女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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12.捻れる日常

「……ははぁ。おかしいよほんとに。本気出せば、王都丸ごと押し流せるでしょ、君……」

 

俺は、四肢をもがれ水浸しになったルシウスの前に立っていた。手足を形成していた『龍因子』の泥は水魔法で削がれ、地に倒れ伏している。

……本来なら、万全のルシウスはかなり厄介な相手だ。

格下相手に舐めプしてたんだろうが、タスクが追い詰めていてくれて助かった。

ルシウスの胸に槍を突き立てる。

 

「あ……そうだ、僕の事殺すのは別に良いんだけどさ。最後に一つ……いや、二つだけ言わせて。これを言わなきゃって、ずっと……」

 

突き立てた槍に力を籠めようとした時、ルシウスがそう言った。

 

「なんだ。一分以内で済ませるなら構わないが」

「うん……ありがと。一つはね、君の『父上』が君を探してるって事……あのバケモンの事だからもう大まかには特定してんじゃないかなぁ……? 逃げた、方が良いよぉ……」

 

ーーその言葉に、俺は冷えた手で心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

……俺の父親、あの怪物に居場所を特定されている。

それが本当なら一刻も速く行動を起こさなければならない。

 

「……あと、もう一つはね」

 

ルシウスが、震える声で何かを言おうとする。

 

「きみの、ナか、にーーっ、ぐ、ガァッッ!?」

「っ……!?」

 

ーー言おうとして、ルシウスの頭部が爆散した。

真っ赤な脳漿と肉を撒き散らし、頭蓋の破片が俺の鎧に叩き付けられる。反射的に目を細めてしまう。

……何が、どうなってーー

 

【久しぶりですね。アル。元気そうで私は嬉しいです】

 

ーーその声はルシウスの残骸から聞こえて来た。

聞き覚えのある声。俺は首筋から汗が吹き出るのを感じた。

良く見ると、ルシウスの脊椎の辺りに魔方陣の浮かんだ青い宝石が埋めこまれている。。

……あの魔法陣は通信(パケット)か。ヤツが開発した魔術。その性能は電話と大差無い。

だとしたら……この声の先に居るのは。

 

【お父さんは最近"ビジネス"が軌道に乗っていましてね。もうすぐ長年の夢が叶いそうですよ】

 

ーー"捻れ騎士"アルスバーヴン。

俺の今生に於ける父親であり、王国最強……いや、もしかすると世界最強かもしれない怪物。

……そして、現存する最高位冒険者『叙勲騎士』の一人。

どうやったかは知らないが、ルシウスの脳に何らかの仕組みを施していたのだろう。こいつなら何をやっても不思議じゃない。

 

「……はい、お久しぶりです。お父さん」

「おいアルシュタリア……? 誰だこの声」

【おや、そこに居るのはアルの"お友達"ですか。私はアルスバーヴン。王国で個人事業主を営んでいます。名刺でも渡させて頂きたいのですが……生憎この魔術で送れるのは音だけですので。無礼を許してください】

「う、うっす……」

 

おずおずと頭を下げるタスクを後ろに下がらせ、俺は早鐘の如く脈打つ心臓を意識しながら口を開く。

 

「……それで、此度(こたび)は私に何のご用でしょうか」

【あぁそうでした! 君の声で嬉しくなって忘れてましたよ! 実はまたアルに、お父さんの仕事を手伝って欲しくてですね】

 

ーーああ、またか。

こいつの言う『仕事』で、俺はロクな目にあった試しが無い。

……だが、断ればどうなるか。それも良く知っている。

 

「……分かりました」

【いつもありがとう、アル。君の国際指名手配は圧力で解除させておきましょう。大手を振って私たちの家まで帰って来てください。待っていますよ】

 

ブツン、と音を立てて通信が切れる。と同時に、膝に力が入らなくなって地面に崩れ落ちた。思わず奥歯が震える。

……"捻れ騎士"、または"湾曲王"アルスバーヴン。この大陸でその名を知らぬ者は居ない。奴の発明品の数々は人類に多くの恩恵をもたらした。

強く優しく、そして賢い。典型的な大英雄。

 

……しかしそれは上辺だけの話。奴の本質はただのサイコパスだ。タガの外れた天才としか言いようが無い。そして何故か、ハーフエルフという種族に対して強い関心を抱いている。

だから自分の子供として俺を作ったんだろう。

幼少期……俺も奴に色々と"弄られ"た。その記憶がフラッシュバックし、思わず吐きそうになる。

 

「はぁ、はぁ……っ! アルさん、これどうなってすか……!?」

「……シンジ」

 

俺の通った後を追ってきたのか、シンジが息を切らしながら家の残骸に入ってくる。そしてクラスメイトたちの死体を見て顔から表情が消えた。

「まずい、事になった」

 

震える声でシンジにそう伝える。

……本当に、まずい事になった。

正直、国を敵に回す事なんかより奴に居場所を捕捉された事の方が何百倍も面倒だ。たとえ世界の端まで逃げようとも奴なら指先一つで俺に攻撃できる。

 

「……この森から出るぞ」

「へっ……?」

「おい説明しろ……まるで状況が見えねぇ……」

 

