女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:アマゾン

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まさかこんなにたくさんの評価とお気に入りを頂けるとは思わなかった……(別作品の箸休めに書いた人)
感想下さった方ありがとうございます!返信出来てなくてすいません。これからは頻繁に返させて頂こうと思うので、ぜひまたご感想ください!


2.不信感

「おぉ、秘密基地感がすげぇ……」

 

我が家(ちょっと立派で部屋の多い防空壕みたいなの)の中を歩く俺の後ろに、距離を置いてクラスメイト達が着いてきている。そして何故かシンジだけはボケッとした顔して横に居る。 やっぱコイツ頭おかしいだろ。

 

「後ろの者たちは戸惑っているようだが、君は大丈夫なのか?」

「あ、大丈夫っす。こーゆー状況は普段からもうそ……シミュレーションしてたんで」

「そ、そうか……」

 

とても良い笑顔で親指を立てるシンジに哀れみの目を向けながら、俺は一つの扉の前で立ち止まった。

……ちょっと、嫌がらせしてやるか。

 

「ん? アルさん。なんで止まっーー」

「すまないが貴公ら、部屋を割り当てるから()()()()()()()()()()()()()()()()。貴公らの状況はそれから聞こう」

「っ……!?」

 

シンジの顔が絶望に染まる。

俺は自分の口角がつり上がるのを感じた。普段飄々としてるだけに、シンジのテンパる姿は珍しい。

いやぁ……こいつも俺も互いに他の友達居なかったもんなぁ……あれ、目からミネラルが。

 

「ま、待てアルさん。考え直そうぜ。こんな状況で俺たちを分断したって不安にさせるだけだ! なぁ、皆……」

 

振り向いたシンジの視線の先にあったのは、ペアを完成させてこちらの様子を伺うクラスメイト達の姿だった。

いつも俺たちと組んでくれていた先生もこんな非常時では生徒に大人気で、多くの女子にすがり付かれていた。心なしか頬がほころんでいる。

 

「……あっれー……?」

「早くしないと貴公もあぶれてしまうぞ」

「……ぁあぁ! ちくしょぉぉぉ!」

 

ヤケになったように叫んでから、シンジは生徒の群れに突撃していった。

だが数分後、意気消沈して帰ってくる。

 

「ん? どうした? ん? ん?」

「……えっと、その」

 

目を泳がせ、顔に冷や汗を浮かべながらシンジが言い淀む。

しかしこちらが見つめ続けていると、唐突に頭を地面に擦り付ける体勢になった。

流れるようなジャンピング土下座。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「足伸ばして寝れるぐらいの大きさで良いので一人部屋くださぁぁぁい!」

「良いぞ」

「やったぁぁぁ! 嬉しいなぁぁぁ!」

 

ヤケクソになった様子で喜ぶシンジを良い感じの物置に押し込み、俺は他のクラスメイト達を部屋に案内した。

皆の反応は様々で、未だにこの現状をテレビのドッキリだと思っている者、泣いている者など様々だ。

先生なんかは俺を誘拐犯だと勘違いして『あなたを誘拐と監禁罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですねッ!』と、まるで弁護士のように捲し立ててきた。

生徒の前でカッコつけたいのは分かるけど、良い年こいたおっさんが何してるんですかね。

 

「それでは、貴公らのタイミングでこの先の大広間に来てくれ。どういう状況でここに来たのか説明してほしい」

 

そう頼んだが、皆は顔を見合わせて渋い顔をした。

まぁそうか……普通罠だと思うよな。一ヶ所に集めて一網打尽にしようとしてるとか思われてるのかもしれない。

どうにかして安心させる事は出来ないか……

 

「あ、あのっ……い、いい、ですか……?」

 

俺が頭を抱えていると、学級委員の花子さんが手をあげた。

おお、何か妙案があるのか。花子さんは賢いからな。俺なんかよりよっぽどーー

 

「シ、シンジ君だけに行かせて、そこで聞いた事を私たちに話して貰えば良いと思いますっ! もしこれが罠だったとしても、最悪シンジ君ですし……まぁ……」

 

え、えぇ……?

どうすんだシンジお前、あの真面目な花子さんにさえ見捨てられて捨て駒にされようとしてるぞ。俺が居た時はまだここまで嫌われてなかったろ。

い、いや、まだ分からない! 一人ぐらいはシンジの身を案じる奴が……!

