転生幼女がDQ5にインしたようです   作:よつん

13 / 39
微笑みの爆弾

 

 

 ふと、波の音が聞こえた気がした。しかしここは、私の愛する海ではない。

 

 ゆるりと目を覚ますと、パパスさんの顔が真上にあった。どうやら私は、パパスさんの腕に抱かれているらしい。

 

「目を覚ましたか、アルマ」

 

 やけに硬質な声。妙にぼんやりしていた私は、ようやく事の深刻さを思い出した。

 

「パパスさん……私……!」

 

「話はリュカから聞いた。そこの少年のことも」

 

 パパスさんに言われ、私は俯くアダムへと視線を移した。彼は眉を寄せて普段よりは筆圧の濃い字で<魔物は王子たちを追うぞ。もちろん、一緒にいるリュカも>と枝で地面に書きなぐった。

 

「それでも、ここに留まらせるよりは安全だろう」

 

 答えたのはパパスさんだった。私には、まるで話が見えない。混乱したまま、「みんなはどこに?」と口を挟んだ。

 

「誰がどこで聞いているか分からない以上、それは話せないが……ともかく、避難させた。アルマは心配しなくていい。あいにく、キメラの翼を切らしていてな。お前はしばらく私とラインハットに留まることになるが……なに、私が付いている。大丈夫だ」

 

「だめだよ!!」

 

 私は叫んだ。

 

「逃げた方がいい! あの魔物はだめだ! アダムの声を封じたやつ! どうして私が見逃されてるのかは分からないけど……」

 

 城から爆音が上がる。そちらに目を奪われると、アダムがパパスさんの腕を引いて、ふるふると首を振った。

 

<アンタ、リュカの父親だろう?>

 

 彼は似合わない笑みを浮かべた。そこに表れているのは、間違いなく諦念。私が言うのもおかしな話だけれど、五歳児がするにはあまりに悲しすぎる表情だ。

 

<この国になんの関係もないはずだ。逃げた方がいい。アルマの言う通り、ゲマはだめだ>

 

「なるほど、魔物を率いる大将はゲマというのか」

 

 頷いたパパスさんが私を地面に立たせ、「君は逃げるといい。いくら教祖の息子だとして、戦闘に巻き込まれてしまえばただでは済まないだろう」とアダムへと微笑み掛けた。アダムは口を開きかけ――思い出したように自らの喉を抑えると、顔を歪めて「ばか」と口の形を作った。

 

<おれは敵だ。事の発端はすべておれだ。逃げるのはそっちだ。おれじゃない>

 

「たしかに、君は『敵』だ。ここを襲撃する魔物を擁する光の教団の教祖の息子であり、その『手伝いのため』ここを訪れていた。……だが」

 

 パパスさんは膝を折り、まっすぐにアダムの紅い目を見つめた。

 

「君はリュカとアルマのともだちだ。今なお我々の身を案じてくれる君は、『敵』でありながら『敵』ではない。それに何より、君は子どもだ。大人である私は、君を守る義務がある」

 

 アダムはぎゅっと眉を寄せ、それから決意したように地面に文字を書き連ねていく。

 

<さっきの爆発はゲマだ。地下牢に侵入する道から、城の結界を崩して魔物たちを手招いてる。魔物の襲撃は城の外からでなく、中から始まるんだ。……橋が上がっていれば、城の人間は助からない。橋が下がれば、城下に被害が広がる。もう、どっちにしたって終わりだよ>

 

 彼は枝を片手に持ったまま、片手でパパスさんの手を握った。泣きそうな表情で「無駄なんだ」と口を動かすアダムに、パパスさんは強い光を宿した瞳で見つめ返す。

 

「君は逃げろ」

 

 握られた手を優しく解いて、パパスさんは城下を走って行った。私は呆然とするアダムに一度だけ目を向けて、それからパパスさんの後を追った。

 

「城には兵たちがいる。魔物の襲撃があることは知らせてあった。内部からの襲撃とはいえ、多少は持ちこたえられるだろう」

 

 その言葉を信じて、私たちは城下の人たちに避難するよう説いて回った。キメラの翼を取り扱っている道具屋の主人に、緊急事態だからと城下の人たちに無償で配るように伝える。初めは信じていなかった町の人たちも、城の方から聞こえた爆音や、パパスさんの鬼気迫る表情に圧倒され、すぐに避難を開始してくれた。

 

「おじさん! 橋が……」

 

