リリカはゴールドオーブに釣り合うように、と「目覚めの粉」と「悟りの書」という巻物、ついでにメダル王から賜った「奇跡の剣」と「神秘の鎧」を彼らに譲った。
「でも、王様もせっかくなら三つくれればよかったのになぁ」
「リリカさんも言ってたじゃないか。あの二つは掛かっている魔法も似てるし、王様が僕ら二人とリリカさんって分けて考えてたなら、釣り合いの取れた物だったって。一人一つだったとしたら、同じような価値の物じゃないと不公平になっちゃうから、そういう物が他に手元にないなら間違ってないって」
「まあ、そりゃそうだけどよ。リリカさん、商人だけどちょっと損得勘定甘い気もするぜ」
その損得勘定の甘い女商人は、タイミングよく訪れた内海をめぐる定期便に乗っていた行商人から花飾りを買い取っていた。
白い花を模った、髪飾りにもブローチにも使えそうな、可愛らしい花飾り。「花、あるいはそれを模した物がないか」と特徴的な口調で尋ね、「これくらいしかない」と差し出されたそれを、彼女は迷いなく買い取っていた。
その時のあまりに凛と伸びた背筋が、細いのに頼りなさを感じさせない肩が、大人びた横顔が。
彼女の強さと、弱さと、――彼女のあらゆることを表現しているような気がして、リュカもヘンリーも、声を掛けられなかった。
買い物を終えた彼女は城の裏手に向かって、目立たない場所にそれを置いた。本来は女性への贈り物として作られたのであろう花飾りは、穏やかな空気の流れる島にあって、特に違和感は抱かせない。リリカは少しの間膝を付き、目を瞑り、――おそらく、死者を弔っていた。二人も、彼女に倣ってその可憐な花飾りへ手を合わせた。光の教団を信仰していたとはいえ、騙されて非業な死を遂げた人に、せめて安らかに眠れるようにと。
そんな二人を見て、リリカは微笑みを浮かべた。それから、せっかく訪れた定期便に乗り遅れる前に、と手を振って自身の旅へと戻ってしまったのだった。
出会いもあれば、別れもある。それは悲しいことじゃないと、ようやく思えるようになってきた少年たちは、外海へ出るために出航準備を手伝うことにした。
悲しいだけの出会いにしたくないから、頑張ろう。リリカはそう思わせてくれた。再び出会えることをあれほど強く信じて旅をする人を見ていたら、自然も自分たちも前向きになる。
「そんなこと言ったらルドマンさんだってそうだよ。案外、すごい商人ほど細かい損得については考えないのかもよ」
「あ、確かに。うーん、やっぱ器のデカさってのは人柄に出るモンだよなぁ。ま、オレは『浮浪児のアンドレ』だから別にいいけど」
おどけるヘンリーに、リュカはけらけらと笑う。
二人はリリカに、世界を旅するなら一緒に来ないかと誘おうとして、そうはしなかった。お互いに相談せずとも、自分たちの旅に付き合わせるわけにはいかないと理解していたからだ。リリカは仲間に会うためにオーブを探す旅をしている。けれど、二人は悪に立ち向かい、リュカの母親を救うためにあれこれ探さなくてはならない。オーブを探すだけよりも、よっぽど危険が付きまとう旅だ。リリカが「善い人」であればあるほど、誘ってはいけないと強く思った。
「あのさ。オレ……自分でもオーブをリリカさんに譲ってたと思う。でも、本当によかったのか?」
急に神妙な顔になったヘンリーに、リュカは穏やかな表情を向ける。
「僕が持ってたって、使い道も分からないし。リリカさんなら、きっと必要な場所、必要な時に上手く使ってくれると思うんだ。もしも僕らにとってオーブが必要な時がきたら、そのときはリリカさんに会いに行けばいい。天空の勇者とその装備と同じさ。物の所在が分かってれば、迷わないだろ?」
自信を持ってそう言い切った親友へ、ヘンリーはがしがしと頭を撫でた。今日はよく撫でられる日だなぁ、とリュカはそんなことを思った。
