女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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14.軋む情景

「……私を助けてくれてありがとう、アラバツガリィ」

「何言ってるんだ、わたしが助けたのはあのゴロツキ共と、この坊主の方さね……なんでアンタみたいな怪物の助太刀に入らなきゃならないんだい」

「冷たい事を言わないでくれーー師匠」

 

先程の男たちを追い払ったアラバツガリィは、カラカラ笑いながらそう言った。

"砦騎士"アラバツガリィは、戦闘技術における俺の師でもある。魔法と武器術を併用するバトルスタイルはこいつが源流だ。

 

「ふん……『叙勲騎士』なんて大層な肩書はあるけど、わたしゃきっともうアンタには勝てないよ。流石はあのアルスバーヴンの娘さね」

「……そうか」

「あ、あのー、君と、あと……アラバツガリィ、さん? 二人はどういう関係で……」

 

横で話に入るタイミングを伺っていたシンジが、おどおどしながらそう聞いてきた。

 

「ガリィで良いよ、坊主……この馬鹿弟子とは腐れ縁さ。ところで、そっちこそこいつとどういう関係なんだい」

「どうって……友達?」

「んなワケあるかい。こいつの対人能力で友達なんか出来るか」

「おい」

「事実さね」

 

俺のコミュ力が貧弱なんじゃなくて、周りの人間がおかしかったんだ。きっと。

そう自分に言い聞かせながら歩いていると、アラバツガリィは一件の店の前で足を止めた。あまり目立たない、地味な雰囲気の店。バーっぽい。

 

「久々に会ったんだ……積もる話もあるだろう」

 

そう言って扉をくぐるアラバツガリィ、俺もその後に続こうとする。だが、シンジはバツの悪そうな顔で帰ろうとしていた。

俺たちが仲良さげに話していたから、気を使っているのかもしれない。

 

「シンジ」

「いや、俺はいいって」

「……シンジっ」

「だからそんな叱るみたいな声で言われても……あだだだっ!? 分かった、分かったから引っ張んないでって!」

 

ぐいぐい引っ張って店にシンジを引きずり込んだ。そんな俺にアラバツガリィが吹き出していた。なぜだ。

カウンター形式の席に無理やり座らせ、その横に俺も座った。

 

「……随分と、柔らかくなったじゃないか。六年前に初めて会った時は冷たい殺人機械みたいな風体だったのに」

 

とんがり帽子の隙間から僅かに覗くアラバツガリィの目が、優しげに細まっている。

……かつての俺は、ほとんどアルスバーヴンの操り人形だった。あの頃だけで何十万人殺してしまったか分からない。

殺戮に次ぐ殺戮、血に濡れて乾きひび割れた精神。アラバツガリィと出会ったのも、小国を一つ潰した直後だった。そこで俺は初めて敗北を知ったのだ。

 

「あん時は……アンタ、確か十五才ぐらいだったか。恐ろしいよ。最終的に勝ったとはいえ、そんなガキにわたしはボロボロにされたんだから」

「……ははは」

「じゃあ、なんか注文するか。坊主、酒は飲めるかい?」

「え、いや、酒は……」

 

アラバツガリィは、二人分の酒とシンジの果実ジュースを注文した。

カウンターの向こう側でコップに液体を注ぐ店主をボーッと眺めながら、俺は口を開く。

 

「……もし、の話だが。私とアラバツガリィが本気で不意討ちすれば、アルスバーヴンを倒せる思うか?」

 

その言葉に、アラバツガリィは分かりやすく顔をしかめた。そしてその後に大きなため息を吐き出す。

バツが悪そうに頭を掻きながら、心底忌々しそうに言葉を紡ぐ。

 

「無理だよ。白兵戦ならわたし一人でもやってられなくは無いが……あの怪物の真価はそこじゃない。あいつ以外の叙勲騎士クラスが総出で掛かっても怪しい」

「分かってる、言ってみただけだ」

「……また、何か命令されたのかい。あいつも昔はマトモだったんだがねぇ」

 

カウンターに置かれた酒をぐびぐび煽りながら、アラバツガリィは呆れた声で言った。

まともなアルスバーヴンなんて想像出来ないな。少なくとも、俺に物心が付いた頃には既にイカれていた。

 

「そうなのか?」

「ああ……真っ直ぐな奴でねぇ。でもある時から、龍に魅入られちまった。あんな泥のどこが良いんだかっ」

 

既に酔いが回ってきているのか、アラバツガリィらしくない、少しだけ感情が先走ったように口調だった。

 

「……わたしが殺してやれたら、どれだけ良かったか」

「……アラバツガリィ」

「さっ、わたしの話は終わりさね。アンタも飲みな。わたしゃそっちの話に興味があるのさ」

「もがっ、ちょっ、待て、おい」

 

アラバツガリィが、俺の口元にグラスを持ってきて無理やり酒を注ぎ込んできた。つい咄嗟に飲み込んでしまう。

まずい、俺はかなり酒に弱い。酒が入ると記憶が飛んで、意識が戻ると大抵の場合はとんでもない事になってる。"聖剣"とやらをへし追って国を追放されたのも酒のせいだ。

それが分かっているのかいないのか、アラバツガリィはニヤニヤ笑っていた。

ーーあ、目が据わってる。なんも考えてないわこいつ。ただの酔っぱらいだ。

 