 城下の真ん中で避難を指示しているパパスさんの腕を引く。橋が降り、そこから多くの魔物が雄叫びを上げながら城下町へとなだれこんできた。多くの人たちが慌てて避難する中、大切な物やこれから必要になるであろう物をかき集めていた人たちはまだ避難が完了していない。

 

「アルマ! 援護を頼むぞ!」

 

「うん!」

 

 魔物の姿を見て、町の人たちは慌てて自分たちの思い浮かべられる他の場所へと移動し始める。キメラの翼は何人かで一つの消費なので、数に限りがあることもあり、一家庭に一つずつしか配られていない。家中を手分けして荷物を集めていたであろう人々は、魔物にやられる前にと家族の名前を呼び合っている。

 

 私は稲妻を呼び出したり、石を投げつけたりして主に空を飛ぶ魔物たちの動きを牽制。この魔物たちが先発して城から出てこなかったのは非常に助かった。橋を渡ってくる魔物たちを一網打尽にしているパパスさんの援護として、隙を見て補助のための特技を使っていく。

 

「城の方を見に行くとしよう」

 

 城下は閑散としていた。住民はほとんど、避難できたようだった。

 

「アダムは逃げられたかな……」

 

 ぽつり、呟く。ラインハットがこうなったのは、私のせいだ。私が軽率にアダムを城に招き入れなかったら、こんなことにはならなかったのだ。アダムが光の教団に協力しているのは仕方がない。彼の父親は教祖であり、幼い彼の世界の全ては家族だ。私と違って純粋に五歳児であるならなおさらのこと。家族のことを信じるのは自然だし、それについて善悪を判断することができなかったのは仕方がない。それでも、友達を危険に晒してしまって反省しているような様子が見られるあたり、彼はやっぱり、リュカの言った通り優しい子だ。

 

 私は彼とは違う。中身は大人で、判断力があったはずだ。この世界が、じわじわと闇に侵食され始めていることも知識として知っていた。

 

「アルマ」

 

 パパスさんが城を睨みながら私へ声を掛ける。

 

「実は、道具屋からキメラの翼を何枚か手渡されている。お前は一足先に避難してもいいんだぞ」

 

「ううん」

 

 優しさがつらい。これは全て私のせい。であるならば、私は償わなければならない。自分のしたことに、きちんとケジメはつけなければならない。

 

「私、たたかう。私のせいだから。ラインハットを魔物の好きになんてさせない」

 

 城の中は混沌としていたが、状況が悪すぎるというほどでもなかった。残念なことに、死体はそこかしこに転がっているが、それは魔物についても同じで、兵士たちの奮戦が見て取れた。

 

「状況は」

 

 傷ついた兵士たちを回復して回りながら、パパスさんが現状について確認している。

 

「へ、陛下が……魔物に……!」

 

 一人の兵士の言葉を聞いて、私たちはすぐに謁見の間へと向かった。そこには他の場所より、一際多くの屍が横たわっている。異様な雰囲気はすぐに感じ取ることができた。嫌な空気。まるで悪意という悪意を煮詰め、器に収まらず漏れ出てしまっているような。

 

「ほっほっほ。アダム、おまえにチャンスをあげようと言っているのですよ」

 

 謁見の間では、玉座の手前で怪我をしているラインハット王を捕えているゲマと、ぎりりと唇を噛むアダムがいた。

 

「おまえの手で、ラインハット王を殺めるのです。半端者のおまえを、教祖の息子という理由だけで『仲間』にしてやっていたのです。こんなこともできないようでは、おまえに居場所はない。父親も、さぞ失望することでしょうね」

 

「待てッ!!」

 

 邪悪の権化のような言葉を紡ぐゲマへ、怒りの表情を隠さず、油断なく剣を構えたままパパスさんが叫んだ。

 

「アダム! 君はそんなことしなくていい! 居場所が欲しいなら、自分で作ればよいのだ! 探し出せばいいのだ! 君にそんなことをさせるような『居場所』を、君には拒む権利がある!」

 

 紅の目は、泣きそうに潤んだ。

 

「なんと酷いことを言うんでしょうねぇ。アダムにとって父親はたった一人の肉親。光の教団は生まれ育った場所。アダム、よく考えなさい。半端者のおまえが居場所を失えば、どうやって生きていくというのです? おまえは誰からも愛されない。そんなおまえを受け入れてくれる居場所なんて作り上げることも、探し出すこともできるはずがない。おまえを愛してくれる可能性があるとすれば、おまえの父親だけでしょう。なぜなら――」

