転生幼女がDQ5にインしたようです   作:よつん

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毒された村

 

 

 洞窟に着いた僕たちは、船長たちに別れを告げてエルヘブンを目指した。魔物は今まで訪れたどの地方より強くて、何度も苦戦したけれど、ようやく目的地が見えたときのことである。

 

「なあ……なんかおかしくねぇか」

 

「うん……なんだか、空気が重いというか……禍々しい感じがする」

 

「こりゃ、相当気を引き締めていかねぇとな。念のため、変化の杖で動物かなんかになって村の様子探ってみるか?」

 

「うーん……リリカさんは使いすぎると壊れるって言ってたけど、使ってみる?」

 

「よし。使おうぜ」

 

 ヘンリーが杖を振ると、僕たちは二人とも猫になった。ちなみに、ヘンリーが茶トラ猫で、僕は灰色の毛並みの猫だ。

 

「アンドレ、君、猫になりたかったの?」

 

「特に何も考えなかったぜ。杖が適当に選んだんだろ。ま、行くとするか。ちゃんと人前では猫の鳴きまねしろよ」

 

 動物に変えられた人たちは人の言葉を話すことができなかったのに、なぜか僕たちはお互いの言葉が分かる。変化した者同士にだけ分かるのか、それとも猫の体で人の言葉を喋っているのかまでは分からないけど、ヘンリーの言う通り、用心に越したことはないだろう。幸い、杖も壊れていない。

 

 

「うげ!?」

 

「い、一体何を……!?」

 

 

 しかし、僕たちは思わず、声を上げてしまった。周りの人たちはそれどころじゃなくて、僕らの言葉には気付いていなかったようだけど、それもまた、この状況の異常性を表している。

 

 

 エルヘブンの人たちは、狂気に満ちた目で、表情で、様相で、自分たちの家を村を、破壊していたのだ。

 

 

「魔王様万歳! 我こそは魔王様の右腕なり!」

 

「はん! あんたなんかどこが右腕よ! 右腕はこの私!」

 

「ああ、壊し足りねえ……! 全部ぶっ壊しちまいてぇ! そろそろ立てこもってる長老たちでもぶっ殺しに行くかあ!?」

 

 他人を罵倒し、魔王に与することを高らかに言い、破壊活動に勤しむ人々。どう見ても、異常だった。

 

「なんだぁ? 猫の分際でじろじろ見やがって。俺様は魔王様の忠実なるしもべ! お前らなんか片手でひねりつぶしてやるぞ」

 

 近付いてきた目の血走った青年に対して、僕たちは軽く視線を合わせて魔法で気絶させることに決める。だが、それを決行しようとしたところで、ひょい、と二人して首根っこを掴まれ、誰かに抱きかかえられた。

 

 

「やめなさい。可愛い猫じゃないか。偉大なる魔王様の部下であるなら、寛容さも持ち合わせなければね。我らが憎むべきは人間。そして、我らがすべきは魔界の扉を開いて、魔王様を早急に地上へお迎えすることでしょうに」

 

 

 女性の声だった。その人に声を掛けられたことで、青年は興が冷めたのか、「チッ」と舌打ちをして、崖に創られた家々を破壊する活動に戻っていく。

 

 僕らが見上げると、その人はにこりと微笑んで「怖い思いをさせたね」とやわらかく言った。波打つ豊かな赤みの強い茶色い髪をしたその人は、同じ色の目を細めている。

 

「うちへ招待しようか、お客様。よく来たね」

 

 抱きかかえられたまま、僕らは村の外れ――というより、村と同じくくりにしていいのか分からない場所にひっそりと建てられた小屋のような家に招かれた。

 

「さて、小さなお客さん。君たちは人間だね?」

 

 御丁寧に僕ら一人ずつ椅子に乗せたその人の言葉に、僕らは答えない。どういうつもりの発言なのか、なぜこの異常な村で彼女だけが「まとも」そうに見えるのか、何も分からなかったからだ。

 

「ああ。あんな光景を見たら、もちろん警戒するよね。私はマルゴ。このエルヘブンのはみ出しもので……それが良かったのか悪かったのか、村人たちのように頭がおかしくならなかった一人だよ」

