女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
「アルさん。俺を強くしてください。一人であの森を抜けられるぐらいに」
村に行った次の日のトレーニングルーム、シンジが俺に頭を下げてきていた。
横でタスクが『やっぱりな』みたいな顔をしている。どういう事だ。
「……どういう風の吹き回しだ?」
「はは、あの村で女と良い感じになったんだとよ。で、自分だけでも会いに行けるようになりてぇから力が欲しい。そうだろ?」
「いや、そういう感じじゃないから……普通に、友達だ」
は、はぁ!? シンジと良い感じになった女!? どこのどいつだーーって……俺か。昨日は楽しかったな……いやそうじゃなくて。
シンジだけで村に行けるようになっても、中身が俺なわけだから銀髪ハーフエルフとは会えないぞ。
まぁやる気を出してくれたのは嬉しいけど、なんかなぁ……
「構わない。だがシンジは魔法が使えないから……少し待っていろ」
俺は魔法で作り出したゲートを武器庫に繋げて、そこから何本かの武器を引っ張り出した。
シンジとタスクとが目を見開くのが分かる。やはり男はこういうのが好きだろう。
剣、槍、槌、刀、ナイフ、メイス、よりどりみどりだ。
「おぉ……! すげぇ、刀とかあるのかよ……」
シンジは地面に置かれた刀の柄に手をかけた。
あれは最高品質の
「……あれ、」
しかしシンジは、刀を持ち上げようとした体勢のまま冷や汗だらだらでフリーズしている。
「ど、どうした?」
「これ、床にくっついてません? 全く持ち上がらないんですけど」
「は……? いやどんな武器だよ。貸してみろ」
不思議な顔をしてタスクが刀に手を掛けて持ち上げようとする。が、顔を真っ赤にしてぷるぷるしたまま動かない。
『身体強化』を使ったのか腕に青い線が走り初めてようやく持ち上がった。しかし振れそうにはない。
「はぁ、はぁ……! んだよこれ! どんだけ重いんだ!?」
「えぇと……私10人分ぐらいの重さだな」
「持てるかぁ!」
くわっ! とぶちギレるタスクに俺はハッとした。
そ、そうだよな。400キロぐらいあるもんなあの刀。今生じゃ皆普通に振るってたから忘れてた。
シンジはちょっぴり筋肉質ではあるが普通の高校生だ。武器として振るうなら10キロでもキツイだろう。
俺はそれを考慮しながら、一本のナイフを取り出してシンジの前にゴトリと置いた。
煌めく銀の刃には幾つもの魔方陣が彫り込まれている。
「……これは?」
「普通のナイフ……だが、私の魔法で強化してある」
元々は投擲するためのスローイングナイフ。ゆえに軽く作られている。付加された効果は単純で、特定の行動をすると一瞬だけライトセーバーみたいに魔力の大剣が発生して、相手の不意をつく事が出来たりする。ようするに間合い無視の斬撃だ。
とことん実践向けな武器。俺はそれをシンジに持たせた。
『三秒間に二回以上まばたきする』を条件に指定している。
不自然に思われず術式を起動させるにはそれぐらいがちょうど良い。
「見ておけ」
「うわっ」
「おわぁっ!?」
シンジからナイフを一瞬で奪い取り、タスクへ向ける。
そして兜の中で素早く二回まばたきする。
すると、反応する間も無くタスクの数センチ横の壁へナイフから突き出た青い半透明の刃がドスっと突き刺さった。この間コンマ0,2秒。
タスクは僅かに震えながらそれを横目で見ている。
「つまりこういうことだ。ちなみに三秒間に二回以上まばたきすれば起動する」
「おいっ! いま、いま完っ全に
「君なら避けれると信じていた……!」
「良い話にしようとすんじゃねえ!」
騒ぐタスクを無視し、シンジに『どうだ?』と聞く。
手に持ったナイフをまじまじと見つめていた。気に入ってくれたのだろうか。
「……アルさん」
「どうしたしんじ。お腹空いたのか」
「いや、そうじゃなくて」
気まずそうに、シンジが口を開く。
「これ多分5キロはありますよね? 持てるけど満足に振れないっす。米袋とかと同じ重さですからね」
「あ」
ーーこの後めちゃくちゃ筋トレした。
◆
「あー……全身痛い。アルさんマジで容赦ねぇな……」
「ひ、酷いヤツだなっ! そのアルシュタリアってやつは!」
「ほんとだよ。ああいう体育会系は筋肉増やせば人間やめられると思ってるからね。いやあの人は実際やめてるか……脳のリミッターとか司ってる部位まで筋肉が敷き詰まってんだろうな」
「そ、そこまで言わなくても……っ」
「なんで泣きそうになってんだよ」
村に来て鎧を脱いだ俺は、顔をしかめながらグリグリ肩を回すシンジの横を歩いていた。