 

 もはやゲマの言葉を耳に入れる価値はない、とパパスさんがゲマへと斬りかかる。王様を放り投げたゲマはひらりとそれを避け、ニタニタと不快な笑みを浮かべたままだ。

 

「ジャミ! ゴンズ!」

 

 ゲマに声を掛けられた魔物たちが、床に投げ出された王様と、動けずこちらを見ていたアダムを拘束した。

 

「『勇敢なる娘』よ。おまえの父親ですか。では、礼を言わねばなりませんね。その娘がアダムを城に入れてくれたおかげで、我々は城に侵入することができました。御協力、どうもありがとうございます」

 

「私――ッ!」

 

 何を言おうとしたのか、自分でも分からないまま。私は言い掛け、思わず王様を見てしまった。私のせいでめちゃくちゃにされたこの国の、主を。

 

「アルマ」

 

 ひゅうひゅうと危険な感じのする呼吸音を響かせながら、王様が口を開いた。

 

「気にするな。お前のせいではない。余計な心配をせずとも、この国は魔物なんかに負けやしない」

 

 目頭が熱くなる。喉が詰まる。何か言いたい。言いたいのに、言葉が出ない。

 

「死に掛けの老人が、何を強がっている?」

 

 馬のような魔物が鼻で嗤って、王様を拘束する腕に力を込めた。王様の顔は痛みに歪んだけれど、強い光を宿した目はこちらから逸らさない。

 

「話の続きをしましょう、アダム。おまえに良いことを教えてあげようと思っていたのです」

 

 ゲマがゆったりと両手を広げる。その動作の気安さとは裏腹に、隙が無い。

 

「おまえの友達――リュカと言いましたか。あの少年の目を見て、確信しました。おまえとあの子には、同じ血が流れている」

 

「でたらめを言うな! リュカは私の息子だ!」

 

 カッとした様子で、パパスさんが怒鳴った。

 

「ほう――ではあなた、マーサの夫……グランバニアの、デュムパポス王であると?」

 

 目の前の人間の怒りに対して、魔物はニタニタと愉快そうに嗤う。パパスさんが顔を強張らせた。怒りよりもさらに深い感情。ピリリと肌を刺すような殺気。

 

「それでは……もしや、お前が妻を……妻は、光の教団にいるのか?」

 

「ほっほっほ。それを教えてやる義理はありません。ですが、これでラインハットの王子たちだけでなく、あの子にも光の教団へ来てもらう理由ができました」

 

 けれど、私はパパスさんの殺意に恐怖はしなかった。抱いたのは共感。この魔物を絶対に殺してやると、明確な殺意が、私の中で急速に、冷え冷えと組み立てられていく。

 

「絶対に、そんなことはさせない……!」

 

 私は手のひらに神経を集中させる。イメージは、マリベル様が易々と扱っていたジゴスパーク。私の稲妻とは比べ物にならない破壊力を誇る、地獄の雷だ。

 

「アダム! よく聞きなさい! そして自分で判断するのです! おまえとあの子には同じ血が流れている。だが、お前の父親は目の前のグランバニア王ではない。お前を愛してくれるのは、お前の父親しかいないのです!」

 

「黙れ!」

 

 パパスさんがゲマに斬り掛かる。今度は魔物の腕が少し切れた。

 

「やれやれ。落ち着いて話も出来やしない」

 

 パチン、とゲマが指を鳴らすと、ごきりと嫌な音が謁見の間に響いた。悲鳴を上げた王様と、声が出ないが苦しそうに顔を歪めるアダム。二人の腕はおかしな方向に折られていた。

 

「貴様ッ!」

 

「デュムパポス王、あなたに選ばせてあげましょう。『娘』もろとも、殺されるか――。全てを見殺しにして、我々に戦いを挑むか」

 

 パパスさんが唇を噛んだ。血の滲んだ唇で、彼は低く、低く、呻くように言葉を紡ぐ。

 

「アルマは私の娘ではない。引き取っていただけの、見知らぬ子どもだ。アルマとアダム、ラインハット王の三人の無事を約束してくれるなら、私は――」

 

「ダメだよ! パパスさん!」

 

 バチバチ、と私の手元で雷光が音を立てる。呼吸がつらい。頭が痛い。自分のスペックを超えることを無理やりにやろうとしていることに、体が、脳が、悲鳴を上げている。

 

