女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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7.『佐原 タスク』

「ら、ァ"っ!!!」

 

ーー粘性を持つ土に保護されたタスクの拳が、爆炎を纏いながら振りかぶられた。

その先にあるのは別のクラスメイトの魔法により作成された氷の壁。

拳が氷壁にインパクトした途端、金切り音を上げながら氷が砕け散った。

アルシュタリアから与えられた『トレーニングルーム』とやらの床に水が滴る。

タンクトップ一枚のタスクは、疲れ果てたように倒れ込んだ。

 

「はぁ、はぁっ……」

「凄いじゃーんタスク。もうアルシュタリアより強いんじゃない?」

 

肩で息をするタスクに先程の氷壁を作った女子生徒……荒木 春奈がタオルを渡した。

それを乱暴に奪い取りタスクはぽつりと呟く。

 

「……駄目だ」

「えっ?」

「駄目なんだよ……こんなんじゃアイツには勝てねぇ……!」

 

ギリ、と砕け散りそうな程に歯を噛みしめながら言ったタスクに、ハルナは少し後ずさった。

 

「……糞が」

 

ーー強くなる程に、アルシュタリアがどれだけ化物か思い知らさせる。

自分は今小高い丘に立っているが、向こうは未だ雲の上。

勝てるビジョンが見えなかった。

 

今まで、心のどこかで自分が一番強いのだと勘違いしていた。

それを確認するために歯向かってくる奴等を屈服させて……果てには弱者を虐げるような真似までして。

自分という人間がどれだけ弱く情けなかったのか、絶対的な壁にぶつかって初めて痛感した。

 

「……『火炎付与(エンチャントファイア)』『身体強化』」

 

この三日で覚えた二つの魔法を自らへかけ直し、再び立ち上がる。両拳に炎が再燃し、全身の血管に"魔力"が巡る。

そうしてタスクは拳を構えた。

 

「おーい、アルさんが飯だって」

 

その時、扉が開いてシンジの声が聞こえた。いつものくしゃっとした気味の悪い笑顔を浮かべている。

それに返事をし、タスクは汗を吹いて制服を着直した。

 

「今日はなんだ?」

「野菜炒めだって……」

 

食堂へ着くと、他のクラスメイトたちは皆座っていた。

目の前には料理の乗った皿が置かれているが、誰も手を着けていない。『毒味役』が来るのを待っていたのだろう。

前までの自分と同じその様にタスクは舌打ちをした。

 

「はーいはい。そいじゃあ、この間宮シンジ唯一の仕事、毒味をーー」

「良い。俺が食う」

 

シンジより先に口をつけたタスクに、クラスメイトたちは騒然とする。特に教師はパクパクと口を開閉させながらタスクを指差していた。注意したいがアルシュタリアの手前ビビっているのだろう。この教師はそういう人間だ。

 

「……うっぜぇ」

 

ーーアルシュタリアが本気で殺そうとしたら、俺たちなんて数秒で肉塊に変わってる。

 

この数日で嫌と言うほどそれを理解した。人間が数匹のアリを殺すのに毒なんて使わないだろう。踏み潰して終わり。それと同じだ。

アルシュタリアの方を見ると、食事しているシンジに明るい声色で話し掛けていた。シンジは、異様な量の野菜を前に戦慄したように固まっている。

 

「沢山あるからな! おかわりするか……? 成長期なんだからしっかり食べないと駄目だぞ」

「いや良いっす……もう既に相撲部屋かってぐらいあるんで……うぷっ」

「おいアルシュタリア、もう一杯くれ」

「……」

「おいっ!? いまっ、今俺に中指立てただろ!」

 

無言でファックのジェスチャーをしてから不機嫌そうな雰囲気で皿に野菜をよそってくるアルシュタリアに、タスクは少しだけ眉を寄せた。

自分はアルシュタリアに嫌われている。とっても。

最初に疑い過ぎたせいではないだろう。それなら他のクラスメイトへの対応も辛辣でなければおかしい。

好感度で言えばタスクはマイナス、クラスメイトたちはゼロ、シンジだけプラス側に上限を振り切ってると言うところか。

 

「……アルシュタリア」

「なんだ」

 

ふと、といった感じに語りかけたタスクに、アルシュタリアの良く通る無機質な声が返ってきた。

タスクはその甲冑の目部分に広がる暗闇を睨み付けながら、口を開く。

 

「俺に、稽古を付けてくれ」

 

タスクには、今の自分が停滞しているという自覚があった。

それを崩すためには大きな波紋が必要であるのも分かっている。ーー圧倒的格上に挑めば、解決するかもしれない。

食堂が一瞬だけ騒然とした後、静まり返る。

それからノータイムでアルシュタリアは溜め息混じりに手をひらひら振った。魔法の時と同じで断るつもりだろう。

 

