サラリーマンの狂騒曲   作:裏船長

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憂鬱(メランコリー)な係長

 

 鏡重工の跡取り息子である鏡 慶志郎は現在、26歳にして世界有数の総合商社である轟商事営業部係長の役職に就く、順調に出世街道まっしぐらの男だ。

 

実家が政財界と繋がりを持ち得意先が防衛省という軍事部門が強味の大手重工で、慶志郎自身も跡取り息子ゆえのボンボン育ちな部分もあるが、将来の鏡重工を背負う者がボンクラでは困ると父親が教育面に関して一切の妥協も容赦もしなかった為、幼少の頃より帝王学から経済・社交・スポーツなど一流と呼ばれる家庭教師達によって、一通りの英才教育を受けてきた。

 

しかしその天賦の才能が災いして小学生の時点で性格がねじ曲がってしまい、このままでは将来ロクな大人にならんと慶志郎の未来を心配した両親によって、彼は中学から米国で過ごす事になる。

結局その性格は直るどころか拍車が掛かり、大学までの10年を慶志郎はアメリカで過ごした。

 

元々の本人の素質も高く、教育の賜物と慶志郎の才能は見事に合致して自らエリート(笑)と名乗っても周囲が納得する程度には学歴も申し分なく、誰もが慶志郎は大学を卒業したらすぐに実家の仕事に携わるものだと思っていたのだが、ここで鏡家にとって予想だにしない事が起こる。

 

何と轟商事の入社試験を経て、アッサリ採用されてしまったのだ。

流石にこれには父親も就職に難を示したが、いずれ人の上に立つには人の下で働く事を経験しなければならない、という最もらしい慶志郎の意見に反対する理由を見つけられず、幾つかの条件と引き換えに此れを許した。

 

元々、父親と轟社長は仕事上の付き合いで面識もあったが慶志郎自身がアメリカに居た事もありこの社長に引き会わされる事もなく、しかし父親を介して伝え聞く一代で自社を大会社に押し上げた轟 剛天の辣腕ぶりにいつしか憧れを持ち、必ず実力で轟商事に入って地位を勝ち取ってやろうと目論んでいたのだ。

思いの外これは上手くいき、こうして慶志郎は初めて己の力で自由を勝ち取ったのである。

 

慶志郎に言わせれば、大学を卒業して実家の会社に入っても所詮、親の七光りと言われるのは目に見えている。

どんなに頑張っても慶志郎自身に実力があっても、親の名はずっと付いて回る事は幼い頃から嫌という程、思い知らされて来た。

生まれた時から鏡重工の御曹司・鏡 慶志郎というフィルター越しでしか見られなかった彼は、一個人の鏡 慶志郎を認めてくれる場所が欲しかったのだ。

 

それ故、轟商事の入社試験の際は母方の実家の遠縁の親類の所に住民票を移し、徹底して鏡重工の名が出ないようにして臨み、見事トップの成績で採用された。

無事に入社して二年目で営業部の係長の役職を拝命したがこの時に、人事部のトップを始め何人かの上役に己の素性はバレてしまった。

慶志郎は気付かなかったが、実家の名代で政治家のパーティに出席していた時に偶々、轟商事の上役も出席していたとの事であった。

しかしそこは実家に関係なく己の腕一本で勝負したい!と言う慶志郎の熱意に絆された上役達がその心意気や良しと感激して、素性を伏せてくれた計らいのお陰で慶志郎は今も自分が鏡重工の御曹司であるという事は隠し通せている。

親のコネで入ったと思われるのは慶志郎のエベレストより高いプライドが許さないのだ。

自信家でちょっとナルシスト、しかし意外に部下の面倒見が良い男、それが鏡 慶志郎である。

因みに彼の見た目は金髪ロングストレート、常に真っ赤なスーツという何処ぞの芸人かと突っ込みたくなるような出で立ちだが、顔も良くて女性に対してマメで遊びも金払いも上手いので結構モテている。

 

そして今年度、轟商事に入社した新入社員の中で異彩を放つ男が営業部に配属されて来た。

轟社長の息子である。

 

入社の数ヶ月前、社長の息子が社員として入って来るという話は会社中を駆け巡り、女性社員の過熱ぶりは凄かった。

あわよくば玉の輿を狙う気満々なのを隠そうともしない。

 