「そんなの、絶対にダメ――!」

 

 私の手から、紫電がほとばしる。鼻からつうっと血が垂れていくのを感じた。

 

「アダム! 王様! 逃げて!!」

 

 二匹の魔物を直撃する雷。マリベル様が扱うものとは全然違う、弱い稲光。地獄の底っていうより、地獄の門の手前で呼び出したような不完全なものだ。

 

 それでも――パパスさんの動きを助けるのには、一役買えたようだった。

 

 素早く二匹の魔物に接近して斬りつけ、二人を救出したパパスさんは、彼らにキメラの翼を押し付けた。ここは室内。すぐには使えないだろうが、幸運なことに二人がやられたのは腕だ。足は生きている。すぐに屋外に脱出すれば、この窮地を逃れることができるはずだ。

 

「パパス……」

 

「何も言うな」

 

 王様はこくりと頷いて、動けないでいるアダムの手を使える方の腕で掴んだ。

 

「アダムを連れて行かれるのは困りますねぇ。……そうなるくらいなら、ここで処分してしまうこととしましょう」

 

 ゲマの手から極大の火球が放たれる。仲間のはずの魔物の存在も無視して、アダムたちのいる方へと向かうそれ。全てがスローモーションに見えた。私は何かを叫んだ。なんて叫んだかは分からない。皆がいる方に手を伸ばした。

 

 轟音と共に、三人がいた方を焦がして消失した火球。二人を抱えたパパスさんが、半身に火傷を負いながらもなんとか逃れたようだというのを視界に入れて、力が抜ける。――抜けてしまった。

 

「さて、デュムパポス王。教えていただけませんか? 三人の王子たちの居場所を」

 

 一瞬の隙に、私の体は魔物の腕に捕えられていた。次元の違う戦局。一瞬で、あらゆることが移り変わる。

 

 私は首に手を掛けられた状態で宙ぶらりんになっていた。息が苦しくて、魔物の手をがりがりと引っ掻くが、なんの抵抗にもなっていない。

 

「アルマを放せ!」

 

「ええ、いいでしょうとも。ですが、王子たちの行方が先です」

 

「言っちゃ……だめ……」

 

 掠れた小さな声は、果たして彼に届いただろうか。

 

「教えられないというのなら……そうですねぇ。この娘を殺した後、グランバニアにでも行きましょうか。六年前は王妃を攫っただけでしたが、今回は国をめちゃくちゃにしてやるとしましょう。何、王に見捨てられた国。いずれは滅びる運命だったのです。それが少し早まったくらいで――」

 

「サンタローズという村だ」

 

 ゲマの言葉を遮って答えたのは、ラインハット王だった。

 

「我が息子はそこにいる。アルマを放せ」

 

「なぜ――」

 

 意識が遠のいてきたと思ったら、激しい衝撃に体が打ち付けられた。ゲマが私から手を放したのだ。せき込みながらも、絶句している様子のパパスさんへと視線をやる。

 

「友よ。わしはそなたの重荷になるわけにはいかない。今度は、ラインハット王が傭兵に命じるのではなく、一人の友として、頼みたいのだ。息子を、守ってくれ。そなたならできるな」

 

 私はゲマが追ってこないのをいいことに、パパスさんの側へと駆け寄った。ラインハット王が、ゲマの方へと歩いていく。

 

「ああ! ああ、なんと素晴らしい友情であることか!」

 

 芝居がかった様子のゲマは「いつまでそうしているのです、おまえたち」と倒れていたジャミとゴンズに声を掛ける。二人の救出を優先させたパパスさんは魔物たちの命を奪っておらず、彼らはふらつきながらものそりと立ち上がった。

 

「さて、ラインハット王。あなたのその言葉が本当であったのなら、王子たちは殺さないと約束しましょう。教団のために働いてもらうことになりますがね」

 

 魔物たちが油断なく、ゲマの傍に控えるように移動する。息を荒くしながらも、どっしりとした構えで、近づいてくるラインハット王ではなく、私たちを睨みつけていた。

 

「そうか」

 

 また一歩、ラインハット王がゲマに近づく。ゲマはニヤニヤと笑ったまま、ジャミとゴンズは意識を王へと向けないまま、パパスさんは油断なく構えながら私とアダムを守るように立ったまま。

 

「だが、お前には頼まない」

 

 ラインハット王だけが、歩を進めていた。

 

 

 剣さえあれば、攻撃の当たる距離。けれどゲマは動かない。人を見下し切った表情で、にやにやと笑うだけだ。

 

