子どもだけのお別れ会は、みんなでプログラムを考えて、朝から行われた。これがまた私たちらしくて、午前中はトーナメント形式の決闘を行う。これを提案したのはヘンリーだ。優勝者はパパスさんに挑むことができ、もしも勝つことができたらパパスさんを子分にできるんだとか。当然、パパスさんがそのまま戦ったら勝てるわけがないので、ハンデとして彼はその場から一歩でも動いたら負けということになっている。最後の最後で、なんとかしてリュカとパパスさんに勝ちたいということなのだろう。
体を動かしてお腹が空いたら、ご飯の時間だ。ご飯はそれぞれの食べたい物を厨房にリクエストしてある。一息ついたら、今度は悪戯の作戦会議。最後の最後に、私たちが仲良くなれたきっかけでもある悪戯の集大成を見せてやろうじゃないか! ということらしい。しかも、その日に計画してその日に実行しなくちゃいけないから、すごく頭を使うし、協力しなくちゃいけない。
悪戯が終わったらみんなでお風呂に入って洗いっこをする。大きな浴槽ではしたなくばしゃばしゃと泳いだり、お湯を掛け合ったりして思いっきり遊んだ後は夕食。それも終われば次はダンスの時間。明日もダンスはあるけれど、形式ばったやつじゃなくて、好きなように踊ってやろう! とのことらしく、演奏もなし。楽器は自分たちでタンブリンやマラカス、鈴なんかを手に持ちながら誰かの歌に合わせて踊るのだ。
そして最後にプレゼント交換。余すことなく楽しむための一日だった。
最初の決闘は、厳正なるくじ引きで決めた結果、デール対私、ヘンリー対ゲレゲレ、シードがリュカとなった。まあ、特筆すべき点もなくデールには勝った。彼はまだまだ体の使い方から勉強中の身だ。一応実戦経験もあり、船乗り職をマスターしている身である私としても手加減をしてても余裕をもって戦えるのでありがたい。
初めて稽古に加わったときには「女の子のアルマにも勝てないなんて……」とすごく落ち込んでいたデールだが、懇切丁寧に生育環境が全然違うことと、別に人それぞれだから落ち込む必要はないことを伝えてあげていたら、徐々に気にしなくなったのか、思い切りよく勝負を仕掛けてくるようになった。稽古の終わりはリュカとヘンリーの戦いだけでなく、私とデールの戦いまで追加されてしまったのである。そのため、今回の敗北にも、デールは気落ちしすぎることはなかった。
さて、ヘンリーとゲレゲレの戦いでは、ゲレゲレはすばやい動きでヘンリーを翻弄していたが、悪知恵の働くヘンリーが勝った。ゲレゲレの集中を逸らすために猫じゃらしのようなものを使ったり、マヌーサをうまく使ったりして生来の能力差を埋めることに成功したのだ。ゲレゲレは身体能力が高いし、さらに訓練された魔物であるので、普通に戦えば厄介なはずである。ヘンリーの剣術が上達していることもあって、小器用な戦い方にもバリエーションが増え、型通りで隙がない剣術と、持ち前の機転を活かした形の勝利となった。
シード枠のリュカとは私が戦う。と言うのも、ヘンリーはたった今戦い終えたばかりなので休憩をはさんだ方が良いだろうとの判断からだ。
「アルマ、いなずまを使ってもいいからね」
対峙するなり、リュカは真面目な顔でそう言った。当然、私はふるふると首を横に振る。
「使わないよ」
「本気でやってくれなくちゃ、つまらないよ」
本気でやると皿の破片を投擲するという殺傷沙汰になるのでできません。
「私も、いなずまに頼らずどこまでできるか確かめておきたいし」
ともあれ、そんな戯言は聞かせる必要がない。私は稽古用の剣を構える。非力な私でも扱えるように、細身の模擬剣だ。
「やあぁ!」
開始の合図をパパスさんに出され、先手必勝とばかりに私はリュカへと突進した。
体の身軽さは私の方が上でも、年齢的なこともあり、素早い動きができるのはリュカの方だ。向かってくる私をひらりと避けて、隙ありとばかりに彼は剣を振りかぶった。ただし、その動きは予想済みだ。私はくるりと体をひねってリュカの攻撃をかわし、勢いをつけて足払いを掛ける。
「わっ!?」
そう来るとは思っていなかったのか、リュカは体勢をくずした。しかしながら間一髪のところで避けられ、そのまま一撃くらわそうと下方から上方へ剣を薙ぐが、これも避けられた。ううむ、基本性能の差か。ガッチガチに守りを固めてもらっていたとはいえ、ここら辺よりもさらに強い魔物と戦っていた(成果は特にないが、経験としてはある)私であるので、さすがに悔しい。私だって魔物ひしめく海をシャークアイ様と一緒に航海したいのだ。人魚のままでも、アニエス様に好きなときに会いに行きたいのだ。勇者様たちが暇なときには一緒に遊びたいのだ!
