転生幼女がDQ5にインしたようです   作:よつん

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 ドラクエ7好きすぎてややこしい設定になりました。7の内容は知らなくてもお楽しみいただける内容になる予定です。


きらめく思い出をその胸に
君を守ってあげる


 

 

 ゆらゆら揺れる水面を船の上から眺めるのは、私のお気に入りの過ごし方の一つだった。小さなこの体では落下防止用の柵のせいで何も見えないので、そうしたいときは必然的に誰かに抱き上げてもらわないといけない。それは大抵、私を拾ってくれたシャークアイ船長であったり、遊びに来た勇者様であったりする。

 

「アルマは海が好きか」

 

「はい、シャークアイ様」

 

 抱き上げてくれている偉丈夫の美しい顔を見上げてそう答えれば、彼はうれしそうに微笑んだ。

 

「そうだな。オレも好きだ」

 

 つられて私も口元が緩む。それを誤魔化すために、私はシャークアイ様から目を逸らして、海へと視線を移した。

 

「あっ。見てください、シャークアイ様! 何か浮かんでますよ!」

 

 五歳児らしくない話し方だと分かっていながら、シャークアイ様と勇者様たちには自分を偽れない。他の誰にでも、子どもらしい演技をしてみせられるのに、シャークアイ様や勇者様たちには、変だと思われたとしても、素の自分でいたいと望んでしまうのだ。変だと思っても彼らなら受け入れてくれるだろうという、彼らの優しさに甘えているのは否めない。

 

「む? あれは石板か……? ならばアルス殿が探している物かもしれない。引き上げるとするか」

 

 私を下ろしたシャークアイ様は、てきぱきと船員に指示を飛ばして、海に浮かんでいた石板を引き上げた。不思議な紋様の石板だ。勇者様が集めているのは石板のかけらが多いけれど、これは欠けたところのない、一枚の石板だった。

 

「私も見てもいいですか?」

 

「ああ。見つけたアルマが、アルス殿に渡すといい」

 

 心が温かくなるのを感じた。勇者様はきっと喜んでくれるだろう。

 

「これよりフィッシュベルに向かう!」

 

 よく通る声でそう言った船長へ、船員たちが「おう!」と一斉に返事をする。私はシャークアイ様の大きな手から、落とさないように慎重に両手でそれを受け取ると――。

 

「わあ!?」

 

 石板がまばゆい輝きを放った。

 

「アルマ!?」

 

 やがてその輝きは青やら白やら、まるで渦潮のようにぐるぐると渦巻いていく。伸ばされたシャークアイ様の手を取りたいのに、強い引力に抗うことができない。私は大好きなその人の呼び掛けに応えることもできないまま、渦となった石板に「吸い込まれた」のだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ――ここは私の船じゃない。

 

 目覚めて直感したのは、なんてことはない、自分の寝室とは違う場所にいたからだ。だけど、私の船じゃないだけであって、おそらく船の中なのだと思う。聞き慣れた潮騒と、嗅ぎ慣れた海のにおい。それらは五感に馴染んだものであるはずなのに、見覚えのない部屋だからなのか、新鮮な感じもする。

 

 とりあえず、私は寝かされたベッドの上から体を起こすことにした。手足は短いままだ。可愛らしい調度品で揃えられた室内には鏡台があったので、何の変化もないとは思うが“前例”があるため一応覗き込んで確認をする。

 

 髪の毛も目も黒い。幼い顔立ちの、「アルマ」で間違いなかった。ただし、服は寝る前に着ていたものではなくて、見覚えのない可愛らしい薄桃色のネグリジェである。首から提げていた勇者様にもらったお守りはきちんとあって、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 このお守りは、本来はアミュレットだったものを、小さな私には大きすぎるからと、勇者様が紐を通してネックレスのようにしてくれたものだ。

 

