クーンこと香住智成に連れてこられた場所は都内の一等地。ヒーロー事務所が至る所にある場所だった。50階建ての高層ビルの最上階。そのワンフロアが香住のインターン先のヒーロー事務所だった。
「戻ったよ、パイ」
そこには露出度が高いコスチュームを身に着けた女性がいた。眼鏡をかけており、長い桃色の髪をツインテールにしていた。
「ご苦労様。そこの二人が例の子たちね」
「あぁ、あれが見えてたから間違いない」
香住は報告をしていた。亮と日下は断片的には聞こえていたが、内容は全くわからなかった。
「おっと、待たせちゃってごめんね。改めて『レイヴン』へようこそ。三崎君、日下さん」
香住が両手を広げて歓迎のポーズを見せる。
「レイヴン?」
「ここの事務所の名前だよ。普通はヒーロー名と事務所ってくっつけた名前だけど、ここはヒーロー事務所には見えないしね」
「クーン……」
女性が、睨みつけるように香住を見る。香住は小声で「おぉ、怖い」と漏らす。
「彼女はパイ。ここでサイドキックをしている」
「よろしく」
パイは格好に見合わず、生真面目かつ堅そうな雰囲気を持っていた。亮と日下は思わず頭を下げて挨拶をする。
「それでここの事務所のトップが八咫だ」
「八咫?」
亮はヒーローに詳しい訳ではないが、全く聞き覚えがないというのもおかしく思った。ここの一帯は有名な実力者のヒーローばかり。そうでなくてはこんなところに事務所を構えることなどできない。
「八咫はここの奥の部屋に居る。お目当ての話は八咫から聞いてくれ」
「あれ、一緒に来ないんですか?」
日下が疑問を口にする。
「話を聞くのは君らだけだしね。まぁ、とにかく行っておいで」
奥の部屋に入るとそこは薄暗かった。そして、かなり広い。このフロアのほとんどのスペースをこの部屋が占めているであろう広さだ。そして、その奥には何かの端末らしきものが置いてある。その端末らしきモノの上にある壁にはウロボロスの意匠があり、回転し続けていた。
突如、電源が入ったように明るくなる。だが、その明るさは蛍光灯などの明るさを得るためのものではなく、電源が入っていることや、何かしらが動いていることを伝えるランプのような明かりだ。
「ようこそ知識の蛇へ」
端末のある場所に立っていたのは、金髪の坊主頭をした男だった。服は色眼鏡をつけた修行僧の様にも見える。
「あんたが八咫ってやつか?」
「はじめまして……と言うのも妙な感じだ。私は君たちをずっと見ていた」
八咫が端末に手をかざすとその部屋に一気に映像が映し出される。
「なっ!?」
それらは、監視カメラの映像のように見えた。だが、尋常な数ではない。ざっと見ただけでも数百はありそうだ。
「今は世界の人口のおよそ8割の人間が何らかの超常能力を持つ社会だが、それらを大きく狂わすほどの異常が起こっている。それは、事象として、あるいは対象として様々な形で世界に表出する。三崎亮、君が体験した個性の異常もその一つだ」
「え? 三崎さん、それ大丈夫なんですか!?」
「あ、あぁ。って、そうじゃねぇ! 俺たちを監視していたのか!? 何の権利があってそんなことをしやがる!」
「私はこれでもヒーローなのでね。ちゃんとした調査だよ」
「調査だと?」
「本来、この世界にはありえないはずの異常。しかし、この世界に確実に存在する現象。我々はそれらを総称してAIDAと呼んでいる」
聞いたことがない言葉。おそらくは何らかの略称だが、検討が付かない。
「今はまだ、ほとんどの人間に知られていない。現段階においてはその程度のレベルではある。しかし、三崎亮、君はそれに遭遇しているはずだ。そして、その脅威を、危険性を目の当たりにしている」
「……トライエッジ」
「彼が君に使った技。あれは、データドレインと呼ばれている技だ」
「データ……ドレイン?」
「個性を封じる個性自体は存在する。だが、データドレインの本質はそこではない。あれは、個性を含めた身体を改変させる技だ。その程度で済んだのは運が良かったとも言える」