「さあ、準備もできたし、出発しよう。エルヘブンで何か情報を得たら、すぐにグランバニアに戻ってみんなを元に戻してあげなくちゃ」
「あ、お、おう……いっそ誰かにラリホーでも掛け続けてもらいたいぜ……」
げんなりした顔でつぶやくヘンリーの頭を、リュカは撫で返した。
「子守歌でも歌ってあげようか?」
「リンクスと合流したら絶対お前にラリホー掛けさせて、その間やりたい放題に悪戯してやるから覚悟しとけよ」
慈愛に満ち溢れた提案を受けた親友は、額に青筋を浮かべ、撫でていた手をつねりながら睨んでくる。そんな彼に向けておどけた表情を浮かべ、少年はつねられて赤くなった手の甲をさすった。
「まったく、君ったら短気なんだから」
「悪いがお前よか気長だぜ」
そんな場面が一度でもあっただろうか、と疑問を浮かべながら、リュカは首を傾げる。呆れたように肩をすくめたヘンリーは、「さっさと行くぞ」を大嫌いな船旅を急かしてきた。
ふと、いつの日かあれほど恐ろしいと感じた海を覗き込む。
水面は瑠璃色で、「自分を犠牲にするな」と、――多分そういうことを言いたかったのだと思う――不思議な話し方をする優しい人を連想させた。「さみしい」と、真剣な眼差しでそう言った彼女が、いつか会いたい人に会えればいいと思う。彼女と約束したように、リュカだって、みんなが幸せになれる道をいつだって探していく。
恐ろしいとしか思えなくなっていた海から、この日リュカは初めて勇気をもらえた。
瑠璃色は勇気をもらえる色だ。優しく、賢く、「さみしい」と言いながら決して諦めないその人が、背中を押してくれるような気がするから。
***
最初に動き出したのは、ゲレゲレだった。気まぐれな「暴力」は己の放った棍棒を拾うために、のそりのそりと鷹揚な様子で歩き出す。魔物が初めの一歩を踏み出した瞬間、勇敢なキラーパンサーは、怯えて震える同胞の首根っこを咥えて、ソレから距離を取った。
ねちゃ、と嫌な音をたてながら、棍棒が血の糸を引く。
相棒が動き出したことで、デールもようやっと動くことができた。カンダタも同様で、三者は別方向に「暴力」――ゴンズから離れることに成功した。もっとも、この場における絶対的強者である自負があるのか、魔物はそんなことは意にも介さず、血濡れの棍棒を持つのとは反対の手で、形の残っている死者の胴体から腕を引きちぎり、むしゃむちゃと口元を赤く染めながら咀嚼している。
その凄惨な光景を目にしながら、カンダタは奥歯を噛みしめた。
「リンクス、もう一度言う! こいつとどんな因縁があろうが、撤退だ!!」
「そんなの……」
唾をまき散らしながらびりりと大気を震わせる程の大声を出したカンダタへ、デールは目を向けられずにいる。それは単純に、ゴンズから目を離してしまった次の瞬間には死が迫っていてもおかしくないと理解しているから。それから、そういった切迫したアレコレを度外視したとしても、感情として、彼の方を見ることができるはずもなかった。
「分かってます、よッ!」
魔物の一振り。幸い、素早いデールには避けられた。けれど、完全に避けて、かすりもしなかったはずなのに、頬の薄皮が切れてめくれ、一筋血が流れる。
ただの風圧。それだけでも、十二分に脅威となりえることを理解せざるを得なかった。
撤退できるものならしたい。臓腑を溶かすようなどろどろとした感情が己の中でとぐろを巻いているのも事実だ。けれど、一度は引きちぎられた理性が、共に戦った「仲間」のあまりに唐突で悪辣な死によって繕われ、形を成してきた今。どうあがいてもこの魔物に勝てないことはデールだって理解しているし、最善が撤退であることも、もちろん分かっている。
それでも、想像なんてしたくないのに、脳裏を過ぎるのは自らの死だ。
――ボクは、こんなところで死んでやれない。
走馬灯のように、デールの脳裏に一瞬でこれまでの出来事が駆け巡り、彼は奥歯を噛みしめた。