 勇者様が魔王を倒して、船の上で「これから」のことを話していたときのこと。私は、自分を保護してくれた海賊船マール・デ・ドラゴーンに乗って、シャークアイ船長の力になりたいのだと語った。そしたら、「海と共に生きるのなら」と、勇者様は装備していたそのアミュレットを私にくれたのだ。

 

 さて、そんな私の大事な思い出はさておき、間違っても海賊船ではなさそうな室内と、私の置かれている状況を鑑みて、保護されているのだろうと仮定する。というわけで、扉を開けてみることにした。現状の把握は大切だ。

 

 カチャリとドアノブを捻れば、予想した通り周りは海。小高い位置にあるらしい、わざわざ設けられている子ども部屋から、お金持ちの個人船かと当たりをつける。

 

「おや、嬢ちゃん。目が覚めたかい? 気分はどうだ?」

 

 一般的な船乗りの恰好をした平凡そうな男に話し掛けられ、私は「おはようございます」と頭を下げた。

 

「どこもわるくないよ。でもね、ここがどこだかわからないの。おとうさんとおかあさんはどこ?」

 

 眉を下げて不安げに言えば、男は「うっ」と気まずそうな顔をした。あまりに善良そうな反応に、誘拐などではなく、自分が何かしらのトラブルによってここにいるのだと何となく理解した。まあ、直前の状況からして、トラブルそのものだが。

 

「ええと……お嬢ちゃんは海で溺れてるところをこの船のお客さんに助けられてな。お父さんとお母さんは……」

 

 なるほど、そういうことらしい。マール・デ・ドラゴーンに拾われた時は確かに溺れていて、命の危険を感じたけれど、今回はどうにも穏やか過ぎて現実味が薄かった。旅の扉に吸い込まれた記憶はあれど、溺れていた記憶はないからだ。

 

「おとうさんとおかあさん、いないの? わたしたち、コスタールにもどるとちゅうだったの」

 

 「アルマ」のお父さんとお母さんは子どもを棄てた、余裕のない人たちだった。しかし、それも仕方のないことと言えば仕方のないこと。世は邪悪な魔物が蔓延り、抗う力のない彼らにとって、子どもは必ずしも幸せの象徴ではなかったからだ。しかも、「アルマ」はただの子どもではなく「私」である。本物の、純粋な子どもであれば、もしかしたら疲弊し、傷ついた彼らを無垢な笑顔で癒せたのかもしれない。けれど、そうではなかった私にはできなかった。

 

 だから、お父さんとお母さんとコスタールに戻る途中だったなんて、とんだ与太話である。

 

 私は俯いて服の裾を掴んだ。全て哀れな幼女を演じるためのポーズであり、私の本心とは一切関係がない。なにせ、私はシャークアイ様や勇者様たちと出逢わせてくれた彼らに感謝こそすれ、恨みなど抱いていないからだ。棄てられ、死に掛けたことなど、素晴らしい人々に出逢えたことを想えば些末なことである。とはいえ、自分の船かコスタールかのどちらかに戻りたいのは本当だった。

 

「コスタール? そりゃ、お嬢ちゃんの家があるところか?」

 

「うん。おとうさんはふなのりでね。おしごとがおちついたから、おかあさんといっしょにふねにのせてくれたの。とくべつだぞって。それでね、グランエスタードにあそびにいってきたの」

 

「ぐ、グランエスタード?」

 

 こちらも外れ。つまり、困ったことに、コスタールもグランエスタードもない時代か、あるいはまったくの別世界に来てしまった可能性がある。私には「前回」があるし、旅の扉に吸い込まれたという状況が状況だったので、困りはすれど驚きはしないが、面倒だ。

 

 私は「アルマ」としてあの世界に生まれ落ちる前、日本という島国で、いわゆるブラック企業に勤め、鬱になって自殺した。なんの因果なのか、生まれ落ちた世界は「ドラゴンクエスト」というゲームの世界とそっくりで、保護されてすくすくと育ってからは、絶望的な状況下に置かれたとしてもいつか現れる勇者様の存在を信じて生きてきた。そして、勇者様はたしかにいて、世界を救ってくださった。

