サラリーマンの狂騒曲   作:裏船長

5 / 9
彼女と師匠の妄想二重奏(デュエット)

 

 清澄 雫、轟商事入社1年目。

師匠とのメール送受信記録より。

 

雫『ちょ、ヤバイ!就職先がヤバイ!』

 

師『kwsk。就職どこだっけ?』

 

雫『轟商事』

 

師『おぉ、凄いじゃん。おめ』

 

雫『今日、営業部に配属されたんだけど、上司が金髪イケメンだった!』

 

師『マジすか。写メよろ』

 

(写真添付のち送信)

 

師『イヤアアァァァ!ナニコレナニコレナニコレ!』

 

雫『でしょでしょ!?この若さで係長なんだよ!!』

 

師『イケメンキタ━(゚∀゚)━! エリートキタ━(゚∀゚)━!』

 

雫『萌え死ぬかと思ったよ!』

 

師『いや死ぬでしょ、普通に!ネタ提供よろ!エリートリーマン受け本出すわ!』

 

雫『任せて!』

 

 

 

清澄 雫、轟商事入社1年目の夏。

師匠とのメール送受信記録より。

 

雫『師匠おおぉぉ!』

 

師『ナニ、どしたの』

 

雫『昨日、営業部のみんなで海に行ったんだけど!』

 

師『アウトドアめ、リア充乙。私は夏コミの締め切りに追われてたというのに……』

 

雫『係長がマイクロビキニだった!』

 

師『!!!?』

 

雫『しかも腹筋割れてた!』

 

師『何……だと……!』

 

雫『全員で撮った写真だけど送るね』

 

(写真添付のち送信)

 

師『ギャアアアァァァ!!』

 

雫『師匠、毎日が幸せ過ぎて死ねる!』

 

師『真夏の総受け祭りキタ━(゚∀゚)━!』

 

 

 

清澄 雫、轟商事入社2年目の春。

師匠とのメール送受信記録より。

 

雫『………………』

 

師『どしたの?』

 

雫『今日、新入社員で社長の息子さんが入って来たんだけど……』

 

師『おお、御曹司』

 

雫『私、天国に来ちゃったよ。天使に会ったよ!』

 

師『kwsk!』

 

雫『一言で表せない……写メ見て』

 

(写真添付のち送信)

 

師『ごふぅっ!(吐血)ちょ、胸筋ヤバイ!雄っぱいヤバイ!これ新入社員なの!?てことは23だよね?見えないんだけどw』

 

雫『そうそう、年下なの。190センチなんだって。それで私がこの人の教育係になったの。これもう運命だよね!?』

 

師『マジで!?例の係長と絡ませ放題じゃん!』

 

雫『やっぱり!?だよねだよね、福眼だよ!』

 

師『いいなぁ、うらやま!』

 

雫『ネタはばっちり提供するからね!』

 

師『今年の夏コミも新刊いけるわ!新入社員の下剋上ラブ!』

 

 

 

 

 

 

 何故、こんな事になった。

 

「アンタが来るかどうかは賭けだったんだがな」

 

頭上から降り注ぐシャワーの成為で全身はすっかり濡れそぼり、張り付いた服が気持ち悪い。

  

「まさか本当に来るとは思わなかったぜ、時間かけてみるもんだ」

「ぐ、ぅ……っ、ふ、」

 

濡れた上着を強引に剥ぎ取り、後ろから男が力強い腕で慶志郎を抱きすくめ太い指を2本、口に突っ込んで声を封じる。

濡れたネクタイが抜き取られ指の代わりに口に押し込まれた。

同じように濡れたシャツも肌蹴られ、ぐるぐると慶志郎の両腕に巻き付けて背中で拘束する。

自分を襲った突然の出来事に慶志郎は混乱し、何故を繰り返した。

ただ自分は轟の様子を見に来ただけだったのに。

 

随分と遅いな、奴は。

 

雫と平が退社してから、慶志郎はチラリと腕時計で時刻を確認した。

轟ビルの25階に営業部は入っている。

自社ビル内には仮眠室とシャワールーム、その他に喫茶室や医務室などあり激務が続く社員達のサポート面に対応している。

シャワールームと仮眠室は同じ20階にある為、行き来には多少の時間を要すであろう。

しかし金剛がシャワールームへ行ってから既に1時間近く経っていた。

雫を送って行った平もまだ戻って来ない。

誰か様子を見に行かせようと周囲を見回すが、他の社員もそれぞれ仕事をしており、今のところ手の空いているのは自分くらいだ。

仕方ない、と慶志郎はオフィスを出た。

 

「……もう出たのか……?」

 

男性用のシャワールームに着いて扉を押し開け、広々とした脱衣場に顔を覗かせて見回すが誰も居ない。

シャワールームの脱衣場は共有スペースだが、浴室はそれぞれ独立した作りになっていて、左右に5室ずつの合計10室ある。

その浴室からも水音は聞こえて来ない。

 

もしかして行き違いになったのだろうか?