「ふぅむ。封印明けの食料にはちと足らんな。……まあ、すぐに腹いっぱいラインハットの民を食らえばいいか」
ゴンズの言葉で無益な想像を振り払う。勝てなくったって、死んだって、どうにかするしかない。この魔物を世に放つわけにはいかない。足がすくみそうになるのを、デールは己の手首を一度さすって気持ちを落ち着かせ、それから武器を構えた。
「ルカニッ!」
しかし、魔物はひらりと避ける。守備力低下呪文は床にぶつかり、デールは何度も魔物目掛けて呪文を放っては避けられてしまっていた。
「リンクス! 焦って連発なんかしても意味ねぇぞ!」
「その男の言う通りだ。まあ、当たったところでそんな呪文、大した効果はないがな」
デールの顔からはだらだらと汗が流れている。息も上がっており、見るからに普通の状態ではなかった。そんな少年を見かねて、カンダタは彼の前に庇うように立つ。ゴンズは愉快そうに嗤った。狙いを逸らそうとばらけた立ち位置にいたはずの者たちが、結局集結する。当然だ。あの子どもはラインハットの血を引く者であるのだから。
ゴンズの目当ても「子ども」であり、人間とキラーパンサーたちが守りたいのもまた「子ども」だろう。
「カンダタさん……」
ほっとしたような表情で、子どもが男に何かを話し掛けている。機嫌のよいゴンズにとってその内容はどうでもよく、どうやってあの子どもを食らってやろうか考えていたところだった。
殺してからではつまらない。生きながらにして、まずは指の一本ずつ味見してやろう。痛みと絶望と恐怖で歪んだ顔を眺めながら、その血を啜るのもいい。そのためには、うっかり死んでしまわないように手加減をしなくては。
「ッチ、化け物が! 近づいてくんじゃねぇよ!!」
「ガウ!!」
同時。カンダタの斧がゴンズへ正面から迫り、キラーパンサーの牙が背後から迫る。だが、そんなものは彼にとっては簡単に避けてしまえる、つまらない攻撃だった。
「お前はあまり美味くなさそうだなぁ。硬そうで、臭そうだ」
軽々と避けたゴンズに対し、勢いを殺せなかったカンダタは斧を思い切り挿し、自身は魔物からの追撃を恐れて受け身を取りつつ距離を置く。同じく獲物に避けられたゲレゲレは、天性の脚力を以ってして体勢を崩さず着地した。
「だがまぁ、馳走は後に取っとくのがよいだろう。安心しろ、全員仲良く腹の中だ」
ゴンズの巨大な口が大きく開き、怯えて動きが鈍っていたプックルへと迫る。それを庇ったのは、デールだった。
「ぐっ、……!」
急所を庇うように前に付き出した腕があまりに無残に粉砕される。骨が砕かれ、衝撃で弾けた血肉はデール自身を汚し、醜悪な魔物は満足げに咀嚼をしていた。
「ああ、味わいたかったぞ! どれほど待ちわびたことか、憎きラインハットの者よ!!」
「ぐ、うッ……あ、……ボ、ボクも……!」
元に戻すどころか、止血をしなければ命が危うい怪我である。痛みに視界がぶれ、本能が警鐘を鳴らし、並みの者なら死の恐怖に心が折れるであろう状況の中――デールは、笑った。
「待って、ましたよ」
刹那。ゴンズは鼻先に嫌な気配を感じ取った。
デールの腕から漏れ出でる、己を死の淵へ招いたあの恐怖の光を思い出す。白い光だ。恐ろしい、命の光。全てを差し出し、全てを投げ出し、そうしてようやっと手に入れられる、禁断の力。吐き気のする、自己犠牲の成れの果て。
「貴様ッ……! もうこんなものに倒れてなどやるものか!」
光を発しているのは、ラインハットの血を引く子どもではなかった。魔物自身が噛み千切った腕、その手首にあった腕輪。
「倒れなくて、結構」
ゴンズの魂に刻まれている「恐怖」よりは、薄く、弱い力の本流だった。それに違和感を抱きながら、防御の姿勢を取っていた己へのダメージはさほどないことに気付く。
「なッ!?」