 

「さ、賛成だ! 死ぬならアイツだけで良いだろ! 少し経ってシンジが帰ってこなけりゃ逃げればいい!」

「あんな奴生きてても役に立たねぇし!」

「なんかアイツ頭貫かれてもへらへら笑ってそうだし!」

「そういえばさっき、どさくさに紛れてあいつにお尻触られたわ!」

「私も触られた!」

「私も触られたわ!」

「私もあいつに!」

「私は胸よ!」

「せ、拙者も!」

「誰だてめぇ!」

 

ギャーギャー騒ぐクラスメイト達を前に、俺は唖然としていた。

シンジェ……あのセクハラ野郎が。友人として冤罪だと信じたいが、あいつならやりかねない。

前世でいつも父さんが言っていた『人間社会において信用は防具だ』という台詞が脳裏を掠めた。あれってこういう事だったんだな。やっと実感したわ。

 

「わ、わかった! 話はシンジにするから、もう止めてくれ!」

 

そう言うと、やっと言い争いは止んだ。

……さて。アイツに説明するのにどれだけ時間が掛かるか。

シンジは話を反らす天才だからな。前なんてエロ本の話をしていた筈なのに、気が付けば宇宙の真理について語り明かしていたなんて事もある。

時間が無いし、さっさと説明しに行こう。

 

 

「という事で。級友たちではなく君だけに説明する事になった」

「いやいやいや!? 違うんすよアルさん! こ、これは別に俺が嫌われてるとか、そんなんじゃないんですよ!? 信用されてるゆえの人選というか……きっと、たぶん……」

 

先程の出来事を説明すると、シンジは物凄い勢いで首を横に振りだした。

いや、思いっきり嫌われてただろ。これ以上無いってぐらい。

 

「……婦女子たちの尻や胸を触ったのは本当か?」

「えっ……なんで知って、ぁあいや!? 違いますよ!?

あれはマジで偶然って言うか! 確かにラッキーだとは思ったけれどもっ!」

 

必死の形相で言い訳を並べるシンジに冷やかな目線を送っていると、向こうもそれを感じ取ったのか更に早口になる。

 

「あ、アルさんだって男なら分かるだろ……なっ? 」

 

いや、『なっ?』じゃないんですけど。それに今は女ですしー。

きゃーシンジくんサイテーとか言ってやりたいが、キャラが崩れるのでやらない。

 

「……あぁ」

「おぉ、流石アルさん話が分かるぜ! あ、そうだ……友情の証にこれやるよ!」

 

にぱっと笑顔になってから、シンジは手持ちの鞄をゴソゴソあさりだした。

友情の証……? こいつの事だから道端のタンポポとかか?

セミの脱け殻とか出してきたら騎士の演技ほっぽりだしてブチ切れるぞ。

 

「はい! 俺の秘蔵の一冊! この世界って多分カメラとか無いよな? 相当な貴重品だぜそれ!」

「あっ……えっ……」

 

ーー差し出されたもの。端的に言えばそれはエロ本だった。

グラビアアイドルたちが胸を突き出すポーズで微笑んでいる。

どのモデルもかなり質が良く、前世なら喜んで貰っていたかもしれない。

だが、何故か強烈な違和感に襲われた。

 

「そんなに見入っちゃって、やっぱりアルさんも男だなぁ! ちなみにどの娘が好みーー」

「俺の方が良い体してる……」

「えっ」

 

エルフの血が入ってるからか俺の方が腰も細いし、多分顔だって良い。……たぶん。それだからか全く興奮できない。

チョコを食べた後にイチゴを食べると酸っぱく感じるのと似ている気がする。

 

「あ、アルさん? これはですね、そういう筋肉的な観点から読む書物ではなくてですね。あんな大槍持てるんだからアルさんも筋肉凄いんだろうけど……」

 

食い入るように表紙を見つめる俺に、シンジは微妙な表情で説明してくる。

……こいつに今の俺の体見せたらどんな反応するんだろうな。いや、やらないけど。

こんなエロ本で興奮してるなら、鼻血出して失血死するんじゃなかろうか。

 

 

それから、シンジにこの世界についての大雑把な説明をしてから俺は自室に戻った。

ベッドに倒れこみ、深いため息を吐く。

……久々に人と話したから緊張した。ボロとか出さないよう必死だったし。

 

「はぁ……あっつい」

 

騎士の兜を脱ぎ鏡を覗き込んだ。

長らく切っていなかった長い銀色の前髪の向こう側に、THE女騎士という感じのキリッとした蒼い目がチラチラ見える。

そして、ハーフエルフの特徴とも言える常人より少しだけ長い耳。

 

「……不細工では、ないよな……?」

 

生まれ育ったエルフの里に美男美女しか居なかったせいか、今の俺の美的センスは多分ちょっと狂ってる。

もしかしたら向こうの世界の住人からすれば俺の素顔はとんでもなくブサイクかも知れないし、あるいは美人と写るかもしれない。

これも素顔を見せたくない理由の一つだ。

あんなカッコつけといて不細工だったら『えぇ……』ってなるだろ。

 

「……よっし」

 

かぽっと兜を被り直し気合いを入れる。

……演じ切って見せるぞ。少なくともしばらくは。

そう決意して、俺は部屋から出た。


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