 

 私はドラゴンクエストを、「天空編」と呼ばれるナンバーしかやっていなかったから、分からなかったけれど、もしかして勇者様は本当に物語の主人公なんじゃないかと思うこともあった。しかし、それも今となっては確かめる術もない。まあ、どっちにしろ私にとって大事なのは、そんなことより私の大好きな人たちとこれからも一緒にいる、そんな幸せな「今」と「未来」だった。

 

 だからこそ、日本からあの世界に渡ってしまった時とは違って、私は明確にマール・デ・ドラゴーンを自分の家とし、船員たちを家族と思い、あの場所に戻りたいと思っている。シャークアイ船長と、アニエスさまの力になりたいと思っている。しかし手元に石板もない今、どうすれば帰れるのかなんてもちろん分からない。

 

「かえりたいよう……おとうさんとおかあさんはどこ? コスタールには、もどれないの?」

 

「わ、わ、泣くな! そうだ、パパスさんに聞いてきてやろう。お嬢ちゃんの命の恩人だ。あの人は世界を旅してるらしいし、きっとコスタールってところも知ってるさ!」

 

 泣きまねをしようとした私を見て慌てた男が、バタバタと走っていなくなった。ふう、と息を吐く。事態は最悪だった。無一文で、コスタールとグランエスタードほどの大国が船乗りに認知されていないという事実。何せ魔王が打ち倒され、世界の中心はグランエスタードとなり、勇者様に力を貸したってことで私たちマール・デ・ドラゴーンは海賊でありながら「正義の」と世界に認められた海の支配者だ。そして勇者様とマール・デ・ドラゴーン、どちらにも所縁ある享楽の国コスタールを知らないなどど、あの世界ではありえない。

 

 しばらくして、豊かな黒髪と髭が印象的な戦士が船乗りに連れられてやってきた。後ろには彼の子どもなのか、小さな男の子もいる。私と同じくらいか、少し年上くらいだろう。見た目的に。

 

「おお、顔色は悪くないな。私はパパス。こちらは息子のリュカ。君の名はなんという?」

 

「……アルマです。おじさん、わたしをたすけてくれたひとだよね? ありがとうございました」

 

 ぺこりと頭を下げると、パパスさんは私と視線を合わせるように膝を曲げた。

 

「礼には及ばんさ。聞くところによると、お父さんとお母さんと一緒に、グランエスタードという場所からコスタールというところまで船で向かっていたのだとか」

 

「うん。そうなの。パパスおじさんは、コスタールをしってる? うみべにあるすてきなくになのよ。おおきなおしろがあってね、うみのうえにうかんでるみたいだから、みずのくにってよばれてるの」

 

 現在、お城はカジノ場として再利用されて、王族が住んでるのは昔ホビット族が暮らしていた洞窟だが、そんなことは別に伝える必要はない。コスタールといえばカジノを差すことが多いし、あちらにも一応住居はあって国民も住んでいるので間違いではないだろう。

 

 パパスさんは深く考え込むように、顎に手を当てていた。まあ、聞き覚えなんてないだろうな。この人がパパスという名で、紫色のターバンをした息子がいて、ここが船の上だというのなら、私はその状況が何を表しているのかよく知っている。

 

 

 なぜなら、それはドラゴンクエストというゲームで、私が唯一やった天空シリーズのうちのひとつ、物語の冒頭と重なるものであったのだから。

 

 ため息を吐きたいのをぐっとこらえ、代わりに唇をかみしめた。パパスさんは私の頭にぽんと手を置き「残念ながら、そのような国は知らない」と正直に答え、その腕で私を抱き上げた。

 