「わしが息子たちを頼むのは、友であるパパスただ一人」

 

 そのとき、ふと、ラインハット王の体から光が漏れ出ずる。その光は、希望の光というよりも――。

 

 

「アルマや。そなたがこの城に来てくれてよかった」

 

 全てを白く染める、破壊の光。

 

 

 ――そんなはずないのに。

 

 王様が守ってきたこの国をめちゃくちゃにしてしまったのは私なのに。

 

 私がこなければ、あなたは「そんなこと」しなくてよかったのに。

 

 

 パパスさんが、多分彼の名前なんだろう、知らなかった名前を叫んだ。噴き出る光に呼応するように、あるいは友の呼び掛けに応えるように、その人は微笑んだ。

 

 ――どうして、そんな風に笑うの。

 

 

「メガンテ……! チィッ!」

 

 対照的に、初めてゲマの表情が崩れた。刹那、信じがたい衝撃と共に、爆発が起こる。私たちは、不思議なことに爆発には巻き込まれなかった。余波で起こった風にあおられ、壁に打ち付けられた痛みはあったが、それだけだ。

 

 

「やってくれましたねぇ……! ラインハット王……!」

 

 

 魔物の怨嗟の声が聞こえ、私はふるりと身を震わせながらパパスさんの姿を探した。

 

「地獄へ送ってやるとしましょう……! そうまでして守りたかったもの全てを!」

 

 パパスさんはすぐに見つけることができた。私は彼に駆け寄る前に、倒壊し始めた城を脱出するべきか、半身がどろどろに溶け、残りの半身もぼろぼろに傷ついた魔物にとどめを刺すべきか少し迷った。

 

 ――でも、このままでいたら、みんなが危ない。

 

 こうなったのは私のせいだ。それに、この魔物をここで仕留めれば、その後の憂いはほとんどなくなると思っていいだろう。何せ、ゲマはリュカに立ちはだかる最大の障壁と言っても過言ではない。それをここでどうにかできたら。

 

 私がうだうだと考えている間に「アルマ!」と叫ぶパパスさんの声が聞こえる。彼に突き飛ばされると、私がそれまでいた場所には鎌が突き刺さっていたのが見えた。音もなく投擲されたらしいそれは、あまりに禍々しい見た目だ。

 

「アルマ。アダムを連れて逃げろ。私はすぐに行く」

 

「そんな……!」

 

 パパスさんは強い。だけど、手負いとはいえゲマだって強い。ちらり、とアダムに目を向けた。彼は意識を失っているようで、壁際に横たわっている。

 

「おおおおお!」

 

 雄叫びと共に、パパスさんの剣がゲマの胸に深く突き刺さる。嫌な予感が拭えなくて、私はパパスさんに言われたことを無視して、そちらに駆け寄った。

 

 カチリ、とまるで開けてはいけない錠に鍵を挿し込んでしまったように、完成させてはいけないパズルにピースをはめてしまったように、音が聞こえた気がした。

 

 ぶわり、と肌が粟立つのを感じる。

 

 それは悪意。それは殺意。それは絶望。それはありとあらゆる負の感情。ゲマの体から黒い霧が立ち上った。

 

「地獄の魔手で、永遠の苦しみを与えてあげましょう。こちらもただでは済まないのが難点ですが……」

 

「パパスさん!!!」

 

 手を伸ばす。ぎりぎりのところで、パパスさんの足に縋りつくことができた。黒い霧に呑まれる。視界がゼロになる。だけど手は離さない。

 

 

 ――大丈夫。大丈夫だと言って。

 

 

 カラン、と音がした。武器を捨て、パパスさんがその両腕で私を抱きしめた。

 

 

 ――勇者様。

 

 

 胸が熱い。熱い。熱い。熱を奪っていくような闇の世界の中で、私の胸だけが、ひどく熱い。地の底で波打ち、熱風を吹き付けてくるマグマのように。

 

 

 ――あなたがそうしてくれたように、私も、私の『世界』を救ってみたかった。

 

 

「マーサ……リュカ……!」

 

 音さえも吸い込んでしまいそうな闇の世界で、パパスさんの呟きが耳に残った。




パパス レベル27
ちから:117 すばやさ:35 みのまもり:79
かしこさ:95 うんのよさ:92
最大HP:410 最大MP:65
呪文・特技:ホイミ、ベホイミ

(攻略サイト参照)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。