かなりアルコール度数が高い酒なのか、口腔を流れた途端に喉が焼けつくような感覚が走る。腹の辺りから吹き出た熱い蒸気に脳を熱されているみたいだ。頭がぽーっとする。

しこう、が、まとまらない。

 

「しっ、しんじぃっ! みしぇ、からっ、んっ……でぇ、ろっ!」

「え、ミシェランジェロ……?」

 

『店から出ろ』と言ったつもりがまるで伝わっていない。

ろれつのまわってくれない舌がうざったい。

まずい、視界がぼやけてきた。瞼が重たい、世界が遠退く。

 

「お、おい!? 大丈夫か!?」

 

俺が最後に見た光景は、心配そうな顔で俺に肩を貸してくるシンジと、ゲラゲラ笑うアラバツガリィの姿だった。

 

 

「お、おーい……? あの、アラバツガリィさん? 病院連れてった方が良いんじゃ……急性アルコール中毒とか怖いし……」

「ははははは! 大丈夫さね! そいつが酒ぐらいで死ぬか!」

「でも意識無いっぽ……あ、起きた。大丈夫ー?」

 

アラバツガリィに酒を飲まされ、数回たたらを踏んだ後に少女は膝から地面へ崩れ落ちた。咄嗟に抱き起こすが意識が無いよう。顔だけでなくその長耳まで真っ赤に染め、僅かに開いた瞼から覗く銀色の瞳は虚ろで、潤んでいる。

 

「しん、じぃ……」

「なに……? ばっ!?」

 

ゆらゆらと伸びてきた細腕が、シンジの胴に巻き付いた。

そして凄まじい力で抱き寄せる。顔面に押し付けられる軟らかな感触。アルコールの匂いに混じって甘い香りがした。ちょう胸に顔を埋めた格好だ。

その柔らかい物体が何かを察し、シンジは離れようとする。

 

「あー、れぇ……なんでシンジが居るんだ。俺はてんせいしてー? それでぇー……あぁ、ちがうんです、おとーさま、泥は、いや、です、やめて、もう俺って、いいませんからぁ……っ!」

 

両手でシンジをがっちりホールドし、少女はぶつぶつとうわ言のように何かを呟きだした。耳元ですんすんという音が聞こえる。顔を見ると、ぼろぼろ涙を流していた。

 

「ぁ、あん……しんじぃ……もう、殺したくない。もうずうっと、あいつら、あたまのなかでぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるわめいてるんだ。『ころさないで』って……でもおれ、わたしは殺したんだ。あるすばぁーぐ、あいつがこわくて。だんだん、殺して。どんどん、殺して。命がわかんなくなるぐらぁい……えへへぇ……」

 

先程までの理路整然とした態度とは真逆の様相。

まるで情緒が不安定な幼子のような。あるいは心の壊れた廃人のようなーーあるいは、()る辺を喪ったかつての自分のような。

分厚い仮面を被った人間が何かの拍子にそれを剥がされると、今まで溜め込んでいた情動が爆発してしまう。今の少女は正にそうだった。

喜怒哀楽でさえない。綺麗に言語化する事など到底不可能な膨大でドス黒い感情が、その瞳の裏側で渦巻いている。

 

「きみ、は」

「……ばけもの、なんだ。わたしはぁー……血まみれ、でぇ……鉄の匂いが、ずっと染み付いて……」

 

その瞳は、出会ったあの日のクズハとそっくりだった。

 

寒空の校舎裏。世界と人間に絶望していた、あの時と。

目があって。すぐに自分と同じだと分かった、あの時と。

 

「……だれか、たすけて」

 

最後にぼそりと、密着しているシンジにしか聞こえないぐらいの小さい声で少女は言った。

……そんな彼女に、シンジは。

 

「……君が何に傷つけられて、誰に助けを求めてるのか俺は知らないし、それはきっと俺なんかじゃないんだとは思う」

 

でも、だから。『これはただの節介で、自己満足だ』

そう伝えてから、シンジは少女を強く抱き締めた。

こういう時は人の温もりが良く効くのだ。それをシンジはよく知っていた。

 

「ぁ……」

 

ぎくしゃくと、シンジの腕の中で居心地が悪そうに少女は体を震わせる。

しかしそれから数秒後、猫のように目が細まった。

 

「……しんじ」

「なに?」

「ずぅっと……わたしと、いっしょ、に……ん、ぅ……」

 

何かを言いかけて眠ってしまった少女をそっとカウンターに寄り掛からせて、その小さい背に自分の上着を被せる。

穏やかに寝息を立てるその姿を見て、安堵の溜め息を吐く。

 

「……幸せそうな、顔してるねぇ」

 

アラバツガリィは、眠りこける少女の頬を撫でながら言った。

 

「坊主……こいつの事、大事にしてやってくれよ。こう見えて、弱い奴なんだ」

 

ちびちび酒を啜るアラバツガリィに返事をせず、少女の横に座る。

ガラスのコップを透過した証明の灯火を浴び、銀糸のような髪が煌めいて見えた。

 

「……ほんとに、似てる」

 

その寝顔に、亡き友の面影を見ながら。

シンジは、ぎくしゃくとした下手くそな笑みを顔に作った。

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