「っと!?」
私が煩悩に思考を投じている隙に剣を構えたリュカが、油断なくこちらへ一閃。もちろん、まともに食らっては痛いだけなので、スピード感にヒヤッとしつつも避ける。
「アルマ、何考えてたの?」
「ないしょ!」
カンッと模擬剣が合わさる。鍔迫り合いでは負けるので、どうにか向こうの力を利用したいところだけれど、中々タイミングがつかめない。睨み合うリュカと私。ふいに、リュカが何かに気付いたように視線を逸らした。何事かと私も彼の視線を追うと、手首に激しい衝撃。剣を弾かれ、取り落としてしまった。
――フェイント!
リュカが全くやらなさそうな戦法だった故に、疑いもせずに彼につられてしまった。丸腰になった私に、リュカは複雑そうな顔で剣を突き付けた。審判のパパスさんが「勝負あり!」と宣言する。
「リュカがあんな手を使うなんてな」
「あんな手? アレは……」
勝負を終えたリュカにヘンリーが笑いながら話し掛けた。リュカが何かを言い掛けたときに、デールが「あっ」と声を上げる。ラインハット王が、中庭に訪れたのだ。
「父上!」
兄弟の声が重なると、彼は初めて会ったときより幾分やつれた顔を綻ばせた。いろいろな心労がたたってか、ここ最近は目に見えて顔色が悪いが、息子たちを前に気弱な姿は見せられないのだろう。王妃が牢に入れられてからは、ますます公正で厳格な父親として振舞っていた。
「すまぬ、邪魔をしたか?」
「いいえ! ちょうど今、アルマとリュカの試合が終わったところです」
「お父さま! 次は兄さまとリュカさんの試合なんですよ! 一緒に見ましょう!」
まだまだリュカの方が強いが、小器用になってきたヘンリーも少しは勝てるようになってきただけあり、デールは「すごい試合になるはずです!」と鼻息を荒くしていた。
「ああ、じゃあ、そうするとしよう。……ゴホッ」
私があっさりやられてしまったので、休憩もさほど挟まず、リュカとヘンリーの試合はすぐに始まった。ラインハットに来てからほとんど毎日戦ってきた二人だ。互いの癖はよく知っている。じりじりと近づきながら、先に攻撃を仕掛けたのはヘンリーだった。
いつかの時とはちがう、冷静な一太刀。リュカはそれを正面から受け止め、ふっと負けん気の強い笑みを浮かべる。
「力比べで僕に勝てると思ってる?」
「ばぁか、思ってねーよ」
ぎりぎりと正面に掛けていた体重を横へ逸らし、リュカが体勢を崩すのを狙ったヘンリー。先ほどの鍔迫り合いのとき、私がやろうとしてフェイントを食らったやつだ。
「おらっ」
重心が移動した流れで回し蹴りを放つヘンリー。力はリュカに劣るが、体の使い方はどんどん上手くなっている。リュカは体をひねって衝撃を殺そうとしたけれど、完璧とはいかずに表情が歪んだ。
体の使い方だけではない。ヘンリーは感情の抑え方も上手くなった。以前だったら、手も足も出なかったリュカに一撃を食らわせたら、それで満足して次の攻撃がおろそかになったり、すぐに慢心したりして、その隙をリュカに叩かれていた。以前なら一撃食らわせた喜びで、そのまま考えなしに大振りで雑な攻撃を畳みかけようとしていただろう。けれど、それが少なくなった。
二人の戦いは長引いた。臨機応変型のリュカは、ヘンリーが機転を利かせて戦っても、持ち前の身体能力と勘とかそういうので対処してしまう。肩で息をする二人を見ながら、太陽が真上にきていたのに気が付いて、もうすぐご飯の時間だな、と思った。
「ヘンリー。きみ、強くなったね」
リュカがそう呟くと、ヘンリーがぎりぎり聞こえないくらい小さな声で、何かを呟き返す。何を言ったのか、リュカが目を見開いた。ヘンリーの青い目がぎらりと光る。
「っらぁああああ!」
雄たけびと共に、剣を振りかぶる。リュカが怯んだ一瞬の間に、ヘンリーは親友の肩口から脇腹に掛けて斜めに振りぬく――と思わせて、手首に力を込めて無理やり軌道を変え、リュカの首筋に突き立てた。
「勝負あり!」
「いっつぅ……」
声を漏らしたのは勝利したヘンリーだ。無理な動きをしたせいで手首を痛めたのかもしれない。一応パパスさんにホイミを掛けてもらっていたが、お昼になったことと、念のためということもあり、パパスさんへの挑戦はいつかラインハットへ戻ってきたときに延期することとなった。
ご飯を食べてヘンリーの部屋に行き、午後からの悪戯の内容を考える。一番最初に案を出したのは、意外にもデールだった。
「あの……お父さまに悪戯を仕掛けませんか?」