 

しかし確率は低いが中で倒れていないとも限らない。

面倒な……と思ったが万一の事もある。

仕方なしに浴室を確認するかと脱衣場に足を踏み入れた時、いきなり後ろから突き飛ばされ慶志郎は大きく体勢を崩した。

 

「なっ……!?」

 

倒れはしなかったもののよろめき、何事か確かめる間もなく脱衣場の扉が閉まり何者かによって一番手前の浴室に引きずり込まれた。

ガチリと鍵の閉まる音が聞こえる。

 

「てっきり、他の奴を確認に寄越すかと思ってたぜ」

 

背後から太い腕が回り慶志郎を壁に押し付けシャワーのコックを捻る。

ザアッと熱めのお湯が上から降り、瞬く間に慶志郎はずぶ濡れになった。

 

「係長が直々とはな」

 

聞き覚えのある声に慶志郎は狼藉を働く人物が誰か認識する。

 

「と、轟っ……」

 

後ろから慶志郎を抱き寄せて左肩に顎を乗せ、裸の轟 金剛が耳許で低く笑った。

そして先のように半裸で拘束されたのだった。

 

「ふ、ぅ、ぅ……っ」

 

武骨で大きな掌が慶志郎の身体を撫で回す。

然して広くもない浴室は流しっ放しのお湯から立つ湯気で視界が悪く、加えて熱さで逆上せそうだった。

何とか男から逃れようと暴れた成為で慶志郎はすっかり疲れ切り、ぐったりと壁に身体を預けている。

抵抗の弱くなった慶志郎の濡れた髪を掻き分け、金剛が項に唇を押し当ててくる。

ビクンと身体を震わせ、慶志郎が男から離れようと踠くと肩口を噛まれた。

合わせて身体を撫でていた手が胸元を這い、乳首をきつく摘まみ上げる。

背中で拘束された腕は濡れた布に戒められた為か既に感覚がない。

 

「っ、……!」

「……暴れんな、悪いようにはしねぇ」

 

熱を帯びた声色で言う金剛にどの口が、と文句を言いたいがそれも叶わない。

噛まれた痛みで慶志郎の目に涙が浮かぶ。

 

「いい表情(かお)だな、慶志郎」

 

そそるぜ、と嘯いて金剛は慶志郎の口からネクタイを取り去った。

漸く呼吸が楽になり、ゼイゼイと息を吐く慶志郎の顎を捉え金剛が無理矢理に自分の方に捻る。

 

「痛っ……ぐ、ぅ!?」

 

視界一杯に金剛が映り目を見開いた慶志郎が理解する前に、開いた口の中に舌が入って来た。

 

これは何だ、ワタシは何をされている?

ああ、キスだ。口付け。誰に?

目の前の男だ。轟 金剛……。

 

熱を持った舌が慶志郎の舌を甘く吸う。

しかし口付けを仕掛けてきた男は冷静に慶志郎を観察していた。

慶志郎、と唇を放して金剛が冷酷な笑みを湛えて告げる。

 

「アンタを俺のオンナにしてやるよ」

 

痛みと怒りと屈辱と羞恥がごちゃ混ぜになった慶志郎の目からボロボロと涙が溢れた。

 

【ア・ブ・な・い・バスルーム~褌野郎に犯されて~】

 

 

きゃあぁっ、轟くん鬼畜ーッ!