改変という言葉がどの程度のものかはわからないが、死んでいてもおかしくはなかったということだろう。
「トライエッジはAIDAなのか?」
「その可能性は否定できない」
亮はその曖昧な言葉に対して舌打ちをする。
「また被害者たちの行方も調査中だ」
「被害者たちの行方?」
「AIDAに攻撃された、あるいはそれに類する何かに攻撃された時、その人間はどこかに消え去る」
亮は志乃が殺された時のことを思い出した。志乃を攻撃をした張本人を見ることはなく、現場に着いた時には既に息絶えようとしている志乃がいた。すぐに救急車を呼ぶために携帯にかけながら志乃に駆け寄ったが、志乃はその場に大量の血痕と亮に言葉だけを残し、光の塵の様になって姿を消した。その残された血の量からほぼ確実に失血死していると考えられたため志乃は遺体がなくとも死亡したと断定された。
「我々はその様な被害者たちを未帰還者と呼んでいる」
「未帰還者たちは一体どこに行ったんだ」
「調査中だと言ったはずだ。怪しい場所があるにはあるがね」
「なら、そこを探しゃいいだろ!」
「既に調査済みだ。それに君たちも訪れただろう。あの異質な場所を」
得体のしれない何かに襲われた場所。おそらくは得体のしれないあれがAIDAと呼ばれるものなのだろう。とにかく、あの場所は確かに普通ではない。どこにも出口はないが、傷痕を通してのみ出入りが可能な場所だ。
「あれはロストグラウンドと呼ばれている。この世界のどこでもない場所。GPSや発信機を付けて訪れても、世界中のどこにも反応がない。つまり、少なくともこの地球上ではないことは確かだ。一般には知られていないが、既にいくつか発見されている。君たちが入った場所は最近新たに確認された場所だ」
そこに香住が調査に行く前に、亮たちが訪れていた。
「それで、どうして私たちを呼んだんですか?」
「君たちにAIDA調査を協力してもらいたい」
「私たちまだヒーローの仮免試験も受けてない学生ですよ」
「現状、AIDAに対抗するには特殊な個性を持つ人間にしかできない」
「それが、俺たち?」
「その特殊な個性を使うものたちを碑文使いと呼ぶ。クーンやパイもその一人だ」
何故、碑文使いと呼ばれているのか。何故、自分たちはその個性を使うことができるのか。何故、碑文使いにしかAIDAに対抗できないのか。疑問は尽きない。
「どうして、碑文使いにしかAIDAに対抗できないんですか?」
「AIDAは普通の攻撃で傷つくことがない。どれだけの破壊力を有する個性や武器であろうともだ。碑文使いの能力だけがAIDAを駆除することができる」
確かにその様な存在であれば、頼らざるを得ないのもわからないこともない。しかし、いくらヒーロー志望と言えど学生を頼るのは如何なものだろう。
「どうして、私たちにその碑文があるんですか?」
「君たちもおおよその検討はついているのではないかね? 君たち二人は11年前に事件に巻き込まれたはずだ」
11年前、通称モルガナ事件と呼ばれる事件があった。8人のヴィランによって、災害レベルの被害がもたらされた。おそらく、ヴィランが起こした事件の中で最も甚大な被害を出した事件。
「その際に君たちは、移植手術が必要になるほどの重傷を負った。だが、君たち以外にも重傷を負った者はたくさんいた。ドナーが不足するのも当然だ。人工臓器では無理があった。そこで、君たちに提供されたのはそのヴィランたちの臓器だよ」
その真実はヒーロー志望にとっては、かなり酷な話だった。臓器移植を受けたことは二人とも知っていたことだが、ヴィランのモノであることは知らなかった。
「そのヴィランの臓器を移植された者たちは、元々持っていた個性に加えて、変身する能力を得た。それが君たち碑文使いだ」
元々持っている個性。亮も日下も変身する個性の他に元々個性を持っていた。それも使えなくなったわけではない。複合個性というわけでもないにもかかわらず、全く関係性のないそれらは普通では考えられないことだ。