私たちはさすがに王様に悪戯を仕掛けたことがない。友達の父親だとしても、一国の王に対してそんな無礼すぎることをしてみようという発想がそもそもなかった。ヘンリーだって、私たちと出会う前から悪童と有名だったが、さすがの彼でも王様に悪戯をしたという話は聞いたことがない。やっぱり、父親だとしても「王」という肩書がある分、悪戯をするのはためらってしまうということだろうか。
まあ、勇者様の親友であるグランエスタードの王子様は、王様に対してさんざん悪戯をしていたらしいが、何もかもを手放しても、自分の行く道を選んだ人だと聞いたので、常識にはしばられない人なのだろう。
「お父さま、最近無理をしてるように思います。だから、ボク……お父さまを元気づけられるような、そんな悪戯がしたいんです。兄さまたちの試合を見てるとき、お父さま、本当にうれしそうだったんです。ボクたちは王子で、お父さまは国王だけれど……でも、普通の、親子なんだって、そう思ったんです」
ぎゅっと己の拳を強く握ったデールは、目に涙を溜めていた。「王子になんて生まれたくなかった」と叫んだ彼である。幼いながらに様々な感情が胸中を行き交っているのだろう。そんな弟の頭に、ヘンリーがぽんっと手を置いた。
「スッゲー良い考え! 父上に悪戯なんて、考えたこともなかったぜ! まあ、周りに悪戯して父上を困らせてやろうと思ったことはあるけど……」
最後の方はもにょもにょと彼らしくなくハッキリしない言葉だったが、それでも、白い歯を輝かせて弟に笑い掛ける。
「みんなで父上をびっくりさせてやろう! こんなのはどうだ?」
作戦はもちろん、パパスさんにも内緒だ。私たちはまず、手分けして厨房と衣裳部屋、それからリネン室へ行った。私とリュカとゲレゲレが材料調達、ヘンリーとデールは根回しだ。
おやつの時間に合流した私たちは、マカロンを食べながら首尾はどうかお互いに確認し合う。もちろん、全員抜かりないようだった。ぺろりとマカロンを平らげた私たちはこくりと頷き合い、ヘンリーが横柄な口調で、「パパス! パパスはいるか!!」とどたどた部屋の外へ出た。もちろん、パパスさんは部屋の扉の前で控えていたので、すぐそこにいるに決まっている。
「どうした、ヘンリー。何かあったか?」
「『何かあったか?』じゃない! アルマが変な魔法を使って、デールを女の子にしちまったんだ! お前、保護者だろ! 責任取れ!!」
衣裳部屋から借りてきた可愛いふりふりの子ども用メイド服を着たデールは、顔を真っ赤にしながらくすんくすんと泣いている。正直非常に似合っていて可愛い。何も知らない少年とかが見たらうっかり初恋の相手になってしまいそうなくらい可愛い。
「ぼ、ボク……うう、こんなの恥ずかしいです……」
「ご、ごめんなさいパパスさん……わたし、こんなことになると思わなくって……マリベル様に聞いたことのあるまほうを使おうとおもっただけなの……!」
正直吹き出しそうになるのを堪えながら、必死で俯く。顔を上げたら笑っているのがバレてしまうからね、しかたないね。
「………………すまないがデール、服を脱いでもらっても?」
「馬鹿野郎! デールは女の子になっちまったって言ってるだろうが! こんな往来で服なんか脱げるか! ちょっとは考えて物を言えよな!」
あからさまにしらーっとした顔をしているパパスさんに、ヘンリーが激昂した様子で答える。演技が上手い。大きくなったらその道でも食べていきそうな感情表現だ。
「しかし、責任を取るにしても状況を確認しないことには……」
「うるせー! オレたちは部屋で待ってるから、父上にこのことを伝えに行け! 早く行けよ!!」
我儘王子に命令されたパパスさんは「やれやれ」と肩をすくめながら謁見の間へと向かっていった。王様は執務室にいるときと謁見の間にいるときが多いが、この時間なら謁見の間にいるだろう。
「よし、パパスは追い払ったぞ。こっからが正念場だ」
リュカと私とゲレゲレが、ひょいっとヘンリーの部屋にある隠し階段を下って、準備の最終調整を進めていく。リュカは機嫌良さそうに、「僕、アルマとの戦いのときによそ見したでしょ?」と手を止めないまま話し掛けてきた。
「あれね、別にフェイントのつもりはなかったんだ。アベルに呼び掛けられた気がしたんだよ」
「あっ……そうなんだ……うん……よかったね」
私は彼の将来が心配になりつつ、当たり障りのない返事をした。確かにアベルは美少年だけどさあ!