 

師匠のコミケ最新作に雫は悲鳴を上げた。

 

お約束であるが、全て腐女子による妄想である。

鏡 慶志郎と轟 金剛の名誉の為に改めて言うが、2人はそんな関係ではない。

 

彼女達の妄想の中で金剛はすっかり絶倫鬼畜野郎になっていた。

流石に彼らの名前をそのまま使うワケにはいかないので、本の中では違う名前を付けられているが脳内変換スキルレベルMAXの雫には些末な事である。

 

取り敢えず、どシリアスな内容とタイトルのミスマッチ感が半端ない。

 

この妄想が生まれたのは先日の出来事に由来する。

 

 

 

 

 

 

 それは5月のある日の事だった。

 

「清澄先輩、大丈夫ですか」

「ありがとう、轟くん」

「雫さんがケガなくて良かったッス!」

 

営業部のお使いで取引先に書類を持って行ったハズの雫が、先に営業に出掛けた金剛と第4話で漸く出番が来た平と一緒にオフィスに戻って来たのだ。

金剛に至っては長い髪がグッショリと濡れている。

 

「ちょ、どうしたの!」

「真っ青じゃん、雫!」

 

双子の美佑と美佐が只事ならぬ雰囲気に駆け寄って来る。

ざわめく彼らに気付いたのか、電話を終えた慶志郎も何があったのかとやって来た。

 

「雫さんがちょっと引ったくりに逢って……」

「何だって?清澄くん、ケガはないのかい?」

 

平の言葉に驚いて慶志郎は素早く雫の様子をチェックする。

流石フェミニストは行動が早い。

 

「あ、大丈夫です。たまたま通り掛かった轟くんと平くんが助けてくれて……書類も無事ですから」

「引ったくり野郎はちゃんと交番に突き出して来たッス!事情聴取で遅くなっちまって」

「書類は無事は無事だが……済まん、濡れてしまった」

 

平もお手柄じゃーん、と双子がよしよしと誉める横で金剛がビショビショの大判封筒を慶志郎に差し出した。

そもそも、慶志郎に頼まれたお使いだったのだ。

 

「何で濡れちゃったの?」

「書類が川に落ちたんス。それで番長が飛び込んで拾ったんスけど」

「えーっ!?」

「急いで拾ったんたが……」

「だから番長の髪が濡れてるのね」

 

5月はまだ冷え込む時期だ。

幾ら丈夫とは言え、川に飛び込むなど正気を疑う。

ふーっと呆れて溜息を吐く慶志郎に、金剛がすみませんと謝った。

 

「轟くん、それは何に対しての謝罪だね」

「え?いや、書類が」

「キミは私が部下の命より書類が大事だとでも思っているのか、心外だね」

 

眉を寄せ不機嫌を隠さず、慶志郎は金剛を睨み付けた。

 

「清澄くんに頼んだ書類はダメになったなら、また作成すれば良いだけの話だ。封筒一つと部下の命を秤に掛ける程、ワタシは愚かではないよ」

 

ぷい、と顔を背けシッシッと追い払うように慶志郎は手を振った。

 

「キミが無駄に丈夫なのは知っているが、万一風邪でも引かれたら困るし、川の水など不衛生だ。とっととシャワーを浴びて汚れを落として来たまえ。ただでさえキミは髪も長いのだから、くれぐれも烏の行水などするんじゃないぞ。きちんと洗って来たまえ」

 

要はケガもなくて良かったね、シャワー浴びて綺麗にしておいで、時間は気にしなくていいからね、って意味だが慶志郎が言うと上記のようになる。

係長ってツンデレなの?と双子は顔を見合わせた。

轟商事は繁忙期になると会社に泊まり込んで仕事をする社員も居る為、仮眠室やシャワールームなどが完備されている。

押忍、と答えて素直にオフィスを出て行く金剛を雫はじっと見詰めていた。

 

「清澄くんも今日は帰って休みなさい。部長にはワタシから言っておく。平くん、清澄くんを自宅まで送って行きなさい」

「え、自分スか?」

 

訊き返す平を慶志郎はジロリと睨んだ。

 

「引ったくりに逢って怖い思いをした女性を1人で帰せるワケないだろう。キミは平気なのかね?」

「いえっ!送らせて貰うッス!」

 

慶志郎の迫力に平は思わずビシッと直立不動で答える。

 

「分かったならサッサと支度したまえ」

「あの、係長。私は大丈夫で……」

「上司命令だよ、清澄くん。ゆっくり休みたまえ」

 

言い掛ける雫を遮り、慶志郎はこれ以上の意見は受け付けないと暗に匂わせる。

普段は高飛車な態度を取る彼だが、意外に部下思いな一面もあるのだ。

まあ、物言いはアレだが。

 

