転生幼女がDQ5にインしたようです   作:よつん

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覆水

 

 

 デールは回復魔法で元に戻った腕を眺めて、ひとつため息を吐いていた。いや、「元に戻った」という表現には語弊があるからこそ、ため息を吐いた。

 

 骨も、肉も、形としては元の通り再生している。けれど、その皮膚――ちょうど、ゴンズに食いちぎられた肘から指先までの部分がどす黒く変色し、ぴくりとも動かないのだ。メガンテの腕輪を利き手ではない方に付けていて助かった、と彼は思うことにした。

 

「にゃあん」

 

 頭をデールの足に擦りつけながら、プックルが申し訳なさそうに鳴く。そんな彼女の頭を撫でてやったデールは、にこりと笑い掛けた。

 

「プックル、君が無事でよかった」

 

 デールがその作戦を思いついたのは、元よりゴンズが封印されていたという状況からである。封印は、二匹の魔物の命と引き換えになっていた。オークの命で第一の鍵が開き、キメーラの命によって第二の鍵が開く。二重の封印がなされていたというわけだ。

 

 

 己の死を想像せざるを得ない極限の状況の中で、デールは己の命を代償にあの魔物を封印してやろうと思った。ただし、こんなところで死んでしまっては元も子もない。

 

 デールの目的は、兄であるヘンリーと、友であるリュカと一緒に天空の勇者を探し出し、リュカの母親を救出すること。きっと、海に落ちてしまった自分を彼らは心配していることだろう。だからこそ、絶対に再会しなければならなかった。彼らにだけは、理不尽に身内を亡くす苦しみをもう二度と味わってほしくなかったから。

 

 デールには攻撃呪文の適正がない。だからこそ、自分にできることを増やそうと、「適性のある魔法」や「町などを守る結界」、「邪なるものを封印する魔術」についての研究をしてきた。幼い彼には技術や理解が追い付かないことも多かったが、いろいろ試していく過程で、「自分に最も適性のある系統」を発見したのである。

 

 

 まさしくそれが、命を犠牲にする魔法だった。

 

 

 己の命を賭して敵を滅ぼす「メガンテ」、自らの命と引き換えに仲間の肉体を癒し魂を呼び戻す「メガザル」。もちろん、実際に試したことはない。そんなことをすれば兄から大目玉では済まない叱責を受けていたことだろう。

 

 けれど、理解してしまったからには、仕方がない。

 

 魔法使いにとって己の内をめぐる魔力に気が付くことは、呪文を覚えるよりも最初にすべき、基礎の基礎である。だから、いくら呪文を覚えようと、己の魔力に気が付けない者は魔法を使えない。これについては、師の教えを受けて訓練により気が付く者もいれば、自覚がなくとも自然に分かっている者もおり、デールとヘンリーは前者であった。王宮で家庭教師に習ったのである。一方、リュカは旅の中で自然と己の中の魔力に気が付き、父が掛けてくれた癒しの魔法を自分でも使えるようになった。

 

 そうして、魔力に気付き、自分にできることに気が付く。内なる力がどんなふうに変質するのか、理屈じゃなく感覚で理解していく。優れた魔法使いはその感覚が鋭く、微弱な性質であっても感じ取って訓練することができるため、使える魔法の種類が多いのだ。

 

 一般的に、子どもは感覚で理解できても、理屈としては理解していない場合も多く、それゆえ高度な魔法は扱えない。

 

 しかし――デールは「一般的な子」ではなかった。

 

 幼少のころより英才教育を受けていた王族であり、旅の中で実践する機会があり、そしてどうしてもやり遂げたい目標と、消化しきれない思いを抱えている子どもである。「それ」に気が付いたのは必然だった。

 

「なうん」

 

 プックルはその「子ども」の言葉に納得していないような声を出しながら、撫でてくれるその小さな手の平に、自分の頭を「もっともっと」と擦りつける。

 

 ――もしかして、ゲレゲレもプックルも、ボクの身に起きたことが分かっているのかもしれない。

 

 デールはそんなことを考えながら、しゃがみこんでプックルの首に抱き着いた。あの日以来、大きな猫たちはデールに対して妙に過保護に心配そうな視線を向けてきたり、どこに行くにもひっついて甘えてきたりする。ゲレゲレは先ほどカンダタに呼ばれてしぶしぶついて行っていたので、何か手伝っているのだろうが、そういった用事がなければ彼らは常に一緒にいた。

 

「大丈夫だよ。ボクは死なないから」

 

