女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

6 / 14
6.君はとても強い人

「……なんであいつと、シンジが」

 

一部のクラスメイトたちに魔法を教え、部屋から追い出した後。

顔と体のラインを隠すために急いで着た全身鎧を脱いでから、俺は自室の壁にへたり込むようにもたれ掛かっていた。

心の奥から涌き出てくる、困惑や悔しさや悲しさの入り交じった感情を抑えるため必死に深呼吸をする。服がくしゃくしゃになるまで握りしめた胸部から激しい鼓動が聞こえてきた。

 

ーー佐原 (タスク)。奴はかつての俺にとって恐怖の象徴だった。

 

……高校一年の前半まで、俺はあいつにいじめられていた。

毎日、毎日、毎日、人としての尊厳を踏みにじられて、肉体的にも精神的にも限界まで追い詰められて。

でもあの時は周りに頼れる人なんて居なくて、ずっと死ぬことばかり考えてた。

……だけど、そんな時ーー

 

『はは、泣いてんのかお前?』

 

ーーあの地獄から救い出してくれたのは、お前だろ。

なのに、どうして。タスクとシンジが一緒に行動している。

 

「……しんじ」

 

肩まである銀色の髪をしゃくしゃにして、沸騰しそうになる脳を落ち着かせた。

ふと横にある鏡台へ目を写すと、翡翠色の瞳をした泣きそうな女ハーフエルフが床にへたり込んでいた。エルフ性質ゆえかその外見的成長は18才程で止まっている。

 

鏡に映る自分が男でない事に違和感を覚えなくなったのはいつの頃だったか、きっと凄く前だ。

……それに『お前はもうシンジの友人だったクズハじゃない』と伝えられている気がした。

いや、そもそもーー

 

「ぁ……」

 

ーーそもそも、シンジは『初見 樟葉』の事なんかとっくに忘れているのかもしれない。

俺が勝手に親友だと勘違いしていただけで、向こうにとってはありふれた有象無象のひとりで。

俺が居なくなったって、さして悲しまなかったのかもしれないーー

 

「違う、違う、違う……っ!」

 

そう思考した途端俺の口は勝手に、自分で組み立てた仮説を否定していた。

そうしないと壊れてしまいそうだったから。

ボロボロ溢れる涙に、この二十年で自分が人間として全く成長していない事を痛感させられた。

こっちの世界では『最強の騎士(アルシュタリア)』として戦うだけで良かったのに。シンジに『弱い自分(ハツミ クズハ)』を引きずり出された。

……こうなる、ぐらいなら、再会なんてしなかった方がーー

 

「おーい、アルさん。さっき後で来いって言われたから来たけどー」

「にぁいっ!?」

 

ノックと共に聞こえたその声に、俺は悲鳴を上げる。

あぁそうだ……そんな事言ったっけ。忘れてた。

急いで全身の鎧を着直して、最後に冑を被って顔を隠す。

……『アルシュタリア』だ。

 

「……大丈夫、大丈夫」

 

震える手を抑えて、ドアノブに手を掛ける。

キィと軋みながら開いた扉の先には当然だがシンジがいた。

その顔に張り付いたのがくしゃっとした『嘘笑い』なのが分かって、また泣きそうになる。

 

「よく、来てくれた」

 

異様に乾いた喉からかろうじて絞り出した言葉。

 

「いやいやっ! なんか俺にもカッコいい必殺技みたいなの教えてくれるんですよね! いやーまぁ、一番弱そうなヤツが実は最強ってのは異世界モノのテンプレっすし?」

 

それにシンジは、大げさな身ぶり手振りを以て答えた。

あぁ……そうだった。それを口実に呼び出したんだったな。

ならばしっかりと教えてやらなければ。無駄に呼んだと思われてこれ以上嫌われたらもうどうしようも無い。

 

「……あぁ。少し待っていてくれ」

 

俺は腰に装着した小袋へ手を入れた。

そこから取り出したのは、黒い泥のような液体がちゃぷちゃぷと揺れる透明な瓶。

 

「……なんすか、それ」

 

それから異様な雰囲気を感じ取ったのか、シンジが小声でいう。

この世界は、基本的に典型的なファンタジーの法則が適応されている。

火炎や激流を意のままに操る魔法使いたちがいて、それとやりあえる程の卓越した力を持つ戦士たちも存在する、テンプレな世界。

ーーだが、一つだけ、明らかに異彩を放つ概念がある。

 

「これは"龍因子"だ」

 

