 飯田は、その決心を強めようとしていた。ヒーロー殺しへの復讐を。

 

「俺はお前を止める気はないけど、それは本当にお前がしたいことなのか?」

 

 横目でヒーローに憧れ、志し、努力を続ける姿を見ていた。その力は、復讐のために培ったものではない。憧れたヒーローに近づくためのものだ。それを復讐のために使うのは惜しいと感じた。

 

「ヒーロー殺しが憎い。その気持ちで頭がいっぱいなんだ……!」

 

 三崎には大切な存在を傷つけられて憎く思う気持ちは痛いほどわかった。しかし、三崎と飯田には決定的に違う点があった。

 

「お前の兄貴は生きてんだろ。容態が落ち着いたら、話してこい。それからもう一度考えればいい」

「君は……」

「俺の幼馴染は殺された。目の前で消え去る姿を見ることしかできなかった。復讐がそいつのためだなんて言う気はねぇが、俺がそいつにしてやれるのはそれしか思いつかなかった」

 

 復讐なんて結局のところ自分のためだ。志乃が復讐を望む様な奴ではないことはわかっている。それでも、それ以外に考えつかなくなった。

 

「お前の夢とその復讐を天秤に載せてどちらが重いか……落ち着いて考えれば見えてくるだろ。それでも復讐の方に傾くなら、好きにすればいい。その時は、自分の夢も捨てるんだな」

「君は、それで復讐を選んだのか」

「元から俺の天秤には復讐しか載ってねぇんだよ」

 

 飯田は、燃え上がる様な復讐の気持ちが少しだけ落ち着いたのがわかった。復讐したい気持ちがなくなったわけではない。ただ、自分がヒーローを志していることを思い出した。兄の様な立派なヒーローになりたい。その気持ちに今も変わりはない。

 

「ありがとう! 三崎君!」

 

 自分の道を正そうとしてくれた三崎に感謝の念を覚えた。と、同時に、助けたいと思った。三崎は、復讐しかないと言ったが、そんな人間がこんなアドバイスできるだろうか。自分と同じように復讐しか見えなくなっているだけではないのか。そんな只中にあって人を導くだけの力があるのだ。彼が本当にヒーローを志すのならば、きっと素晴らしいヒーローになる。

 

「僕は、兄さんの様な人々を導けるヒーローになる!」

「……そうかい」

 

 クラスメイトの身では烏滸がましいかもしれないが、三崎を正しき道へと導いてあげたいと思った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 職場体験、当日。駅構内に集まったA組は、コスチュームを渡され、それぞれの職場体験場所へと移動を開始していた。

 

「飯田君、本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

「あぁ、大丈夫だ」

 

 飯田は結局、ノーマルヒーローマニュアルの事務所を選んでいた。ヒーロー殺しに高い確率で遭遇できそうなのは今だけだったからだ。この機会を逃せば、捕まるか、次の出現場所が予想できなくなるか。いずれにせよ、復讐の機会は失われる。まだ、迷いに揺れている。自分があるべき姿、なろうとしている自分は思い出せたが、ヒーロー殺しへの恨みは晴れてはいなかった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。