 

 そう、死ねるはずもない。

 

 

 デールはあの日、塔の魔物たちがそうだったように、己の命をゴンズ封印の鍵とした。自分が死ねば、あの凶悪な魔物が甦ってしまう。だからこそ、以前にも増して絶対に命を落とすようなことがあってはならないのだ。

 

 

 メガンテの腕輪は所有者の「生命エネルギーの流出」に反応する。一方、メガンテは術者が自らの意思で命を捧げる魔法だ。そのため、同じ生命エネルギーを基にして爆発を引き起こすものであっても、その性質は少し違う。デールはその性質の違いを利用した。

 

 プックルを庇い、命の危険が目前に迫ったことで、彼はためらうことなく自らの生命エネルギーを不可視の鎖としてゴンズへまとわりつかせた。所有者から生命エネルギーが流出したことで発動した腕輪の術式は、しかしエネルギー量が少なかったことで本来の威力を発揮することなく、魔物ではなく塔の床を粉砕。隙が生まれたゴンズに対して、「鎖」で固定したデールは一か八かの賭けに出た。

 

 己の持つ知識、技術、魔力の全てと、目の前にいる邪悪を封じるために必要なだけの生命エネルギーを注ぎ込んだのだ。

 

 成功するかも分からない、「できるかもしれない」なんて構想をしていたわけでもない、その場しのぎの大勝負。

 

 そして少年は、勝負に勝った。

 

 ――だけどこんなこと、誰にも言えないな。

 

 ふう、とデールはプックルから体を離しながら息を吐いた。

 

 

 生命エネルギーは魔力ほど使い勝手が良いものではなく、それゆえ自在に操れる者はほとんどいない。喩えるとするならば、生命エネルギーは器に入った水で、魔力は泉から湧き出る水だ。前者は容量が決まっており、減ってしまったら自然に戻ることはない。後者は水源が枯渇するほどの無茶をやらなければ、減った水は自然と回復する。

 

 メガンテとメガザルは魔力も併用するため、コップの水をただひっくり返すだけで済む。魔力で容量を記憶しているから、ひっくり返って失われた水は、蘇生魔法で戻すことができる。

 

 けれど、どちらも特殊な魔法だ。教会で聖職者たちのする説法では、「神々の呪文」として登場し、多くのことが謎に包まれており、魔力と生命エネルギーを単純に併用しただけでは、そう上手くはいかない。

 

 兄もリュカも、カンダタでさえ、デールが「そんなこと」をしたと知ったら、怒るだろうし、悲しむだろう。

 

 もう誰も悲しませたくない。

 

 だからデールは、絶対に死ぬわけにはいかなくなった。死んで生き返れる保証はないし、生き返ったとして封印が元通りになるとも思えない。

 

 死ぬのであればそれは、あの魔物を――光の教団を、滅ぼすときでなくては。

 

 

 

 ***

 

 

 

 キラーマシンを筆頭として、レッドハンター、ミステリドールの猛攻も止まらなかった。降り注ぐ矢、肌を切り裂き肉を抉る剣と斧、物理攻撃だけに集中していると突然放たれる錯乱呪文。レッドハンターなんて、パパスさんにとってはそんなに強敵じゃなかったかもしれないけど、炎への耐性が異常に高いのか、私のメラミが全然効かなくて困った。

 

 ともあれ、いろいろな戦法を試しつつ戦ったり逃れたりすることができるようになった頃。この世界の出口を探そうと、奥へ奥へと歩みを進めていたのだが。

 

「うわ……」

 

 発電所のような雰囲気のある場所に出たと思ったら、その奥にまたもマシン系の魔物がいた。この世界の主だろう。勇者様たちが言うには、こういう魔物だらけのヘンテコな世界は、主を倒せば元の世界に戻れるらしい。

 

 けど。

 

 自分からは攻撃をしてこない魔物を前にして、私はパパスさんの方をちらっと見た。パパスさんの表情は険しい。魔物から視線を外さず、「確か、この世界から戻るには『主』を倒さねばならないんだったな?」と険しい顔のまま聞いてきた。その通りです。

 

「アルマ。補助呪文をありったけ頼む。行くぞ――」

 

 パパスさんが身構え、私が魔力を杖に込めた瞬間。

 

 

 パパスさんの首が、刎ねられた。

 

 

「え」

 

 

 何が起きたか、脳が処理を拒否した一瞬の空白。その次の瞬間、私は脳天から降り下ろされた金属製の棍棒のようなもので、頭蓋ごと体のすべてを砕かれた。

 

