「ぐっ……!!」
「緑谷少年!!」
守り育むべき生徒に守られてしまった。そんな後悔が過るが、まだそんな思考に陥っていられるような状況ではない。
明らかに緑谷の様子がおかしい。
「あ……あ。aaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAAH!!」
どこかノイズ交じりの絶叫。やたらめったらに身体を揺さぶり、それによって暴風が巻き起こる。砂埃が大きく舞い上がり、視界が遮られる。
「なんだ!? どうしたんだ! 緑谷のやつ! あの黒い泡のせいか!?」
「あのヴィランは他者の精神に入り込み暴走させるとか言ってたから、それだろ」
「はっ! デクをぶっ倒すいい機会だ! 要は大人しくさせりゃいいんだろ!!」
「やめろ! あれは迂闊に手を出していいもんじゃねぇ!」
志乃が消えてしまった時のことが、フラッシュバックする。まだ三爪痕とAIDAが同一のものであるとわかったわけではないが、あの悲劇が起こってしまうのではないかと心の奥底が訴えてくる。
「そうだね。君たちは下がっていなさい」
そう声をかけてきたのはセメントスだった。気付けば雄英教師たちがUSJに集まっていた。
「他のみんなは!?」
「ヴィランは全て取り押さえて、生徒はみんな保護したよ。後はここだけだ。君たちも早く避難しなさい」
「ちっ……」
「ここで助けに行けないなんて男らしくねぇ……けど、プロに任せるしかねぇよな」
ただ、ここを去ることしかできない歯がゆさ。自身の力のなさを痛感することしかできなかった。
そして、三崎は出口の方を見るとそこに八咫が居ることに気付いた。
「どうした? 三崎?」
「いや、ちょっとな。先行っててくれ」
「……よくわかんねぇけど、お前も早く来いよ」
三人がUSJから出ていくのを見送り、八咫に話しかけに行く三崎。
「なんで、ここにあんたが居んだよ?」
「近くでAIDA反応出始めてな。ここにも警戒するよう通達に来ていた。このタイミングで来るとは思っていなかったがね」
緊迫した状況だというのに、その言葉は落ち着いていた。
「あの2人も来ているのか? 碑文使いじゃなきゃ、AIDAはどうにもできねぇんだろ」
「2人は別件で動いている。よってすぐにここに来ることはできない」
「なら、どうすんだ!」
「君がやりたまえ。君も碑文使いだ」
「……本気で言っているのか?」
「もちろん。このままでは深刻な被害がでることは避けられん。かと言って、プロヒーローであってもこの事態を鎮静化させることは不可能だ。君の言う通り、碑文使いにしかこの状況は打開できない」
ヒーロー志望の学生とはいえ、まだヒーローの仮免許も取得していない人間に最前線に立てとその男は言った。プロヒーローであるはずのその男が。
「俺は別にいい。ただ、そんなこと他のヒーローが許すわけないだろ」
「許すさ。なぁ、校長先生」
「校長……?!」
傍にいた、動物が個性を持ったという希少な存在である雄英高校の校長。三崎はそのサイズ感故に全く気付いていなかった。
「……本当は絶対にそんなことはさせてはいけない。けれど、この場は君に頼むしかないのさ」
「さぁ、行きたまえ。三崎亮君」
「どうなっても知らねぇぞ」
三崎は、走って緑谷の下へと向かう。
「君、本当にプロヒーローかい?」
校長のその質問は、三崎に対して言った言葉に対しての疑問だった。プロヒーローが子どもに「対処できるのはお前だけだからお前が対処しろ」なんて、例え事実であったとして言えるわけがないし、させることもできるわけがない。
「先ほども言った通り、プロヒーローになったのは都合のためであって、私に適性があるとは思っていない。そもそも、私の本職でもない」
「そうだったね。そうでなきゃ、私が君の言う通りになんてしないのさ」
「ご協力痛み入る」
「私としても苦渋の決断なのさ。皆には、何を言われても仕方ない」
それは、校長の嘆きであった。一言で済ませてしまうならば大人の事情。しかし、こんな事情に生徒を巻き込むことを許してしまう自分に憤ってもいた。
