女ハーフエルフにts転生して異世界の森で暮らしてたら前世のクラスメイト達が転移してきた件について 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
ーー下腹部に凄まじい鈍痛を感じて目を覚ました。
まるでトゲの付いた鉄球が体内で暴れまわっているかの如き感触。腰骨に至っては巨人の腕力で軋ませられてるような痛みを感じる。
「……ぁあ」
"この日"が来てしまったか。
元男としては直接的に口にするのは憚られる。しかし言わせて貰うとすれば、中身はどうあれこの体はある程度成熟した女の子なわけで。
つまり、その機能を維持するために月に一度"ソレ"は来る。
しかも俺はどうやら"ソレ"がかなり重たいタイプらしかった。
薬を飲まなければまともに動けないぐらいに。
「こんな時に生理来るなよ……」
パジャマのままベッドから降りて、薬を取るため這いずるように棚へ向かう。立ち上がるのさえ億劫。
昨日ナプキンを付け忘れたせいでパジャマの股の辺りが赤く染まっている。やってしまった……血は落ちにくいのに。
昨日から兆候はあった。なんか無性にイライラしてタスクに当たっちゃったし。だが後悔はしてない。
前世いじめられてた鬱憤を今になって晴らすのもダサイと思うが、向こう側から挑んできたからノーカウントである。……うん。やり過ぎた感はあるけど。ノーカン! ノーカン!
「よしっ、着いた、これで勝つる……」
そうこう言いながら這いずり、二段目の棚を開けて瓶を探す。
無駄に長い前髪が鬱陶しくて何度も払った。
「ぁ……あぁあ……っ!?」
ーーしかし、俺はそこで絶望を味わう事になる。
生理薬が、無い。尽きてる。1錠も無い。
そして、そこで思い出した。そもそもクラスメイトの奴らと遭遇したのも、近場の村へ薬を補充しに向かう為だった事を。
「終わった……完全に終わった……」
ぺたんと地面に崩れ落ちる。
こんな腰ガクガクな状態じゃ森を抜けられない。
いや死ぬ事は無いだろうが、間違いなくどこかで倒れる自信がある。
ーーこの状況で、三日以上?
「ぁあう……」
シンジのご飯は誰が作るのだ。ついでに他の奴のも。
洗濯もしなければいけない。森で食材となる魔獣を狩る事も出来ないだろう。
クラスの女子の誰か、ロキ○ニンSとか持ってないかな。いや持ってたとしても俺じゃ貰えないか。シンジならもっと無理だろうし。
「おいアルシュタリア! トレーニングルームに来い! 昨日の俺とは違うぞ!」
その時、扉の外側から例の戦闘民族の声が聞こえてきた。
うるさいな……人がどれだけ大変かも知らずに。
こいつは戦闘センスに関しては凄まじい。メンタルも強い。いや嫌いだけど。
現時点でも外の魔獣ぐらいなら充分相手にできそうーー
「……あれ」
「おい! 無視すんな!」
その時、脳裏に妙案が浮かんだ。
こいつに協力してもらえば森を抜けて村まで辿り着けるんじゃないか?
タスクに頼るのはかなり癪だが……背に腹は変えられない。
「開けろやぁぁぁ! アルシュタリアァァァ!」
「はぁぁ……!」
俺はどうにか立ち上がり、鎧を着た。
普段は問題無い重量の筈が、恐ろしく重たい。どのぐらい重たく感じるかって言うと、一瞬でも気を抜いた瞬間に女の子座りでへにゃへにゃになっちゃうぐらい重たい。
俺は扉に寄りかかるように体重を掛けて、やっとドアを開けた。
「ど、どうしたんだよ。なんか元気ねぇな」
「……おい、今日は、特別訓練だ」
「お、おう?」
重苦しい息を吐き、俺はタスクの肩に手を乗せた。
タスクの口が緊張したように一文字に結ばれる。
「村まで、行くぞ」
◆
「で、今こうして外に来てるってワケすか」
「そうだ」
「タスクの修行で?」
「そ、そうだ」
「……いや、それは良いんですけど」
息も絶え絶えになりながら森を歩く俺の横で、死んだ目のシンジが聞いてくる。
昨日やった俺との特訓で全身が筋肉痛のようだ。
「それに、なんで俺が連れてこられてんのかなぁ……!?」
「なんか今日アルシュタリア不機嫌っぽいからな。俺一人だとちょっとした拍子に殺されそうだからだ」
「それは分かるけどさ……」
いや分かるなよ。俺はどれだけ物騒な人間だと思われてるんだ……あぁ、そういや昨日『国を揺るがすほどの化け物を何人も殺してきた……』とか脅したっけ。嘘じゃないけど。
でもシンジにそう思われるのは何か嫌だった。
「……うぅ」
「どうしたんすかアルさん……なんか滅茶苦茶に具合悪そうですけど」
「大丈夫だ。何があってもシンジだけは死んでも守るから……タスクは頑張ってくれ」
「おいっ!」
槍を杖代わりにしながら歩き続ける。
ふと空を見上げると、岩石みたいな雲が
……もうすぐ、冬季か。食料の貯蔵はしっかりしないとな。
「待て、なんか変な音しないか?」
急に立ち止まったタスクが、口許に人差し指を添えながら言った。
言われて耳を済ますと、微かに茂みの草同士がずれる音が聞こえる。
その方向を向くと、ガサガサと揺れる背の高い草むらがあった。
「……下がってろ。俺がやる」
両拳に炎を付与しながらタスクが前に出た。森火事にならないと良いが。
俺のそんな不安をよそに、植物を掻き分けて一体の獣が姿を表す。
「ガァァァァッ!」