「だが、私が知らないだけかもしれない。世界は広い。アルマ、君の言う水の国を私も見たくなった。私とリュカは訳あって旅をしていてな。目的があるのでコスタールを探すことだけに集中はできないが、よかったら私たちと一緒に来ないか?」

 

 ふわりとした浮遊感の中で、なるほどと私は感心していた。私が純粋にただの子どもだったら、彼の事を一瞬で好きになり、その提案に一も二もなく頷いてその背を追いかけていたのだろう。

 

 だが、残念ながら私の中身はブラック企業勤め経験から人生に疲れていた三十路であり、さらに心酔している人間は既に別にいる。

 

「えっと……」

 

 しかし選択肢は限られている。パパスさんの提案を受け入れて、コスタールを探すためというよりは世界を渡るための方法か旅の扉を探す旅をするか。提案を受け入れず、子どもの身でありながら一人で旅をするか。

 

 パパスさんについていくのは、何も知らなければ悪くないように思えた。けれど、「物語」を詳細に覚えているわけではなくても道のりはある程度予測できる。しかもその中の可能性としてリュカと仲良く奴隷ルートとというものが含まれるわけだ。これはいただけない。私は奴隷なんてものになるのは絶対に嫌だし、強制された労働を憎んですらいる。できるだけぐうたら過ごしたい。

 

「た、たびって、まものとかいるでしょう? わたし、こわい……」

 

 だが、提案を蹴ったとしてどうなる。どこぞの孤児院や修道院に預けられるか、運が良ければこの船の持ち主に引き取られるか、そのくらいだ。この見た目で一人で旅をするのもいろんな意味でしんどいし、常識的な考えを持つ大人なら、そのようなことはさせないだろうから、「一人で旅する」「だめだ」の応酬が非常に面倒なことになることが予想される。

 

 私は戦闘力もさほどない。何せ守られ蝶よ花よと育てていただいていたので。マール・デ・ドラゴーンに居座るために船乗りの職をマスターしたので、それくらいの実力はあるが、ゲマを倒して原作改変とかそういうのは無理。

 

「大丈夫だよ! 僕もお父さんも、アルマのこと守ってあげるから!」

 

 えっへん、と可愛らしく胸を張る少年に、私の世界の勇者様の影が重なる。私の大切なひとの一人。大切なひとたちの、大切なひと。

 

 ――だったら、私もこの子を守ってあげようかなぁ。

 

 らしくもない気持ちが芽生えたのは、なぜなのか。理由なんてどうでもよかった。当たり前みたいに手を差し出してくれたひとたちのことを考えてみる。そうだ。帰ったら、ある親子を守ってあげた話を、あの人たちにしよう。きっと笑って、心配して、そしていつもみたく抱きしめて、頭を撫でて、頬を寄せて、褒めてくれる。それはきっと素晴らしいことだ。

 

「わたし、じゃまじゃないなら、その……おねがいします」

 

 面倒だけど、決めてしまったからには仕方ない。私の大切なひとたちは、すくうことをためらわないから。私もそうであろうかな、と少しだけ思う。面倒だけど、それは仕方のないことなのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 船を降りる時に、この船の持ち主であるルドマン氏と、その娘二人と出会った。船員が私のことを説明し、お嬢さん方の部屋と服を使わせてもらったことを詫びると、ルドマン氏は私に笑みを向けて、そういうことならかまわないと寛大に頷いていた。当の娘であるデボラは不服そうだったが、私が借りていたのが妹のフローラのものだったことを聞かされて機嫌を直していた。まあ、サイズ的にフローラの方が合うだろうから。ちなみに、今はもう着替えていて、私が元々着ていた服を着ている。寝巻ではなく、肌着と麻でできた簡素なワンピース、黒いタイツに革のブーツというありふれた服装だ。

 

「これからどこへいくの?」

 

「サンタローズという村だ。私とリュカの家がある」

 

「どんなところ?」

 

「山の中にあってな。村の中には小川が流れて、空気もきれいないいところだ」

 

