Friskは平和主義者だ。

……本当にそうなのか?

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The pacifist truth(平和主義のシンジツ)

 落ちてきた8人目のニンゲン。Friskという名前のそいつは驚くことに地下世界のMonster達全員を解放して見せた。

 地下から出て初めて見る夕日、という奴にみんなが感動して地上へ向かっていった。それはオバサンも例外ではなかったが、ただ一人。Friskだけは、違った。

 ―――ボクはもう少しこっちにいるよ。地上はいいところだから、楽しんできてね。…ほら、Torielさんも行っておいで。

 そう言って、オウサマが考えていたらしい親善大使の話を持ち出す暇すらなくバリアが張ってあったそこに向かって歩き始めていた。

 その動きが不審に見えて、オイラは地上に向かって走るPapyrusをUndyneに任せて追いかけた。そして、追いかけた先にいるのはSnowdinTownのさらに奥、Ruinsのそのまた奥にあるFriskの落ちてきたらしい場所。

 

 その始まりの場所でFriskはただずっと、空を眺め続けていた。それに習って空を見上げてみるが、あるのは反り立つような高い岩の壁とぽっかりと開いた穴だけ。穴の先では星が輝き始めているが、別にここからじゃなくても見えるはずだ。

 だからこそ、Friskが何をしているのかが気になった。まるで何かを待つみたいにじっと空を見上げているのだ。動く様子も、オイラに気付く様子もまるでない。

 

「あー、Frisk。オマエさん一体何してんだ?」

 

「待ってるんだよ、Sans」

 

 何かを待っていると考えたのはどうやら間違いではなかったようだ。それ以上にこのFriskが分かりやすいこともあって、間違えてはいてもさほど遠くないとは思っていたが…。

 しかし、いったい何を待っているのだろうか。もしかするとオイラが少しは役に立てるのかもしれない。幸い、オイラなら本気を出せばFriskと一緒にこの穴から地上に出ることも、なんなら()()をして皆に追いつくこともできる。

 

へへへ(Heh heh)。地下世界を救ったヒーローを待たせるなんざ、オイラにゃたとえ疲労(ひーろー)しててもできないな。……それで、何を待ってるんだ?」

 

 ―――少しだけなら、チカラになれるかもな。

 そう続けるはずだった言葉は、Friskに遮られた。

 

「おかあさんを待ってるんだよ」

 

 ようやく、空から顔をこちらへ向けたFriskはにっこりと笑っていた。

 おかあさん、ってのは確か母親の事だろう。オイラからしてみたらオバサンがFriskを"我が子"って呼んでたからてっきりオバサンが母親代わりなのかと思ったんだが、しっかりと地上に母親がいるらしい。

 …………いや、当たり前か。ニンゲンはオイラ達みたいなMonsterとは違って親がいなければ生まれてこないんだったな。

 

「おかあさん、か。……けど、そのおかあさんもこんな夜更けには来ないんじゃないか? ニンゲンってのは夜更かしすると肌がよう老けちまうんだろ?」

 

「ううん、待ってるよ。だって、おかあさんが、迎えに来るって言ったんだもん」

 

 そう言って、Friskはまた顔を空へ向ける。

 ただ、「良ければ話し相手になって欲しい」と付け加えて。

 特に断る理由もないオイラはPapyrusには悪いが、少しFriskに付き合うことにした。少し、イヤな予感がしていたのも、あったのかもしれない。

 

「ねぇ、Sans。キミはさ、ボクがみんなから(Love)を貰った…って、そう言ったよね」

 

「……ああ。審判の間で確かにそう言ったな」

 

 Friskは一度もLOVE…Level Of ViolencEを得ることがなかった。見ていた限り、何度も死にそうになるような傷を与えられながらも、笑って(MERCY)していた。

 

「けど、ボクは一度もSansから(Love)を貰ったことがないよ」

 

へへへ(Heh heh)。そいつは心外だな。何度もデートに連れて行ったりしてやったろう? それなのに(Love)を与えられてないなんて、随分敷居が高いみたいだな」