その獣は、四本腕の熊の形をしていた。
一本一本が丸太のような太さで、隆起する膨大な筋繊維は毛皮越しでも伺える程に凄まじい。
「っ……! く、熊、かっ?」
「『グレーターベア』だ。大丈夫。そこまで強い奴じゃない。腕の凪ぎ払いは威力が高いが、注意すれば問題ない」
「どのぐらいの威力なんだ!?」
「一振りで大木を幹ごと抉り飛ばせるぐらいだ」
「やべぇヤツじゃねぇかぁぁぁぁぁっ!!!」
グレーターベアの腕を紙一重で回避したタスクが、その胴へ炎の拳を叩き込んだ。
しかし毛皮に触れた途端、拳に宿っていた爆炎が掻き消える。
「はっ!?」
「グレーターベアの毛皮は魔力を散らすから倒したいなら肉弾戦しか無いぞ」
「先に言えやぁぁぁっっっ!!!」
振るわれた腕の風圧にシンジは『うおっ!?』と悲鳴を漏らした。
それを間近で避けたタスクはもう一度拳をぶつけるーーが、体格差がありすぎて効いていない。
……ちょっと、まずいか? 助けに入るか。
「っ、はっ、ははァ! アホがぁ!『
「ガァッ!?」
ーータスクの掌が、グレーターベアの口に当てられる。
そしてそこから溢れ出た土が、牙と唾液にまみれた口内へ入り込んでいった。
「窒息しろやぁぁぁ!」
「ゴ、ァアァァァッ……」
グレーターベアが苦しげに暴れた後、動きを止めて倒れた。近寄って確かめると死んでいる。
……力じゃ勝てないから、土魔法で気管を塞いで窒息死させたのか。
無駄に頭の回転が速い。それを実行できる度胸も才能もある。
ちゃんと鍛えたら相当化けそうだ。
「はっ、ははは! おい! やったぞアルシュタリア! 見ろ!」
「あぁ。良くやった」
「っ、普通に、誉めんのな……」
素直に誉めてやったらやったでタスクは変な顔をした。俺にどうしろと言うんだ。
それから数十分歩き、やっと村の門が見えてくる。
門番の青年がこちらに気付くと、ぶんぶん手を振ってきた。
「来てくれたんですねアルシュタリアさん……って、その二人は?」
「あぁ、こいつらは私の連れだ。村に入らせてくれ」
そう言うと門番の青年は笑顔で通してくれた。
俺はこの村を何度も魔獣の侵攻から守っているからそれなりに信用がある。
村に入ると、沢山の人に声をかけられた。
子供も多く寄ってくる。
「……アルさん人気者なんすね」
笑顔でじゃれついてくる子供を意外そうな顔で見ながらシンジは言った。
「それじゃあ、私は用事があるから待っててくれ……っと、腹が減ったりしたらこれで何か食べるといい」
俺は薬屋に向かうためシンジとタスクにそう言い含めてから、二人に幾ばくかの金銭を渡した。ちょっとした小遣いだ。
雑貨屋とかで暇を潰す分には十分な額だろう。
そして二人の目線から逃れるように、とある建物に入った。
ここは空き家で、初めて村を助けた時の礼で俺が使うのを許可されている。
俺はその部屋の隅にあるタンスを開けて、女物の服を取り出した。
「……ふぅ」
これはリアル中世でもあった風習らしいが、この世界では女性の生理というのは穢らわしい物として扱われている。ゆえに薬師なども堂々と店先に生理用の薬を置く事はしない。
入手するためには
つまり俺も鎧を脱いだーー女として、買いにいかねばならないということだ。
鎧の留め具を外して、地面にドチャリと降ろした。素晴らしい解放感。
下着姿になってから伸びをし、わざわざこのためだけに買ってある女物の服へと袖を通していく。
「はぁ……」
胸が痛くなるから下着とかは仕方なく付けてるが、女物の服を普段は絶対に着ない。
なんか、そうしてしまうと自分が『ハツミ クズハ』じゃなくなってしまったみたいな感覚に襲われるからだ。
身も心も女ハーフエルフの『アルシュタリア』に変わってしまう気がして、凄く嫌だ。
「……よし」
着替え終えて、鏡を見る。
そこには少しキツイ目付きのハーフエルフが立っていた。鎧は上げ底にしてあったから先程よりかなり視点が低い。160ちょいしか無いんじゃなかろうか。
膝丈までスカートの付いたひらひらの白い服を着て不快そうな顔をしており、銀髪を掻き分けて見える長めの耳がぴこぴこ揺れた。
エルフゆえに若くはあるが、どこかくたびれたOLのような雰囲気。
伸び放題の髪を纏めるため、持ってきたゴムでポニーテールを作る。……うん。良い感じだ。少なくとも不潔な感じはしない。
「……いぇいっ」
きゃぴっ☆
試しに鏡に向けてウィンクをしてみる。死にたくなった。
…………
誰にも見られていない事を確認してから、俺は外に出た。
ええと……薬屋は、たしか村の端にあったよな。
痛む下腹部を抑えながら、足早に向かう。
「おわっ!」
「にあゃっ!?」
ーーが、曲がり角で誰かにぶつかる。急だったから止まれず弾き飛ばしてしまった。
「ぉおおっ!?」
「だ、大丈夫かっ! すまなかっ……」
急いで駆け寄って、俺は驚く。
だって、そこに居たのは。
「おぇぅぼあっ!? えっあの! うわ胸触っちゃったよ……いや、セクハラとかじゃなくてっ!? 完全な不可抗力ってゆーか! えと、……はっ? 耳、ながい、エル、フ……っ!? かわいっ……つか居んのかよっ! 流石異世界だなオイ……!」
ーーアホみたいにテンパる、シンジだった。
最悪なタイミングだ。どうする。声とかでバレないよな……?