「そうだよ、雫。後は私達がやるからさ」

「休みなよー」

 

いつもはふざけたりする双子も流石に心配そうにしているので、雫も大人しく従う事にした。

 

「轟くんに有り難うって伝えておいてね」

「お任せよー」

 

この日、雫は金剛に会う事なく帰宅した。

 

 

 

 

 

「じゃあ雫さん、今日はゆっくり休んで下さいッス」

「平くんもホントに有り難う。明日はちゃんと会社に行くからね」

「はいッス!」

 

マンションの手前まで送って貰った雫は手を振って帰社する平を見送り、自分の部屋に戻った。

雫の住んでいる3階建てのマンションは一人暮らしの女性用でセキュリティもしっかりしている。

轟商事に就職が決まった時に実家を出て此処に入居したのだ。

自分のオタク趣味は家族にも内緒にしている為、一人暮らしの方が何かと都合も良い。

2DKで陽当たり良い2階の角部屋が雫の住居だ。

中に入り鍵を閉めた途端、雫はついに堪え切れずその場に崩れ落ちて膝をついた。

 

「……う、うっ」

 

瞳から大粒の涙を流し、口元を抑え震える手でスマホを出すと泣きながらダイヤルする。

 

『もしもし?雫?どしたの、泣いてるの?』

「うん、今日……」

 

電話に出た相手の驚く声に雫は激しく嗚咽しながら答えた。

雫の脳裏に蘇るのは暴漢から助けてくれた金剛の姿。

 

「あのね、あのね、今日、悪い人に襲われて轟くんが助けてくれたんだけどっ……!」

『え?なに、ヤダ大丈夫なの!?轟くんて例の新人くん?犯人は?』

 

電話の向こうで慌てる相手に違うの、とグスグスしながら雫は言った。

 

「犯人は捕まえたのよ。それで大事な書類が川に落ちて、轟くんが飛び込んで拾ってくれたの」

 

金剛と平で引ったくり犯を捕まえた後、雫は奪われた封筒を探した。

 

「あっ、書類が……!」

 

争った弾みで書類の入った封筒は橋下の川に落ち、正に沈んでいく所だった。

どうしよう……!とオロオロする雫にフッと影が覆う。

 

「俺に任せろ!」

 

見上げた先に居たのは、スーツを脱ぎ捨て橋の手摺に立つ金剛だった。

風に靡く長髪から見える、首から背中に掛けて盛り上がり鍛え上げられた背筋、八つに割れた腹筋、そして何より引き締まった尻は……。

 

「轟くん、褌だったの……!!」

 

THE・FUNDOSHI。フンドシ。褌。

日本男児の魂、ふんどし。

 

『ウソおおぉぉ!?』

「ホントよおぉ!!」

 

電話のこっちと向こうで女性2人の悲鳴が重なる。

お分かりだろうが電話の相手は師匠であった。

雫のマンションは防音設備もバッチリだから多少の大声も問題ない。

褌一丁で川に飛び込む金剛が雫には神に見えた瞬間だ。

彼の神々しい褌姿は、雫の脳内カメラで50連写くらいしてバッチリ記憶に収めているので何時でも再生可能である。

 

雫が泣いていたのは暴漢に襲われて怖かったからではなく、思いがけず金剛の激レアなお宝スタイルを見る事が出来た感動から来るものだった。

 

金剛の褌姿〉〉大事な書類〉越えられない壁〉〉〉〉平〉〉〉〉〉引ったくり犯の割合である。

平の扱いがモブ並みで可哀想とか、この際どうでもよい。

 

『それで……』

 

師匠がゴクリと喉を鳴らす。

 

『越中だったの、六尺だったの……?』

「……ううん、六越褌よ」

 

六・越・褌・!六・越・褌・!

 

越中褌と六尺褌、両方の良さと機能を兼ね備えた究極形態(アルティメットスタイル)

 

これを考えた人は天才ではなかろうか。

そして女性が何故そんなに褌の種類や締め方に詳しいのかと、突っ込んではいけない。

腐女子は無機物を始め、あらゆる事態も全て萌えに転換出来る生き物なのだ。

 

緊急事態だったので映像に残せなかったのは残念だが、しっかりバッチリ記憶している雫は事細かに師匠に説明し、深夜まで盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

NEXT→

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。