そう、ゴンズへのダメージは。
けれど塔の床にとっては、耐えきれないものであった。デールにより意図的にたっぷりと魔力を込めた守備力低下呪文を重ね掛けされていた床は、本来の強度よりはるかに脆くなっていた挙句、生命力を糧にぶつけられた爆発により、巨大な魔物一匹の体重を支えることが出来なくなってしまったのである。
それは致命的な隙だった。翼のない魔物は階下に落ちていくときに、ろくな身動きを取ることもできない。体を打ち付けたところで死にはしないだろうが、落下の間、魔法使い――聖なる呪文の適性が高く、城や町を守る結界の知識も深いデールに時間を与えてしまったのは、どうしようもない「悪手」だった。
あるいは彼が封印から目覚めたばかりでなければ、戦いの勘や獰猛な本能に従って、落ちる瓦礫にその脅威的な跳躍力をぶつけて屋上に戻ることもあったのかもしれないが。
所詮は「かも」の話である。
「貴様ッ! 貴様ァー!!!」
本来であれば、彼の父親がしたように、メガンテは術者の命を消費して発動する魔法だ。デールが使用したメガンテの腕輪も、本来は装備している者が命尽きたときに、込められた魔法を発動するという道具である。
だからこそゴンズには理解できない。
「その魔法」は威力を調節できるようなものではないのだ。「その魔法」は、死と引き換えの発動でなければならないはずなのだ。
「神よ、ここに我が封域を創りたる。御名のもとに我が彼を閉ざし、御力によって我が彼をここに縛り、我が命を以って守人とせん。神とその忠実な子らである我らに牙をむく邪悪なる存在を永き眠りの世界へ誘え!」
――それがどうして、この子どもは生きているのか。
デールの体が淡い青色の光を纏い、その光が彼の心臓がある位置で収束した。それと同時に、落下していたゴンズの体が宙で止まる。それから、目に光が失われ、剥製のように生気を失ってしまった。
「や、やったのか……?」
カンダタが、不思議に宙に浮いたままの魔物を覗き込む。デールは心臓を押さえながら蹲り「封印、しただけ、です……」と苦しげに、呻くように言った。
「お、おい。大丈夫か?」
意識を魔物からデールへ移したカンダタが、片腕を失った少年へとベホイミを掛ける。少年自身が扱う上級回復魔法であれば失われた腕も元通りになったかもしれないが、カンダタの魔法では元通りにはできなかった。
「これのどこが大丈夫に見えるんですか……。封印は成功したので、あの魔物は動けないはずです。空飛ぶ靴を探しましょう」
「お前……本気で盗賊に向いてるぞ」
ぐったりとする相棒を気遣うようにその頬を舐めるゲレゲレが「なうん」と心配そうな声を出した。力なく微笑みを返したデールは、呆れたような顔をしているカンダタの覆面の奥にある瞳をじっと見つめる。
「ボクは大丈夫……。それより、行きましょう。魔力がすっからかんで、蘇生呪文が唱えられません。この先に魔力を回復する道具があったら……」
つらそうに立ち上がったデールの脇に手を挿し込み、カンダタはその軽い体を抱き上げた。
「呪文を掛けても、あいつは戻ってきやしねぇさ」
それから、荷物のように少年を肩に担ぎ、原形を失ってしまった子分へと向き直る。
「お前、知ってるか? 死ぬのは誰だって恐ろしい。死の恐ろしさを知った者が、どうして『もう一度死ぬ』ことを受け入れられる? 生きていれば、どんな形であれ、いずれ行きつくのは死だ。恐怖の最中死んだ魂は、決して『こちら』へは戻ってきちゃくれねぇのさ」
それは、恐怖に負けてしまう魂への侮蔑ではなく、「恐怖の最中死なせてしまった」自分を責めるような口調だった。それに気付いてしまったから、デールは次の言葉を紡げなかった。
確かに、デールは完全蘇生呪文であるザオリクはまだ使えないけれど、ザオラルならば使える。ザオラルは、ザオリクよりも「光」が小さいらしい。それでも、魂が戻るべき場所を示す「導」ともいえる光が乏しくても、戻って来れる魂だってある。