「……だ、だいじょぶっ?」
俺は普段出してる低い声でなく、出来るだけ鼻に掛かった女の子っぽい声で手を差し出す。
シンジは俺の顔を見て唖然としていたが、少しするとまるで機械が再起動するみたいにテンパりを再開した。
顔を真っ赤にして『違うんだよ!』『あー!』とか叫んでいる。
しかし俺が不思議そうに見ていると、我に返ったのか何度か咳払いをしてから俺の差し出した手を取った。
20年ぶりに握った親友の手は、俺が小さくなってしまったせいか前よりずっと大きく感じる。
それがおかしくて、少し目が細まってしまった。
「すまない」
「おわっ!?、手柔らかっ……ち、力、凄いね?」
男の自分を一気に引き起こしたのに驚いたのか、シンジは目を見開きながら言った。
だが、すぐにバツが悪そうな顔になって頭を下げた。
な、なんだ?
「そ、その、ごめん」
「え?」
「いや、胸、さわっちゃった、から」
おどおどして顔を赤くしながら震える右手を見つめるシンジに、俺は思わず吹き出した。
なんでこういう時はTHE童貞な反応なんだよ。こいつの事だから笑って誤魔化すとかだと思ってた。そういう時こそ『嘘笑い』の出番だろうに。
「あっ、ははは!」
「なんで笑ってるんだよ……」
「い、いや、面白くって……あっははは」
まずい、ツボった。そういやコイツ前世でも女に対してはコミュ障全開だっけ。
宗教の勧誘してるお姉さんに話しかけられた時にテンパり過ぎて、逆に向こうがビビって撤退した事もあったか。
どうやらそれは治っていないらしい。
そんな下らない面影が、どうしようも無いぐらい嬉しかった。
「はぁー……、君、名前はなんて言うんだ?」
「ぁ、あぁ。俺は間宮シンジ。気軽にマミーって……いや、何でもない」
「そうか、マミー・シンジか、くくくっ……」
「魔王みたいな笑い方するね……? と言うかなんかそれマギー審司みたいで嫌なんだけど」
クツクツ笑う俺を不安そうに見るシンジを薄目で見た。
その目線は『アルシュタリア』を見る物ではなかった。
……今なら、もう一度、できる気がする。
「……シンジ」
「なに?」
「あの、私、とっ」
心臓が早鐘の如く脈打ってうるさい。
……緊張してるのか、俺は。いや、大丈夫だ、前世では、向こうから言ってきただろ。
意を決して、シンジとしっかり目を合わせながら言葉を紡ぐ。
「ーー私と、友達になってくれないか」
その言葉に、シンジはまるで奇妙な生物を見るような顔になった。
目をぎゅっと瞑って返答を待つ。暗闇の向こう側で、息を吸い込む音が聞こえる。
「俺の何がそんなに気に入ったか知らないけど、良いぜ」
「ぅ、あっ……」
ーーその言葉は、闇を切り裂いた。
目を開くと、そこには笑顔でサムズアップするシンジが居る。
それは、かつて向けてくれた微笑みに近いもので。
「シンジ……シンジ、シンジ!」
「おわっ……!? ちょっ、当たってるから! やめて! どこがとは言わないけどバーストしちゃうからぁっ!? つか抱き締めないで!? 肩ミシミシいってる! 」
暖かな涙が、目から溢れそうになる。
ーーああ、大切な人に認めて貰えるというのは、こうも救われるものなのか。
まるで、この世界で初めて色を見たような感覚だった。
ーー『初見 樟葉』として生きて十七年。
ーー『アルシュタリア』として戦って二十余年。
止まっていた初見 樟葉の時間が、ようやく動き出したような気がした。
二日連続投稿だぜぇぇぇっ!そして評価平均が七を切って泣きそうだぜぇぇぇっ!