 そんな話をパパスさんとしていると、知り合いらしき男に呼び止められ、「少し話があるから待っていなさい」と会話を打ち切られてしまった。

 

「ねえ、アルマ、ちょっと向こうを見てこようよ」

 

「でも、パパスおじさん、まってなさいって……」

 

「お父さん、よくいろんなひとに話かけられるんだけど、長いんだもん。それに、僕、昔このへんに住んでたらしいんだけど、あんまり覚えてないからいろいろ見てみたくて。近くならきっと平気だよ」

 

 チュートリアルがこんな感じだったかな、と薄れている記憶を掘り返しながらリュカの後をついて行く。スライムと遭遇したが、私の事を守るのだとはりきってくれたリュカが一人でやっつけてくれた。

 

「こら、リュカ。待っていなさいと言っただろう。とはいえ、きちんとアルマを守ったようだな。そこは感心だ」

 

 怪我なんてかすり傷程度しかしていないようだったが、パパスさんは回復魔法を掛けていた。それからサンタローズに着くまで何度かスライムやらドラキーやらと戦闘になったが、戦闘が終わる度にパパスさんはリュカに回復魔法を掛けており、まあ親として心配な気持ちは分かるが、魔力がもったいないなとか思ってしまう。

 

 でも、シャークアイ船長や他の人たちも、そういえば私が戦いに加わったときは絶対に大したことない傷でも治療してくれたことを思い出して、そういうものなのかもしれないなとも思った。

 

 サンタローズの人々のパパスさんへの歓迎ぶりはすさまじく、新顔の私も無条件に受け入れられた。これが幼女の姿ではなく三十路女の姿だったら反応も大分変わっていたのだろが、そんなことは考えても詮無いことだ。とにかく、私は慣れない旅で疲れたということにし、眠そうなふりをしてさっさと休ませてもらうことにした。

 

 パパスさんの家を訪れていた、病気のお父さんのために、お母さんと一緒にサンタローズへ薬を取りに来たビアンカという少女は、新顔の私と話したい様子だったけれど、とりあえず私は眠かったということにしたので、少女の要望に応えてやることはしなかった。リュカのベッドの隣に客用の布団を敷いてもらって、私は宴の喧騒の中一人目を瞑った。

 

 考えなくてはならないことはたくさんあった。リュカとパパスさんを守るためにできること。私が帰るために必要なこと。前者に関しては、考える余地も、工夫する余地もあるような気がするが、後者はどうだろう。世界を渡った経験はある私だが、その方法までは未だに知らない。あの世界に来たとき、元の世界に戻りたいとは思わなかったからだ。なので、推測しかできない。多分旅の扉を探すとか神様扱いされているマスタードラゴンに頼むとか、そんな感じだろう。

 

 でもなぁ。うちの世界の神様ならともかく、マスタードラゴンにそんなことできるのだろうか。なんかアイツ、トロッコを止められずにぐるぐる回ってた記憶があるんだけど。

 

 そんなことを頭に思い浮かべながら、私はいつの間にか眠ってしまっていた。さすが子どもの体である。

 

 次の日、私とリュカは村の中を探検することにした。パパスさんはやることがあるとかで、どっかに行ってしまったからだ。

 

 幼い頃に来たきりだというリュカは、本当に村の事を全然覚えていないらしく、目を輝かせてあちこち歩き回り、いろいろな人に話を聞いて回った。それは自分の小さい頃のことだったり、父親のパパスさんのことだったりが主だったが、時には全然関係ないことも話をしてた。探検をしている私たちを微笑ましそうな目で見た何人かが、薬草やら何やらをくれることもあった。タンスを漁ったり壺を割ったりする代わりに、向こうからの善意でアイテムを入手するらしい。そりゃそうか。普通に考えて他人の家のタンス漁ったり壺を割ったりするのなんてやばいやつの所業だよな。

 

「あら、リュカとアルマじゃない。遊びに来たの?」

 

