女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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11.『堕ちる蒼天』

「おい、タスク、タスク……っ! やべぇ! やべぇよ!」

「あぁ……? ボキャ貧かおめぇは。何があった」

 

トレーニングルームで一人腕立て伏せをしていたタスクの元へ、顔を様々な液体に濡らしたクラスメイトがやってきた。

震える口で『やべぇ、やべぇ……』と繰り返している。恐怖に染まったその目に、タスクは事態の異様さを認識した。

 

「変な、奴が来てんだ。急に壁がぶっ壊れて……! とにかく着いてきてくれ!」

「……分かった」

 

タスクは心の中で悪態をつく。アルシュタリアがシンジと村へ行っていて不在だからだ。その『変な奴』とやらがアルシュタリアクラスの怪物だった場合、自分では手も足も出ない。

覚悟を決めて同級生の案内に着いていく。

しばらく進んでいると、見慣れない人影が確認できた。

 

「……誰だあいつ」

 

クラスメイトの言うとおり壁をブチ破って入ってきたのだろう。瓦礫の山に腰掛け、肩には青白く輝く剣を携えている。

年齢は二十半ば程か、白髪の隙間から見える赤目が爛々と輝いていて、それが品定めするようにタスクを見詰めていた。

 

「こんにちは」

 

白髪の男はにっこり笑ってタスクへ挨拶をした。

整った顔立ちだが粘着質な笑顔。シンジがいつも浮かべている表情にどことなく似ていた。タスクが最も嫌いなタイプの人間。

 

「……何モンだ」

「僕かい? 僕はルシウス。今日は君たちに会いに来たんだ」

 

ルシウスは立ち上がり、優美な一礼をした。

 

「昨日、僕の国で異界の人間……"勇者"を召喚する儀式が行われてね」

「へえ……それがどうしたってんだ? 俺らは関係ねぇから帰れよ」

「儀式は失敗した。いや……正確には"ズレた"とでも表現するべきかな。儀式が行われたのと同時刻に、この森の座標から凄まじい魔力が観測されたんだ」

「……」

「で、命令されて来たらビンゴってワケ。黒髪黒目がこぉんなに……でも連れてくのは一人で良いんだよね。むしろ一人じゃなきゃマズイってか。僕が個人的に飼っても良いけど上にバレたらめんどいし。だから間引かなきゃならないんだよねぇ」

 

ルシウスは剣の切っ先をタスクへ向け、ニタリと笑う。

間引くーー1人を除いて殺すという事か。

眉をしかめたタスクの両拳に炎が宿った。身体強化による青い線が葉脈のように全身へ走り臨戦態勢となる。

ルシウスの笑みがより一層深くなった。

 

「やらせねぇよ……!」

「じゃあさーー()ろうぜ、勇者様(ブレイバー)

「っ……!」

 

ーー瞬間、ルシウスの踏み込みに硬質な床が蜘蛛の巣状に陥没した。

間合いが潰れタスクに肉薄する。遅れて空気の弾ける音が聞こえた。

まるで見えない。いつかのアルシュタリアより速いかもしれない。

こいつは格上だーー刹那の思考で、そう認識した。……だが、タスクには『秘策』があった。

 

「お、おおぉっ!?」

「ら、ァ"ッ!」

 

ーー右拳の炎を膨張させ、ルシウスの視界を塞ぐ。

突き出された剣の軌道がほんの僅かに外れ、タスクは回避に成功した。

 

「その綺麗な顔面に風穴空けてやるよ……!」

 

両腕を重ね、ルシウスヘ向ける。腕に纏わせた土塊がギチギチと蠢いた。

昨日アルシュタリアが見せたあのナイフーー魔力の大剣とやらを打ち出す代物だったかーーを魔術で再現する。対アルシュタリアの秘策として考案した技だが、出し惜しみして良い相手ではない。

目をつむり、腕に土の槍を形成する。そしてそれを打ち出す機構を土魔法で必死に練り上げる。

 

「っぅ……目眩ましかい……っておわぁっ!?」

「パイルバンカー……」

 

ーー発射準備完了。

すぐに撃たねば回避されるだろう、照準を合わせる事はしない。向こうに対応する余裕を与えてはいけないから。

ハナから、地道にやって勝てる相手ではないのだ。

 

「死に晒せやぁぁぁ!!!」

 

炎熱を帯びた巨槍がルシウスへと打ち出される。

螺旋回転しながら弾丸を優に越える速度で迫るそれは、万物を融解させながら全てを貫くだろう。

勝利を確信したタスクの表情が喜色に染まるーー

 

「うーん……良い動きだ。惜しいなぁ……もし同格だったら最高に楽しめただろうに。流石に遅すぎるよ。当たってやる事さえ出来ないや」

「っ……!?」

 

ーー槍は、ルシウスの二本指で挟み止められていた。

落胆したように溜め息を吐きながら、くいっと手首を曲げる。

それだけの動作で土槍は、飴細工の如く砕け散った。

 

「クソ、がぁ……!」

「君の行動に落ち度は無かった。だから君がこうして敗北するのは純然たる格の差だよ。……でも、合格点だ。()()()()()