*
仕込みを終えてヘンリーの部屋へ戻る途中、王様を伴ったパパスさんとばったり遭った。
「なんだ、みんなで一緒に部屋で待っているのかと思ったぞ」
「お父さんたち中々来ないから、待ちくたびれたんだよ」
「そうそう。わたしたち、お城の人にまほうのこと書かれてる本がないか教えてもらってたの。デールのこと元に戻す方法のことは書いてなかったけど……」
悪戯を繰り返すうちに、ピュアという言葉が人間の形をしていたリュカも少しは人間(というかまんま悪戯小僧)になり、さらっと方便を使うようになった。私はそれに便乗して、しゅんとした顔を作ってみせる。
「ふむ……すまんな、少し、王と一緒に明日の話をしていた。午前中にちょっとした別れの会を開いてもらえることになっていただろう? 食事を済ませて昼過ぎにここを経つ予定だと、出立の最終確認をしていたのだ」
どうせデールのことは本気にとらえられていないから、子どもたちがいない間に、牢に入ってから、すっかり大人しくなってしまったらしい王妃の話をしていたのだろう。出立の確認なんて、ここを発つ日が決まったときにあらかたしてあるはずだ。
ともかく、二人をヘンリーの部屋の中に入れる。私はそっと、パパスさんの手を握った。
「おじさん、もしこのままデールが女の子のままだったら、わたしのせいだわ。そしたらわたし、ちゃんと『せきにん』とって、デールが戻るまで、ラインハットにいる!」
「ええ!?」
私の発言に声を上げたのはリュカだった。ヘンリーとデールは目を合わせて、ぽかんとしている。
「アルマ。あのな、もしラインハットを離れがたいんだとしても、すぐに遊びに来れる距離だ。なんなら、サンタローズで馬に乗る練習をすればいい。そうすれば、歩いて来るよりずっと早く……」
「ハーッハッハッハ! そりゃいいな! アルマ、ずっとこの城にいろよ! デールも女の子になって、心細いだろうからな!」
パパスさんが眉を下げて私を説得しようとする中、子どもたちの中でいち早く復活したヘンリーはお腹を抱えて大爆笑をしていた。
「そ、そんなのいやだよ! アルマは僕と一緒にサンタローズに帰るんだ!」
「ばぁか。アルマ本人が残りたいって言ってるんだ。本人の意思を尊重しようぜ」
「ばかはヘンリーの方だよ! ばか! いばりんぼ!」
「なんだとう!? お前なんか子分クビだ!」
「最初っから子分になんてなったつもりはないよ! ヘンリーが勝手に言ってただけじゃないか!」
「や、やめてよ二人とも……」
私がためらいがちに言うと、女の子の服が似合いすぎているデールが、「あの!」と声を上げた。ちなみに、目まぐるしい展開に大人たちは置いてけぼりである。
「アルマ。本当にボクが女の子のままだったら、ラインハットに残ってくれるの?」
「え? それはもちろん、わたしのせいだし……」
「だったらボク、男の子になんて戻らない!」
「そ、そんなのダメ!」
リュカが叫ぶと、デールはひらりと軽やかな動きで部屋にある椅子をどけ、隠し階段の扉を開ける。魔法なのかからくりなのか、扉を開けると普段は隠されている階段が出現し、下りきると元のように収納されて下からは上れないようになっている仕掛けのものだ。
「絶対もとになんて戻らない!」
「待ってよ、デール! そんなの許さないぞ!」
階段を駆け下りたデールを追いかけたリュカ。私は困り顔を作ってパパスさんの手をきゅっと握る。ちなみにゲレゲレはあくびをしていた。自由なやつめ。
「へへっ、面白くなってきた。父上、オレたちも追い掛けましょう!」
ヘンリーが王様の手を引き――それから、階段の真上から父親を突き落とした。
「スカラ!」
階下からリュカの声が聞こえ、階段を転げ落ちる寸前だった王様の体を、暖色の淡い光が包み込む。とはいえ、物理的な衝撃に強くなるだけで、力の方向を変えられるわけではない。