「すっごい背が高いんだって!」

「学生時代に伝説を作ったんだって!」

「イケメンらしいよ!」

「将来、この会社を継ぐんだよね!?」

 

だからか慶志郎は、親のコネで堂々と入社して来た件の男は最初から気に入らなかった。

しかも新入社員で役職付き。

どんだけ七光り活用してんだ、って話である。

そんな轟 金剛と初めて顔を合わせた時の印象は正に『何だコレ』だった。

 

「轟 金剛です」

 

とにかくデカい。

慶志郎も185センチはあるし、そこそこ鍛えているけれど体格としては割とスマートな方だ。

金剛は聞けば身長は190センチある上に修行?とやらで何処ぞの山奥で鍛えていたらしく、武骨で筋骨隆々でスーツがはち切れんばかりにパツパツ、精悍な顔付きではあるがお世辞にもイケメンとは言えずむしろ男臭い。

女性より男から兄貴!と慕われるタイプだ。

そして何故かスーツにボロボロの学生帽を被って革靴ではなく、赤い足袋と下駄という出で立ち。

髪も伸ばしっ放しのボサボサで明らかに手入れしていない。

就いた役職も『番長』というワケの分からんモノだった。

あれだけ社長の息子!玉の輿!と騒いでいた女性社員も当然ながら金剛の見た目に『うわあぁ……』ってドン引いていた。

更に驚いたのは大学には行っておらず、最終学歴は高卒だった事。

幾ら親のコネとは言え間違いなく営業に向いていない。

この時点で女性社員による社長の息子争奪戦は開催する前に幕を閉じた。

 

「じゃあ鏡クン。一応、新人の教育係は清澄クンに頼んでいるがフォローは任せたよ」

 

禿げ散らかった部長に肩を叩かれた瞬間、自分がこの男の面倒を任されたと気付いた慶志郎は目眩に襲われた。

 

「轟くん、宜しくね!」

 

張り切って金剛に話し掛ける清澄 雫だけでは大分ムリ臭いのは分かり切っていたからだ。

 

〈……憂鬱だ……〉

 

しかし溜息を吐く慶志郎の憂鬱はこれだけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気晴らしに繰り出した夜の遊び場で、その男と慶志郎は出会った。

 

とあるクラブで気分良く踊って元の席に戻って来た慶志郎の目に飛び込んで来たのは、先刻まで口説いていた女性達を軒並み侍らせて酒を飲んでいる長髪の男だった。

 

「お、アンタが例のかがみん?」

「……誰だキミは」

 

男を一瞥して慶志郎はザッと値踏みした。

彼が着ているスーツは英国で老舗のテーラーの一点もので、かなり値が張る。

お仕着せではなく着慣れている所を見ると、普段から良い物しか身に付けていないのが分かる。

雑な言葉遣いにも関わらず所作の端々に育ちの良さも伺え、恐らく己と同じ世間で言うところの金持ちの部類に入る人種だろう。

 

しかし、かがみんって何だ。

 

「いやぁ、ごめんねぇ?ココに来たの暫く振りでさー、したら何かイケメンでお金持ちのお兄さんが居るって聞いてさー、どんな人かなーって見たくなっちゃって。あ、ココ君の席なんでしょ?私もう帰るから」

 

すい、と立ち上がる男に女性達が『えー!帰っちゃうのー?』とか何とか騒いでいるのを制して、男が慶志郎の真向かいに立つ。

身長は僅かに慶志郎が高いがそれでも180はある。

しかし相手の方がかなりスリムで腰まで伸ばした艶のある黒髪に中々の綺麗な顔立ち、コンタクトなのか瞳は黄玉色。

 

「鏡さん、だっけ?親しみ込めてかがみんって呼んでもいい?」

「ワタシはキミと親しくする理由がないのだが」

「まあ、そう言わずにさ。次に会ったら酒でも奢るよ」

 

眉を潜め、不機嫌を隠さない慶志郎にパチンとウィンクする男に仲良くなれないタイプだと直感が告げる。

同じだから分かる、このタイプは人の下に立つ事を良しとしない。

己に命令出来るのは己だけという人種だ。

出来れば二度と会いたくない。

 

「嫌わないでよ、イケメンさん」

 

怒った顔もセクシーだけど、と人を食ったような笑みを浮かべて嘯き、男が不意に顔を寄せて来た。

キャーッと女性の黄色い悲鳴が上がり慶志郎は何が起こったのか一瞬、分からなかった。

チュッというリップ音と共に頬に柔らかい感触が当たる。

「ほっぺにチューよ!」

「きゃあ、かわいいー!」

「な、なっ……」

 

このワタシが!男に!