「……は?」

 

ルシウスは天に右手を掲げた。そこからバチバチと雷鳴が迸る。

タスクは、そのにたっとした笑みに底無しの嫌な予感がした。

 

「やめろ」

「僕の魔法は、『電』だ。血流を極限まで活性化させる事で、人体に溢れる生体電気を増大させて打ち出す……まぁでも一般人には使えない。それが何故かって言うとねーー」

「まて、おい、まだ決着は着いてねぇぞ! 俺を倒してから……っ!?」

 

ルシウスから発せられる雷が土壁を焼き焦がし抉る。

まるで意思を持っているかのようにのたうつそれは、逃げ惑うクラスメイトたちに食らいついた。

 

「ーー知ってるかい。雷って体に悪いんだぜ」

「やめろぉぉぉぉぉ!」

 

雷に呑まれたクラスメイトの眼球が弾け飛んだ。

ある者は頭蓋が砕け散り、ある者は全身の血管を焼き焦がされ、ある者は脳味噌が沸騰して死に至る。

級友たちの最期をタスクは呆然と見詰めていた。

 

「ぁ、あ……」

「ふぃー……これで異世界人は減ったね。後はプチプチ潰すか。あ、君は別だよ異界の勇者さま? 召喚から一日でこれとか素晴らしいよ……!」

 

満足そうに頷き、ルシウスは地に伏せるタスクの肩をぽんぽん叩いた。

 

「てん、めぇぇぇぇぇえ!!!」

「だーかぁーらぁー……効かねぇっての。格の違いぐらい察せよ」

 

怒りに任せて振りかぶられたタスクの拳は、ルシウスの顎を殴打した。しかしダメージどころか脳を揺さぶる事さえ出来ていない。これが奴の言う『格の差』とやらなのだろう。

……まるで、生物としてのステージが違うみたいだ。テントウ虫がグリズリーに挑むようなもの。

勝ちの目は無いに等しいだろうーーが。シンジ絶望していなかった。

それは、"彼が本物の怪物"と対峙した事があるから。

 

「アルシュタリア見た後じゃ、てめぇなんてチワワ同然なんだよ……!」

「……君、今なんて言った?」

 

キッと睨みながら立ち上がるタスクの言葉に、今日初めてルシウスの顔から笑顔が消えた。

 

「あぁ? てめぇなんてゴミだって言ったんだよ」

「……アルシュタリア」

「は?」

「お前アルシュタリアがどこ居るか知ってるのか」

 

先程までとは別人のような、冷静さを欠いたどこか焦燥さえ感じさせる声色。

 

「あの()は、あの娘は、僕が……!」

「……あの子? 何言ってんだてめぇ」

 

頭を抱えぶつぶつと独り言を言うルシウス。タスクは少しずつ後ずさり、距離を取る。

……逃げるためではない。最後の反撃に出るために。

タスクとて、殺されたクラスメイト達に対して一定以上の情はあった。敵討ちぐらいはせねば死んでも死にきれない。

ーー刺し違えてでもこいつだけは倒す。そう決意し、土魔法を装填した。

 

「……アースクリエイト、『粉塵』」

 

タスクの詠唱で、室内に土煙が立ち込める。それは土魔法で生成した植物や土の微粒子が散布されたもの。

……彼の捻り出せる、現時点で最高火力の一撃。

拳、蹴り、槍ーーそのいずれでもない。思惑通りに炸裂すれば、巨大なビルでさえ倒壊させる一度きりの攻撃。

 

「おいお前……っ! アルシュタリアの居場所を教えろ! 知ってるんだろ!? じゃれ合いは一旦終わりだ! 速くしないと……!」

「はっ……そんなに知りたきゃ教えてやるよ……! 二人仲良く、地獄に落ちた後でなぁぁぁぁ!?」

 

ーー『エンチャント・ファイア』。

タスクの全身が発火する、と同時に室内に蔓延した粉塵がピカッと光った。

 

「っう!? なんだよ、これ……!?」

「馬鹿は黙って死ねや……!」

 

【粉塵爆発】

 

急激な圧力膨張変化によって発生するその科学現象は、コンクリート製の建造物さえいとも容易く粉砕する。

爆炎がタスクとルシウス両方を平等に包み込んだ。ルシウスの悲痛な断末魔が爆発音と共に響き渡る。

どちらのか分からない腕や肉片が飛び散る光景を最後に、タスクは瞼を閉じた。

 

 

「ぁ、あ?」

 

ーー闇に包まれた意識の中、タスクは自分の指が動く事に気がついた。

立ち上がろうと地面に手を突くが、力が入らない。真っ赤な液体に濡れる地面が鉄の香りを放っている。

 

「これ……全部、俺の血かよ」

 

腕や足の二、三本確実にもげたと思っていたが、どうやら死に損なったらしい。

ふと横を見れば、腕を突き出した状態の焼死体が転がっている。前方には、氷の壁の残骸が散乱していた。

……クラスメイトの一人、ハルナが咄嗟に氷魔法を使ってタスクを守ったのだろう。自らの身を犠牲にして。

それが本来なら即死の衝撃を重症程度まで減衰させたのだろう。

 