 

 手紙の主だ。その名を聞いてそう思い至った僕は、ヘンリーの方を見る。彼は頷いていた。このまま警戒していただけでは、どうにもならないだろう。

 

「僕はソロ、こっちはアンドレです。この村の人たちは、突然ああなったんですか?」

 

 僕らは人間云々の質問にはとりあえず答えず、現状把握に勤めることに決めた。

 

「……そうだね。ある日突然、『旅の者』を名乗る怪しい男がやってきた。そいつが膝を痛めた年寄りに『万能薬』と称した水を渡したことが始まりさ。受け取った方はさっそく飲んで大喜び。膝が悪くちゃ、エルヘブンの急な階段を上るのはかなり厳しいからね。体の不調がすっかり無くなったと気を良くした年寄りは、その『万能薬』を売ってくれと持ち掛けた」

 

 マルゴさんは眉を寄せながら、長く骨ばった指で机をトントンと鳴らしている。

 

「怪しい男は、『それならぜひ、村の皆さんにどうぞ』と気前よく大量の『万能薬』を置いていった。年寄りを中心に広まった『万能薬』の噂は、村人全員に広まったよ。なにせ、小さな村だからね。ある日、こんなに素晴らしい『薬』を、ぜひ長老たちにも差し上げよう、と誰かが言い出したんだ。しかし、一口飲んで四人の長老たちが『これを飲んではいけない』と禁止した。それからさ。タガが外れたみたいに、みんなが頭のおかしい言動を取り始めたのは」

 

「その……『怪しい男』は、光の教団を名乗っていませんでしたか?」

 

 ヘンリーがそう尋ねると、深く長いため息を吐いたマルゴさんは、ゆるゆると首を横に振った。

 

「さあ? 誰も顔も何も知らない奴の言葉を信じて、馬鹿みたいにありがたがって薬を飲んでいたよ。飲んだ量とか耐性とかがあんのか、効きの良い人と悪い人がいるみたいだけどね。それで、効きの悪かった長老たちは村人たちに日々殺されそうになってるんだ。まあ、頭がおかしくなっているとはいえ、どこかで理性が働いてるのか、実行には移してないんだけど」

 

「あの……それじゃあ、薬が切れたら元に戻るとか、そういうことは……」

 

「私も初めはそう思った。はみ出し者で捻くれ者の私や長老たちのように効き目の薄かった人たちもいることだし、薬が無くなればすぐに戻るんじゃないかって、隠してみたんだ」

 

 

 トン。僕の言葉に受け答え、貧乏ゆすりのように続いていた指の動きが止まる。

 

 

「逆効果だったよ。疑心暗鬼になった村人たちは、互いを殺そうとし始めたのさ。仕方なく、『薬を増やせないか研究していた』と嘘を吐いて、薬を戻すことにした。結局、被害が物や家くらいで住むのならと、彼らを刺激しないように『魔王様』とやらに妄信しているふりをして接するのが一番『平和』らしくてね。この『異常』の中では」

 

 その目は憎しみに満ちていた。当たり前だろう。たとえ「はみ出し者」だとしても、マルゴさんはこの村で生まれ育った人のはず。そうでなくても、こんなこと、誰が許せるだろうか。

 

「実は僕ら、あなたの手紙を読んで、ここまで来ました」

 

 僕はちょっとした嘘を吐いた。嘘というよりは、もう一つの理由を話さなかっただけとも言えるが。

 

「ああ、あの手紙か。てことは君らやっぱり、人間だよね? さっきも村の有様に驚いて喋ってたもの。よかったぁ。ただの喋れる猫だったらどうしようって、内心ひやひやしていたんだ」

 

 憎しみを宿していた目元が少し和らぐ。それから「その姿は呪い?」と、言葉と裏腹に朗らかな口調で聞いてきた。

 

「あ、これは……」

 

「そうなんです。でも、呪いの根本がどうにかなったから、時間が経てば解けるって言われました」

 