……脳まで筋肉が敷き詰まってるって、そんな事思われてたのか。流石に傷つく。魔力で強化してるだけだから体はそんなに筋肉無いぞ。腹とかうっすら縦に割れてる程度だし。いや並の女よりは引き締まってる自信あるけど。
国には小さい山脈みたいに膨張した筋肉を持つ女戦士もいた。脳筋ってのはああいう奴の事を言うんだ。
「……シンジは、筋肉の多い女は嫌いか」
「へっ? はっ!? いや別に君の事とか言ってるわけじゃ無いよ!? むしろ大好物だから!」
「そ、そうか、良かった……? はい、あーんしろ。焼き鳥だ」
「いや自分で食うよ……焼き鳥あーんされても串が喉に刺さりそうで危ないし」
そうこう言いながら村を歩いていると、シンジの目線がある者に止まった。その方向を見ると、出店らしきものがある。
「……あれは」
「ど、どうしたシンジ?」
まるで吸い寄せられるようにゆらゆらとそちらへ向かうシンジに着いていく。
そして、店先に置いてある一冊の本を手に取った。俺は背中に寄り掛かるようにして覗き込む。
幾人かの女性が絡み合い、肌色の多い絵が表紙になっている。
これは……
【女騎士とハーフエルフ姫、禁断の恋~『私の王子になってくれませんか?』超ボリューム120ページフルカラー。伝説の官能絵師:エロスグィテ=インジャネの超絶美麗絵に、あの傾国級冒険者『"堕ちる蒼天"アルシュタリア叙事詩』を書いた文学会の星、銀髪美少女ハーフエルフ大好きさんの書き下ろしストーリーを添えたバリスヒルド王国出版界、珠玉の一冊ーー】
「……おいシンジ。エロ本だぞこれ」
「異世界も捨てたもんじゃないな……エロ本評論家としての血が騒ぐぜ」
「シンジ、おい帰ってこい」
「2000か、買える」
「ハーフエルフなら本物がここに居るぞ。おい。無視するな」
感嘆したように溜め息を吐くシンジへ呼び掛けながら肩をガクガク揺さぶるが、本に夢中なのか反応が無い。
というかこの作者……『銀髪ハーフエルフ大好きさん』って。知り合いなんだけど。俺の素顔を知る数少ない人間。変態だ。
俺が国から追放された後もこのペンネーム貫いてるのか……
いや、それはどうでも良いんだけど。
俺が居るのにこんなのに手を出すとか、なんか敗北感が凄い。
飼い犬が居るのに犬のぬいぐるみで遊ぶみたいな。ハーフエルフとしてのプライドが傷付く。
「すいません。これ買います」
「あいよ」
「やめろ、ハーフエルフは私で充分だろう……っ! なんなら女騎士もやれるぞ! だからそんなモノに手を出すな! というか文字読めるのか!?」
「いや、三次元と二次元は違うから。それに絵を楽しめる」
「ぐぐ……じゃあその絵と私どっちが可愛い!?」
「そりゃ君だけど」
「そ、そうか、ふふ……って違う!」
すたすた歩いていって、シンジはベンチに腰掛けた。
そしてエロ本を熟読する。こんな広場でこれ読むとかこいつのメンタルどうなってんだよ。そういや前世でも『エロ本評論家』とか自称してたっけ。
試しにふとともをぴとっとくっつけてみるが、全く反応が無い。前は手を握っただけであんなテンパったのに。悔しい。
「……シンジー?」
「中々の構図だな……それに、全盛期の鳥山明を思わせるダイナミックなコマ使いだ」
「シンジ」
「胸の躍動感も素晴らしい、エロ本なのにも関わらず思いを告げているであろうシーンに二ページも使ってるのもポイント高いな……」
「ほ、ほら、本物のハーフエルフのおっぱいだぞー、今なら揉ませてあげても良いかなーなんて」
「ごめん今良いとこだから黙ってて」
「なっ……!?」
背中の方から肉を寄せて大きくした胸を押し付けるが、素っ気ない態度を返される。
くそ、こうなったら脱ぐしかーー
「……あれ、なんか騒がしいな」
俺がズボンの裾に手を掛けた時、村の門の方を見ながらシンジが言った。俺もその視線を追う。
そこには人だかりが出来ており、中心には一人の男が居た。
「っ……!?」
そいつは、俺の良く知る人物だった。
俺と同等の冒険者階級……
魔王の再来とまで呼ばれた魔族を単身で葬り、その首級を持ち帰った事によって傾国級と定められた。
いまやあの国では一つ例外を除いて最強と言える人物。……その、名はーー
「なんだあのイケメン……?」
「駄目だシンジ、目を会わすな……! "奪われる"ぞ!」
「何が……?」
「記憶も、経験も、能力も……! 奴にはそれが出来るんだ!」
ーーアンドレア・バスター・ルシウス。
トップクラスに厄介な相手が、俺たちの元へとやって来た。
とりあえずシンジを連れて家の中に隠れる。ルシウスは村の連中に見せ掛けの甘いマスクで笑顔を振り撒きながら、森へと入っていった。
……俺を、連れ戻しに来たのか?