亮は元々『錬装士』という個性を持っていた。しかし、複数の武器が使えるはずのその個性は短剣しか創り出すことができなかった。変身する方が手っ取り早い上に変身は身体能力も大きく上昇するので使うことはなかった。また、個性の併用もできなかった。
「そういえば、三崎君は元々持っていた個性が使えるかは試していないのかね?」
確かに試していなかった。もう使うこともないと思っていたからだ。ほぼ存在も忘れかけていた。
「……はぁっ!」
腰に差している短剣を引き抜くように動作をすると、その手には短剣が握られていた。
「できた……」
これで最低限の力は確保できた。と、考えてもいいのかは判断に困る所だった。
「碑文使いの能力と個性の併用は不可能であると思われるが、元々の個性を鍛えておいて損はない。個性を鍛えれば、碑文使いの能力も向上することがわかっている。ただ、加えて言うと君たちはまだ真に碑文使いと呼べる状態ではないがね」
「どうしてだ?」
「それは君たちがまだ開眼していないからだ。開眼した者の変身は憑神と呼び、碑文使い以外の人間に変身した姿が見えることはない。そして、AIDAに対抗できるのは開眼した碑文使いだけだ」
「お前たちに協力すれば開眼できるのか?」
「もちろん。むしろ、そうなってもらわなければ困る」
「いいぜ。協力してやるよ。ただし、俺に指図すんな。それが条件だ」
「日下君、君は?」
「私は……この個性を誰かに役立てられるなら手伝わせてください」
「よろしい。時間ももう遅い。憑神については後日、クーンから直接聞くといい」
三崎達がそれぞれの帰路についた後
「八咫様……本当にあんな学生に力を持たせても大丈夫なのでしょうか」
「……遅かれ早かれ彼らは開眼に至る。そこは問題ではないよ、パイ」
八咫はオーヴァンの個人情報を見ながら思考を続けた。
そして、ところ変わってオーヴァンはある者と接触していた。
「探したよ。オール・フォー・ワン」
「僕を探し当てるとはなかなかやるじゃないか。でも、僕は君のことをまるで知らない。教えてくれないか?」
オールフォーワンの声音はとても穏やかだった。しかし、心中は穏やかではない。
場所が誰かに割れるようなことは一切していない。完全に闇に潜んでいたはずだった。それなのにこの男は居場所を突気止めた。
「今は活動していないが、ヒーロー名、オーヴァンだ」
「ヒーローが僕のところに来る……か。そもそも僕のことを知るヒーローはほとんどいない。一体、何をしに来たんだい?」
何者なのか知っていて、この場にやってきたヒーローならば、捕まえるために行動するのが普通だ。ならば、オーヴァンの目的はそれ以外だ。
「あんたと敵対するつもりはないよ。ただ少しばかり協力しに来たんだ」
「協力? ヒーローが、僕に?」
オールフォーワンの声に笑いが混じる。
「単刀直入に聞くよ。その目的は?」
「黄昏の鍵」
その存在を知るは、未だ誰もいない。
最後にとりあえず、オーヴァン出しておきました。どう話に絡めるかはまだ考え中。
ついでに言うと他のG.U.のキャラをどうやって出そうか頭を悩ませている最中です。
三崎(ハセヲ)とくっつくヒロイン誰がいいですか?(なお下の選択肢ほどエタる確率が上がる。そして、アンケート通りにするとは言ってない)
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日下千草(アトリ)
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倉本智香(揺光)
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久保萌(タビー)
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芦戸三奈
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拳藤一佳