困惑した様子の二人を尻目に、俺は頭を抱える。

……出来ればシンジを王都には連れて行きたくないが、森に待機させておいて何かあったら目も当てられない。

ぜったいに、絶対に俺の目と手が届く所に居て貰わなければ。

シンジとタスクへ向き直り、俺は口を開く。

 

「……簡潔に言うのならば、私は『家出』をしていたんだ。怪物みたいな父親に嫌気が差してな。……それが今、呼び戻された。それだけだ」

「父親に呼び戻された……お前の実家に帰るって事か?」

「着いてきてくれても構わないが。二人はどうする」

 

その問いに対して、タスクは二つ返事で『着いていく』と返した。ルシウスに殺されたであろうクラスメイトたちを悼ましい表情で見ながら拳を握り締めている。

 

「……シンジは、どうする」

「俺、は」

「状況が分からないだろうが、それは追々説明する。私としては君に着いてきて貰いたい。……きみが、いやと言うなら、強要はしないが」

 

シンジは、少しだけ迷う素振りをする。

 

「……俺はアルさんに命を助けられました。だから、アルさんがそう言ってくれるなら一緒に行きます」

 

そう言った後、『……でも』とシンジは付け足した。

 

「もし良かったら、ちょくちょくあの村に行っても良いですか? ……会いたい人が、居て」

「……分かった、構わない」

 

その後俺達は、ルシウスに殺された生徒たちの遺骸を埋葬して外に出た。

……特に情があったわけでも無いし、こいつらとの学校生活なんかは断片的な物を除いてほぼ記憶の彼方へ消え去ってしまっている。しかし、見知った人間の死体を弔うというのは、何度やっても慣れないものだ。

静かに手を合わせながら、俺は鎧の内側で顔をしかめた。

 

 

「……それで、そのルシウスって奴に皆は殺されたのか」

「あぁ、そのせいで俺はこんな怪我してるし、あいつらは死んじまったし……色々と、めんどくせぇ事になった」

「あぁ。本当に、本当に面倒な事になったな」

 

俺たち()()は、俺の用意した馬車で都への道を疾走していた。

便宜上は馬車と言えど、車体を引くのは召喚した中型竜。馬力も速度も馬を遥かに上回っているから、一日もあれば王都に到着するだろう。

 

「……はぁっ」

「なんでイライラしてるんですかアルさん……怖がってるからやめてあげてくださいよ」

 

御者台でせわしなく足を踏み鳴らす俺に、シンジがたしなめるような声で言った。

……ルシウスに殲滅されたと思われていた生徒たちだがーータスクとシンジを除いた生き残りが一人だけ居たのだ。

ルシウスとタスクの殺気に当てられたせいだろう、酷く怯えた

様子なその『生き残り』は、消去法で戦闘能力の低いシンジに抱き着いていた。

心に傷を負った時に人の温もりを求めるのは当然な事なのだろうが……その矛先がシンジなせいで、とてもむかむかする。

シンジに引っ付いてカタカタ震えている小柄な女を尻目に、俺は舌打ちを抑えるのに必死だった。

 

……綾羅木 詩音(あやらぎ しおん)

この女の事は前世からあまり好きじゃない。

こいつは男に取り入るのが凄まじく上手い。学校では女王蜂のような地位で、クラスの中心と言っても過言ではなかった。男子のトップがタスクなら女子のトップはこいつだ。二人ともロクな奴じゃない。

シオンはタスクに何度か告白して振られているらしく、この二人の関係は良くないが。

 

「……遠くにでけぇ門みたいなのが見えてきたな。あれが都か?」

「あぁ。王都アイムール……かつて私の活動拠点だった場所だ」

 

しばらく走り、馬車を門の前で停める。

守衛が駆け寄ってくる。

 

「立派な竜車だな……商人か? 通行証か冒険者カードを出せ」

「こういう者だ。急いでいる」

「ん? 黒い、冒険者カード……? えっ、はっ!? アルシュっっっ!? 帰ってくるってマジだったんですか……! し、失礼しました! おい開門しろ! 今すぐだ!」

「すまないな」

「あ、あの、サイン良いですか? 嫁と娘がファンなんです」

「……あぁ」

 

門番をしていた守衛兵たちに騒がれながら、俺達は王都へと足を踏み入れた。

小窓から外を見ながら、タスクは驚いたような顔をしている。

 

「……有名人なのか? お前」

「まあ、多少はな」

 

馬車を預け、地に足を着ける。

辺りを見回せば、そこには見知った都会の光景が広がっていた。出店が立ち並び、吟遊詩人の声が響き、人々の活力に溢れた街。乾いた気候のため、噴水も多くある。

 

「凄い、所ですね」

「……あぁ」

 

今生の俺……『アルシュタリア』が半生を過ごした場所だ。

悪い記憶ばかりだが、楽しかった記憶もそれなりにある。思い出自体は強い。

それから俺は宿をとり、そこに三人を待機させて目的の場所へと向かう事にした。

この都でも一際目立つ豪邸ーーアルスバーヴンの、邸宅へと。

 

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