女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について 作:アマゾン
「と! 言うわけでっ! ここは異世界、剣と魔法ひしめくファンタジーワールドなワケ! アンダースタァン?」
間宮シンジは、クラスメイト達の冷ややかな視線を浴びながら声高々に演説をしていた。
シンジは今、テンションが上がっている。彼にとって他人から必要とされるのは滅多に無い事であり、普段自分の話に耳を傾けてくれる人間がほとんどいないのもそれを後押ししていた。
「そ、そのっ、アルシュタリアって奴は信用できそうなのか!?」
「ぁあ! もちもちのろん! 信用金庫もビックリの安心感よ!」
「お、おぅ……」
歯を見せてサムズアップするシンジに引きながら、クラスメイトの一人が返事をした。
それからも幾度かの質問と応答が繰り返され、引き出せる情報を全て聞き出したと分かればシンジは、クラスメイトたちに部屋から追い出された。
「……はは、ひっでぇ。ありがとうぐらい言ってくれても良いんじゃねぇかな」
カラカラと独り笑いしながら、シンジはアルシュタリアに与えられた自室へと戻る。
その足取りは重く、表情も先程までとは程遠い能面のごとき無表情へと変わっていた。
「……クズハが、居ればなぁ」
ソファに横たわり、今は亡き親友に思いを馳せる。
彼の生涯における唯一の友人。そして、母と同じ『もう会えない人』。
「なぁんで死んじまったんだか……」
ーー初見 樟葉は、三ヶ月前に事故死している。
帰り道シンジと別れた後、トラックに轢かれて。
即死だったらしい。
「……はーあ、今までの人生で慣れてたのに、お前のせいでまた一人が辛くなっちまったよ」
クズハが死に、またもや孤独に苛まれるようになった彼はそれを紛らわすため『ピエロ』になった。
常にヘラヘラ笑って、周りにもゲラゲラ
そんなのでも、一人で居るよりは遥かにマシだった。
話は変わるが"世界五分前理論"という哲学的テーマが存在する。
これをかなり要約すれば、『認識されない者は存在しないに等しい』という理論で、シンジの生き方の根底にあるものでもあった
【誰かに見て貰えてる内は、たとえピエロであっても自分を保てる】
気が狂いそうな家庭と学校の環境。彼を支え続けた精神的支柱がこれであった。
……ゆえに、クズハという本当の自分をさらけ出せる人が居た内はピエロになる必要は無かったのだ。
だがクズハはもう居ない。孤独な彼が息をするには、再びピエロに戻るしか無かった。
「シンジ、居るか?」
「……お、アルシュタリアさんか」
その時、扉がノックされて例の騎士の声が聞こえた。
「開いてますよー」
「入るぞ」
扉が開くと同時に甘い花の香りがした。
その発生源はアルシュタリアであり、シンジの『良い匂いするとか絶対に陽キャイケメンだろ』という根拠不明の偏見を加速させる。
「アルさん女の子みたいな匂いっすね。まさか女でも抱いてきーー」
「っ!?」
『女の子みたいな匂い』に異常な反応をしたアルシュタリアを見て、シンジはこの家の中に彼の恋人が居る事を察した。
「べっべっべつに!そんな匂いしないと思うけどなっ!?」
「いや、別に良いんすよ。ここアルさんの家だし、邪魔してるのは俺たちの方なんで」
「え……?」
困惑するアルシュタリアに心の中で『とぼけんな』とツっこんでからシンジはベッドにボスッと横たわった。
そしてその体勢のままアルシュタリアに目線を写す。
「何か、用があって来たんですか?」
「あぁいや……ただ、君と話したかったんだ」
「は?」
恥ずかしそうに言ったアルシュタリアに、シンジは自らの顔がしかめられるのが分かった。
ーー俺が1人だから、憐れんでんだろ。
たぶん善意百パーセントでの行動なのだろうが、それは酷くシンジの精神を逆撫でた。
「……別に、そういうの良いんで」
「え……?」
「別に、一人でも平気なんで」
そう口走ってから、キツイ事を言ってしまったとシンジはハッとした。ーー今のは、ピエロらしくない。
「いやぁほら! 見ての通りっ! この不肖間宮シンジ、ぼっちを極めてるので、アルさんがわざわざ時間を割いてくださらなくてもこの通り元気いっぱーー」
ベッドから飛び起きて顔に笑顔を張り付ける。大袈裟な身ぶり手振りも忘れずに。
これで大抵の人間は、面白がるか気持ち悪がるか蔑むかしてくれる。たまに拳が飛んでくるが。
この人の反応に合わせた人間を演じれば良い。
そう思って、くしゃくしゃの笑顔にした薄目を開きーー
「……すまない」
ーーアルシュタリアは、心から悲しそうな声でそう言った。
「ぇ……え?」
「迷惑だったな、悪かった」
がちゃり、ばたん。と足早に部屋から出ていった。
シンジは唖然とする。
「……はっは、心までイケメンってか」
ーー急だったから、道化の演技を見破られた。そう結論付ける。
その上で蔑みではなく憐れみを向けてくるのは、あの人が所謂『人格者』だからなのだろう。
シンジが、最も嫌いで苦手な人種。
「クソッタレが」
心からの悪態を付き、シンジは目を瞑った。
■
「は、ぁ……!」
ーーやばい、吐きそう。
シンジの部屋から出た俺は、荒くなった自らの鼓動を戻すのに苦心していた。
『別に、そういうの良いんで』
……ずっと一緒に居たから分かる。
あれは、『拒絶』だ。それも明確な。
ーー間違いなく、嫌われてる。
そう自覚した瞬間、今生で一番と言って良いほどに胸が痛んだ。
「なんで……」
なんで、なんでーー頭の中で疑問符が浮かんでは消えて、数千回。
……わからない。前世より、『初見 樟葉』より間違いなく立場は上なのに、なぜ受け入れてくれない。
そう、思考してーー
「ぁ」
ーー思考して、気が付いた。
俺は今、確かにアイツの事を下に見ていた。
友人ではなく、庇護すべき弱者として見ていた。
恐らく向こうも俺を、逆らうべきではない絶対者として見ている。
そんな関係に友情など芽生えようもない。
なぜそれに気が付かなかった?
「……最低だ」
自分への怒りに任せて壁を殴る。
岩の層が大きく抉れた。
……願わくば、もう一度『あの関係』を。
馬鹿話をして笑い会えるあの日々を。
取り戻したいと、思った