「ヘンリー! なんてことを!」
「大成功! だな!」
パパスさんが悲鳴のような声をあげ、私の手を振りほどき、階段の下を覗き見る。そこには、衣裳部屋から運び込んだ、ヘンリーとデールが今よりもっと幼かったころに着ていた大量の衣類や、リネン室から持ってきたまくらが敷き詰められていた。ご丁寧にそれらの上には小麦粉がまぶしてある。落下した王様は、階段からの衝撃はリュカのスカラに守られて怪我は少しもないが、その先で待ち受ける小麦粉にまみれて全身真っ白になっていた。なんてことだ。一体だれがこんなことを。
「ハッハッハ! どうだ父上! オレがあなたに悪戯なんて仕掛けるわけがないと思っていただろう!」
「うふふ、ボクの演技もなかなかだったでしょう?」
「それを言うなら僕だって、ハクシンの演技ってやつだったよ!」
けらけらと笑い始めた少年たちを見て、パパスさんが私を見た。
「……えへ?」
私はとりあえず、首を傾げて笑って誤魔化す。パパスさんが子どもたちに雷を落とそうと口を開くより早く、ラインハット王は粉まみれ子ども服まみれ、使用済みまくらまみれで、お腹を抱えて笑い始めた。
「こりゃ、してやられたわい! 全く、なんたる悪餓鬼共か! げほっげほっ……このわしに悪戯を働こうとは!」
「ふふふ、お父さま。これでは国王の威厳も台無しですね!」
「そうだな、すぐに風呂に入らなくちゃ!」
「そういえば、そろそろボクたちもお風呂の時間ですね!」
「おお、そうだったな我が弟デールよ! いや、今は『我が妹』か?」
「どうやら魔法を解くカギはお父さまの笑顔だったようです。なんだかもう、男の子に戻っている感じがします。確かめるためにも、みんなでお風呂に入りましょう!」
悪戯のとき同様、アドリブを利かせてはいるけれども方向性はブレないセリフをノリノリで紡いでいく王子たち。ゆったりと階段を下りてきたヘンリーを見て、体勢を立て直した王様が「ときにヘンリーよ」と穏やかな声で呼び掛けた。
「そなたは友を得て、本当に明るく、たくましくなった。この父に、もっとよく顔を見せておくれ」
「そんな……へへ、照れるぜ。それもこれも、パパスをオレの護衛にしてくれた父上のおかげです!」
「デールも。気弱そうだったそなたが、今では立派な悪戯小僧じゃ。二人とも、わしも年だのう……涙でよく見えん……もっと近くへ」
うれしそうな兄弟が王様にてててっと近寄る。あっ、と思った時には、二人は「年老いた」と自称するわりには素早く、力強く伸ばされた王の腕に捕えられた。
「この父に一杯食わせるとは! なんという息子たちか! 仕返しじゃ!」
大人げなく息子たちを小麦粉まみれにする王様を見て、パパスさんはやわらかな笑みを浮かべた。私たちも階下へ行くと、親子でもみくちゃしている王族たちに「お前らも来い!」と誘われる。
「いやいや、父子水入らずの最中だろう。私たちは遠慮して……」
「行け! ゲレゲレ!」
ヘンリーのきびきびした命令に、ゲレゲレが反応する。渾身の力でパパスさんの背中にとびかかったゲレゲレに続き、私とリュカの二人でタイミングを合わせて、さらにパパスさんの腰にタックルする。見事、パパスさんは小麦粉の海に倒れたのだった。
「リュカ、アルマ」
真っ白な顔で、パパスさんはにやりと笑った。
「サンタローズに戻ったら稽古は今の倍厳しくしてやる」
私とリュカは聞かなかったふりをした。
みんなでお風呂に入りながら、他愛もない話をする。ラインハットに来て驚いたこと、楽しかったこと、怖かったこと、悲しかったこと、いろいろな思い出話を。
「オレたち今まで、たくさん悪戯してきたけど、今日のが一番楽しかったな!」
「真っ白になった王さま、おもしろかったね」