ほっぺにチューだとおぉ!?

 

カアッと怒りが込み上げて顔を赤くする慶志郎を、照れてると勘違いした女性達が鏡さんカワイーッと囃し立てる。

 

「じゃあね、お嬢さん達。かがみんもバイバイ」

 

ヒラリ手を振って去って行く男に『ふざけるなーっ!』と叫んだ慶志郎だったが、その時にはもう男の姿なぞとっくに消えていたのであった。

 

そして、この日を境に慶志郎はこの男に何度か遭遇する事になろうとは知る由もなかった。

 

憂鬱の種がまた1つ増えた慶志郎である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事があった日から約2週間後、とある某政治家主催のパーティ会場にて。

 

ブラックフォーマルに身を包んだ鏡 慶志郎は父親の代理でこのパーティに参加していた。

政財界と繋がりを持つ鏡家はこの手のパーティによく招待されるのだが多忙を極める父親に全ての参加は難しく、よって大学時代から慶志郎で務まる場合に限り、代わりに出席していたのだ。

轟商事に入社する条件の一つに、この手の役割を引き受ける事も入っていた。

 

こういった場では優れた社交術が要求される。

豊富な話題、政治問題、外交、流行、巧みな話術で相手から欲しい情報を引き出せるか否か、あちこちで聞こえる話から鏡家に有利に働く情報が拾えるか、慶志郎の手腕に掛かる。

そして今夜も何時ものように、慶志郎は卒なく己の役割をこなしていた。

 

 

……随分と目立つな、彼女。

 

パーティ開始から約1時間、顔見知りのご夫人と世間話をしている慶志郎の視界の端に先程から赤いドレスがチラチラと飛び込んで来ていた。

かなり背の高い女性が皿を片手に、会場の端から端までウロウロしている。

背中を大胆にカットしたマーメイドラインの真っ赤なドレスはとにかく目立ち、中高年のオッサン達が無遠慮な視線を注いでいたが何やら不穏な空気が彼女から発せられている為、誰も話し掛けられないようだ。

よくよく見ていると、彼女は他の客に目もくれず話もしないでひたすら料理を皿に盛っては食べまくっている。

このパーティには不本意で参加した感がありありと窺えた。

興味を持った慶志郎はご夫人に失礼して、赤いドレスの元へと足を向けた。

 

 

あー……かったりぃ。

 

小エビのカクテル、キャビアのカナッペをモシャモシャ食いながら篠宮 翼は早く帰りたくて仕方なかった。

約300人程が集う立食式のこのパーティは、与党でも最大派閥を持つ大物政治家が開いた会である。

既にマスメディアでは年内にも衆院解散総選挙があるのではと取り沙汰されており、選挙費用の資金繰りとも思える中々に規模の大きいパーティだ。

 

当然、各界の著名人なども数多く招かれており、篠宮財団も漏れ無く招待者リストに名前が上がった次第である。

こごぞとばかりに、政界に恩を売り込もうと画策した篠宮家の有能な執事が当主の意思を全く無視して

【喜んで出席致します】

とか返事しちゃったもんだから、翼は無駄に張り切る執事によって気合いの入ったドレスアップをさせられて会場に放り込まれるハメになった。

出席を断ろうモンなら、地獄より恐ろしい執事のお仕置きが待っているので出るしかない。

 

左サイドで一つに纏めた長い髪を編み込みラメを散りばめ、ドレスは身体のラインを際立たせるマーメイドスタイル。

右側に大きなスリットの入った赤いドレスは、180センチある翼の身長も相まって会場内で目立つ目立つ。

ちょっとスケベな親父でも引っ掛けてらっしゃい、黙って立っていればそこそこ見映えするんですからと抜かす執事のドス黒い魂胆ダダ漏れである。

 

何でええ年こいたオッサン達にタダで目の保養をさせにゃイカンのだ、辻井のヤロウ帰ったらフルボッコ覚悟しとけ!