 

 

 死。

 

 

 

 痛みを感じる暇もなかった。見事なほどの即死攻撃。これがオーバーキルってやつか。なんてことは考えられなかった。

 

 そこは暗い世界だった。それは己の意識、その境界さえ曖昧になる、絶対の無。

 

 私はこの場所を知っていた。一度来たことがある。暑くも寒くもなくて、もちろん何も見えない、聞こえない、感じない。散り散りになっていく思考は溶け合って、己がなんなのかすら分からなくなって、このままそうして消えてしまえたら、つらかったこと、苦しかったこと、全てを手放して楽になれるんだろうな、とぼんやりとだけ思う。

 

 ――だけど。

 

 

「アルマ、こっちだよ」

 

 

 だけど、全てを手放すことはできない。生きることは怖い。死ぬことは恐ろしい。こんなことはもう、終わりにしたい。

 

 ――だけど。

 

「さあ、君の冒険を続けなくちゃ」

 

 だけど、そこに光が差し込んだから。鼓膜でなく、むき出しの魂を震わせるその声を、もう一度ちゃんと聞きたいから。

 

 

「……あ。おはよう、ございます」

 

「うん。おはよう、アルマ。大変な世界に行っちゃったみたいだね」

 

 そうだ、私は異世界で明らかに敵うわけのないモンスターに立ち向かった挙句、奮戦する間もなく虚しく死んだんだった。隣では一緒に死んだらしいパパスさんも起き上がっていて、「面目ない」と勇者様に頭を下げている。

 

 聞くところによると、私たちの遺体を異世界から回収した神様が、お仕事中だった勇者様の船に届けてくれたらしい。神様がその場で生き返らせてくれればいいのに。そうしないのには何か事情があるんだろうか。まあ、勇者様が生き返らせてくれたから別にいいけど。

 

「うん。アルマは『冒険』に向いてるね。死んだのにそんなに動揺してないもの。でもまあ、なるべく死なないようにね」

 

「はい。精進します」

 

 動揺、という表現が正しいのかは分からないけれど、パパスさんは呆然とした顔で自分の手のひらをじっと見つめていた。まあ確かになぁ。あの空間嫌だよなぁ。なんか試されてる感がすごいするというか、人間楽な方を選びたくなるから、やっぱり苦しみのない世界に早くいきたくなるわけよ。それを突っぱねるって、なんというか、戻ってきた瞬間にどっと疲れるのだ。これが戦闘中に死んで生き返ってたらと思うと、せっかく生き返ったのに、死の恐怖がすぐ目の前にあるわけでしょ。やってらんないよね。

 

「今からフィッシュベルに戻るけど、さすがにこのことはマリベルにもシャークアイさんにも一応伝えておくよ。危険があるのは分かってたことだけど、自分たちで対処できなかったわけだしね」

 

「ア! は、はい……」

 

 勇者様は別に怒っていなかったけれど、やっぱり心配はしてくれているようだった。私はマリベル様とシャークアイ様の反応がどんな感じになるか、予想できそうでできなくて、変な汗をかき始める。

 

「アルス殿……私は、皆さんにアルマを任せられたというのに、本当に不甲斐なく……!」

 

 「どうしよう」以外の言葉が頭に浮かばなくなった私を現実世界に引き戻したのは、正気に戻ったらしいパパスさんだった。両掌をぐっと握ってアルス様へ深々と頭を下げている。

 

 え。そんなそんな。パパスさんはあの殺人マシンたち相手に、私を庇いながら一生懸命戦ってくれていた。あの世界の主はどう考えても規格外だ。水も食料にも不安があるあの機械だらけの世界で、マシンの主を倒すまで経験を積むのは現実的ではない。だったら、この世界に戻ってくるために、敵わないかもしれないと思っていても挑戦するのは、まあアリだろう。

 

 まあ、私がこんなことを思えるのも、「この世界の神様の管理下なら生き返らせてくれるだろう。」って甘い考えがあるからなんだけど。死ぬのは良くないしもちろん死にたくないけど、生き返られるならガンガン挑戦できる。リュカたちの世界とは違い、あのマシンたちの世界は、アルス様たちがたまに行くい世界の特徴に当てはまった。だから、大丈夫だと思った。浅はかだと言われれば言い返せないが。

 

「まあまあ。危険なのはみんな分かってたことですから。『取り返しのつく範囲』でよかったですよ。でも――そうだな、どちらか、あるいはどちらも、蘇生手段は持っていた方がいいですね」

