女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について 作:アマゾン
「おぅい、どうしたんだよエブリワン。俺になんか聞きたい事でもあんのか? ぁあ、告白ならバストA以上の女子限定! 今なら漏れなくこのイケメン高校生間宮シンジのハートをプレゼーー」
「うっぜぇ、黙れキモ野郎」
この森に転移した翌日、シンジはクラスメイトたちに囲まれていた。
勿論、彼が急に人気者になったわけではない。クラスメイト達の汚物を見るような視線がそれを物語っている。
特にシンジの前に立つ整った顔立ちの男はそれが顕著だった。
「……で? 早く本題に移ってくれよタスク。俺は部屋でエロ本読むのに忙しいからな!」
くしゃっと笑顔になったシンジを嫌悪する目で見ながら、タスクと呼ばれた青年は口を開く。
着崩された制服と黒混じりの金髪から、素行の悪い生徒だとわかる。
「あの……アルシュタリアって男、本当に信用して大丈夫そうなのか? お前、随分仲良さそうだったろ」
「い、いや! 信用してはいけない! ヤツは私たちを誘拐した犯罪者だぞ……」
担任教師の男がタスクに叫んだ。
「はぁ……現実見えてねぇ馬鹿は黙ってろや!」
「ひぃっ!?」
「うぜぇ……うぜぇけど、現状俺達の庇護者はあのアルシュタリアって奴しか居ねぇんだ。危害を加えてくる心配がねェなら、最高の味方になる」
そう言い終えた後、タスクはシンジへ向き直る。
「……それによ、あの食堂のランタンおかしくなかったか?」
「は……?」
「空っぽだったんだよ……ただのガラスの箱、そこから火が出てたんだ。しかも、アルシュタリアが手を上げ下げした途端に着いたり消えたりした……科学じゃありえねぇ」
シンジはタスクの洞察力に驚いた。
特に調べたりしている様子は無かったのにここまで分析するとは。
「お前アルシュタリアに、この世界は『魔法』が存在するって聞いたんだよな」
「あ、あぁ」
「それ……俺たちも、使えるんじゃねぇか? ドラクエみてぇによ。テッテレー!つってな……」
整った顔が、ニタリと歪む。
そしてシンジの肩に手を置いた。
「……習いに行くぞ。このまま飼い慣らされてるだけじゃ、何も変わらねぇ」
「……は?」
「他にも着いてきてぇ奴は着いてこい! あぁシンジ、お前は強制だ。明らかに気に入られてるからなぁ……お前が居た方がやりやすそうだ」
「はぁっ!?」
「良いか? 外に居たあのドラゴンみてぇな怪物がこの世界には実在すんだ。日本に帰る手段を探すにも、力は必要だろうが」
そう言ってタスクは立ち上がり、シンジを無理やり引っ張ってアルシュタリアの部屋に向かう。それに数人の生徒が続いた。
担任の教師は『何かあっても私の責任じゃないからな!』と言って狸寝入りしてしまった。
「……アルシュタリアは、ここに居んのか?」
「あ、いや、そうだけど……」
シンジにそう確認したタスクはドアの前に立ち、何度か深呼吸をする。
タスクは少し震える手で扉をノックした。
「おい、アルシュタリア!」
その問い掛けの後、部屋の中からドタバタと慌ただしい物音が聞こえてきた。シンジを除くクラスの面々の緊張感が増す。
一分程そのまま続いていたが、ガチャリとドアが開いた。
灰銀の全身鎧を纏った男、アルシュタリアだった。
「……何の用だ?」
扉が開き出てきたアルシュタリアは、タスクの顔を見て冷たい声で聞いてきた。
刹那、タスクは心臓を冷えた両手で握り締められたかのような恐怖に襲われる。
不良という性質上一般的な日本人より戦いに身を置く機会の多い彼ではあるがーー近くで見ると、アルシュタリアは別格だと分かった。
銃を持ったヤクザでもここまでの迫力は無い。
「……俺たちに、戦う方法を、教えろ」
本能が逃げろと警笛を鳴らす中、なんとか絞り出した声。
それを聞いた途端、アルシュタリアから放たれる、場を支配するプレッシャーが更に増した。
「戦う方法……?」
「ひっ……」
最後尾に立っていた少女が悲鳴を挙げる。
タスクも足が震えないよう必死だった。まるで鉄格子無しに猛獣と向かい合うような威圧感。
「そうだ、俺たちに、戦う力を……」
「君のような人間にそれを教えるつもりは無い。帰ってくれないか」
冷たい、嫌悪すら感じさせる声色。何故だかアルシュタリアはタスクが気に食わないようだった。
言い残して部屋に戻りかけるアルシュタリアに焦り、タスクはイチかバチかの手段に出る。
「シ、シンジが、お前に習いたいって言ってたぞ!」