 

「何言ってるの? ボクはSansから、(Love)を貰ってないってば」

 

 だからデートに連れて行ってやっただろうが。そう言っても、Friskは頑なに認めようとしない。

 確かにオイラのあれは監視の目的が強かったが、デートであることには変わりない。

 

「じゃあ、オマエさんにとっての(Love)ってのはなんなんだ?」

 

「いいよ、教えてあげる! (Love)って言うのはね―――」

 

 ―――傷つけられること、だよ。

 その言葉を最初は理解できなかった。少しの間思考が完全に止まって、少しして動きだしたが、それでも理解するまでに時間がかかった。

 傷つけられる。それはすなわち攻撃されることだ。攻撃ってのは、相手を殺すためにするものであって、愛する為にするものではない。なのに、Friskはそれこそが(Love)だと語っている。

 なにも、わからない。一体何がどうして、そうなるって言うんだ。オマエさんが傷つきながらも(MERCY)していたのは何だったんだ。

 

「なんだって、そう思うんだ?」

 

 聞くなと、本能が叫んでいた。それでも聞かずにはいられなくて、声を震わせながらも聞いた。

 聞いてしまった。

 

「だって、おかあさんがそうしてくれたもん。おかあさんは、ボクをいっぱい、いーっぱい愛してくれた。何かするとそれだけでめいっぱい愛してくれたんだよ。それに、地下世界のMonster達だってボクが何もしていないのにたくさん、たーっくさん愛してくれた。死んだらおかあさんとの約束を守れなくなるから、死ぬまではダメだったけど、いっぱい愛してくれて、すっごく嬉しかったんだ」

 

 止めてくれ、聞きたくない。そんなことを願って止めようとするが、口から出ていくのは荒い吐息だけだった。

 

「それなのに、どうしてSansはボクを愛して(傷つけて)くれないの?」

 

 できるわけが、ない。今、この話を聞いてしまったオイラには、目の前にいるニンゲンが、なにか訳の分からない者に見えてしまっている。

 恐怖が、オイラのソウルを支配して、動くことを拒絶する。オイラの荒い息と、対照的なFriskの落ち着いた息遣いだけがあたりに響く。

 Friskの言葉がたちまち頭の中を駆け巡って、考えることすらできなくなる。けれど、一つだけ。一つだけ、確認しないと、いけない。

 

「なぁ、……その、約束、ってのは…なん、なんだ?」

 

 聞きたくないと叫ぶココロを、聞かなければならないという義務感で押しつぶす。そうして口にした質問は、情けない声で、途切れ途切れにして紡がれた。

 

「えーっとね、確か…"迎えに来るから待ってて"だったはずだよ」

 

 そう言ってあの穴から落とされたんだとFriskが口にする。

 つまり、Friskはずっと、地上にいた時から虐待を(Love)とされて受け取ってきた。そして……この地下世界に落ちて来た日に、捨てられた。

 そういう、ことなのだろう。

 知らなければよかったという後悔が駆け巡る。歪んでいながら、それを一切オイラ達に気付かせない…いや、歪んでいることを自覚できていないFriskが、恐ろしい。

 けれど、オイラにはFriskに歪みを気づかせることも、まして歪みを直すことなんてできない。その歪みは根深く、最初っからあるもので。今更、外から手を加えることはできない。

 無理に直そうとすればきっとFriskの方が壊れてしまう。

 何もかも、遅すぎたんだ。

 そのことを自覚して、今も地上でのうのうと生きているだろうFriskの"おかあさん"ってやつのことを考えてしまう。

 

「ああ、まったく」

 

 Sans? と顔色を伺うFriskが見える。

 大丈夫だ。目の前にいるのはニンゲンだし、心優しい(Pacifistである)ことに変わりはない。

 けれど、けれど、けれど。

 それは呪いだ。それは鎖だ。対象を縛り付けて、がんじがらめにして、動けなくしてしまう。

 だから、こそ。これだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――これだから、"約束"は嫌いなんだ。

 

 今、改めて。ココロの奥底から、そう思った。



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