三崎は、不思議と高揚感があった。確信にも似た予感があった。自分はもうすぐ開眼に至る。八咫の言葉を安請け合いしたのも、今この場であればモノにできそうだと感じればこそだった。
緑谷の居る場所へ。しかし、その道をセメントスが個性『セメント』を使って塞いでいた。被害拡大を防ぐためだ。他のヒーロー達も緑谷を何とか無事に助けるために尽力している。
三崎は双剣を取り出して、セメントスが作った壁の破壊を試みたが、まるで歯が立たなかった。
当のセメントスは緑谷を抑えるために前線にいるために三崎の存在に気付いてはいなかった。気付いていたら、止めるのが当然だ。
「くそっ!」
いや、まだ自分にはやれることがある。これもなんとなくでしかなかった。けれど、やってやる。ただ、それだけのことだった。
双剣を捨て、何も背負っていない背中にまるで剣を引き抜く様な動作をする。
そして、何もないはずの虚空から大剣が出てきた。
「これで、どうだぁ!」
力任せにV字に斬りかかった。
「虎乱襲!!」
それは斬るというよりも砕く様な一撃だった。壁は目論見通り突破できた。武器を投げ捨て、再び走る。
視界に入った緑谷は蹲ったまま動いていなかった。黒い泡が全身を纏い、四肢の一部が異形な姿になりつつあった。
「緑谷!!」
「mi……さkiくn……?」
緑谷の声がひどく聞き取りづらかった。
「なんで、君がここに!? 早く逃げなさい!」
ミッドナイトが声を上げる。
彼女の個性「眠り香」によって、緑谷を眠らせようとしていたが、何故か効力を発揮できず困惑していた。そこに、更に生徒がやって来たのだから対処に困る。
「校長から許可はもらってる。勝手にやらせてもらうぜ」
「ちょっと、そんなこと許せるはずないでしょう! 大人しくしていなさい!」
「俺ならAIDAを……あの黒いのを取り除ける」
「……!? だとしてもダメよ」
現状は芳しいものとは言えなかった。黒い泡からは、黒い腕が伸びて攻撃を仕掛けてくる。近づけば、緑谷が超パワーによる風圧によって吹き飛ばされる。そのたびに、緑谷の身体が壊れていく。ただ、不幸中の幸いとも言えるのか黒い泡が身体を纏ってからは個性を発動する際に起きるダメージがかなり軽減されていることだった。しかし、ヒーローとして考えてはいけないことだが、個性によるダメージで自滅という可能性もなくなったためにどうしようもなくなっていた。
「でもよ……ふっ!」
伸びてきた黒い腕を三崎は大剣で弾き飛ばす。
「埒が明かねぇんじゃねぇか。このままじゃジリ貧だ」
エクトプラズムもブラドキングもスナイプもセメントスもプレゼント・マイクも緑谷を抑えることができずにいた。相澤と13号は負傷のためにこの場にはいない。
そして、オールマイトは……
「そういや、オールマイトは?」
「オールマイトは……あの黒い球体の中よ」
真っ黒のために遠近感がまるで働かないが、確かに緑谷の傍に黒い物体があった。
「そうかよ。だが……俺ならやれる」
三崎は緑谷に直行する。特に考えなどはなかった。
「待ちなさい!」
それを視界の端で捉えたエクトプラズムが、分身体を使い三崎を捕獲にかかった。
黒い腕に囲まれる中、安全に保護するのは不可能に近かった。
黒い腕の一撃は、セメントスが作る壁も容易く切り裂き、粉砕する。その数も時間が経てば経つほどに数を増やしていく。対処に来たプロヒーローたちに行動不能になるほどの怪我を負っていないことが奇跡的に思えるほどに手強かった。
「誰も邪魔すんじゃねぇ!!」
あと少しで、何かが掴める。ここで成長できなければ、きっと一生三爪痕には届かない。このまま被害が拡大すれば、短い付き合いとはいえ、クラスメイトを、緑谷を見捨てることにもなる。誰かを見捨てるという選択肢は選べない。誰かが消え去る様をまた見たくはなかった。
ハ長調ラ音が頭の中で響く。
そして、何かの声が聞こえた。
『ミ・ツ・ケ・タ……!』
「……来い」
ふと、口からこぼれる。何かを呼ぶ。誰を?何を?