「……余計な事、しやがって……」

 

壁に寄りかかりながら、息も絶え絶えなタスクが立ち上がる。

肋骨がガラガラに砕けているのか胸が痛い。臓器に突き刺さっているかもしれない。

ルシウスの姿を探せば、遠くの方にビクビク痙攣する赤い塊があった。

 

「ひゅー……、ひ、ゅー……ぁ、で、ぅ、で、ぇ"ぇ"ぇ"、……」

「おうおう、随分ちっこくなったなぁ……? ルシウスさんよ」

 

手足が半ばでもげ、横腹が抉れて臓物が飛び出ている。艶やかな腸からの出血が激しい。

顔面はその右半分が失われており、辛うじて原型を留めている方も歪み砕けている。

満身創痍、なんて表現ではまるで足りない。あと数十秒で死ぬだろう。

傷口から()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……りゅう、いんし、かいほう」

「……ぁあ、何因子だって? もう諦めーー」

「ガァ"ァ"ァ"ア"ァ"ア"ァ"ァ"ァ"ッ"ッ"ッ"!!!」

 

ーールシウスの体内から溢れた黒泥がボコリと膨張し、巨大な何かを形作っていく。

それはまるで、お伽噺に登場する龍の腕のようだった。

 

「は、は……第二形態、ってかぁ……?」

 

タスクの頬に冷や汗が伝う。

枯渇しかけた魔力を絞り出し、みそっかすのような残り火を両拳に燃焼させる。身体強化を使おうとしたが、力を巡らせようとすると全身に痛みが走る。明らかな過負荷(オーバーワーク)だった。

 

「アル、っしゅ……だ、ぁア"ァ"あ"ァ"ア"ァ"ア"ア"!!!」

「ちぃ……っ!」

 

巨大な泥が、地面をのたうつ蛇の如くタスクへと這い寄る。

鞭のようにしなるソレを辛うじて回避するが、満身創痍ゆえに足をもつらせてしまい転倒した。

無防備なタスクへ二発目が迫る。

 

ーー万事、休すか。

 

思えば情けない人生だった。

弱いやつを虐げて、勝手に自分が最強だと勘違いして。それを確かめるため無為に誰かを傷付けて。

だからこそ、アルシュタリアを初めて見た時。タスクはまるで初めて目を開けたみたいな気分になったのだ。

俺はこいつを打ち倒す、こいつ以外は路傍の石ころなのだと。

究極の目標があるから努力できた。

 

……そうだ。俺はあいつをぶっ倒す。この命はそのために使うと決めた。

ーーだったら。

 

「俺はァ……てめぇなんか眼中にねぇんだよぉぉぉぉ!!!」

「グラ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ"!」

 

ーーだったら、最期まで全力で。

命を燃やすかのような紅蓮がタスクから迸る。

泥と炎が、ぶつかりーー

 

「そこまでだ」

 

ーー上空から割り込んできた"騎士"によって、霧散した。

 

「アルシュ、タリア……」

「……こいつをここまで追い詰めるとはな。少しだけ君を見直したよ。気に食わないけどな」

「はっ……ははは。一言多いんだよ、お前は」

 

真っ直ぐに槍を構えたアルシュタリアが、ルシウスを睨む。

ルシウスは対称的に、泥に置き換わった両手を横に広げて笑っていた。

 

「ァる、アルシュタリア……! ボくは、君を、ずっと探してたんだ!」

「私は二度と会いたくなかったがな。……まぁとにかく。私はこいつらに微塵も情など覚えてはいないが、守っていたものを傷つけられるのは気分が良くないものだ。だから、私はお前を殺そうと思う」

「ハッハッハァ……! いいよォ……!? 久々に二人でヤリ合おうじゃないかぁあぁあっはハはァっっっ!!!」

 

タスクとの戦闘時とは比べ物にならない速度でルシウスがアルシュタリアへ突進する。

アルシュタリアは、小さく何かを呟いた。同時にルシウスが、何かに強い力に押さえ付けられるようにして地面へと叩き付けられた。

床に発生した馬鹿でかいクレーターがその力の強大さを物語っている。

 

「ふっぅうぅ……重力魔法かい……?」

「あぁ。丁度よく部屋の天井が無くなってるんだ。望む通り全力で殺してやろう……水魔法の極致をその目に焼き付けると良い」

 

アルシュタリアは、自分の横に現れた黒い裂け目から大きな杖を取り出した。それを天に向ければ、曇り空に極大の青い魔方陣が発生した。

 

「詠唱、『堕ちる蒼天(エナリオス)』」

 

ーー見渡す限りの曇り空が、()()()()()()へと変わった。

まるで空と海が入れ替わったような光景。

空から、ザァザァと波のさざめく音が聞こえる。

 

「……空を覆う水魔法とか。相変わらずイカれた魔力量してんねぇ……?」

「死ね」

 

ーー『蒼』が、落ちる。

空が降ってくるようなその光景に、ルシウスは静かに目を閉じた。

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