アルシュタリアの動きがピタリと止まる。
シンジは『いやいや何言ってんの!?』という表情でタスクを見た。
だが、場を支配していた呼吸に支障をきたす程のプレッシャーは幾らか緩和する。
アルシュタリアは後ろの方に居るシンジを凝視しており、初めて彼の存在に気がついたのだと分かった。
「……シンジ、居たのか」
「あ、アルさん、いやですね……これは別にそういう事じゃなくて……」
「良いぞ」
「へっ?」
「戦う方法を教えよう。部屋に入ってくれ」
心無しか嬉しそうな声でアルシュタリアが言った。
一同はポカンと立ちすくんだ後、おずおず部屋に入っていく。
「……おいシンジ。お前なんでアイツにこんな好かれてんだ。異常だぞこれ」
「いやマジで知らねえって……」
アルシュタリアの部屋に入ったシンジが真っ先に抱いた感想は、『良い香りがする』だった。小学生の頃に遊びに行った女子の部屋に近い香り。こちらの方が数段は上品な感じがするが。
内装は以外と普通で、整えられたベッドと未知の文字で書かれた何冊かの本が積まれた机、クローゼットらしき物の隙間から何かピンク色の物体が見えた気がしたがきっと気のせいだろう。
「その紙に向けて血を垂らしてくれ。一滴で良い」
引き出しの中をゴソゴソしていたアルシュタリアが、クラスメイト計五人に一枚ずつ羊皮紙のようなザラついた乳白色の紙を渡す。
「……アルさん、なんすかこれ?」
「魔法属性の適性を調べるための物だ」
「ぉおう……テンプレっすね……」
指示された通りに、五人は制服に入っていたシャープペンシルなどを指先に突き立てて血を垂らした。
付着した血は、紙の表面を焦がしたり湿らせたりして様々な反応を見せる。
「……あれ、アルさん。なんか俺だけ何も起こらないんですけど」
「あぁ。才能が無いんだろう。そもそも魔法に適正がある人間自体珍しいから落ち込まなくて良い。大丈夫だ」
「マジかよ……?」
「おいアルシュタリア。俺のは火が出て……なんか茶色くなった。なんだこれ」
ガックリと肩を落とすシンジに優しい声で言ったアルシュタリアに、タスクが質問を投げ掛けた。
「……火と土、二属性だ」
「なんでムカついた声なんだよ」
「チッ……はぁ」
「おい! 今舌打ちしたかっ!? おい!?」
クラスの面々は、一通り適性を調べ終えた。
完全な適正無しはシンジのみであり、タスクを除いて一属性。
「ちなみにアルシュタリアは何属性使えるんだ?」
「私は基本属性なら全て使えるが? お前より私の方が上だ。あと呼び捨てにするな。ぶつぞ」
「おぉ……全属性ってアルさん凄いですね」
「そうだろう! ふふっ……シンジだって、魔法が使えなくても戦う方法は幾らでもあるから大丈夫だぞ」
「おかしいだろ! 俺と明らかに対応が違う!」
ギャーギャー騒ぐタスクを無視し、アルシュタリアは右手を掲げた。
「初級魔法は、基本的に師となる術師の魔法を模倣する事で研鑽される」
掲げた手の平の上に、五色の球体が発生する。
赤く燃え上がるもの、青く流れるもの、蒼く生い茂るもの、黄色く弾け飛ぶもの、見えざる渦巻くもの。
その光景に彼らは圧倒された。
「しっかり見ておけ……私の得意属性が水である以上、多少の差異はあるが気にするな」
ーー活性化した五色の珠が、部屋中を駆け巡る。
火花を散らす、水がひらめく、木々がうねる、雷鳴が爆ぜる、時空が歪む。
小規模な天変地異とも呼ぶべき光景が五人の網膜に焼き付いた。
「このぐらいで良いか」
パチン
その音と同時に魔法たちは綺麗さっぱり消え去る。
唖然としていた彼らが我に帰ると、アルシュタリアが指を鳴らして術を解除したらしかった。
「すっ、げぇ」
「……何よ、あれ」
「拙者死ぬかと思ったでござる……」
口々にクラスの面々が漏らした。
中でもタスクは、この力に魅入られたが如く無言で目を見開いている。
「あれをイメージに反復練習すると良い。あとシンジは後でもう一度来い。魔法は教えられないが、他にもっと良いものを教えてやる」
放心したまま頷き五人は部屋から出た。
しばらくそのままだったが、ボソリとタスクが口を開く。
「……越えてやる」
震える拳を握りしめ、そう言った。
ズカズカと自分達の部屋へと戻っていくその背中を見ながら、シンジは溜め息を吐いた。
「……元の世界もこの世界も変わんないし、別にどうでも良いんだけどなぁ……」
ーーどうせ、一人だ。
でもまあ……美味いハンバーグが食える分、ほんの少しだけ、こっちの方がマシかもしれない。