ーー龍因子。そう呼ばれるこの黒い泥の厳密な正体は不明だ。

一説には『大昔に異界から召喚された勇者たちの血液』だの騒がれているが、所詮は眉唾。証拠もクソも無い。

……かつての勇者たちは、全員が"固有スキル"とかいう化物じみた身体能力を持っていたという。

この黒い泥が勇者の血液だなんて噂されているのは、これを取り込んだ際の効果に由来する。

 

ーー『曰く、その泥は使用者の人間性を写し出す鏡となろう』

 

この泥……龍因子を呑み込むと、飲み込んだ者の性質に由来する能力が発現する。まるで神話の勇者たちが如く。

伝承によれば、かつての勇者の一人には『肉体を変質させる能力』を得て自らの醜い姿を作り変える事を求めた結果、失敗し怪物に成り果てた愚者も居たらしい。この世界じゃ有名な説話だ。

 

「えぇ……これを、どうするんですか?」

「飲め」

「えっ」

「飲め」

 

シンジが『うわマジかこいつ』みたいな顔でこちらを見てくる。俺は目を背けた。

龍因子は少ない量であれば特に害は無い、多すぎると発狂するけど。そうやっておかしくなった人間を何人狩ったか分からない。

 

「えっと、いや、これ泥っすよね?」

「龍因子だ。これを取り込めば力が手に入る」

「泥団子?」

「似てるけど違う。龍因子だ」

「いや、だから」

「龍因子だ」

「……はい」

 

観念したようにシンジは瓶の蓋を開け、目を強く瞑りながら飲み込んだ。

舌先が泥に触れた途端、目が見開かれて咳き込む。

 

「お"ぇ"っ! まっ、ずぅっ!?」

「大丈夫か」

 

吐き出しそうに噎せるシンジの背中を優しくさすりながら、ベッドの上に座らせた。

 

「おっ、ふぅ……、飲ん、だっ!」

「よく頑張った」

 

ゴクリと音を立てて龍因子はシンジの体の中へと入って行った。

さて、どんな能力が発現するか……こいつの事だから戦闘向けじゃないかもしれないな。

この方法によって覚えた能力は、人間に尻尾や翼が生えたみたいな物で、違和感はあれど扱い方は本能的に分かる。

 

 

「……で?」

「なに?」

「何も起こんないっすけど……」

「は……?」

 

 

困惑した様子のシンジに、俺はもっと困惑した。

……なぜだ。今まで何人もこれを飲んだ人間を見てきたが、こんな事は無かった。

全員がその瞬間から自らに根付いた異能を自覚する。空間をねじ曲げたり、凄まじい強度の防壁を発生させたり。

ふとシンジへ視線をやると、恨めしそうな目でこちらを見ていた。

「……アルさん」

「い、いや、違うんだぞっ? 私が君に嘘をついたとか、そういうのじゃなくて……」

「俺に才能が無いって事っすか……」

「……そうだ」

 

いや、これに関しては才能とかそういう問題じゃないんだけど……地球から来たからか?

龍因子は異世界人にしか適応しないのかもしれない。

 

「シンジ」

「なんすか」

「筋トレ、頑張ろうか」

「……はい」

 

がっくり肩を落としたシンジを慰めながら、俺は何故か笑ってしまった。

……前世でも一時期こいつが格闘漫画に影響されたせいで、一緒に走ったりしたっけ。俺は根性無かったからすぐ自転車で追いかけるだけになったけどーー

 

『とりあえずさ、熊は片腕だけで倒せるようになりたいよな』

『馬鹿じゃないの……?』

『いいや! マッチョになればそのぐらい出来るね!』

 

ーーふと、『あの日々』の記憶が蘇ってきた。

 

「……ふっ」

「いやなんで笑ったんすか。馬鹿にしてるでしょ」

 

ーー生憎、俺が死んでしまったせいでこいつがマッチョになれたかどうかは分からないけど。

でも、こいつは、『俺の英雄』は。

 

「君は、きっと強くなる。他の誰よりも……私よりも、ずーっとね」

 

俺の言葉にシンジはパチクリと目をしばしばさせた後、『……変な事、言うんですね』と呟いた。

 

「……俺にそうやって期待してくれるの、母さんとあいつ以外じゃ初めてだよ」

 

ぼそりとしたその声はよく聞こえなかったが、シンジの本心から放たれた言葉のように思えた。それに嬉しくなってしまう。

……もし、こいつが『初見 樟葉』の事を忘れていたって、関係ない。

 

「この世界で初めて出会った時に言ったはずだ。『私は君の味方だ』と」

 

ーーたとえ世界中が敵に回ったって、今度は俺がこいつの味方であり続けよう。

だって、親友なんだから。

何かの感情に揺らめくシンジの瞳を見ながら、俺はそう誓った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。