 僕の言葉を遮って説明を続けたヘンリーが、マルゴさんに質問される間に「話を戻していいですか」と話題を逸らす。僕としても、変化の杖なんて代物については人に話したくないので助かる。何せ、悪用されていた実績がある物だし。人間だろうが魔物だろうが、悪いやつの手に渡ってしまったら、きっと良くない使い方をするだろう。

 

「まだあるとはいえ、薬は有限なんですよね? ということは、薬が尽きたら……」

 

「まあ、三択だろうね。体から『万能薬』が抜けて元に戻るか、戻りはするがなんらかの後遺症が残るか、私が隠したときのようにより狂暴化するか」

 

「手紙には、マルゴさんも時々自分が自分じゃなくなるって書いてあったけど、大丈夫なんですか?」

 

 ヘンリーが小さな耳をぴくぴく動かしながら聞く。猫になってからの癖なのか、それとも周囲を警戒しているのかは分からない。

 

「もちろん、大丈夫じゃないよ。私も『飲まないのはおかしい』とか言われて、一口飲まされた。ま、さっきも言ったけど効き目は薄かったみたいだけどね。ただ、夜になると理性が働きにくくなるんだけど……。あ、そうだ。この家にはみんな来ないから、君たちは夜、ここで休むといい。私は村へ行くから」

 

「えっ、そんな! 村は危険じゃ……」

 

 マルゴさんは女性だ。実際のところは分からないけど、二十代後半くらいに見える。僕らのように鍛えているようにも見えなければ、リリカさんのように強者特有の雰囲気もない。

 

「彼らは私を『仲間』だと思っているし、私も正気じゃなくなったときに自分の家を壊したくないから、夜は村の中で過ごしているんだ。どうせ私がやらなくても誰かが壊すなら、罪悪感が減るでしょう?」

 

 

 そう笑ってみせた彼女が、僕にはなんだか痛々しく見えた。本当は、自分の生まれ育った村を壊したくなんかないはずだ。サンタローズやラインハット、グランバニアでもしも同じことが起こってしまったら。村を、国を愛しているあの人たちが、自らの手で大切な物を壊してしまったら。

 

 それは、胸がはちきれるくらい辛くて、やるせなくて、憎らしくて、赦せない。

 

 

「僕たち、何をすればいいですか?」

 

 

 だからなのか、言葉が勝手に出ていた。

 

「確かに。現状は分かりましたけど、解決方法に心当たりとかありますか? なにか可能性があるなら、一つずつやってみた方がいいと思います。まず、その『怪しい男』は、もう村にはいないんですよね?」

 

 僕に続いたヘンリーが、ひげと耳をぴくぴく動かしながら言う。マルゴさんは席を立ち、僕らの頭を撫でた。いつもと違う位置にある耳の付け根をこしょこしょと触られて、少しくすぐったい。

 

「……その男はすぐにどこかへ言ってしまったから、今どこにいるのかは分からない」

 

 僕らから手を放した彼女は、困ったような顔になって、ふう、と息を吐いた。

 

「そうかぁ。じゃあ、他に怪しいやつはいませんか?」

 

「他? みんな頭がおかしいからあまり気にしたことがなかったけれど、村人以外に紛れ込んでいたり、君らのように姿を変えたりしている者がいるかもしれないということ?」

 

「オレはその可能性が高いと思ってます。なんせ、こんな趣味の悪いことをしてくる相手だ。『結末』を見届けずにどこかにいくなんてことはないだろうし、何よりこれじゃ目的が分かりませんからね」

 

「僕も、なんでこんなことしたのか全然分からないから、具体的に何をすればいいのかが見えにくいように思います。幸い、まだ誰も亡くなった人はいないんでしょう? それだったら、今エルヘブンに起きているのは『村人が自分で物を壊す』だけ。例えばこれが『互いに殺し合う』って言うんだったら、自分の手を汚さずにエルヘブンを滅ぼそうとしているのかな、とか、『魔王を信仰させることで魔王にとって利益になる何かをする』なら、目的が見えるんですけど」

 

「……確かに」

 