 宿を訪れると、ビアンカたちが部屋でくつろいでいた。うれしそうに話し掛けてくる姿は大変愛らしい。黄金色の髪の毛は高い位置で二つに編まれ、活発そうな印象を与える。ぱっちりとした大きな青い目に、白磁の肌、桃色の頬と唇。まさに美少女といった容貌だが、それを自覚しているのかいないのか、鼻に掛けるような様子は一切ない。

 

「うん。僕たち、村の中を探検してるんだ。ビアンカは何をしてるの?」

 

「パパの薬を取りに行ってくれた人が中々戻って来ないから、いつでも帰れるように待ってるのよ。薬が届いたら、すぐに帰るつもりだから」

 

 娘の言葉を引き継いで、ビアンカのお母さんが困り顔で「誰か洞窟の奥まで探しに行ってくれたらいいんだけど、あんたの父さんのパパスも忙しいからねぇ」とため息を吐いた。恰幅の良い人で、顔立ちもビアンカとは似ていない。まあ、確か血がつながっていないらしいし当然と言えば当然だが。少し話をして、はっきりとした物言いであるけれど伝わってくる人の好さに、勇者様のお母さんを思い出し、私はかなり単純なことに、彼女のことをすぐに好きになった。

 

「それなら、僕たちが探してきてあげるよ! ね、アルマ!」

 

「え、うん。そうだね」

 

 純粋無垢な笑顔を向けられ、私も思わず頷く。しまった、「怖いから一人で行ってきて」という内容をオブラートに包んで伝えるべきだった。これからリュカに数多の試練とやらが訪れるならば、私は彼の成長を妨げるべきではない、という建前と、ただ単純に肉体労働が面倒だという本音は、ここぞというときに表現する間もなく潰えてしまう。

 

「でもねぇ、洞窟は危ないし……」

 

「二人だから平気だよ。それに、本当に危なくなったらすぐに帰って来るから」

 

 なんと、私たちは洞窟で冒険をするはめになってしまった。まあ、序盤の敵なので私も適度に戦闘に参加しつつ、リュカに守ってもらう体で楽をすればいいだろう。

 

「ママ、わたしも……」

 

 ついて行きたそうな顔をしているビアンカに、おかみさんはやれやれと首を振る。

 

「ビアンカ。あんた、サンタローズに来る前にした約束を忘れたのかい?」

 

「うっ……覚えてるわよ。『サンタローズにいる間は、ママと一緒にいること。それができないなら、パパの看病をしてること』って」

 

 ビアンカは羨ましそうにこちらを見て、ため息を吐いた。

 

「わたしの方がお姉さんなのに! ねえ、アルマは何歳なの?」

 

「五さいだよ」

 

 まあ、肉体年齢は。普通五歳は船乗り職をマスターしていないと思うとか、そういう常識的な考え方は捨て去ってほしい。戦闘に参加すれば、防御と回避だけしていても経験になるし、職歴は上がるのだ。

 

「わたしの方が、三つも年上だわ! リュカだって、わたしより二つ下なのよ。ねえ、ママ……」

 

「約束が守れないんなら、しかたない。サンタローズにいる人たちに頼んで、薬は後で持ってきてもらうとしようか」

 

 私には分かる。おかみさんは必死になっている娘を面白がっているのだ。その証拠に、顔は真面目ぶっているけれど、肩はちょっと震えていた。

 

「分かったわよ! もう! 二人とも、行きたいなら行って来ればいいでしょ!?」

 

 涙目でプンプンと部屋を出て行こうとするビアンカに、おかみさんが「おや、どこへ行くんだい?」と声を掛ける。

 

「水をもらってくるのよ! 喉が乾いちゃったもの。すぐ戻るわ!」

 

 大きな足音を立てるビアンカを見送って、私はおかみさんに「いいの?」と尋ねた。

 

