女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について 作:アマゾン
群稜高校、二年五組の面々は唖然としていた。
少年少女らの目の前に鎮座するのは、突如見知らぬ森へ飛ばされた自分達を襲ったドラゴン。
全長は優に五メートルを越えるだろうか。刀剣のごとき牙と爪が金属さながら煌めいている。これの前では恐竜でも小型犬と大差無いだろう
……だが、喫驚する彼らの視線の先にいるのはその怪物ではない。
彼らの目線の先には、怪物の脳天に巨杭のような槍を突き立てる騎士の姿があった。
「……無事か、貴公ら」
「ぅぇっ!? はっ、はいっ!?」
その様子を見た騎士は肩に手を置き、優しい声で『落ち着け』と呟いた。
「私は、君の味方だ」
「は、はい……」
紳士的な態度の騎士を見て、生徒たちは少しずつ平常心を取り戻していく。
……しかし、彼らは大事な事を知らなかった。
いや、知る
(うっわ! マジかよ……!? なんで今になって来るんだよ!? いつもの癖で思いっきり騎士ロールかましちゃったよ! うわ恥ずかし……!)
ーーこの騎士の中身が元クラスメイトかつ、内心で滅茶苦茶テンパってる事など知る由も無かったのだ。
◆
俺、
前世は普通の高校生で、気付いたら魔法が普通に飛び交ってるファンタジー世界で赤ん坊になってました。
今生の名前はアルシュタリア。あっ、ちなみにハーフエルフです。まだ二十年ぐらいしか生きてないけどね!
そんな世界に来ちゃったモンだから、俺は調子に乗った。ヒャッハーしちゃった。魔法の才能もあったし。
故郷であるエルフの里から出て人間の王国に向かい、冒険者ギルドとかに入ったりして鍛え続けた。
こう見えて、最高クラスから二番目の階級までいったのだ。そこに到達したのは歴代で十人ぐらいしか居ないらしい……多分もう抹消されてるけど。そして今は森暮らしだ。
なぜそんな事になったのか。理由は勿論、調子に乗りまくった俺がヤバい事をやらかしたからである。
伝 説 の 聖 剣 へ し 折 っ ち ゃ っ たZE☆
……はい。式典と言うか、パーティーで酔った勢いで、ポキンとやってしまいました。
いやー……ヤバかったですね。だってもう、日本でいう国宝なんて屁でも無いレベルの至宝だからね。なんか過去にヤバい悪魔倒したやつらしいし、俺を信用して見せてくれた王様なんて目んたまひん剥いてたもん。
その結果、英雄から犯罪者へ一気に転落ですよ。スカイツリーのエレベーターも真っ青だよ。ははっ……
そんなこんなで国から逃げた俺は、片田舎にある森で静かに暮らしていた。
木の実や獣を食べ、暇な時は読書を嗜む。
定年を迎えた老人みたいな生活だが、これまで生き急ぎ過ぎて若干燃え尽き症候群になっていた俺には意外と合った。
このまま、ハーフエルフの膨大な寿命を静かに消費し続けると思っていたーーのに。
「あ、あのっ、ここってどこですかね……? アフリカとかですか?」
「……ふむ」
的外れな問いを投げ掛けてくる前世の級友を前にして、俺は頭を抱えそうになっていた。
……こいつは、間宮シンジ。高校での生活は七割以上こいつと一緒に居たんじゃないだろうか。
ちなみに中々にヤバい奴で、転校してきた初日でクラスの全員(教師と男子含む)にプロポーズをし、その全員に断られるという伝説を打ち立てた男だ。もちろん孤立した。本人いわく『ウケると思った』らしい。
だが根は良い奴で、向こうがどうかは知らないが俺は親友だと思っていた。
というか他に友達と呼べる人がいなかった気がする。あれ涙が……
ちなみに他のクラスメイト達は担任の後ろで俺の様子を伺いながら着いてきている。泣いてる娘もいるな。
あれが普通の反応だ。なんでコイツだけこんな怪しい騎士に話し掛けて来てるんだよ。頭おかしいのか? あぁ頭おかしいのか。(諦め)
「貴公の言うアフリカとやらが何かは知らないが……知っての通りこの森は危険だ。私の住処に案内しよう。帰還の目処が立つまでゆっくりしていくと良い」
「そうですか……ありがとうございます」
前を向いたまま言った俺に礼を言った後、シンジは顎に手を当てながら『アフリカを知らない……? はっ、まさか。これは流行りのアレでは……っ!?』とか呟いている。
そうだよ。流行りのアレだよ。異世界転移だよ。良かったなお前、前の世界でも『異世界行って無双してぇなぁぁぁ"あ"!』とか言ってたもんな。チートがあるかは分からんけどな。
「ところで騎士さん。名前はなんて言うんだ?」
少し緊張が抜けた様子のシンジがそう聞いてきた。敬語を使いなさい敬語を。今生含めればお前より二十年ぐらい長く生きてるんだぞ。うやまえ
「……アルシュタリアだ」
「おぉぅ、名前カッケェ……」
その後シンジは少し迷った素振りをした後、ゴホンゴホンと咳払いしてから口を開く。
……ああ、これは。コイツの『鉄板ギャグ』が来る。
初対面の仲良くなりたい相手にぶちかまし、例外無くドン引きさせる『アレ』が来る。
「俺は
「毎回思うけどそれつまんないからやめた方が良いぞ」
「えっ」
「な、なんでもない!」
思わずツッコミを入れてしまった。
訝しげな目で見てくるシンジを無視し、俺は少し早歩きになった。
……俺の正体がバレるのは、なんとしても避けなければならない。それには二つの理由がある。
一つは、単純に恥ずかしいって事。こんだけ暗い過去を背負ってる騎士っぽいキャラを通しといて、実はクラスメイトでしたーなんて、なんか嫌だ。それに変な混乱を招きそう。
そして、もう一つはーー
「アルシュタリアさんって呼んで良いですかね? 良いですよね!」
「……ぅうむ」
ーー
今は鎧を着込んでいるからまだこいつらに性別はバレていないが、今後保護していくにあたって一度も鎧を脱がないなんて無理だろう。エコノミークラス症候群になっちゃうよ。
そして万が一、バレた後にボロを出してしまって俺が『ハツミ クズハ』だと察されてしまうのが最悪なパターンだ。
クラスメイトに『女になって異世界で騎士やってた』とか知られたら死んでしまう。主に俺の羞恥心が。
特にシンジは危険だ。こいつは妙に勘が良い。
……それにもしも、気持ち悪いとか言われたら泣いてしまうかもしれない。
ん? メンタル弱すぎだろって? うるさいやい! こちとら社会経験無しに大人になった年増ハーフエルフだぞ! エルフは寿命が長い種族柄、精神の成熟が遅いんだよ! 里の幼馴染なんか二十歳越えてるのに未だにばぶばぶ言ってるんだぞ!
「……着いた。すまないが少し外で待っていてくれ」
「あっ、了解っす!」
そうこう言ってる内に俺の家に着いた。巨大な土壁に扉が着いている。
クラスの人数は全員で三十人程。一部屋に三人ぐらい入ってもらえばギリギリ大丈夫だ。深夜テンションで作った無駄に多い部屋が活きる日が来るとは思わなかった。
俺は扉に入って大急ぎで掃除をし、全ての部屋に寝具などを設置していく。
……よし、このぐらいで良いか。
扉を開き、外で待つクラスメイト達に『入ってくれ』と言った。