「………」
王の一室
その部屋には男がただ一人立ち尽くしていた
その手にはバイオリンを持っていた。左肩に乗せて、顎当てに顎を乗せて、ヴァイオリンを高く持ち上げるように構える
静けさしかない部屋で男の演奏が始めると、空気が一変する
それは、一言で言えば王の演奏。仮にオーケストラが居るとしても、響かせる全ての音の上に君臨し、他の追随を許さない。絶対的な強者の演奏
強く、美しく、優雅、繊細に――――――
音楽を表現する全ての形容詞が詰め込まれた豊かな音色。ここに聴衆が居れば魅了するはずだ
その音によって肉体を支配されるような、それでいて決して不快ではなく、むしろ溺れそうになる快楽を味わうように
男は最後に弦をポンッっと音を弾き、演奏を終える
構えを解き、一息つく
「入る時は、一声掛けてくれないか。ユイ」
男が振り向かずに語る
その後ろにはフード付きの黒いゴシックに身を包む女性が一人
その女性を男はユイと呼ぶ
「貴方の演奏を邪魔しちゃいけないと思って。私なりの気遣いよ」
ユイは男の忠告など聞かず、そう言う
男は、そんなユイの言葉にただ聞くだけである
「それよりも、もっと聴かせて。貴方の
「…分かった」
男は再びバイオリンを構え、演奏する
その時、部屋の大扉が開かれる。男は途中で演奏をやめる
「演奏中に申し訳ございません。
「どうした。ビショップ」
入ってきたのはビショップと呼ばれる長身痩躯の男
丸眼鏡と黒いロングコートに白のマフラーを下げている。その姿から聖職者を連想させる
「
ビショップは懐から封筒を取り出す
男はビショップが出した封筒を受け取り、その中にあった手紙を出し開く
そして文章を読む
《
他の者達との話し合いにより、貴殿の元に付く事を決断しました。しかし、未だに貴殿の城には行くのに抵抗がございます。今一度、手紙と共に転移用の魔方陣を同封したので、その場所でお待ちしております ドラゴンウルフ》
男が手紙を読み終え、一緒に入っていた魔法陣が描かれた紙を取り出す
「なるほど。これか」
「しかし
ビショップは丸眼鏡を外す
すると空気が重くなり、周りの物が軋む音がなり続ける
しかし、男とユイは表情一つ変えない
「
ビショップの体から魔力が放出し、体が変貌するが
男から待てという指示が出ると変貌を止める
「ビショップ。俺が行こう」
「
「いいや。そろそろ欲しい所だった」
男は三本の鍵を取り出しながら笑う
そして何も言わず、紙を投げつけ魔法陣を展開させ移転する
男が移転したのは深い森林の中であった
辺り一面生い茂った林があり、遠くまで見えない
「奴等はどこだ」
男が足を踏み出そうとした時、再び魔法陣が展開される
さっきの移転の魔法陣の形状が変わり男の動きを止める
「…何?」
男が振り解こうとした時、三方向からそろそれ色の違う魔力の大弾が飛んでくる
その大弾は男に直撃し、爆炎が起こる
「やった!」
「まさか本当にくるとはな」
一人はニット帽を被った優男、もう一人はジャケットを着たガタイの良い大男がりんごを齧りながら出てくる
そして最後に出来たのが、サングラスをかけたドラゴンウルフの悪魔だった
「俺達がそうそうに諦めるかよ。移転用に使った魔法陣の紙は一度使った時、呪縛用に切り替わるように俺が改造したお手製だ。ざまぁ見ろ」
爆炎を見ながら吐き捨てる悪魔
「死んだかな?」
「いや、この程度で死んだとは思えん。だが傷ぐらいなら付けただろ」
「………」
優男と大男が話す中、悪魔だけが無言で爆炎を見ている
ゾクッ
すると悪魔の直感、そしてワーウルフの聴覚で何かを察した
「お前等伏せろ!!」
「「ッ!?」」
悪魔の突然の支持に二人は伏せる
そして、爆炎の中から魔力の弾が飛び出てくる。弾は二人の頭上を通り過ぎ、木々に当たり破壊される
二人は破壊された木々を見た後、爆炎を見る
その中には男が鎧を纏っているのを確認した
「あの不意打ちでもダメって」
「やっぱり無傷かよ」
「…このまま逃げても死ぬだけだ。行くぞ!!」
悪魔はサングラスを外し投げ捨て、大男はリンゴを齧り、優男はニット帽を脱ぎ、前に出る
「はぁぁぁああああああああああ!!」
「うぅおおおおおおおおおおおお!!」
「ふぅうううううううううううう!!」
三人は大声を上げながら姿を変えていく
悪魔はワーウルフに。大男は胴体にある1本の血管が浮き、角のような物が頭から生える
優男は下半身は鳥、上半身は魚人という姿になる
「ドラゴンウルフ、タロス、セイレーンの子孫。いくら束に掛かろうと無駄だ」
男は地面から緑色をした紋章を作り出す。その紋章には龍が描かれている
男が手を三人に向けて指すと紋章は三人に向かい動き出す。紋章が三人の下に着くと拘束し、電撃を流す
「「「ぐぁあああああああああああ!!?」」」
「っふ」
男が上空に同じように紋章を作り出し拘束する三人の上に下ろし挟み込む
しかし三人は抵抗し上の紋章を押し返そうとする
「無駄だ。沈め」
男が下ろす手を強くすると紋章が落ち爆破する
炎と爆煙が立ち上る。男は様子を見ているとある事に気づく
「(奴等が居ない?)」
三人の居た場所には一人の死体すら無かった
攻撃によって塵になったと思ったが、男は攻撃は最小限に抑えていたので、それは無いと考えた
しばらくすると草木が燃え、燃えカスとなった物の中に何かが書かれた紙が紛れ込んでいた
『奴等、咄嗟に脱出用に移転の魔法陣を使ったか』
「いいさ。どうせ遠くまで行っていない」
男はそれだけを言って森林の奥へと進む