「いいのさ。アルカパにいるときはみんなにちやほやしてもらって、好きなことをしているからね。慣れない場所でお姉さんぶって、あんたたちを危険な目に遭わせるよりは、あの子には留守番してもらってた方がいいだろう。二人だったら、怖いと思ったら引き返すだろ?」

 

 私とリュカは顔を見合わせた。その様子をくすくす笑ったおかみさんは、「あの子も普段なら、怖いと思えば引き返せると思うんだけど。あんまりはりきっちまうと、そうもいかないだろうから」と私たちの肩を軽くたたいた。

 

「ま、気にしないでおくれ。そのまま村の中を探検しててもいいし、洞窟を探検したっていいけれど、危ないと思ったらすぐに帰って来るんだよ」

 

「はぁい」

 

 良い子のお返事をした私たちは、途中でグラスを持ったビアンカとすれ違った。彼女はツンと顔を逸らして、悔しさを隠すようにしていた。まあ、いざとなったら守ってあげるから連れていってあげても全然いいんだけど、保護者の許可が出ないなら仕方がない。

 

「……ビアンカ、怒ってるかな?」

 

「しかたないよ。いっしょに行きたいけど、おばさんがダメって言うならダメなのよ」

 

 洞窟の方へ向かうと、入り口に立っている男性に「怪我しても知らないぞぉ」と脅されるが、はっきりと止められないあたり、ある程度は安全が保障されている場所なのだろうか。

 

「アルマ、僕のあとにちゃんとついて来てね」

 

「うん」

 

 こわごわ、といった様子のリュカの後をついて行く。洞窟は確かに薄暗いが、壁には松明が掛けられていて、真っ暗というわけでもない。スライムやせみもぐらなどがこちらの様子を伺いつつ襲い掛かってくる。リュカは私をしっかり守れるようにと、パパスさんからもらったひのきの棒で「えいっ」とか言いながら敵を殴打していた。可愛いくせして、結構遠慮ない打撃である。私も、敵の数が多いときはその辺の石を拾って投げつけるようにした。

 

 船乗りとして修業した私の石つぶては、そこらへんの敵を駆逐するのにはけっこう便利だ。これくらいの的なら私だって急所を外さずに確実に当てることができる。

 

「リュカ、だいじょうぶ? つかれてない?」

 

「大丈夫! 薬草だってあるし、アルマも手伝ってくれるから」

 

 洞窟はあまり複雑な造りではなく、宝箱に入っているアイテムを回収する。手に入れた装備品は、「わたしのことはリュカが守ってくれるから」と、リュカに装備させた。ひのきの棒に皮の盾、旅人の服が初々しい。

 

 地下の敵は地上の敵よりも少し強かったけれど、深手を負うこともなく、岩に下敷きにされたおじさんを見つけることができた。かなり大きな岩で、こんなものに下敷きにされてしまった日にはもう複雑骨折待ったなしって感じだけれど、意外にも幼児二人の力でどかすことができたし、見た目のわりに軽い。岩から自由になったおじさんは、ピンピンした様子で去っていってしまった。

 

「わたしたちも、戻ろうか」

 

 段々口調がわざとらしい五歳児ではなくなってきてしまっているが、いつまでも舌足らずな演技をするのは疲れるので、違和感を持たれないように徐々に変えていけばいいだろう。リュカも別にそれに関して何かを言ってくることもない。

 

「そうだね」

 

 年齢的に言えば就学前の幼児二人の大冒険だったわけだが、リュカは旅慣れているし、私は中身が見た目にそぐわないこともあり、あっさり攻略できてしまった。

 

 とはいえ、この小さな体で慣れない環境を歩き回ることに加え、敵との戦闘があったことで存外疲れていたらしい。洞窟を出て、サンチョさんの待つ家まで帰ると、安心したのか、どっと疲れが出て、私たちはうとうとしながら体を洗って着替え、なんと、ご飯を食べながら眠ってしまったのだった。

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