 

という翼の怒りのオーラは有難い事に周囲を寄せ付けず、来たからには元を取ろうと料理を食いまくっていたのであった。

 

だからといってオサレなドレス姿でガッツく訳にもいかず、然り気なーく会場をぐるぐる回り皿に適度に料理を盛って食べてはまた別の料理を盛って……という回転方式を使って満遍なく端から端まで料理を取っている。

流石にローストビーフ3回目は切り分けてくれるシェフに生温い目で微笑まれてしまったが、図太い性格の翼には関係ない。

どうせ残ったら廃棄されてしまうのだ、食ってやらんと可哀想ではないか。

デカいパーティだけあって、用意されたワインやシャンパンも値段の良い物ばかりでラッキーである。

そんな上品に(笑)大食いする翼の側を通り掛かった1人のウェイターが持っているトレイが視界に入って来た。

 

うおっ、ピンドンじゃん!!

しかもグラスはラスイチ!

ドンペリピンクとか、これはもう頂きます!

 

ウェイターにススーッと近寄って翼が手を伸ばしたと同時に、横からもラスイチのグラスに男の手が伸びてぶつかってしまった。

 

「うお…」

「あっ…」

 

因みにうお…は翼で、あっ…は男の声。逆だろ普通。

 

「失礼、レディ」

 

どちらに渡すべきか戸惑うウェイターから男がグラスを取り、翼に差し出して来た。

 

〈あれ、かがみんじゃん〉

 

何とびっくり、男は夜の街でよく会うようになった金髪イケメンのかがみんであった。

最も向こうから異様な程に毛嫌いされているが。

お姉ちゃん達から金持ちとは聞いていたが、こんなパーティに招かれる程の坊っちゃんだったとは二重のびっくりである。

しかし待てよ、と差し出されたグラスを遠慮なく受け取って(遠慮する義理もない)翼は記憶を掘り返した。

 

確か、鏡さんって名前だったよな?

あれか、もしかして鏡重工の関係者?

 

「レディ、ワタシの顔に何か?」

 

しかもこっちに気付いてねぇし!!

コイツ、男に全く興味無しか!

 

鏡が夜の街で会う自分を男と勘違いしているのは分かっていたが服装を変えてちょっとメイクしただけだろ、顔とか似てんだろ、と色々と心の中で突っ込む翼を余所にまーったく気付く事なく鏡はイケメンスマイルを発揮して誘いを掛けて来る。

まあ、立ち止まってウダウダ話すのもしんどいんで、中庭に設えてある東屋に移動する事にした。

建物から少し離れている為、静かで会話を聞かれる心配もないし都合も良い。

ベンチに腰を下ろすと当然とばかりに隣に鏡が座って来る。

 

「肩が冷えますよ」

「ええと、どうも」

 

然り気に上着を脱いで翼の肩に掛けて来るのも女の扱いに手慣れている証拠だ。

まあ無駄にイケメンだもんなー、遊び上手で金払いの良い男だし。

 

「ところで貴女は何方かのパートナーで此方へ招かれて?」

 

いえ単品で参加してます、と答えようと思ったが後々ツッコミが入るのも避けたいので、まあそんなトコと言っておく。

 

「そちらは?」

 

翼の問いにああ、と鏡が笑った。

 

「ワタシとした事が名乗りもしないで失礼しました。鏡 慶志郎と申します。今夜は身内が呼ばれていたのですが、都合が付かず急遽ワタシが来る事になりまして」

「へえ……」

 

今夜の参加者で鏡っつったら1人しか居ねぇわ、やっぱ鏡重工の親戚筋か。

先日の昼食会が走馬灯のように思い出される。

いや、アレはもういいわ。

 

「レディ、この後は何か御予定は?」

「へぁっ?」

 

考え事をしていてウルトラマンみたいな声が出た。

それを照れてると勘違いしたらしい鏡が「緊張なさらずとも」とか見当違いの事を言ってくるのを軽くスルーして、どう回避すっかなーと考えを巡らせた。

面倒臭い展開になるのはゴメンだし、スッパリ断ろう。

 