 顎に手を当てたマルゴさんは、神妙な顔になっている。光の教団――と、僕は勝手に決めつけてしまっているけれど、ともかく、こんなことをした黒幕の考えが読めず、僕らは三人でうんうん唸りながら考えこみ始めた。

 

 

「っと、時間切れか」

 

 

 結論が出ないまま時間だけが過ぎる中で、変化の杖の効果が切れる。ヘンリーが呟いたのと同時に、僕らが元の姿に戻ると、マルゴさんは目を見開いてこちらを凝視していた。

 

「すみません。自分たちでも戻るタイミングが読めなくて。改めて、オレが茶トラのアンドレで、そっちが灰猫のソロです」

 

 

「あ、うん。本当に小さなお客さんでびっくりしたよ。猫になっているから少年声なのかと思ってたし。君たち、二人で旅をしてるの?」

 

 

 彼女の驚きはもっともだ。僕たちだって、同年代の子どもが二人で旅をしているのを見掛けたら、何か深い事情がありそうだと察するし、そうでなくても身を守る術や旅の知恵を持ち合わせているのか心配になる。

 

「一緒に旅をしている人がいたんですけど、はぐれてしまったんです」

 

「そうか、大変だったんだね。もう日も落ちるから、さっきも言ったように、君たちはここで休んでいるといい」

 

 窓の外をちらりと見たマルゴさんは、悲しく笑った。

 

 

「私は正気なうちに、長老たちへ話をつけてくる。明日の朝、なんとかここへ連れてくるよ。知恵を絞るならいろいろな角度の意見があった方がいい。そうでしょう?」

 

「それなら……まだ日暮れまで時間はあるし、僕たちも行きます」

 

 そう言った僕へ、彼女は骨ばった指で、猫にするみたいに耳の裏を撫でる。

 

「休んでいなさい。もしかしたら、今日のうちに長老たちがなんとかしてくれるかもしれない。ずっと話し合っているから、何か解決策が見つかっているかも」

 

 強がりだということが分かったから、僕もヘンリーも何も言えなかった。誰だって、自分が狂っていく姿を見られたいわけがない。

 

 

 ガチャリとドアを開けて、マルゴさんは村へ向かった。

 

 

 月が明るく輝く夜。僕はなんだか眠れなくて、少し遠くで狂気を孕んだざわめきを、無力感に潰されそうになりながら聞いていた。

 

「マルゴさんはああ言ったけどさ……。やっぱ、村を見に行かねぇか」

 

 目を瞑ったままなのに、僕が起きていることに気付いていたのか、ヘンリーが話し掛けてくる。

 

「休めっつても、休めねぇしさ。あんだけ隠したいなら、夜が村の『本当の姿』なんだ。それを見なくちゃ、情報が少なくって、解決策も何も思い浮かびやしねぇよ」

 

 僕は少し迷った。戦いでの疲れは癒えている。ここらの魔物が強敵続きだったとはいえ、僕らは子どもにしては弱くない。人間の姿であるなら、鍛えていない村人たちに襲い掛かられても、なんとかなるだろう。

 

「……マルゴさん、とても悲しそうな顔をしてた」

 

「ああ。だから行くんだ」

 

 

 立ち上がって、ラインハットを、サンタローズを、グランバニアを思い出す。

 

 

「そうだね。行こう。マルゴさんには怒られちゃうかもしれないけど」

 

「怒られたら謝ればいいのさ。オレたち、怒られるのは慣れてるだろ」

 

 

 山の斜面を利用してつくられた集落には、階段がとても多い。それは、地の利のない僕らにとって有利に働いた。追い掛けてくる村人たちよりも僕らは体重が軽いし、体力もある。集落のてっぺんにあるのが、たぶん長老たちのいるところだろう。そこにある建物だけが、顕著に破損が少ない。つまり、僕らはそこを目指せばいいのだ。

 

 夜のエルヘブンは、昼に比べて村人が狂暴化しているように見えるものの、マルゴさんの言っていた通り殺し合いとかはないため、昼夜の違いはそれほど感じない。もともとのその人の体力も関係あるのか、糸が切れたように眠る人々もいる。

 