「俺様は母親の顔も知らねぇが、そのロクデナシの母親は生まれたばっかりの俺様を教会に棄てたそうだ」
ぽつり。小さな声で、彼は肉塊を見つめながらそんな話を始めた。肩に担がれていて、しかも相手が覆面をしているので、デールには彼がどんな表情をしているのかが分からない。
「どうやって手に入れたのか知らねぇが、棄てたことへのせめてもの罪滅ぼしだったのか、俺様と共に、こんなモンを置いていきやがった」
カンダタが魔法の掛けられた袋から取り出したのは、先端に天使が象られた杖。それを見て、デールはその杖の名前が分かってしまった。
「復活の杖……」
死せる魂をも呼び出す、強い魔力と祈りの込められた聖なる杖である。かなり希少で、市場に出回ることすらほとんどないという代物だ。
「今までに何人か、ヘマして死んじまった子分もいたよ。だがな、そいつらみんな、こんな杖なんか使ったって戻ってきちゃくれなかった」
あまりに悲痛な声に、デールにはなんと言葉を掛ければよいのか分からない。デールだって、近しい人の死を間近で見たことがあるし、その訃報にどうしようもなく悲しんだこともある。
けれど、デールには諦めることができた。諦めない覚悟もできている。
亡くなった人たちには覚悟があって、デールはそのときその場にいなくて、蘇生呪文だって使えなくて、そもそも蘇生呪文が通用するような状況ではなくて。
それに、デールはもし自分が死んでも必ず生き返るという意思があるし、ゲレゲレだって、リュカだって、もちろん敬愛する兄であるヘンリーだって、呼び掛けたら応えてくれるだろう。
――けれど、唐突に降ってわいた死だったら。その場にいるのに、どうしようもできなかったら。蘇生呪文が使えるのに、相手がそれに応えてくれなかったら。
それはどれほどの痛みだろう。それは、どうやって自分を納得させたら良いのだろう。
「生き返るもそのまま眠るも、自分で選べばいい。こんな杖は自己満足の塊だ。それでも、戻ってきちゃくれなくったって……死に顔を整えてやるのが、不甲斐ない親分のつとめだろう」
ぽわ、と杖の先端の天使が光を帯びた。その泣きたくなるほどに優しい光に包まれ、肉塊はやがて安らかな顔を浮かべる人間へと戻ってゆく。
「あ……あ、……」
本当はカンダタの方が泣きたいだろうに、彼は泣かなかった。嗚咽を漏らして涙を流したのは、デールの方だった。
「空飛ぶ靴だったな。さっさと回収するか」
靴はすぐに見つかり、カンダタは無言でそれを回収した。ゴンズが現れた方角にあった階段を下った先の部屋に、ぽつんと置いてあったのだ。それから屋上へと戻った彼は、デールを肩から下ろして子分の亡骸を抱き上げる。キメラの翼を使ってアジトへ戻ったすぐあと、全員へとへとだったけれど、彼の死を仲間に伝えてみんなで墓を作った。
「ボク、あなたのこと、忘れませんから」
返事がないことなんて分かっていながら、言わずにはおれない。それが自己満足だということは、自分が一番よく分かっていたけれど。
胸の痛みに顔を歪めながら、デールはただ一心に、片腕で墓を掘った。そして、墓にはそっと花を添えた。野に咲く花を摘んだだけの、簡単な花束だ。花なんて、彼は望んでいないだろう。だけど、デールがそうしたかった。どうしても、彼に花を供えたかったのだ。
二頭のキラーパンサーが、少年へと寄り添う。
彼はまた、涙が溢れるのを止められなかった。
「兄さま……ボクは……弱いです……」
蹲り、デールは残った腕で脈打つ己の胸へと手を当てる。あれほど己の弱さを赦せなくて、努力してきたと思っていたのに。
「兄がいてくれたら」という思いと、「兄にはこんな姿を絶対に見られたくない」という思いで、デールはやっぱり、己の弱さが赦せなかった。