 

「それなら、私が」

 

 パパスさんと声が重なる。私たちは互いの顔を見て、それから頷いた。

 

「じゃあ、順番かな。アルマ、蘇生手段と言われて思い浮かぶのは何?」

 

「え? えーと、ザオラルとザオリク、それから天使のうたごえにせいれいの歌、でしょうか?」

 

 一応、吟遊詩人職を修めている私は「天使の歌声」という、ザオラルと似た効果の特技を使える。でも使ったことはないし、吟遊詩人にまつわる思い出が甦ってきそうで、実際使うときに雑念が入って成功率が下がるんじゃないかという不安があり、できればザオリクを覚えたいところだ。

 

「そうだね。呪文や特技じゃなくても、復活の杖とか、世界樹の葉とか、道具に頼るって方法もある。呪文も特技も封じられる可能性があるから、いろいろな手段があると、もしものときに助かるよ」

 

 「さすが勇者様……!」と、ハッとする。そういえば、リュカたちと冒険していたときに、道具係みたいなことをやっていたこともあった。経験値を積まねば、と自分で動くことばかりを考えていたけれど、道具を有効に使うことも、無理なく敵と戦うには大事なことだと、改めて気付かされる。

 

「ふむ。異世界というのは、想像だにしない強敵がいることも分かった。迂闊に踏み入れず、まずはじっくり実力をつけながら、この世界に散らばる石板を集める方が先決のようだ。その中で、便利そうな道具も集めていくとしよう」

 

「うん! これからの方針が決まったね」

 

「それじゃあ、フィッシュベルに戻ろうか」

 

 アッ、それはまだ心の準備が……。私は急に存在を主張しはじめた心臓を押さえ、空いている手でパパスさんの手を握った。ちらりと見たパパスさんは、覚悟を決めた顔をしている。すごい。

 

 さて、フィッシュベルに戻って、先にマール・デ・ドラゴーンに向かわせてもらうことにした。ほら、やっぱ、一番は父親であるシャークアイ様に報告しないとなって思って。

 

 私は自らの口で経緯を説明し、自分の見通しの甘さや、軽率に石板を使って異世界に行ったことの反省を伝えた。パパスさんも、一緒に謝ってくれる。

 

「謝ることではないだろう。今回は取り返しがついた。今後どうすればいいかも分かっている。アルマ、もう旅をするのはやめたいと言われる方が、オレとしてはがっかりしていたぞ。一筋縄ではいかない旅だとしても、取り返しがつくうちは、どんどん失敗を糧にするといい」

 

 イケメン……! 圧倒的イケメン力……!! いや、イケメンなんて軽い言葉で片付けるにはあまりに尊すぎる。器が大きい。私の語彙力が追い付かない。

 

「アルマ。父はお前がこうして戻って顔を見せてくれれば、それでいい。よくぞ『死』を乗り越えたな」

 

「…………!! はい!! 何があっても、絶対に戻ってきます!」

 

 私は感極まり、衝動に身を任せてシャークアイ様に抱き着いた。人間力が素晴らしすぎる。私もあやかりたい。なんて思っていると、「じゃ、次はマリベルのところだね」なんて朗らかに言うアルス様の声が背後から聞こえてきた。え、もうちょっとシャークアイ様を堪能してからじゃダメなんですか……?

 

「あんまり遅い時間になると、『泊まっていけ』って言われるよ。パパスさんはともかく、アルマは」

 

「すぐに行きます」

 

 もちろん私はマリベル様のことをすごく尊敬しているし、大好きな人の一人だ。そこに嘘偽りは少しもない。でも、説教が終わったとして、その後泊まっていくのは普通に気まずいだろう。五歳児に夜通し説教ということはないだろうが、私はアルマになってから、自分のやらかしで怒られるという経験に乏しいため、予測ができない。

 

「ハッハッハ。マリベル殿も冒険者だ。そう怖がらずとも、旅に危険がつきものだということは誰よりも理解しているだろう」

 

 シャークアイ様が朗らかに笑って、ぽんと私の頭に手を置いた。

 

「胸を張れ。お前は『死』してなお、挫けずに前を見ているのだ。誰にでもできることではない」

 

 ――死してなお。

 

 別に、この世界であっても「死」は軽く済まされるようなことではない。シャークアイ様の言葉も、表情も、真剣だ。もしかしたら、蘇生しても「死」から戻ってこなかった仲間だって、いたのかもしれない。悲壮感はないけれど、ただの「慰め」ではないと分かる、ずしりと重い何かを感じてしまう。私は意図して、笑顔を作った。