「ソロ!」

 

「うん。気付いてるよ。……魔物だ」

 

 僕らはすぐに臨戦態勢になった。長老たちの家と思われる場所に、ローブをまとい、仮面を付けた魔物がいる。魔物は持ち手ある棘の付いた鉄球を両手に持ち、何かを家の中の人物へ呼び掛けていた。

 

「分からないのか? 我らの要求を呑めば、全員命だけは助けてやる。どうせお前たちに解毒剤は手に入れられまい。貴様らはこの地に魔王像を建て、祈りを捧げる奴隷となるのだ!!」

 

 

 ――そういうことだったのか。

 

 全てが腑に落ちた。殺し合いをさせれば働き手が減る。だが、もともとこの地にある建物は邪魔。だから、おかしな薬を用いて破壊活動をさせ、魔王への信仰心を無理やり植え付けていたのだ。

 

「光の教団だな」

 

 僕の声は、自分で出したはずなのに、思ったより平坦だった。怒りがお腹の底からふつふつと煮え滾っているのに、どうにも冷えた感覚で、自分の体が自分じゃないみたいな、妙なちぐはぐさがどうにもおかしい。

 

「ルカナン!」

 

 ヘンリーの声が聞こえて、気付いたら、その魔物が何かを言う前に剣を振るっていた。こちらに気が付いた魔物が振り向こうとしたけれど、完全にこちらを見る前に首と胴が離れる。

 

 

 会心の一撃。そう言ってもいいくらい、狙いは鋭く、剣は速かった。防御力低下呪文で脆くなった魔物の首を刎ねた僕は、死体には見向きもせず、扉の向こうにいるであろう人々へ声を掛ける。

 

「大丈夫ですか!? 魔物はやっつけました。マルゴさんから話を聞いていませんか? 僕、ソロといいます。お話を伺いたいので、ここを開けてください」

 

「…………君たちが」

 

 少しの沈黙。その後、部屋の中から、存外若そうな、はっきりとした声が聞こえた。

 

「君たちが、ソロとアンドレという子どもなら……もう寝る時間だ。今日は休みなさい。明日、こちらから訪ねに行くから」

 

 

「あ」

 

 

 それが拒絶に聞こえてしまって、僕は言葉に詰まる。それから、そっと息を吐いて、取り繕うように姿の見えない相手へ口を開いた。どうしてこんなことで動揺してしまったのかは、僕にだって分からない。

 

「……分かりました。おやすみなさい」

 

 それしか言えなかった僕は、ヘンリーの手を引いてエルヘブンの急な階段を駆け下りた。マルゴさんの姿は見当たらなかったけれど、僕が見つけられなかっただけかもしれない。マルゴさんだって、正気じゃない姿を見られるのは嫌だろうから、結果的に良かっただろう。

 

 

「なんだ、えらい落ち込んでるじゃねぇの。そりゃ、あんな状況で言っても、オレらが魔物かどうか、長老さんたちとやらは分かんないんだぜ。普通の対応だ。腕によっぽど自信がなきゃ、あの場で扉を開けるのはアホだぞ。扉に魔物除けの結界を張ってるってんなら、尚のこと」

 

「そう、だよね。君の言う通りだ。だけど、なんだろう……」

 

 正直に言えば、村の人が「まとも」だったら、僕は受け入れてもらえると思っていたのかもしれない。なんたって、ここは――「お母さん」の、故郷だから。

 

「寝ようぜ。マルゴさんは怪しいやつはいないって言ってたけど、この分だと夜は魔物がああやって長老たちを脅してるのかもな。何にせよ、情報が少しでも入ったのは良かっただろ。話が本当なら、長老たちは明日の朝ここに来るって言ってたし、マルゴさんも含めてみんなで話し合えばいいさ」

 

「うん……。おやすみ、アンドレ」

 

「おやすみ、ソロ」

 

 

 目をつむっても、その日は寝ることができなかった。気にしすぎなのかもしれない。そんなことは分かっていても、なんだか、たったあれだけの一言が、妙に僕の胸にしこりとなって残っているのだった。

 

 

 

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