「メイドたちがにこにこしながら片付けはやってくれるって言って、よかったですよね。本当はボクたち、片付けも自分でするつもりだったんです」
「そうそう。準備のときはゲレゲレががんばってくれたのよ。力持ちだから、まくらとか小麦粉とか、たくさん運んでくれたの」
「あっ、父上! 城のやつらも協力してくれたけど、処罰なんてやめてくれよな! みんな『父上の息抜きになれば』って言って協力してくれたんだ」
矢継ぎ早に交わされていく子どもたちの会話に、大人たちが呆れたように顔を見合わせた。
「馬鹿者。灸を据えるのはおまえたちだけじゃ。そもそも、城の者たちは『王子に命令されただけ』、そうであろう?」
「えっと……うん! そうなんだよ! オレとデールが命令したんだ!」
さっき堂々と「協力してくれた」と言ったのは聞き流してくれたらしい王様が、ヘンリーの緑色の髪と、デールの茶色い髪をがしがしと乱雑に撫でる。
「して、誰がこのようなことを考え付いたのじゃ?」
「へっへっへ、聞いて驚くなよ。デールなんだ! デールが、父上に悪戯をしようって言ったんだよ。もちろん、作戦はみんなで考えたけどな」
デールは一瞬慌てた様子で口をぱくぱくさせたが、すぐににんまりと笑い、胸を張った。
「ボクだって、兄さまの弟ですからね」
まだまだ話し足りない様子の兄弟であったが、のぼせてはいけないからとお風呂からは出ることになった。夕食のときにも話す時間はたくさんあるから、ということで、大人たちに促されたのだ。たくさん笑ったからか、お風呂で温まったからか、王様の顔色はずいぶん良い。
夕食もダンスの時間も、飛ぶように過ぎて行ってしまった。私たちは始終笑い合い、語り合い、それから手を取った。遅くなる前に、楽器は迷惑になるからとメイドたちが片付ける。ほどよく疲れた体のまま、私たちは部屋に戻った。
「これ、二人で作ったんだ」
リュカはヘンリーに。私はデールに。作ったぬいぐるみを差し出した。ラッピングのリボンをしゅるりと解いて、袋からそれを取り出した二人が、むずがゆそうに笑う。
「なんだ……その、似るもんだな」
「うん。ボクと兄さまって、すぐに分かる」
「大切にする」と声を揃えて言った兄弟は、今度は私たちにきれいに包装された小包を差し出した。さっそくリュカが包装を破いて中身を取り出すと、ヘンリーが頬をかきながら、照れ隠しなのか口を尖らせながらぼそぼそと呟いた。
「お前の、ベルトじゃなくて腰ひもだろ。剣を留めるのに、そっちの方が便利かと思って」
リュカに渡されたのは細めの革ベルトだ。裏にはこっそりと文字が刻印してある。
「あ! それは後で見ろよな! 今はとにかく、付けてくれよ」
私たちが文字を見ようとすると、慌てたヘンリーがリュカの手からベルトを奪い、甲斐甲斐しく付けてあげている。
「ふふ、ボクと兄さまからのメッセージです」
デールがばちん、とウィンクをしてきた。続いて私も包装をはがす。中身は革の土台にレース生地がはりつけられたヘアバンドだった。
「可愛い! ね、ね、似合う?」
簡単にハーフアップにしてさっそくつけてみると「似合うよ!」と少年たちが口々に褒めてくれた。ちょっと気分が良い。
「大切にするね、二人とも!」
お礼を言い合って、その日は眠った。明日は出発だ。その前に、大人たちが企画してくれたお別れ会もある。だから、ちゃんと早く寝て、明日のお別れ会もしっかり参加して、それから元気にサンタローズへ戻るのだ。サンチョさんにヘアバンドのことを自慢しよう。それから、ちょっと図々しく、このヘアバンドに似合う、可愛い服を買うか縫うかしてもらうのだ。
リュカ レベル12
ちから:42 すばやさ:26 みのまもり:13
かしこさ:25 うんのよさ:5
最大HP:92 最大MP:35
呪文・特技:ホイミ、キアリー、バギ、スカラ、ベホイミ、インパス
(攻略サイト参照)