 

「はい。私、挫けません。リュカたちに悲しい思いをさせたままの方が、死ぬよりずっと、嫌だから」

 

 ぺこりと頭を下げて、私は船を降りた。マリベル様の家にお邪魔し、先程よりは覚悟が決まった状態で、自分たちの身に起こったことを話す。

 

 マリベル様は腕を組んで、静かに話を聞いていた。それから、メイドさんの出したお茶を一口飲んで、コトリとカップを置く。

 

「悪かったわね」

 

「えっ?」

 

「アンタたち、行く前に私に相談してきたでしょう」

 

 まあ、たしかにそれはそうだ。でも、相談に行ったのは、「リュカたちのところへ行くのはマリベル様を倒してから」という条件があったから、他の異世界にも適応されるのかと思って確認しただけ。マリベル様だって、「行きなさい」ではなく「行けば?」と言っただけである。

 

「マリベル殿。恥ずかしながら、手も足も出ずに死んだことで、私は己の未熟さを再認識いたしました」

 

「あら、何よ。だから旅をやめるとでも言うの?」

 

「いいえ。逆です。強敵と戦う経験をより積んでいかねばと思いました。そこで――」

 

 パパスさんはぐっと拳を握り、「私を鍛えてくれませんか」と頭を下げた。呆気にとられる私と、眉を寄せたマリベル様。パパスさんが、頭を下げたまま言葉を続ける。

 

「アルマに以前聞いたことがあります。マリベル殿は戦況をよく見ておられ、常に的確な意見をおっしゃっていると。それに、魔法にも精通し、手数も多いと見受ける」

 

「悪いけど、私は誰かに鍛えてもらった経験があるわけでも、戦いが好きなわけでもないわ。お断りよ」

 

 つん、とつれない様子で言ったマリベル様が「でも――」とくるくる髪の毛をいじりながら付け加えた。

 

「ガボなら、暇してるかもね。私より速いし、手数もあるし、遠慮もないから、丁度いいんじゃないかしら」

 

「……かたじけない」

 

 顔を上げたパパスさんがにこりと笑うと、マリベル様は顔をちょっと赤くして、「ふん。優しくて可愛いマリベルちゃんに感謝しなさいよ」と言いながら立ち上がる。それから、部屋の入口で控えていたアルス様のところまでつかつかと歩くと、ぽかりと肩を小突いていた。

 

「何ニヤニヤしてるのよ。むかつくわね。アンタ、アルマたちの旅にちょっかいばかりかけて、本業を疎かにしてないでしょうね? いくら大きな漁がない時期だからって……」

 

「もちろん、ちゃんとやってるよ。手なんて抜いたら、父さんにどやされるもの」

 

 くすくす笑うアルス様は、さすがと言うべきか、ぎろりと睨むマリベル様に対して全く怯んだ様子はない。

 

「じゃ、僕はもう家に戻るね」

 

「あ、じゃあ、私たちも。マリベル様、また、いろいろとご相談させてください」

 

「まあ、暇なときだったら付き合ってあげてもいいわよ。じゃあね、つまらない報告はもういらないから」

 

 返事も聞かずに、すたすたと階段の方へと歩いて行ってしまったマリベル様の背中を見送る。うーん、私の周りには、できた人が多いな。パパスさんがマリベル様に稽古を付けてほしいと言ったのにはびっくりしたけど。

 

「明日、ガボ様のところへ行く?」

 

「そうだな。御挨拶くらいはしておこうと思う。石板や役に立ちそうな道具探しもあるし、毎日というわけにはいかないだろうが、やはり格上の相手と戦う機会は大切にしたい」

 

 確かに、魔物と戦うときは基本的に安全第一だ。勇者様たちのように世界を救う旅をしていたのなら、格上の相手と戦う機会は多いだろう。しかし、私たちはここで無茶をしても意味がない。無茶をするならば、リュカたちのいる世界に戻ったときだ。だから、修行のときは基本的に勝てそうな相手との戦闘をする。楽勝では意味がないが、強すぎる相手との戦いは、数もこなせないし、相手は殺す気でかかってくるし、下手をすると今回のように死んでしまうし。

 

 強くになるには、いろいろなことを考えなくてはいけないな、と私は一つ、息を吐いた。

 

 

 




トクベツな石板:【鋼鉄の太陽】 ボス:キラーマジンガ
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