「……来い!」
そして、何かの影を感じ、オールマイトが脳無を吹き飛ばして作った穴に目をやる。
「オーヴァーーーン!!」
その人影は笑みを浮かべたように見えた。
そして、再びハ長調ラ音が響いた。
「来た! ……来た! ……来た! 来た! 来たぁああああ!!!」
三崎の身体が変容した。
以前使っていた変身の個性の様に、巨大な人形の様な姿。そして、その右手には巨大な死神の鎌の様なものが握られていた。
最も、その姿を認識できるものは碑文使いに限られる。
憑神を使用する際、その空間は法則がすべて塗り替えられる。時の流れも、物理現象も全く異質なモノへと変容する。AIDAも近い性質を持つが、AIDAは触れたものに限られ、憑神は辺り一帯が強制的に変容させる。しかし、それらを知覚できるものも碑文使いだけだった。
AIDAから黒い腕が視界を埋め尽くすほど、押し寄せてくる。三崎は鎌の一振りで全て薙ぎ払った。
「うぉおおおお!」
左手からは球体の電撃を緑谷に向けて放つ。
「guaaaaaaa!!」
黒い泡も含めてすべての動きが鈍くなった。
「悪ぃな、緑谷。だが、これで終いだ!」
右手にあった鎌が消え去り、右腕が砲台の様に変じる。そこから球体のエネルギーを緑谷に向けて発射し、直撃した。人形の右腕は砲身が縮み、盾のように拡がる。そして、球体のエネルギーからあらゆる何かを吸収していく。最後には発射した球体も右腕に吸い込まれていった。
緑谷が蹲っていた状態からそのままうつ伏せに倒れた。そして、黒い泡が離れ消えていく。異形と化していた部分も元通りになっていった。
「収まった……?」
教師の誰かが言葉をもらす。
「ククク……ハーッハッハッハ!!」
そう笑い声をあげたのは三崎だった。
「どうだ! 見たかよ! 俺の力をよ!」
達成感、優越感、そんな感情に入り浸る。プロヒーローにさえできないことを自分はやってのけた。これを喜ばずにいられるはずがない。
そして、オールマイトを覆っていたと思われる黒い幕も消え去っていく。
そこに立っていたのは、三崎にとっては誰かもわからない姿だった。
「……誰だ?」
教師たちには、三崎が何かをしたことは分かったがそれ以上のことはわからなかった。三崎の様子も気になるが、それ以上に緑谷とオールマイトを急いで保健室に連れていかなければという思いだった。
「大丈夫ですか!? オールマイト!」
ミッドナイトが駆けつけた。
「あぁ、何とかね。緑谷少年は……?」
「自身の個性でケガをしていて、気絶もしていますが、無事です」
ブラドキングが、緑谷の容態を確認し答えた。
「そうか……よかった……しかし、彼には見られてしまったな」
「もしかして、オールマイト……なのか?」
「あぁ、昔あるヴィランとの戦いで負った傷が原因でね。活動に制限時間があるんだ」
「まさか……三爪痕……!?」
「違う違う。でも、それに負けず劣らずの大物だよ。それとくれぐれもこののことは他言無用で頼むよ」
「あ、あぁ」
三崎の中で異常なまでの高揚感は既に失せていた。しかし、三爪痕を倒しうる力を手にできた喜び、三爪痕への復讐心は燃え上がり続けていた。
三崎(ハセヲ)とくっつくヒロイン誰がいいですか?(なお下の選択肢ほどエタる確率が上がる。そして、アンケート通りにするとは言ってない)
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日下千草(アトリ)
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倉本智香(揺光)
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久保萌(タビー)
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芦戸三奈
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拳藤一佳