大体(ウソだけど)同伴参加っつってんのにモーション掛けてくるとか、一晩ベッドで遊びましょうって事だもんな。

 

しかし既に面倒臭い展開の空気になりつつあった。

どうも目の前の男は自分をお持ち帰りする気満々の雰囲気を醸し出している。

 

うわー、どうすっかなー。

 

どうやってこの場を凌ごうか考えていたら、鏡の手がいつの間にか腰に回り先刻より密着している。

流石タラシ、手が早え。

禿げ散らかったオッサンに近寄られるよりはマシとは言え、素直にお持ち帰りされる気もない。

 

「……この後」

 

脱出方法を思案していていたら油断した。

甘い声と共にフッと耳に息が吹き掛かり、思わず『うひゃあっ』と素っ頓狂な悲鳴が上がってしまった。

 

この野郎、ボコるか(喧嘩っ早いにも程がある)

 

ムカついて耳を押さえ振り向いたら超間近に鏡の顔があって、うっかりぶつけるトコだった。

耳を押さえる手を取られ、鏡がグッと乗り出して来る。

もうあと数センチで唇が触れる距離だ。

あ、これヤベエ間合いよな。

 

「今夜は……」

 

仕方ねぇ、チューくらいサービスして後は頭突き食らわせてバックれるか(色々ヒドい)と翼が覚悟を決めたその時、天の助けが舞い降りた。

 

「お嬢様、お帰りの時間で御座います」

 

艶のあるバリトンが静かに空気を割って入って来た。

言わずと知れた篠宮家の執事・辻井である。

 

オッシャー、ナイス執事!

 

驚いて声の方向に向く鏡の隙を突いて、内心ガッツポーズを決めた翼はスルッとその場から抜け出し、辻井の元へと歩いて行く。

 

「じゃ、迎え来たし、歯ァ磨いて寝る時間なので」

 

あっ、と手を伸ばした鏡に大ウソぶっこいて、翼が借りていた上着を返そうと肩から取ったらイケメンは首を振った。

 

「夜風は身体を冷やします。次に会った時に返して頂きますから」

 

それでは、と颯爽と鏡は立ち去って行った。

普通ならここで見苦しく追い縋るのが自称イケメンだが、流石に遊び慣れたイケメンは違う。引き際というものを知っている。

モテるよなー、確かに。

 

密かに感心していると隣に立つ辻井も鏡を見送って、なかなかやりますねえと感心していた。

この執事が初見の相手を褒めるなど珍しい事もあるもんだと見上げたら、ソレと上着を差す。

 

「然り気無く次に会う約束をして行かれたでしょう。礼儀としては借りた物はキチンとお会いして返すのが筋でしょうから」

 

仕立ての良い物ですし、クリーニングもちゃんとしないといけませんしね。

 

そ・う・き・た・か・!

 

全く失念していた。

 

「……ホント無駄にイケメンだな」

「あの社交性は見習うべきですよ、お嬢様」

「へいへーい」

 

こうしてパーティの夜は終わったのである。

 

 

 

 

  

 

 

 勿体無い事をした。

中庭から会場に戻り、慶志郎は軽く後悔していた。

先程まで一緒に居たレディ、もしくはマダム?そうそう出会えるものではない。

随分と背が高かったが、モデルか何かだろうか。

スタイルも抜群でシンプルな赤いドレスが白い肌に映えてよく似合っていた。

名前を尋ねるのを失念していた為、後日探そうにも難しいかも知れないがただ、いきなり現れた妙齢の男が『お嬢様』と呼んでいたので何処かの令嬢に間違いはないだろう。

掴み損ねたからこそ、どうしてもオトしたい。

あわよくばワンナイトラブに持ち込みたい(笑)

 

そこで慶志郎はパーティ客で面識のある何人かにそれとなく探りを入れたところ、どうやら【篠宮】の関係者ではないかという情報を仕入れる事が出来た。

 

「篠宮……」

 

流石に慶志郎も篠宮は知っている。

というかこの業界で知らない者がいたらモグリだ。

さて、何処に行けば会えるのだろう……。

 

慶志郎の悩みは後日、アッサリ解決した。

それも非常に不本意な結果で。

 

 

 

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