「君にそんな事をする義理はーー」

「俺と一緒にシンジもやりたいって言ってたぞ」

「良いだろう! 私に挑んだ愚行を後悔させてやる! 行くぞシンジ!」

「はぁぁぁっ!?」

 

ーーあれ、もしかしてこいつ意外と単純なんじゃないか。

アルシュタリアにヘッドロックされながらトレーニングルームの方へ引きずられるシンジを見ながら、タスクは内心そう思った。

 

 

 

トレーニングルームには、五人が集まった。

ウキウキした様子のアルシュタリア、ヘッドロックされていた箇所を押さえて冷や汗ダラダラのシンジ、入念に準備運動をするタスク、タスクが心配で着いてきたハルナ、そして『キタコレ……強化イベントキタコレ……』とうわ言のように呟いている分厚い男子。

マトモにやる気があるのは最早アルシュタリアとタスクだけで、しかしアルシュタリアはシンジとふれあうのが目当てと言う中々にどうしようも無い面子(メンツ)だった。

 

「……あのー、アルさん。俺やんないんで」

「駄目だ」

「アルシュタリア、私はやらないから」

「分かった」

「俺に拒否権は無いんですか……?」

 

死んだ目で部屋のすみに移動するシンジを尻目に、準備運動を終えたタスクは土魔法で両手に粘性の泥を纏わせ、そこに炎魔法を付与する。そして魔力で全身の筋肉を強化した。

この数日でタスクが辿り着いた自分なりの戦法。

 

「……行くぞ、アルシュタリア」

「あーーあぁ」

 

拳を構えるタスクを見て、アルシュタリアは一瞬だけ怯んだようにビクッと肩を跳ねさせた。まるで怖がってるみたいに。

それを挑発と受け取ったタスクはより一層闘気を滾らせる。

ーー馬鹿に、すんじゃねぇ。

 

「ラ"ァ"ァ"ァ"ア"ッッッ!!!」

 

獣のごとき咆哮と共にタスクが動き出す。

魔力により強化された筋繊維の生む推進力は凄まじく、たった一度の踏み込みで十メートル以上はある間合いを瞬時に詰めた。あまりの速さに周りの生徒たちには煌めく炎の残滓しか認識できないーーが。

 

「遅い」

「うぼぁあっ!?」

 

ーーアルシュタリアの虫を払いのける様な動作で、タスクは硬い地面に叩きつけられた。

 

「大口を叩くからどれだけやれるのかと思ったがーーただの素人だ。大方、平和な国で弱者を(ほふ)ってツケ上がったクチだろう」

「っ……!」

 

心底嫌悪した口ぶりで倒れる自分を見下してくるアルシュタリアに、タスクは反論できなかった。

ーー図星、だったからだ。

言葉で反論できない、ゆえに地面に寝転がった体勢のまま蹴りを繰り出す。

 

「私もかつて、君のような『暫定強者(ニセモノ)』のクズに虐げられてきた」

「ぐおっ!?」

 

それを僅かに上体を反らして回避したアルシュタリアが、タスクの首根っこを掴んで持ち上げた。

 

「はっ、なせ、やぁっ!」

「君は、吐き気を催す外道やおぞましい狂人たちと殺し合った事など無いだろう……闘争に人生を賭けた末、個人で大国を揺るがす程の極致に至った本物の化け物どもと得物を交えた事など無いだろう」

 

無感情な、しかしどこか遠くを見るような目でアルシュタリアがタスクへ問う。

 

「ーーそして、そいつらを全員殺してきた怪物(わたし)など想像した事さえ無いだろう」

「ぁ、あ……!」

 

ーータスクは、その騎士の背後に無数の黒影を見たような気がした。

殺してきた狂人たちの怨念か、あるいはアルシュタリア自身の持つ狂気か。

どちらにせよ、それは平和な日本で生きてきたタスクから戦意を奪うには充分過ぎた。

 

「……私も君も、他者を傷付けてきた事で言えばクズだ。だが決定的に違う要素がある」

 

追い討ちを掛けるが如く、アルシュタリアは呆然自失のタスクへ口を開く。

 

「ーー私は本物のクズで、君は偽物のクズだという事だ」

 

胸元から手が離れ、足に力が入らなくなったタスクはどちゃりと地面に崩れ落ちる。

アルシュタリアが『他にやりたい者は居るか?』と聞いたが名乗り出る者は居なかった。

 

「……て……る」

「なに?」

 

かに、思えた。

 

「ぜってぇっ! いつか! ブチ殺してやるからなぁぁぁ!」

 

震える足で立ち上がり、涙声で叫びながらタスクは自室へと走り去った。

てっきり心が折れたものだと思っていたアルシュタリアは、ほうと息を漏らす。心の中で、タスクへの評価を少しだけ上げた。

 

「……根性あるじゃないか」

「じゃ、じゃあアルさん。俺たちはこの辺で……」

「シンジはこれから私とスペシャル特訓コースだぞ」

「うそぉん……」

 

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